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「星」を急激に下げた食べログ運営会社に店に対して3840万円の賠償命令。なぜグルメ雑誌・サイトは信用ならないのか「九州の人はバリ固ラーメンをさほど頼まない」

集英社オンライン / 2023年10月10日 11時1分

SNSやネット世論と向き合わずに生きていくのが難しいこの時代に、他者の意見に敬意を払うこととそれに流されがちなこととは紙一重だったりする。はたして自分の頭でちゃんと考えたことはあるのだろうか。『週刊新潮』の連載「この連載はミスリードです」(2022年5月〜23年6月)や「デイリー新調」(23年5月配信)を加筆・修正しまとめた『過剰反応な人たち』 (新潮新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

私はこのグルメサイトとやらは信用していないんですよ

飲食店の口コミにおいて「食べログ」を含めた「グルメサイト」よりもグーグルの利用率が上回り、トップになったとの記事が登場しました。調査結果を紹介した「MONEY VOICE」というサイトにはこうあります。



〈Googleが前回2020年調査の78.5%から今回は86.1%と上昇したのに対し、グルメサイトは1位だった前回78.9%から今回は61.3%と、大幅に下降している〉

元々私はこのグルメサイトとやらは信用していないんですよ。10年ほど前、とある情報サイトから「食べログに対して好意的なことを言う取材」をされた時、「自分の好きな複数の店を高評価している人は恐らくあなたと舌が合う。その人の勧める別の店も信用に値する」と答えました。

これが影響したかどうかは分からないのですが、「好みのあう人をフォローすると、その人のオススメのお店から探せます。」の文字が同サイトには長年表示されています。

まぁその通りなのですが、自分自身の食べログの使い方を考えると、基本的には地図を見るだけなんですよね。取材に対する私のコメントはあくまでも「好意的なことを言ってくれ」という取材なので、なんとかひねり出した言葉です。本当はそこまで高く評価していない。何しろ知らない人がその時の気持ちを書いただけの口コミにそこまで信用をおいていない。

あえてグルメサイトに書き込む人の目的

さらに、グーグルだって今は地図を出してくれるわけだし、「グーグル画像検索」をすれば、食べログにも載っている写真をズラリと並べて見せてくれる。だったらグーグルでいいじゃん、と思うのは私としてはよく理解できます。

あと、グルメサイトに書き込む人って目的がいくつか考えられるのですが、

① 自分が行った店を記録しておきたい人
② 本当に親切な人
③ 自分がいかにいいものを食べているかを示したい自己顕示欲の強い人
④ 暇人、に加え
⑤ 不快な思いをしたことを世に訴えたい人――があることでしょう。

この中で①~④はまぁ、無害です。しかし⑤は、味は良く、金額も妥当だと感じたのに「店員が無愛想だった」「店主が常連を優先していた」「マスクをしない店員がいた」「エアコンの風が寒かった」などをベースに低評価にしてしまうわけです。

もちろんこういったことも重要ではありますが、こうした評価は人によって解釈が変わるわけですよ。「常連を優先していた」ということは、常連にとっては最高の店でしょうよ。エアコンについても暑がりにとっては嬉しいことかもしれないし、エアコンの風が寒いのなら、席を替えてほしいとお願いすればいい。

食べログの星の数で店を決める舌音痴が多い

だとした場合、結局良い店を探したいのなら「その土地に詳しい人に聞けばいい」のであり、さらに店員に対して「〇〇さんの知り合いで、この店を推薦されたので来ました。楽しみです!」とか言えばいいのです。この二つこそ重要で、食べログ評価が2.78とかだろうが、その店はあなたにとっていい店かもしれない。

焼肉チェーン店が、食べログが「星」を急激に下げた結果売り上げが落ちたとしてアルゴリズムの不当性を訴え、6億4000万円の損害賠償請求をした件、地裁判決では食べログの運営会社に3840万円の賠償を命じました。

運営会社は控訴しましたが、私が思ったのは「食べログの星の数で店を決める舌音痴が多いんだな。日本人アホだ」ということです。(2022/09/08)

◇記事中の「食べログ訴訟」では、併せてお店を評価する際のアルゴリズムの原告側への開示も認められました。まぁ、昔も『Tokyo Walker』とかを読んで、行く店を決めていたから食べログも同じようなものですかね。知り合いのライター(別の雑誌)の中に「カネくれれば載せてやる」と闇営業をしていた不届き者がいます。

九州の人はあんま頼まない「バリ固ラーメン」

博多系のラーメン店は全国各地に存在しますが、地元以外の人は麺の固さについて「バリ固」を頼むのが通だと思っているように思えます。東京や大阪で九州ラーメンの店に行くと多くの人が「バリ固」を注文する。しかし、バリ固って別においしいわけではないと思うのですよ。

私は現在、佐賀県唐津市在住で、九州ラーメンの店によく行きますが、地元の人はバリ固なんてあまり頼みません。

単純に「固いよりやわい(柔らかい)方がおいしいでしょ?」や「バリ固って消化に悪くない?」と思っているから。だから「普通」を頼む人が多い。

それなのに、東京の博多ラーメンの店に来る客は「バリ固」を注文し、福岡や佐賀に来てもラーメン屋に行くと「バリ固」を注文する。

あのさ、常識的に考えて生煮えの麺っておいしいの? と私など思うのですよ。どう考えても、茹で時間が短い固い麵って消化にも悪いですし、固過ぎる。さらにはその上の「ハリガネ」「粉落とし」なんてものまである。粉落としの茹で時間は驚愕の2~10秒。さらにはそれを上回る「湯気通し」があり、これは湯気に麺を通すだけ。

生煮えの麺が美味しいはずはありません

福岡・佐賀の店主は「観光客の皆さんは『バリ固』が好きなようなので出しますが、正直『バリ固』ってそこまでおいしいとは思えません。さらに数秒だけお湯に入れる『粉落とし』なんて、ラーメンのおいしい食べ方とは思えません」なんてことも言います。

質問サイト「Quora」に「博多ラーメンの麺の硬さで『粉おとし』があり、ほとんど生だと思いますが、大丈夫なんでしょうか? 福岡の人は食べてるんですか?」という質問がありました。これに福岡出身のAkimbo氏というユーザーはこう答えました。

〈生煮えの麺が美味しいはずはありません。最近の固麺ブームについては苦々しく思っています。なぜか「固ければ固いほどよい」という「プチマッチョぶり」がおいしさとかけ離れたところで加速しているんですよね〉

こう述べたうえで、牛丼の「つゆだく」やマティーニの「ドライであればあるほどいい」と実例を出す。さらに博多ラーメンは長浜の魚河岸で働く人のために細麺を使い、すぐにラーメンを提供したものという歴史も紹介。そしてこう分析します。

〈もともと早めに提供されるものですから、ちょっと待てばよいのですが、それさえ待てない(=短気)をアピールするためにハリガネだの粉落としだののオプションがなかばジョークとして作られたのだと思います〉

これには「なるほど!」と思わせられました。なんなんですかね、この「麺は固ければ固いほどいい」という風潮。私も当然、東京時代に「バリ固」は食べたことはありますが、「こりゃ、固過ぎるわ……」と思い、以後「普通」にするようになりました。

あくまでも権威が述べた「バリ固を頼むことこそ通である!」といった言説に従っているだけでしょう。しかしながら、九州の人間からすると「バリ固」は「まぁ~、アリと言えばアリですが、まぁ、私は『普通』で行きますかね……」と途端に歯切れが悪くなる。

味の素とドライビールを徹底的に批判する美味しんぼ

食に関しては権威が作った流儀が横行する空気感があります。たとえば、グルメ漫画『美味しんぼ』では企業名を名指しはしていないものの「味の素」と「ドライビール」を徹底的に批判しています。

しかし、正直、私のような素人料理人からすれば味の素は日々の料理をとんでもなくおいしくしてくれます。アサヒスーパードライだって、今となっては一番好きなビールになっています。

権威とされて祭り上げられた人々は自身の思想に従って様々なものを批判し、それらを礼賛する人間をバカ扱いしますが、スーパードライが好きで味の素を使う人間を徹底的に「バカ舌」扱いするってどうなんですかね?

「微妙なダシの味が分かる人間こそ至高!」的論説はありますが、別に味の好き嫌いなんて個々人の好みの差でしかないでしょ? タイ人が辛いものが好きだったり、中東の人がスパイスたっぷりの料理を好むようなもの。本当に私は「レッテル貼り」ってヤツがとことん嫌いです。なんで「○○を使うヤツはバカ」「〇〇を料理に使うヤツは味音痴」なんてことを勝手に決めつけるのか。

いい加減にしろ。権威どもが勝手に決めたことに従ってきた日本、別にこの30年何も良くなっていないでしょ。だったら権威が言うことには反発していいのです。権威様なんて我々の人生に何ものをももたらさない。だったら、さっさとこいつらを無視する人生を送るべきなのです。ラーメンの「バリ固」も不要です。(2022/07/14)

◇一説には、バリ固の麺には伸びやすい、コシがない、スープが絡みにくい……などの特徴があると指摘されています。「バリ固帝国」に無意識に洗脳されているかもしれないと思って、次回は柔らかめにトライしてみては?


文/中川淳一郎 写真/shutterstok

『過剰反応な人たち』 (新潮新書)

中川淳一郎 (著)

2023/9/19

¥836

192ページ

ISBN:

978-4106110108

人間とはいかに愚かで、「自分だけが正しくて他人は全員無能」と考えているか――。本書は、コロナを含めて折々の社会の空気感を取り上げ、それにまどわされる過剰反応な人たちがどれほど多いのかについて克明に綴った記録だ。著者はコロナ騒動が始まってからの3年余を、「壮大なるパニック実験」だったと振り返る。では、過剰反応な人たちの見本市へようこそ。
「考えることよりリアクションが最優先」
そんな残念な日本人の記録


コンプラ・ポリコレこそ絶対、エコ・SDGsこそ至上価値
節操のないメディア、騒々しいネット世論、不倫はすべて許すまじNG
…そんな関わると面倒くさい、過剰反応な人たちを集めてみました。

【目次】
PARTⅠ それって過剰反応では
ニューノーマルという時の流れ/美観を汚す環境テロへの「?」/ガイドラインゆえの手ごわさ/盆踊りは「邪教のミサ」か/コオロギ憎けりゃ太郎まで…/第何波までやるつもり?/迫害され続けた「祭り」/日本の過保護をガイジンと笑った一夜

PARTⅡ コンプラ全盛時代の違和感
セクハラ香川が謝るべきは/『週刊ポスト』のエロ漫画/アホな校則が国を滅ぼす/ツイッターのIDが凍結されて/オブラートに包まれた言葉/「わたしの川柳コンクール」雑感

PARTⅢ 節操のないメディア
何でも答えてしまうから専門家/死してなお「アベ反対」の人々/野党とともに風見鶏のごとく/「戦犯」たちの屁理屈と炎上騒ぎ/専門バカたちの苦しい言いわけ/一体いつまで「食べログ」信仰/「権威」を無視する人生

PARTⅣ マスクゾンビ国家からの逃亡
感染対策マニアにもううんざり/旅の終わりに/ホタルイカでもマウンティング/バンコクからドヤ顔で現況を/異邦人として生きる心地よさ/不要不急のコロナ対策はなお続く/ホント、「異常な3年間」でした

PARTⅤ ビックリ事件簿
「配達するのが面倒だった」郵便局員/「なぜその発想に至ったか」がわからない/特殊詐欺、「ウマい話」は大抵ハズレ/「計3点で時価2200円」のトホホ感/「サンマ」は日本人だけの楽しみだったのに/「側溝のフタ外され」事故で思い出すこと/大地震の予兆への「またか」感

PARTⅥ 可もなく不可もなし
「検討使」時代の岸田首相/下着2枚を重ね着したころ/お決まりの定型句を疑う/何でもいい、役割があれば…/機内食廃止への妥当な感じ/「辛くない」「次は辛く」の攻防/「異物除去マニア」垂涎のひと時/助っ人ガイジン悲喜こもごも/ご存じですか?「大谷翔平は直江」


PARTⅦ ラクに生きよう
自分なりの「法則」を作る/長文の悪夢にうなされる夜/脳にも休みは必要です/苦痛を正当化するのはやめよう/「昭和オッサンムード」の心地よさ/「生きづらさ」と繊細さ/マウンティングなき世界で

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