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介護後の再就職、女性は年収5割減なのに介護の負担額は2000万円以上?…介護のための退職が生み出す最悪のループ

集英社オンライン / 2023年10月13日 11時1分

2025年には団塊の世代たちが75歳以上の後期高齢者となるため、介護を必要とする人間の割合も急速に増える。そして、そこで注目をされるのが働きながら介護をする「ビジネスケアラー」の存在だ。ビジネスケアラーとして働き続けるための大切なことは何か、その基礎知識を紹介する。『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』 (ディスカヴァー携書)より、一部抜粋、再構成してお届けする。

介護で仕事を辞めたら、再就職できず、再就職できても年収は男性4割、女性5割減少

例えば、介護のために仕事を辞めてしまった場合、再就職までにかかる期間はどれくらいだと思いますか?

この期間として統計的に最多となっているのは1年以上です(男性の38.5%、女性の52.2%)。1年以上も仕事から離れていて、条件のよい就職先が見つかると思いますか?現実として、運よくあらたな職場を得たとしても、収入は男性で4割減、女性で半減するというデータがあります。



介護を理由に仕事を辞めるなら、まず、1年以上収入が途絶え、再就職できたとしても今の半分程度の年収になっても生きていけるだけの貯金が必要です。貯金が足りないまま辞めてしまえば、親が資産家でもないかぎり、あなたは生活保護を申請することになります。

介護生活は、少なくとも10年は続くことを想定しておく必要あり

ご存じのとおり、生活保護は、申請さえすれば簡単に受けられるというものでもありません。仮に住宅ローンや自動車ローンが残っていれば、そうした資産を手放すことになり、一家離散という可能性さえ出てくるのです(脅しではなく、現実です。個人的にも、こうして一家離散したケースを複数聞いています)。

介護は、いちど始まると、いつ終わりになるか予想ができません。子育てとは真逆で、介護は、時間とともに負担が増えるという特徴もあります。

介護期間の目安となるのは、平均寿命から健康寿命(心身健康でいられる年数)を引いた年数です。日本でこれは、だいたい10年程度(男性8.7年、女性12.1年/2019年)になります。

ですから介護生活は、少なくとも10年は続くことを想定しておく必要があります。

しかも、この期間のうちに、老化をともないながら、親の健康状態は悪化していくのが普通です。はじめは半身不随などの身体的な問題だったところに、認知症(重度化すると意思の疎通ができなくなる)も重なってきたりします。

仕事を辞め年収が半分になって10年も経つと、ビジネスケアラーとして働き続けた場合からは想像もできないほどの貧困になります。

さらに今後の日本は、物価高になっていくと予想されています。いつ終わるともしれない介護に悩まされながら金銭的にも厳しくなると、精神的な余裕がなくなり、虐待にもつながることもあります。

あなたの親は、自分の愛する子どもが、自分の介護のせいで、そうした状態になることを本当に望んでいるでしょうか。

介護の負担額は平均月7万〜8万円、想定している介護期間は平均14年

金銭的な話をすると「うちの親にはそれなりに資産があるから大丈夫」と考える人もいるかもしれません。しかしそれは、本当でしょうか。先回りしておきますが、介護には相当なお金がかかり、仮に資産が十分にあったとしても、大丈夫ではありません。

そもそも、介護にかかるお金(介護保険でカバーされない自己負担部分)がいくらくらいになるのか、誰もが不安に思っているでしょう。

これを実際のデータで見ると、バリアフリー化や介護ベッド、緊急対応の交通費や宿泊費といった初期費用(一時費用/自己負担)としてかかっているのは、平均で80万〜90万円程度でした(この数字はバラツキが大きいため注意も必要です)。また、毎月かかっている費用(自己負担)は、平均で7万〜8万円程度になります。

脅しではなく、日本の社会保障は、少子高齢化と税収の低迷を受けて、劣化していくでしょう。ですから、このような介護にかかるお金の平均もまた、今後、必ず上がっていきます。そのうえ、おそらくは物価も上がっていくことになるのです。

冷静に考えれば、これからの介護の費用が実質的に上がっていくことは、想定に入れておく必要があることがわかるでしょう。

それでは実際に、介護をしている人々は、どう考えているのでしょう。

まず、実際に想定されている介護期間の平均は、169.4カ月(14年1カ月)でした。先に10年は想定しておくべきであることを述べましたが、多くの人は、それ以上の期間を想定して準備しているのです。なんとなく、子育てと同じ程度の期間が想定されていることは興味深いですね。

もちろん、実際にこれだけの期間がかかるかどうかは、それぞれに事情が異なるため、なんとも言えないところではあります。ただ、平均的には、それだけの期間の見積もりをしているという点には意味があります。

客観的に考えると、毎月の実質的な費用(自己負担)となる平均7万〜8万円が、169.4カ月間かかり続けることを想定するのが普通ということです。

ここから介護のランニングコストは、合計で約1186万〜1355万円となります。初期費用も考えれば、1266万〜1445万円の費用です。

かなりの大金ですが、しかもこれは平均であって、運が悪ければもっとかかることも考えておかなくてはなりません。

約6割の高齢者が、介護のための費用が準備できていない

さらにこの想定では、介護が必要になる人が1人という計算になっていることにも注意してください。両親同時に介護が必要になるケースも多数あり、その場合は、単純に2倍とはならないものの、2000万円以上の準備が必要になると考えられます。

ピンピンコロリと、介護を必要とせずに亡くなる人(急死)は、全体の5%程度に過ぎません。基本的には、誰もが、何らかの介護を受けながら亡くなっていくと想定しておくべきでしょう。

しかも、ここまでの話は、あくまでも介護にかかる費用に関することに限定されています。このほかにも家賃や住宅ローン、生活費や各種税金などのためのお金も必要になることを忘れないでください。長い闘病生活などがある場合もまた、想定しておくべき費用は大きくなります。

ここで、日本の高齢者の貯蓄額は、世帯平均で1268万円です。この数字だけを見ると、意外と貯蓄があるように感じられるかもしれません。これだけの貯蓄があれば、年金と合わせれば、2000万円程度の介護費用はなんとかなりそうにも感じられます。

しかしこの数字は、富裕層が押し上げているにすぎません。実際に、貯蓄額が1000万円以下の世帯は、全体の過半数(57.9%)になっています。生活費のことを考えれば、約6割の高齢者が、介護のための費用が準備できていないと結論づけることができるのです。

ここまでの話を総括すると、

・親に2000万円を超える預貯金があって年金もしっかりもらえている
・両親が同時ではなく、どちらか一方の介護だけが必要


という条件が成立するときだけ、ギリギリではあるものの、親の介護のために子どもがお金を持ち出す必要がない可能性もあります。

ただ、この2つの条件が当てはまる人は少数というのが現実です。仮に、この2つの条件に当てはまる場合でも、生活レベルが高く、毎月の出費も平均以上ということであれば、安心はできません。

親の介護費用は、親の年金や預貯金でやりくりするのが基本です。しかし現実には、親の介護のために子どもがお金を持ち出すというのは、程度問題ではあれ、まず避けられません。

そんなとき、自分が介護で仕事を辞めていたらどうなるでしょう。自分の収入が途絶えていたら、持ち出すお金もありません。そうなれば、親の介護は、介護のプロにお願いすることもできず、自分の手でやらなければならなくなるでしょう。

それでも、なんとか自分の手で介護を乗り切れたとしましょう。しかし将来、いざ自分自身に介護が必要になった場合は、どうするのでしょう。誰かに介護をしてもらう必要が出てきたとき、自分のための貯蓄が不十分であれば、一体、誰に自分の介護をお願いするのでしょう。

親の介護に対してお金を持ち出すためだけでなく、将来の自分自身に必要となる介護のお金のためにも、介護離職という選択肢は、非常に厳しい(とても贅沢な)ものになります。

介護を理由に仕事を辞めたとしても、介護の負担は逆に増える

介護を理由に仕事を辞めた人の約70%が、経済的・肉体的・精神的な負担は「かえって増えた」と回答しています。

介護で仕事を辞めてしまった場合、自分の収入が途絶えます。介護にお金がかかるのに、自分の生活費でさえままならなくなります。しかも、これからの日本では物価も上がっていきます。

また仕事を辞めて介護を自分の手で行うと決めた場合、肉体的な負担が増すのも当然でしょう。こうして金銭的にも肉体的にも追い詰められた結果として、精神的にも厳しくなっていきます。介護を理由としてメンタルヘルス不調を起こす人は、約25%(4人に1人)にもなるというデータもあるのです。

ビジネスケアラー(仕事と介護の両立)の道が難しいと考え、負担を少なくしたいと思って退職しようとしているなら、それは恐ろしい誤解です。その決断が生み出す最悪のループは、次のようなものです。

(第1段階)再就職先が決まっていないまま退職
(第2段階)想定以上に医療費や介護費がかさむ
(第3段階)生活苦となり、介護サービスを利用するお金もなくなる
(第4段階)介護サービスを受けられないため、自分で介護をする
(第5段階)時間的余裕がなくなり、再就職の選択肢がせばまる
(第6段階)第3段階に戻る(以降、最悪のループに入る)

この最悪のループに入ると、精神的・肉体的・経済的な負担は、時間とともにどんどん大きくなっていきます。そして、一度こうなってしまうと、そこから抜け出すのはとても難しいのです。

2018年6月2日に放送されたNHKスペシャル『ミッシングワーカー働くことをあきらめて…』では、こうした介護離職などを理由として、労働市場への再起ができなくなった人(ミッシングワーカー)が、当時の時点で100万人以上いるという衝撃の事実が明らかにされています(介護離職だけが理由ではない点には注意も必要ですが)。

この最悪のループから抜け出すために必要になるのは生活保護です。一度、ミッシングワーカーになってしまえば、一時的に生活保護を活用し、介護サービスなどを利用しながら、就職先を探すしかなくなります。

しかし、生活保護は、ただ申請すれば簡単に受けられるようなものではありません。今後、日本の財政がさらに悪化していけば、生活保護の認定条件が厳しくなり、受給できたとしてもその内容は貧弱になっていくでしょう。

リンゲルマン効果と呼ばれる心理学的なブレーキが働く可能性がある

ここで、自分が介護離職をしたとしても、金銭面で、兄弟姉妹や親族などの協力を得れば、総じて負担が減らせると考える人もいるかもしれません。

しかし介護離職をした後も、現在は得られている協力が、引き続き同じように得られるとは限りません。ここには、リンゲルマン効果と呼ばれる心理学的なブレーキが働く可能性があるからです。この心理学的なブレーキについて、少し詳しく考えてみます。

このリンゲルマン効果が知られるきっかけとなったのは、リンゲルマン(Ringelmann,M)自身による報告ではなく、ドイツ人のメーデ(Moede,W)の論文(1927年)中で「興味深い研究」として掲載されたことがきっかけでした。

リンゲルマンは、1人、2人、3人、そして8人という4つの集団(被験者)を作り、それぞれに綱引きをさせて、そのときの引っ張る力を測定したそうです。結果としては、1人の場合で63kg、2人の場合で118kg、3人の場合で160kg、そして8人の場合で248kgとなりました。

当然のことながら、集団を構成する人数が増えれば、綱引きの力は上がりました。ただ、全員が綱を必死に引けば、2人の場合では、1人で綱を引いたときの2倍、3人で3倍、8人では8倍となるはずです。

しかし、この結果を分析してみると、1人で引いたときの力を100%(63kg)としたとき、2人ではそれぞれが93%(118÷2=59kg)、3人では85%(160÷3=53kg)、そして8人ではなんと49%(248÷8=31kg)になっていたのです。

特定の目標を共有する集団のサイズは、それが大きくなるにつれて、集団の構成員1人あたりの能力発揮が劇的に低下するということです。これは、非常にショッキングな事実であっただけでなく、なんとなく誰もが知っていたことでもありました。そのため、この事実はリンゲルマン効果(リンゲルマン現象)として世界的に有名になったというわけです。

当然ですが、介護の現場においても、このリンゲルマン効果を観察することが可能です。むしろ介護は、多くの人が本音では「関わりたくない」と考えていることです。ですから、介護の現場におけるリンゲルマン効果は、当たり前に見られる現象なのです。

兄弟姉妹や親族の多い家族において、誰が親の介護をするのかという話は、トラブルになりやすいテーマです。このテーマでは、だいたいにおいて、特定の1人が(主たる介護者として)多くの介護負担を引き受けてしまいます。他の兄弟姉妹や親族は「自分も介護に貢献する」と口では主張したとしても、そこにリンゲルマン効果が起こりやすいことは明らかです。

介護の負担を兄弟姉妹や親族と分け合うということは、ある意味で、1つのケーキをどのように分けるかに似ています。あなたが仕事を辞め、大きな負担を引き受けるということは、他の兄弟姉妹や親族は、より少ない負担で間に合うということでもあります。

ですから、自分が介護を理由として仕事を辞めた後は、現在はなんとか介護に協力してくれている兄弟姉妹や親族が、実質的には介護から身を引いていくという可能性も想定しておかないとなりません。

文/酒井穣 写真/shutterstock

『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』 (ディスカヴァー携書)

酒井 穣 (著)

2023/7/21

¥1,210

224ページ

ISBN:

978-4799329740

迫りくる2025年問題
働き盛りの介護リスク、どう備えますか?
岸田政権「骨太の方針2023」にも入った「ビジネスケアラー」問題に迫った1冊


「ビジネスケアラー」とは「働きながら介護をする人」「仕事と介護の両立をする人」の意味です。

・すでにビジネスケアラーは8人に1人(50〜54歳)
・2025年以降、団塊世代800万人に要介護者が急増
・介護の予測コストは1人約1200万円
・介護期間は約10年(男性8.7年/女性12.1年)
・少子化、共働き化で家族介護の担い手不足
・介護離職が「増える」と回答の企業71%

少子高齢化が進む日本で、「仕事と介護の両立」問題は、
個人の問題であるとともに、日本社会全体の問題でもあります。
仕事と介護の両立支援サービスのトップ企業、
株式会社リクシスCSO酒井穣氏が、
「ビジネスケアラー」問題について今後の指針を示します。

「そろそろ親の介護が…」という人はもちろん
経営者・管理職・人事担当者も必見!

<目次>
第1章 ビジネスケアラーの新・常識
第2章 仕事と介護はこう両立させる
第3章 介護と肯定的に向き合う

※本書は2018年に弊社より刊行された『ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由』を再編集したものです

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