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平日平均2時間、休日平均5時間以上を介護に使ってしまう人は介護離職する…けれど、ビジネスケアラーが長期の介護休業をとるのはNGなのはなぜ?

集英社オンライン / 2023年10月15日 10時1分

仕事と介護の両立を目指すビジネスケアラーにとって、所属する企業の休業制度を知っておくことはとても重要である。しかし、制度を利用することで介護離職をするリスクが高まることもあるという。いったい何が問題なのか。『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』 (ディスカヴァー携書)より、一部抜粋、再構成してお届けする。

介護休業制度を理解し、上手に活用する

いかなる企業であっても、法律には逆らえません。そして、介護のために休んだり(介護休業・介護休暇)、残業を拒否できたり(残業免除)、また、そうした行為によって不当に扱われない(介護ハラスメント防止)ということは、日本の法律で決まっています。

法律とは最低限の倫理にすぎませんから、企業によっては、こうした法定の制度を大きく超えて、より仕事と介護の両立に悩む従業員のための制度を整えているところもあります。



今後は、健康経営の評価指標として、ビジネスケアラー支援の拡充が求められますから、こうした法定の制度を超えていくことは、より一般的なことになっていくでしょう。

もちろん、法定の制度を理解して、それを上手に活用していくことは、仕事と介護の両立をするうえで大切なことです。しっかりと、人事部(人事部がない場合は上司や経営者)と話をしながら、当然の権利を確保することを忘れないでください。

ただし、ここでどうしても注意しておきたいことがあります。それは、法定では対象1人につき3回まで、通算で93日まで認められている介護休業の実際の使い方です。

当然の権利だからということで、1回で93日をめいっぱい休んでしまうと、かえって介護離職のリスクが高くなるかもしれないのです。

介護休業を長期でとるのはおすすめしない

マスコミでもよく取り上げられる引きこもりは、なにも、子どもにだけ起こることではありません。社会人にも引きこもりは起こります。これまで引きこもりとは無縁の人生をおくってきた人にとって「ちょっと休む」ことの怖さは、なかなか実感できないかもしれません。

しかし引きこもりに至る心理的なプロセスは、意外と誰にでも起こりえるものであり、そのはじまりは「ちょっと休む」ことなのです。実際に、社会人が引きこもりになる理由として最も多いのは「ちょっと休む」結果として、どんどん職場に適応できなくなってしまうことが最多(28%)なのです。

きっかけは、「仕事と介護の両立がストレスだから、ちょっと休んでゆっくり介護したい」だったとしても、介護のために93日も連続して休んでしまうようなことになれば、それ以前にあなたが行っていた仕事は、他の誰かに引き継がれているでしょう。そうなると、職場に復帰しても、あなたの仕事はもうないかもしれません。

こうした場合「自分がいなければ仕事にならない」といった自尊心は、復帰するときには砕かれています。自分があまり必要とされていない職場に、自分が戻る理由は、どこにあるのでしょう。そんなことをグルグルと考えはじめると、もう1日くらい休んでおくかという気分にもなります。

さらに、介護の実態を考えても1回で93日を取得することはすすめません。介護休業をとるにしても1回でとらずに、3回に分けてとり、介護初期のパニック期やアクシデントが起きてその対応に時間がかかりそうなときにとるようにしたほうがいいでしょう。介護のめどがついたとはいえ、復帰してからも、介護のために再び休む必要が出てくることもありえるからです。

実際のビジネスケアラーたちが求めているものとは?

そもそも、ビジネスケアラーとして上手に両立していくということは、職場への適応性を多かれ少なかれ少し下げるということでもあります。程度の差はあれ、出張や残業がしにくくなるのが現実だからです。

介護休業は、かなり長期の休みが認められる制度です。その取得は、介護のめどをつけるためには、たしかに必要なものかもしれません。それでも、そこには引きこもりが生まれてしまう心理的なプロセスが、リスクとして大きな口を開けていることは覚えておいてください。

ただ、「介護休業を長期でとってはいけない」と言いましたが、実はそう言うまでもなく、そもそも「介護休業制度をとりづらい」と感じているビジネスケアラーも多いかもしれません。

介護休業制度、介護休暇制度、介護時短制度が、実際にどれくらい利用されているのかに関する、弊社の独自データを示します(サンプルサイズ2555人)。

企業の「介護支援制度」に対するビジネスケアラーの認知度・利用率(%)。『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』より

この分析から明らかなのは、大多数のビジネスケアラーは、介護休業制度などの存在は正しく認識してはいるものの、それを利用していないという事実です。

その理由は、介護のためのお金が稼げなくなることだけでなく、職場の理解が得られないことや、評価が下げられてしまう恐怖など、様々です。

いざというときには休みやすい職場である必要はあるでしょう。ただし、実際のビジネスケアラーたちが求めているのは、休みやすさではなく、とにかく仕事に穴を開けないで介護も成功させることなのです。

この点についての理解は、まだ日本の企業には広がっていないというのが現実です。

介護離職のボーダーラインは、平日平均2時間、休日平均5時間

さらに決定的なデータがあります。平日平均2時間以上、休日平均5時間以上を介護のために使ってしまう人は、介護離職をするというものです。

これは介護離職のボーダーラインであり、本人はもちろん、企業もまたしっかりと認識する必要があります。

「休みやすい職場」もたしかに大切なことですが、「仕事を休まずに、介護を行っていける具体的な方法」を情報として得られる環境が、ビジネスケアラーにとって重要なのです。

いかにそれが当然の権利であったとしても、介護のための長期の休みは可能なかぎり避けたいところです。

午前休や定時退社などを組み合わせつつ、どうしても休む必要があるときは、長期の介護休業ではなく、できるだけ短期に、介護休暇や有給休暇などで対応していくことを考えてください。介護休暇は、21年の法改正で時間単位での取得も可能になりました。

そして有給休暇のうちの何日かは、できるだけ、家族との旅行のためなどに残しておくことも忘れないようにしましょう。

文/酒井穣 写真/shutterstock

『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』 (ディスカヴァー携書)

酒井 穣 (著)

2023/7/21

¥1,210

224ページ

ISBN:

978-4799329740

迫りくる2025年問題
働き盛りの介護リスク、どう備えますか?
岸田政権「骨太の方針2023」にも入った「ビジネスケアラー」問題に迫った1冊


「ビジネスケアラー」とは「働きながら介護をする人」「仕事と介護の両立をする人」の意味です。

・すでにビジネスケアラーは8人に1人(50〜54歳)
・2025年以降、団塊世代800万人に要介護者が急増
・介護の予測コストは1人約1200万円
・介護期間は約10年(男性8.7年/女性12.1年)
・少子化、共働き化で家族介護の担い手不足
・介護離職が「増える」と回答の企業71%

少子高齢化が進む日本で、「仕事と介護の両立」問題は、
個人の問題であるとともに、日本社会全体の問題でもあります。
仕事と介護の両立支援サービスのトップ企業、
株式会社リクシスCSO酒井穣氏が、
「ビジネスケアラー」問題について今後の指針を示します。

「そろそろ親の介護が…」という人はもちろん
経営者・管理職・人事担当者も必見!

<目次>
第1章 ビジネスケアラーの新・常識
第2章 仕事と介護はこう両立させる
第3章 介護と肯定的に向き合う

※本書は2018年に弊社より刊行された『ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由』を再編集したものです

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