1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

5000万円のローン地獄に堕ちた人気漫画家…「ラグジュアリーブランドは客をのせるのがうまい」時計の世界最高峰ブランドとの蜜月関係が崩れたとき

集英社オンライン / 2023年10月26日 17時1分

『カノジョも彼女』『アホガール』などの人気連載を持っていた漫画家・ヒロユキ氏は、時計沼にハマり、借金が5000万円に…累計発行部数が500万部をこえた漫画家がいかに堕ちていったのか、その原因となったラグジュアリーブランドとのお付き合いの一部を紹介しよう。『アニメ化4作品のマンガ家が腕時計にハマった結果5000万円の借金をつくった話』(ワニブックス【PLUS】新書) より、一部抜粋・再構成してお届けする。

#1

「これ買いませんか?」「あれ買いませんか?」
積極的な営業の試練に…

世界最高峰の時計ブランドとの付き合いが始まった。付き合いが始まると、早速ロレックスとの違いを感じることになった。

「こちらに記入お願いします」



差し出された紙には勤め先や役職などの個人情報の記入欄があった。

こ……これは……。

「こちらを本社へ提出します」

そ……そんなことをするのか……。動揺しつつも、まぁ自分の法人はあったし、自信満々で代表取締役と書いてやった。結果本社にどう思われたのかはさっぱりわからないけど……。

あととにかくいろんな時計を紹介(営業)される。「これ買いませんか?」「あれ買いませんか?」などなど。

ロレックスの場合、当時は今現在に比べればはるかに店頭在庫はあったけども、あまり積極的な営業や商品提案をされることは、少なくとも僕はなかった。

さらにそういう連絡もLINEで送られてくる。ロレックスの店員さんとLINEなんて交換したこともない。何もかもが違う。とにかく営業が多い。

なんにせよ提案されたら素直に見に行く。そこをむげに断るほどの度胸もない。仕事の合間を縫ってなんとか店へ通う。

写真はイメージ

いや、忙しいんですよ本当に。もちろんなんでもかんでも買うわけにはいかないし(金銭的に)、欲しいと思わなければ買わない主義だ。

そういった提案をされた時計を見にきて、僕が買うかどうか悩みつつも、そこまでピンと来ず、気持ち的には買わなそうな感じに傾いていると、目の前にいる店員さんは、徐々に熱意を失い、気だるそうにスマホをいじり出したりする。

「買わないならもういいよお前」といった雰囲気。

こ……これは……なんというか。

「俺…もしかして、試されてる?」

3カ月でトータル1500万円超えの購入額。
その間に得た本の印税はせいぜい300万円もいかない…

勤務先や役職の記入なんてのはもちろん、どんどん商品を提案してくるのも、つまり僕がどんな属性の人間で、どの程度金を持っているのかを試されているように感じてきた。

お前が雑魚なら相手にはしないぞ。という感じだろうか。

恐ろしい……恐ろしいぞラグジュアリーブランド!

と思いつつ、結果的には最初に1本目を買った6月から8月までに、このお店だけで計3本の時計を買った。

……うん、まぁ、すいません。バカなんです。去年の今頃も同じことやってたような気がする。あの時反省してなかったっけ?経験から学ぶということが全くできていない。

違うのは1本の値段が全部500万円前後ってところ。3カ月でトータル1500万円超え。いい感じに麻痺してきている。その間に得た本の印税なんてせいぜい300万円もいかない。というかまだ2巻も出てない。赤字にも程がある。

写真はイメージ

でもなんでそんなに買ってしまうかというと、連載してると定期的に収入はあるし、働いてるなら買ってもいいよね、という謎の自信が生まれてしまっていた。

働いていない頃に「こんなに時計買ってたらやばいから働かなきゃ」と思ってたのに、働き始めたら「働いてるならもっと買ってもいいよね」と。

たぶん、働いてない方がはるかに自制が利いていた。とはいえ働いて稼いで、時計を買って。非常に経済は動かしている。偉い。偉いぞ自分!

さらには別のブランドの時計も並行して買ったりしてたので、トータル金額は加速度的にやばいことになっているのだけど、そこはまた後で(あ、それでもまだ金額的には全然序の口)。

話を戻します。

その買った3本の中には割と人気どころの時計もあったりと、その頃は試されてる雰囲気を感じつつも、最高級ブランドにどんどん商品を提案されるということがなんというか楽しくなってしまっていた……。

あなたに特別にご案内いたします。みたいな感じで提案されると、今までの生活の中ではなかなか味わえない特別感もあり、なんというか、ハマっていってた。

ラグジュアリーブランドは客を乗せるのがうまい。悔しい。

イベントという名の受注会

さらには秋、時計の展示イベントにも招待された。都内の高級ホテルの会場をそのブランドの世界観で飾り、その中に数多くの時計がショーケースに展示してあった。

イベント時間は概ね2時間程度。その中で偉い人がスピーチしたり、時計をいろいろ見せてもらえたりした。グラスに注がれるシャンパン。僕は酒の味は全くわかりませんけど。でもとにかくラグジュアリーだ。周りのお客さんもお金持ち感がすごい。

店員さんはあれこれ勧めてくる。今日は特別ですから、今日注文したらすごく早く納品されますよ、とか。そこで気づく。

「あ、これ、時計を買わせるためのイベント……というか受注会か!」

よく考えてみれば営利企業が客をただでイベントに招待して何の利益も求めないわけあるか。イベント設営だって当然それなりにお金はかかるんだし。

でも僕は20年近く引きこもって漫画ばっか描いてた男。世の中のそういう当たり前が全くわからず、イベントに招待されたから興味本位で来てしまっていた。

店員さんはどんどん時計を持ってくる。僕が食いつかなければさらに別の時計を。

「で?どれを買うの?まさか買わないの?」と言わんばかり。

もちろんそう言われたわけではないし、こっちが勝手にそう感じているだけなのだけども!

こういう時にきっちり注文入れるのは、なんとなくお店への印象は良いはず。僕が狙っているモデルに近づく手としては極めて良い手に感じる……。

とはいえさすがにこの前3本も買ったばかり。ちょっとお財布事情はよくない。連載中の『カノジョも彼女』のコミックスの重版もかかるにはかかっていたが、そこまで大量ではない。実はその頃にはすでにテレビアニメ化も決まっていたが、アニメ化=売れる、というほど甘いものではないということは過去の経験から痛いほどわかっていた。

世間の皆さんにはわかりづらいかもしれないけど、アニメというのは毎年毎年それはもう大量に作られていて、世間に知られているようなタイトルはその中のほんの一粒。その一粒や、それに近い輝きを放てればそれはもう儲かるけども、僕はアニメ放送をしてもさほど世間には知られない側。もちろんそれでも普通に連載しているよりはかなり収入は増えるけども、高級時計を無尽蔵に買いまくれるほどの景気の良さはなかなかない。多少来年の収入が増えることを見込んで、すでに結構時計を買ってるけども!

しかし取らぬ狸の皮算用をし過ぎては危険だ。締めるところは締めないとえらいことになる。締切だけじゃ飽きたらず、クレカの支払いにまで追われる人生などまっぴらごめんだ。いやもちろん今日何か時計を注文したところでそんな事態にはならないのだけど。ただちょっと状況が違ったのは、この頃の僕は株の勉強をしていた。

貯金は正直それなりにある。
連載もしていてアニメ化も決まっている。
そして時計は欲しい…

株。要するに資産運用。それには当然お金がいるし、たくさんあればあるほどいい。そうなると、手持ちのお金を時計に使うか、株に使うかが悩みどころとなる。

仮に株を年利5パーセントで運用できるとするならば1000万円なら50万円。1億円なら500万円増えるわけで。理論上は。それだけ運用できれば株の運用だけで暮らしていけるし、いわゆるFIRE(経済的自由を得た早期リタイア)すら可能と知る。

世の中の金持ちは労働でお金を稼いだらそれを運用することで長期的な利益を得ていたのか(もちろんリスクはあるけど)……とか、よくあるカルチャーショックを受け、自分も資産運用をしなければ、という気持ちが高まっていた。

そして今の自分の状況。今までの連載のおかげで貯金は正直それなりにある。連載もしていてアニメ化も決まっている。そして時計は欲しい。

しかし連載はもちろん楽ではないし、長く続けても今回の連載はおそらく3年程度で完結する予定。その次の連載が当たるかどうかもわからなければ、その連載をする体力がその時にあるかも不明。

手持ちの資金と、これから入る連載の収入を適切に株に変えれば、将来はかなりの確率で安泰と言える状態になれる。

漫画家というのは改めて不安定な仕事だ。

そんな中で株の運用を一定以上の額でできれば、将来の仕事の出来不出来の心配をしなくても済む状態になれるかもしれない。自分の人生において非常に重要な案件だ。合理的に考えれば時計なんて買うお金があるなら資産運用した方が良い。間違いなく良い。完全にわかっている。

この流れ、完全に時計を買う前振りに見えていると思われるでしょう。

…なんとこのイベントの時は、時計を注文しないことに成功してしまったのです!

時計の誘惑に打ち勝った!やはり時計よりも人生の安定の方がどう考えても優先度が高い!これでいいのだ!

自らの欲望に勝利し、気持ちよく会場を去る。人としての成長を感じつつイベントを終えることができた。

しかしこの後に起こることを、まだ僕は何も知らなかった。


文/ヒロユキ 写真/shutterstock

『アニメ化4作品のマンガ家が腕時計にハマった結果5000万円の借金をつくった話』(ワニブックス【PLUS】新書)

ヒロユキ (著)

2023/10/11

¥990

192ページ

ISBN:

978-4847066986

100万円単位が当たり前でありながらも、一度”沼”にハマると
抜け出せなくなると言われている高級時計の世界。
どのブランドも魅力的で、国内外でその人気はどんどん高まっています。

こうした中、実際にその高級時計にハマり過ぎて
5000万円のローンを抱えることになったマンガ家がいた!

・デイトナマラソン?
・レア時計のための「実績」?
・資産価値ってどうなの?

『アホガール』、『カノジョも彼女』などの代表作があり、
2023年現在4作品がアニメ化されているマンガ家・ヒロユキによる、
衝撃のお買い物エッセイ。

オメガ、ロレックス、A.ランゲ&ゾーネ……そしてたどり着いた先は!?

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください