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「私の過去は一生、成仏しない。元アイドルという業を背負って書き続ける」人生に詰んだ過去から立ち上がった大木亜希子の作家道

集英社オンライン / 2023年10月19日 10時1分

元乃木坂46の深川麻衣が主演の映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』。原作は、アイドルを辞めて会社員になるも、心を壊して人生に行き詰まってしまう主人公を描いた大木亜希子の私小説だ。後編では作家として向き合い続けるテーマについて聞いた。(前後編の後編)

#1

井浦新さんに一生の宝物になる言葉をもらった

――ササポンを演じる井浦(新)さんのキャスティングは正直、意外でした。

大木(以下同) 私も、びっくりしました(笑)。先日、この映画の取材で井浦さんにお会いしたときに、「大木さんは、実際のササポンを知っていて、答えを持っている方だから、実は現場ではお会いしたくなかったんです。ササポンの格好や芝居を見られるのが、すごく恥ずかしくて『どうも、すみません……』と思いました」とおっしゃっていて。



でも、映画の中で観た〝井浦ササポン〟は本当に素晴らしかったです。

同じタイミングで、井浦さんが、「大木さんは自分の言葉を持っている人ですね。それは、すごい才能だと思いますよ」と言ってくださったんです。井浦さんに、ササポンのような言葉をかけていただいて、これから作家として活動を続けていく上で励みになるし、一生の宝物になりました。

――『つんドル』という物語が論じられたり、評価されることを、大木さんはどう受け取っていたんですか?

傷ついていた心のセラピーになりました。不思議な話ですが、読者の方々に、私という人間はどのような人間なのかと教えていただいた感じです。自分でも気づいていなかった新しい大木亜希子像を作ってもらい、私という人間はこれだけ強いんだと教えてもらった気がします。

本当の自分を書かなければ死んでしまうほどの覚悟

――大木さんはアイドル時代、期待される自分を演じることへの葛藤があったわけですよね。小説家になった今、作品を評価されたり、あなたはこうなんでしょ?と言われることが、プレッシャーになったりはしませんか?

私は14歳から芸能活動を始めたのですが、大人に嫌われたら生きていけない世界の中で、周りの顔色ばかり気にしてきたんですよね。そしてアイドルになり、感情が追いついていない時も無理に笑顔を作ってみたり、「今日はこの子のキャラを活かすために私はツッコミ役ね」みたいに役割分担を考えたり、そういうことを24時間365日やってきた。

25歳で会社員になったら、今度は一般企業で「結婚はいつなの?」「元アイドルなんでしょ?」「芸能人の友達、紹介してよ」などと言われているうちに、また偽りの自分を演じて疲れてしまって。

そういう負のスパイラルにいたから、28歳の終わりにこの作品を書いているときは、本当の自分を書かなければ死んでしまうというぐらい、追い詰められていたんだと思います。同時に「自分には書く道しかない」と覚悟が決まりました。

本当の自分は玉ねぎのように剥いても剥いても出てこない

――私小説の『つんドル』を書き、自分の中にあるものをフィクションで表現した『シナプス』を書き、それに対して受ける評価が自分が伝えたかったことと違ったりしませんでしたか?

それは、以前に比べると落ち着いて聞けるようになりました。作家になって急に環境が変わったとき、メンタルクリニックの先生に、「私は、未だに本当の自分はわかりません。でも生きやすくはなりました」というお話をしたことがあって。そのときに先生から、「大木さん、本当の自分ってね、玉ねぎの皮みたいに、剥いても剥いても出てこないんですよ」と言われたんですね。

あと、「これから悩み事に直面したときは、頭の中で大きな円を想像してください」とアドバイスされました。いまは過酷な状況にあっても、それは夢が叶って幸せになるという大きな円の一部でしかない。だから、動じることはない」、と。それから、心に波風が立つことが減りました。

私の過去は一生成仏しない

――『シナプス』を出されたとき、大木さんは書くことで過去の自分に落とし前をつけていると話していて。今回の映画化でも、この作品を観てがんばろうと思える人がいれば、あの頃の自分が成仏するとコメントされていましたが、過去を成仏させる作業は一区切りついたのでしょうか?

それがですね……私という人間の過去は一生、成仏しないようです(笑)。小説『シナプス』で、アラサー女性の心を描けたはずなのに、まだ怨念は消えていません。一生、この業を背負って生きていくのだと思います(笑)。

本当に悩んでいるときって、誰にも相談できなくなると思うんです。だから「今は人に相談できないぐらい迷いの森にいるかもしれないけど、いつか抜けられるよ」って、悩んでいる人に伝えられるような作品になっているといいです。

同時に書く上で意識しているのは、かっこつけないで自分をさらけ出すこと。女性の生きづらさはいくつになっても消えないと思いますし、一生抱えていくテーマですね

アイドルの厳しい世界を見てきた私だから書ける作品がある

――元アイドルの作家として、自分だけの道を行くということですね。

芸能界という、自尊心を簡単にへし折られてしまうような環境にいたことが、私の作家としてのベースにあります。『つんドル』を書いた頃は、こんな自分が「作家」と名乗るのはおこがましいと思っていたんですけど、今は、アイドルとして女の子の厳しい世界を見てきた私だからこそ書ける作品があると思っています。だから、その世界を見ることができてよかったです。あ、今、過去がひとつ、成仏しました(笑)。

――以前、元アイドルの作家に対する厳しい視線もあるとおっしゃっていましたが、作家としてキャリアを歩んできて、今、そういう批判の受け取り方は変わってきましたか?

最初はめちゃくちゃ嫌で、「それを言われたら元アイドルは何もできないだろう」って思ってました。その気持ちを整理するつもりで、『アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア』(宝島社)という本を書いてしまったぐらい、腹が立っていたんですね。だけど、腹が立っているということは、自分がそういう人たちの意見に同調しているからだということにも気付きました。

当時、「元アイドル」という言葉や、私自身のメディアでの発言が議論を呼んでしまったこともあったんですけど、今は、厳しいことを言う人たちにも面白いと思ってもらえるような作品を書けばいいんだと思っています。

34歳の今、アラサーのドロドロから脱した

――『つんドル』映画化のタイミングで、当時を振り返って見出した答えはありますか?

当時はすべて心の問題だと思っていたんですけど、今はフィジカルの問題もあったのかなと思います。今回の映画の中にも、当時のアキコの不摂生な暮らしぶりが描かれているのですが、いくら空腹でもカマンベールチーズを一気食いなんかしたら体に負担がかかるし、風呂なしアパートで、毎日、シャワーですませていたら体もむくむし……自分の体にもっと優しくしてあげればよかったと今は思います。

今、映画の安希子のような渦中にいる人には、まず「しっかり休んでね」と言いたいです。あったかいお風呂に浸かり、ふかふかの布団にもぐって、会社を休んでもいいから、8時間寝ましょうよ、と。自炊して、緑黄色野菜のうち今日は緑だけでも、赤だけでもいいから食べてくださいと、そういう気持ちですね。


――なんだか、お母さんみたいですね(笑)。

(笑)。『つんドル』の取材で当時のドロドロとした心境についてお話する機会も多いですけど、先日、34歳の誕生日を迎えて、今そのドロドロから一歩脱したなって感じています。時々落ち込んだりもしますが、それらも小説の糧にして、人の心を癒せるような作品を丁寧に紡いでいくつもりでいます。

#1はこちら

取材・文/川辺美希 撮影/Keiko Hamada

映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』
2023年11月3日全国ロードショー

深川麻衣 松浦りょう 柳ゆり菜 猪塚健太/井浦新
原作:大木亜希子「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」(祥伝社刊)
主題歌:ねぐせ。「サンデイモーニング」 音楽:Babi 脚本:坪田文 監督:穐山茉由
@映画「つんドル」製作委員会

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