「自衛隊のヘリコプターを見て、『これで生きられる』と思った。だから、ここは忘れられない場所なんです」。陸前高田に誕生したスノーピーク新施設が見据える未来
集英社オンライン / 2023年10月14日 12時1分
岩手県陸前高田市に誕生した「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」。キャンプ場だった土地が震災で仮設住宅となっていた場所が今年9月に再びキャンプフィールドとして生まれ変わった。その過程にあったスノーピークと陸前高田市の歩みとは。
「陸前高田=被災地」というイメージから一歩先へ
地方創生を目的として、全国47都道府県すべてに直営キャンプフィールドを開業することを目標に掲げているスノーピーク。2023年から3年間の中期経営計画においては、その開発促進として合計1,000サイトの追加を発表しており、キャンプ場開拓を本格化させている。そして現状、その進捗は順調だという。
このキャンプフィールド新設事業の窓口となっているのが、スノーピークの子会社である株式会社スノーピーク地方創生コンサルティングだ。同社代表取締役社長の村瀬亮氏は、新フィールド開業に向けた地域選定のポイントを、次のように挙げる。
「場所に対して強いこだわりを持っていることは間違いありません。眺望や空間であったり、なるべく人工物が少ないところだったり、その土地ならではの魅力というものが大前提になってくる。ですが、何より大事なことは、関わる人々の“想い”があることです。
企業や自治体とアライアンスを組んで開業に取り組むケースも多々ありますが、そういったパートナーとなる方々がスノーピークと一緒に地域に何を残していきたいのか、そしてその取り組みが今の社会や地球環境にとってどのような影響を与えるのか。そういったことを一緒に考えられるチームになれるかどうか、という点をすごく大切にしています」
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「陸前高田=被災地という印象だけでない街づくりを目指している」という村瀬さん
ビジョンを共有して一丸となることで、地域との間にいっそう深いコミュニケーションが生まれれば、その土地の魅力をさらに引き出すことができる。そして地域の産品などをスノーピークが紹介することで、同社が抱える約84万人の会員にリーチし、そのエリアを訪れる人々が増える。村瀬氏が挙げるポイントには、こういった好ましい連鎖が期待できる。
また、地域に根差したキャンプフィールドを作り上げるうえで欠かせないのが「モニタリングキャンプ」の存在だ。これは地域の人々との繋がりを深めるため、どんな場所にしたいのか、その土地に暮らしている人々や自治体の職員、有識者などと実際にキャンプをしながら、その意見・要望にじっくり耳を傾けるというもの。スノーピークが新しい場所を作る際に必ず行う工程のひとつだ。
陸前高田キャンプフィールドのモニタリングキャンプでは、「陸前高田という地名が、被災地という印象とくっついてしまっている。でも本当はもっと素晴らしい魅力があるから、それを伝えてほしい」という声が地元の人々から挙がった。スノーピークとしてはそれを実現すべく、オープンまで取り組んできたという。
再会を心待ちにしていた地元の人々
震災から12年半が経過するなかで、かつてモビリアの名で愛されていたキャンプ場のリニューアルオープンは、地元の人々にとっても悲願と言える出来事だ。オープン初日のプレスイベントに参加した筆者は、幸運にも地元に住む方々の声を聞くことができた。
広田半島に住む佐々木恵子さんと千田礼子さんは「これまで工事中で閉まっていたんですけど、今日は開いていたんで、上がってきちゃいました」と、開店前の陸前高田キャンプフィールドを笑顔で覗き込んでいた。2人は周辺の山道を散歩コースとしており、これまでも頻繁に様子をうかがいにきていたという。
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キャンプフィールド近くで農作業をしていた千田礼子さん(左)と佐々木恵子さん(右)
山道を降りた場所にある佐々木さんの自宅は、震災当時、津波の被害に遭った。家族は無事だったものの、家は屋根が残っただけで、そのほかは流されてしまった。そのため、モビリアに建てられた仮設住宅で4年間生活していたという。
「このあたりは道路が切断されて、食べ物もなくなってしまって……。家族5人で暮らすのに、もうお米もわずかで、乾麺もなくなって、お店もない。どうやって生きようと思っていたら、自衛隊のヘリコプターが飛んできて。走って追いかけたら、ここに止まったんです。それを見て、涙が止まらなかった。『これで生きられる』って。だから、ここは忘れられない場所なんです」(佐々木さん)
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震災直後、支援に駆けつけた自衛隊
一方の千田さんにとっても、このオートキャンプ場は思い出深い場所で、その再開を心待ちにしていたそうだ。
「私は、震災前は(モビリアにあった)キャビンのお掃除にも入っていて。何人かで交代しながら、働かせてもらいました。そういう意味でも、ここは思い出が詰まった場所。あの繁盛していたキャンプ場がまた新しく始まるっていうので、本当にうれしいです」(千田さん)
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震災前のモビリア
アドベンチャーツーリズムの拠点に
再会を求める地元の声をはじめ、新たな観光拠点として多くの期待がかかる陸前高田キャンプフィールド。予約状況も好調で、週末は盛況ぶりを見せている。
初日も多くのスノーピークファンが訪れ、ほとんどのサイトが予約で満室。受付開始前の段階から宿泊予定の人々が列を作っていた。先頭に並んでいた秋田県在住の徳田さんは「東北のフィールドだから、一番乗りは譲れないと思って、深夜2時から並んでいた」と、オープンを心待ちにしていた様子だった。
岩手県の商工労働観光部 観光・プロモーション室課長の木登恵一(きと・けいいち)氏は、陸前高田キャンプフィールドの今後の発展について期待をのぞかせる。
「このキャンプ場が核となって、地域のコミュニティが形成されていくことを期待しています。たとえば食文化や漁業体験、トレッキングなどさまざまなアクティビティがありますが、そういった“アドベンチャーツーリズム”の拠点になっていってほしいなと。そのうえで、地域経済が活性化してくれればうれしいです」
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フィールドから見下ろせる広田湾ではカキの養殖など季節ごとの味覚も陸前高田の魅力のひとつ
陸前高田市は、仙台空港や花巻空港からもアクセスがよく、韓国や台湾からのインバウンドも期待できるかもしれない。実際に陸前高田からわずかな距離にある宮城県気仙沼には現在、トレッキングやウォーキングを目的に韓国人観光客が多く訪れているそうだ。
スノーピークは韓国に直営ストアを4店舗構えるだけでなく、今年5月には韓国初となる直営キャンプフィールド「スノーピーク・エバーランド・キャンプフィールド」をオープン(キャンプ場の開業は2024年予定)するなど、その人気が高まっている。海外のアウトドア好きにその存在をアピールすることで、さらなる賑わいを創出できる可能性がある。
岩手県と陸前高田に住む人々の想いが結実した、スノーピーク陸前高田キャンプフィールド。東北を代表するキャンプ場として、今後多くの人が訪れるだろう。
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津波で約7万本の松が倒れた中、荒波に耐えて立ち残った「奇跡の一本松」
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取材・文/毛内達大
写真/集英社オンライン編集部
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