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「コオロギ憎けりゃ太郎まで…」別に悪いことしているわけでもないのに敷島製パン「コオロギ粉末入りパン」を大炎上させた”日本人の空気感”

集英社オンライン / 2023年10月10日 11時1分

日々、生活する中で感じている不満やためこんでいるうっ憤、あるいは、ふとしたニュースに「人間の本性」が現れていたりすることがある。特に日本人は「空気」に左右されて自分の頭で考えず、愚行を犯す傾向があるというが、その一例について考えてみよう。『週刊新潮』の連載「この連載はミスリードです」(2022年5月〜23年6月)や「デイリー新調」(23年5月配信)を加筆・修正しまとめた『過剰反応な人たち』 (新潮新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

盆踊りは「邪教のミサ」扱いするイスラム教

1977年に開始し、現在は3万5000人が参加するというマレーシアの日本人会主催の盆踊りで、同国閣僚による不参加の呼びかけがあったそうです。



「宗教担当」で「全マレーシア・イスラム党所属」のイドリス首相府相が盆踊りには仏教の影響があると指摘したのだとか。

当地の日本人会のHPを見ると、イスラム教徒の女性が着用する髪の毛を隠す「ヒジャーブ」を巻いて浴衣で踊る女性と、ヒジャーブを着けていない女性が並ぶポスターが公開されていました。さらに右側にはおでこに点が描かれた褐色の女性も浴衣を着て踊っています。あっ、ヒンズー教徒の女性がおでこにつける印「ビンディ」ですね。

これだけ多様性に配慮したイベントでしかも歴史があり、多くの人が参加するのにイドリス氏は「邪教のミサには参加するんじゃねぇ」と物言いをつけたわけですね。外務省のデータには、マレーシアの宗教人口の割合はこうあります。

〈イスラム教(連邦の宗教)(61.3%)、仏教(19.8%)、キリスト教(9.2%)、ヒンドゥー教(6.3%)、儒教・道教等(1.3%)〉

これは、民族と関連がありそうです。

〈マレー系(69.6%)、中国系(22.6%)、インド系(6.8%)、その他(1%)〉

「イスラム教は寛容な宗教」と主張するが、全然寛容じゃないですよね

イスラム教徒が多数派なのは理解しますが、仏教と関係のある盆踊りには参加するな、ってこれは新しい発言です。

そもそも私は盆踊りを仏教イベントと捉えたことは人生約49年で一度もありません。もちろん、先祖を迎え入れる「お盆」と関係しているのは知っていたものの「宗教行事」と捉えたことはなかった。

なにせ「東京音頭」なんて「踊り踊るなーら、ちょいと東京音頭」「花の都の真中で」と単に酔っ払いがタコ踊りしているようなただただ呑気でフィーバーしているだけの歌詞じゃないですか。

9・11の米同時多発テロの後、イスラム教がいかに寛容な宗教か、とイスラム教を擁護するような書籍の編集に携わったことがあります。その時、取材した研究者達は「イスラム原理主義者とイスラム教徒は違う」としきりに言い、私もその主張を書きました。

あれから21年後、盆踊りを邪教の儀式扱いするマレーシアの閣僚、全然寛容じゃないですよね。私はイスラム教で許された「ハラール」の食材(禁豚肉が代表的)を使う店に行き、美味しいと思い、リピートもしました。そして、アフガニスタンとパキスタンというイスラムの国でもその国の食べ物を食べました。

私自身がどこの宗教にも属していないからこのようなことができたのかもしれませんが、今回のイドリス氏は私の行為をどのように捉えるのか?

「イスラム教徒ではない人間がハラールの食材を使った料理を食べるとは許せない!」となるのか? それとも「ハラール食材を食べるこの無宗教者は立派である!」となるか。

同氏は日本で仏教由来の精進料理(ハラール対応)を食べるイスラム教徒に対しては何と言うのですかね? しかも彼らは日本で、教義に従って土葬を求めています。なんなんですか、この自分本位っぷり。(2022/07/21)

◇日本に長く暮らす外国人の数はこの20年ほどで1.6倍に増え、現在はざっと300万人弱。とくに増えているのはベトナム、次いで中国ですが、今後は日本で亡くなる外国人も増えてくるでしょうから、宗教の違いが話題になることも増えるのでしょう。

コオロギパンで避難が殺到した敷島製パン

「Pasco(パスコ)」で知られる敷島製パンのツイッターが2023年2月17日から、本稿を書いている2月27日まで更新されていません。理由は炎上を恐れているからでしょう。

何があったかといえば、同社がコオロギの粉末入りパンを前年に通販限定で発売したことが今になって広がったのです。

コオロギ粉末のことを隠して販売したワケでもないのに、同社のツイッターには非難の意見が多数書き込まれ、不買宣言まで出現。ツイートを復活させる際にも、批判の声が殺到すると思われます。

この炎上の過程で2020年12月に「Korogi Cafe」というコオロギ粉末入りブランドを発売していたことが明るみに出て、「そんな前からやっていたの……」などと言われました。

発売当時、J-CASTニュースが同社に販売意図を取材したところ、以下のように答えました。

〈世界人口増加に伴い、早ければ2030年頃に世界的なたんぱく質不足が予測されています。その対応として、地球に優しい次世代のたんぱく源候補の一つである昆虫食に着目しました。その中でも、コオロギは育てやすく味が良いことから人気となっています〉

同社は悪いことをしたワケではないのですが、世の中にはコオロギ食に反対の声が多すぎる。日本は「空気感」というものが世論を作り、人々の行動様式に影響を与えますが、コオロギ食は抵抗が強すぎました。

他にもコオロギ関連商品を出している会社は無印良品やファミリーマートなどがあるのですが、パスコは「超熟」シリーズのコンセプトとして「余計なものは入れない」を掲げています。何かと添加物が批判される同業他社との差別化がここにあったのに裏切られた気持ちになったのでしょう。

コオロギ憎けりゃ太郎まで……

なぜコオロギをここまで憎む人がいるのかといえば、まず、その色形がゴキブリに似ていることがあります。あとは新しいものに対する反発もあります。ヴィーガンは昔からネットで反発をくらいがちな存在。

勝手にやる分には構わないのですが、肉を出す店の営業を妨害するような過激な人も時々いるので、そこに似た感覚を持ったのかもしれません。さらに、SDGs文脈へのうさんくささを感じる人もそれなりにいるのでしょう。「上級国民は肉を食べて下級国民は虫を食えってか?」という反発もあります。

そんな中、「ヤマザキ」がツイッターのトレンドに入りました。それを見ると、スーパーの棚でヤマザキパンはよく売れているものの、パスコのパンは売れていないと写真つきで投稿されています。たまたまこうなっただけかもしれませんが、パスコ憎し!の人々にとってはどうでもいい。「コオロギパンを発表したせいだ」「我々の不買運動が効いている」と考え、ますます勢いづきます。

余波もあり、コオロギ食を憎む人々は河野太郎デジタル相が2022年にコオロギを食し「おいしかった」と感想を述べた記事を発掘。晴れて河野氏に対しては「デマ太郎」「ブロック太郎」に続く「コオロギ太郎」というあだ名が誕生し、ツイッターでトレンド入りしたのでした。

「ブロック太郎」の由来は、自身と意見の異なるツイートをする人や、自身を批判する人は軒並み華麗にブロックすることにあります。ワクチンとマスクに疑問を抱いた人はブロックされます。えぇ、私も当然ブロックされています。(2023/03/16)

◇マイナ保険証の不手際で矢面に立たされる河野氏。部下の報告もブロック太郎したからでは? との声があがっているようです。


文/中川淳一郎 写真/shutterstok

『過剰反応な人たち』 (新潮新書)

中川淳一郎 (著)

2023/9/19

¥836

192ページ

ISBN:

978-4106110108

人間とはいかに愚かで、「自分だけが正しくて他人は全員無能」と考えているか――。本書は、コロナを含めて折々の社会の空気感を取り上げ、それにまどわされる過剰反応な人たちがどれほど多いのかについて克明に綴った記録だ。著者はコロナ騒動が始まってからの3年余を、「壮大なるパニック実験」だったと振り返る。では、過剰反応な人たちの見本市へようこそ。
「考えることよりリアクションが最優先」
そんな残念な日本人の記録


コンプラ・ポリコレこそ絶対、エコ・SDGsこそ至上価値
節操のないメディア、騒々しいネット世論、不倫はすべて許すまじNG
…そんな関わると面倒くさい、過剰反応な人たちを集めてみました。

【目次】
PARTⅠ それって過剰反応では
ニューノーマルという時の流れ/美観を汚す環境テロへの「?」/ガイドラインゆえの手ごわさ/盆踊りは「邪教のミサ」か/コオロギ憎けりゃ太郎まで…/第何波までやるつもり?/迫害され続けた「祭り」/日本の過保護をガイジンと笑った一夜

PARTⅡ コンプラ全盛時代の違和感
セクハラ香川が謝るべきは/『週刊ポスト』のエロ漫画/アホな校則が国を滅ぼす/ツイッターのIDが凍結されて/オブラートに包まれた言葉/「わたしの川柳コンクール」雑感

PARTⅢ 節操のないメディア
何でも答えてしまうから専門家/死してなお「アベ反対」の人々/野党とともに風見鶏のごとく/「戦犯」たちの屁理屈と炎上騒ぎ/専門バカたちの苦しい言いわけ/一体いつまで「食べログ」信仰/「権威」を無視する人生

PARTⅣ マスクゾンビ国家からの逃亡
感染対策マニアにもううんざり/旅の終わりに/ホタルイカでもマウンティング/バンコクからドヤ顔で現況を/異邦人として生きる心地よさ/不要不急のコロナ対策はなお続く/ホント、「異常な3年間」でした

PARTⅤ ビックリ事件簿
「配達するのが面倒だった」郵便局員/「なぜその発想に至ったか」がわからない/特殊詐欺、「ウマい話」は大抵ハズレ/「計3点で時価2200円」のトホホ感/「サンマ」は日本人だけの楽しみだったのに/「側溝のフタ外され」事故で思い出すこと/大地震の予兆への「またか」感

PARTⅥ 可もなく不可もなし
「検討使」時代の岸田首相/下着2枚を重ね着したころ/お決まりの定型句を疑う/何でもいい、役割があれば…/機内食廃止への妥当な感じ/「辛くない」「次は辛く」の攻防/「異物除去マニア」垂涎のひと時/助っ人ガイジン悲喜こもごも/ご存じですか?「大谷翔平は直江」


PARTⅦ ラクに生きよう
自分なりの「法則」を作る/長文の悪夢にうなされる夜/脳にも休みは必要です/苦痛を正当化するのはやめよう/「昭和オッサンムード」の心地よさ/「生きづらさ」と繊細さ/マウンティングなき世界で

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