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「拠点を作るのはスタートに過ぎない」…「仮設住宅」から「キャンプフィールド」へ。岩手県とスノーピークが取り組む地域コミュニティ創出のカタチ

集英社オンライン / 2023年10月14日 12時1分

東日本大震災以降、岩手県陸前高田市の防災の拠点、また、仮設住宅用地として利用されていたオートキャンプ場「モビリア」が、「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」として再出発している。「陸前高田=被災地」というイメージからその一歩先の未来へ……岩手県とスノーピークの取り組みを取材した。

長く愛された「モビリア」をリニューアル

2023年9月23日、東北地方に1つのキャンプ場がオープンした。

名前は「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」(以下、陸前高田キャンプフィールド)。その名からもわかるとおり、ここは高品質なキャンプギアで多くのフォロワーを獲得する国内屈指のアウトドア製品メーカー「スノーピーク(Snow Peak)」が運営する新しいキャンプ場だ。


フィールド内には毎年秋に開催される「三陸花火」を見下ろせる展望台もある

スノーピークは現在、ギア販売のためのストアだけでなく、実際にキャンプを楽しめる直営のキャンプフィールドを全国各地に展開している。

本社(新潟県・三条市)併設の「スノーピーク・ヘッドクォーターズ・キャンプフィールド」をはじめ、直近では2023年7月に「スノーピーク白河高原キャンプフィールド」を福島県に開業。その土地特有の利点を活かしながら、キャンパーはもちろん、地元民の交流の場として、これまでに計9拠点(陸前高田を含む)をオープンしてきた。

そして今回、新たな開業エリアとして選ばれたのが、岩手県の三陸沿岸部に位置する陸前高田市だ。

その地名を聞いて、2011年3月に発生した東日本大震災を思い浮かべる人はまだまだ多いだろう。同震災の津波により、陸前高田市は死者数1,606人、行方不明者数202人、家屋倒壊数4,047棟という甚大な被害を受けている(令和5年3月31日時点)。

震災直後、2011年3月20日に撮影されたキャンプフィールド周辺の様子

陸前高田キャンプフィールドが位置するのは、もともと「モビリア」という県営のオートキャンプ場があった場所だ。モビリアは平成11年に広田半島に開設されてから、遠方からも多くのキャンパーが訪れる大規模なキャンプ場として賑わいを見せていた(2010年度の来場者数は年間約1万3000人を記録)。

しかし東日本大震災津波直後は避難所として稼働。以降は168棟の仮設住宅が置かれる、陸前高田市の防災拠点として機能していた。ここには地元の人々だけでなく、復興工事関係者や警備員なども宿泊し、現場作業に当たっていたという。

震災後、地元民はモビリア跡地にできた仮設住宅で生活していた

そして、需要の減少や施設の老朽化から2018年に宿泊施設としての利用を休止。2020年3月には仮設住宅が閉鎖され、同10月には設置されていたすべての仮設住宅が撤去された。

多様化するニーズを反映

モビリアとしての営業が終了したタイミングで、岩手県は改修に向けて同施設の存続を検討。しかし、キャンプ場として、そのまま再開させてよいものか、そして現在の市場ニーズに合っているのかどうかを細かくリサーチした。

岩手県の商工労働観光部 観光・プロモーション室の木登恵一(きと・けいいち)課長は、リニューアルプロジェクトに着手した当時について振り返る。

「観光・プロモーション室のミッションとしては、『地域経済の活性化』が第一に挙げられます。『施設を新しく作って、おしまい』ではなく、それが地域に根差し、しっかりとお金が落ちて、経済が活性化していくものでなければ、観光事業としてやる必要がない。なので、ただ施設を改修するだけでなく、すべてをゼロベースで検討していくことにしました。

それを考えていくうえで、行政だけの視点で新しい施設をつくって『はい、どうぞ』とオープンしても、先は見えているなと。なので、経験やノウハウを持つ民間企業の知恵を借りて、一緒に作り上げることにしたんです」(木登課長)

「このキャンプ場が核となって、さまざまなコミュニティが形成されることを期待しています」という木登さん(写真右)

どうすれば持続性があり、収益性の高いキャンプ場がつくれるのか。そのために岩手県は自分たちの視点だけではなく、アウトドア関連企業やキャンプ協会などを対象にサウンディング(事業の検討を進展させるための情報収集)を繰り返して、今のキャンプのニーズを吸い上げることにした。

コロナ禍でアウトドア需要が高まったことで、そのニーズも多様化している。近年はテントの大型化やペットの同伴、手軽なグランピングが人気を博すなど、キャンプのスタイルも多岐に渡っている。一方でリニューアル前のモビリアは、それらのニーズに即しているとは言いがたい状況だった。

たとえば、キャンプ場リニューアルにあたってどうしても盛り込みたかったのが「フリーサイト」の部分。陸前高田キャンプフィールドには区画化されていない開けたフリーサイトが用意されているが、これはモビリア時代には存在しなかったものだ。

昨今は、たとえばフリーサイトで大きな2ルームテントを設営したり、大人数のグループでキャンプを楽しんだりといったスタイルも増えている。これに応えるために、また「さまざまなユーザーが交流できる場」を設けるために、岩手県としてフリーサイトをぜひとも用意したかったという。

「新しいフィールドができてうれしいです」とオープン初日にフリーサイトで宿泊していた県内在住のご家族

このように新しくキャンプ施設を整備・運営するうえで、さまざまな企業や協会、関係者の意見をヒアリングしながら、2022年にプロポーザル方式でスノーピークの参画が決まった。これに対し、木登課長は「県の目指すビジョンと、スノーピークの持つ世界観がマッチした」とする。

では、スノーピークが持つ世界観とは、一体どのようなものなのだろうか。

「箱物を作って終わり、ではない」

スノーピークは冒頭で触れた直営キャンプフィールドをはじめ、全国に多くの拠点を展開しているが、陸前高田キャンプフィールドのように、プロポーザルで参画して自治体が持っているキャンプ場を管理・運営しているケースが増えているという。

同社の社長室 広報の村田春雄マネージャーは、指定管理として参画する際に同社が重視していることを、次のように話す。

「スノーピークがもっとも大切にしているのは、ただ拠点を用意するだけでなく、そこにしっかりと人が集まり、地元の方々とのコミュニケーションやユーザー同士のコミュニティが生まれる場所をつくること。それを実現するために、その土地にマッチしたベストな方法を提案させていただいています」

「地元の方々に『あってよかった』と思われるキャンプフィールドになれば」という村田さん(写真左)

これは陸前高田キャンプフィールドに限った話ではないが、スノーピークは、質の高い「箱物」を用意するだけのビジネスは採用していない。将来的なコミュニティの醸成と発展を第一のプライオリティとし、各地のキャンプフィールドをつくりあげているのだ。村田マネージャーは「拠点を作るのはスタートに過ぎない。そこからいかに人々の交流を生み出せるかが、スノーピークとしての使命」とも語った。

フィールド内にある木の実「これ、ヤマボウシの実。食べられるんですよ」と近隣住民の方が教えてくれた

そしてオン/オフ問わず、実際に多様なアウトドアライフを生活に取り入れているスタッフが多く在籍しているのも、スノーピークの強みだろう。村田マネージャーによると、キャンプ場を運営するなかで、理想と現実のギャップに悩んでいる施設も少なくないそうだ。そのような場所に同社が指定管理として参画すれば、彼らの知見やノウハウを整備・運営に大いに還元できる。

震災から12年半が経ち、陸前高田のさらなる地域経済の活性化を目指す岩手県にとって、コミュニティを生み出すプロフェッショナルであるスノーピークは、まさにベストパートナーだったのだ。

#3へつづく

取材・文/毛内達大
写真/集英社オンライン編集部

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