堂々と胸を張って言うことでもないが、私の自炊レベルは底辺で(食にまつわる仕事をしているにもかかわらず)、パンケーキは最初の数枚は丸焦げにしないとコツが掴めないし、カルボナーラはいつまでたっても炒り卵だ。茹でるだけのそうめんですら水切りで手を滑らせ麺をシンクにぶちまけたりするのだからもう、なんて自分はポンコツなんだと度々自己嫌悪に陥ってはシンクを前に深いため息をついてきた。
だけど、同時にこう思うのだ。「こまったさんより、ましである」。こまったさんは、『こまったさんのスパゲティ』や『こまったさんのハンバーグ』などシリーズもので出版されている児童書の主人公。毎度、料理に挑戦してはとんでもない失敗をしでかし、「こまったこまった」とおきまりのようにぼやく。スパゲティに至っては麺を茹でるための水がなかなか鍋にたまらないし、ようやく水が張れたかと思えば今度は鍋の中で麺を紛失する(どういうこと)。実はこの本、『わかったさんのプリン』や『わかったさんのホットケーキ』など、なんでも器用にこなす完璧ウーマンのわかったさんが華麗にお菓子を作りあげるシリーズもあり、子供の頃の私は完全にわかったさん派閥で、わかったさんに憧れていた。正直「こまったさん、かっこわる。こまったさんを推す心理、理解できん」と思っていた。だけど今ならわかるのだ。完璧じゃなくても、失敗ばっかりでも、それでも頑張るあなたの姿が他の誰かを励ますこともあるのだと。
事実私も料理の失敗談をSNSに綴ってみると、「笑いました」とか「共感します」なんてメッセージがよく届き、悲劇も喜劇の色を帯びていくらかむしろこちらの方こそ心が救われたりする。麺をシンクにぶちまけるというのは誰でもやることらしいし、結構みんな洗って食べたりするらしい。そんな話を聞くだけで私はちょっとだけ強くなって、何度うちのめされてもまた台所に向かって奮い立つのだった。