元ANAのCAが解説「早く結婚したほうがいい」「恋人がいないなんて寂しい」ステレオタイプで語る残念な人が守れていない言葉のマナーとは
集英社オンライン / 2023年10月18日 11時1分
快適な人間関係やコミュニケーションを築くためには、「見た目とは違う事実があるかもしれない」と推測する想像力を持つことが欠かせないという。思い込みだけで作られた判断を、客観的に見直す視点を備えるためにはなにが必要なのか。『絶対に後悔しない会話のルール』 (集英社新書) より、一部抜粋、再構成してお届けする。
ステレオタイプで語る残念な人たち
「恋人がいないなんて寂しい人だ」
「早く結婚したほうがいい」
「新しいことを始めるのに歳を取ってからでは遅い」
世の中には、誰かに対して、自分の持つ価値観やステレオタイプで好き勝手に発言する人もいます。
また、著名人が失言をすれば「やっぱり有名人は常識がない」「お金があっても世の中のことを知らない」などと言い、若者が犯罪に関わっているニュースについては「親の愛情が足りないからだ」など「著名人」「お金持ち」「若者」といったカテゴリーに人を当てはめて、それらを一括りにして、根拠などお構いなしに決めつけた言い方をする人を、SNSなどで見聞きすることがあります。
私たちは、本当に物事の真実を見極めることが得意なのでしょうか。
人それぞれ、何をどのように頭の中で考えるかは自由です。しかし、そうした考えを世の中に発信するときには、誰かを不用意に傷つけたり、怒らせたり、問題を拗らせるようなことは避け、配慮をする習慣を身につけたいと感じます。
配慮なしに、決めつけた言い方ばかりをする人には、当然、同じようなタイプの人しか寄り付かなくなるでしょうし、いずれ「この人の意見は軽い」「ずいぶんと視野が狭い人だな」などと思われて、大切な人からも信用される機会を失いかねません。
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自分の発信を相手がどう受け止めるか、逆算することはマナー
あるときカフェで、私と友人の隣のテーブルで、賑やかに会話をしている20代くらいの女性たちのグループの会話が聞こえてきました。
どうやらグループの一人Aさんが、恋人(大学生)との関係がうまくいっておらず、それについて全員が、彼女の話を聞きながら、意見を出し合っているような会話の雰囲気でした。
すると、グループ内にいるBさんが「Aの彼氏、私の彼と同じ○○大学だったら違っていたかもね」と言いました。
その発言にAさんもそしてまったく関係のない私と友人も、一瞬、「えっ!?」と驚きました。
要するに、Bさんの彼の通っている大学はAさんの彼が通っている大学より知名度が高く、Aさんの彼もその大学に通っていたら、幸せな交際を続けられたはずだと言わんばかりの不思議な理論のようでした。
すかさず、グループ内のCさんが「それはわからないけど、まだ(Aさんが彼のことを)好きならもっと話し合ってみたら」とまともな意見を発したことで、Bさんの不思議な意見は、自然淘汰されました。
繰り返しますが、人それぞれ、頭の中で考えることは自由です。ただ、それを発信するときには、その発言をした直後、相手がそのことを、どのように受け止めるのか、客観的に推測し、逆算してから発言することは、最低限のマナーです。
頭の中で考えたことを「余計な一言かもしれない」「私だけの思い込みかな」「私だけの勝手な基準なのかもしれない」などという自分への問いかけのあとに発言するほうが、断然、失言や場違いな発言をせずに済むのです。
「余計なこと」を言わないための暗示
言うまでもないことですが、人の幸不幸は、本人にしか決められません。
相手を心配して、ついお節介に「○○したほうがいい」「だから、○○な人はダメなんだよ」などと口走ってしまうこともあるかもしれませんが、そのお節介の正体は、実は単に自分の意見を言いたい、知らしめたいといった欲望なのかもしれません。
冒頭の例のように「恋人がいないなんて寂しい人だ」「早く結婚したほうがいい」「新しいことを始めるのに歳を取ってからでは遅い」などという考えを口にすることは、まさに自分の欲望をコントロールできない人というレッテルを貼られてしまってもおかしくはありません。
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「どうしても一言、言いたい」という欲望をうまくコントロールする方法としては、まず人と会う前に「余計なことは口にしない」「勝手な一言で一生、後悔する」といった暗示を、徹底的に自分にかけることです。
こうした暗示だけでも、お節介な意見を封印する、強力なストッパーとなります。たいていの場合、会話の前に「今日は余計な一言を言わないように注意しよう」などと意識していることは多くないでしょうから、試してみる価値は十分にあります。
次に「頭ではわかっていても、どうしてもお節介なことを言ってしまう」という場合には、相手の話を聞いている間、終始、唇の上下を軽く完全につけてしまいます(ただし、呼吸と表情は穏やかに)。
つまり、発声ができないという身体的な条件を作ってしまうという意味です。
唇への意識があれば、ストッパー効果が強化され、発言に対する慎重さが増していきます。つまり、一言一言に熟慮できる習慣へとなるのです。そうすれば、あなたが冷静に相手の話を聞くことのできる、落ち着いた聞き手だという安心感を与えることができるのです。
ぼーっとしている人は怠けているのか
あるとき、午前中から打ち合わせがあり、その後都内のカフェで一息ついていると、店内は昼食を食べにきたビジネスパーソンであっという間に満席になりました。
そのとき、一人で来店していたすべての人たちがスマートフォンを手にし、画面を観ているという光景を目にしました。
それは決して珍しい光景ではないですし、スマートフォンでSNSや動画を観たり、大事な用事を済ませている人もいて、好きに過ごすことは当然です。
ただ、もし休憩時間だから仕事から離れるためにスマートフォンを観てリラックスしたいという意図があるとすれば、そこには落とし穴があります。
というのも、常にスマートフォンを使っていると、膨大な情報を脳が処理し続けてしまい、結局、溢れる情報量で脳の中を整理できないまま「ごちゃごちゃ」とした状態になる可能性があるからです。
米ワシントン大学セントルイス校の神経学者マーカス・レイクル教授が提唱したデフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network)によると、脳は何かに集中しているとき以外の、ぼんやりとしているときでさえ、相当なエネルギーを使っているといいます。
諸説あるにしても、何気なくスマートフォンを観ることでリラックスできるというのは思い込みであり、個人差はありますが、完全にリラックスできているとは言い難いのかもしれません。
また、ドラマや漫画のワンシーンで、親が子どもに「ぼーっとしている暇があったら勉強しなさい」「まったく、ぼーっとしてばかりでダメね」などと、叱責するセリフが使われがちで、ぼーっとすることが、まるで、何の役にも立たない、怠け者のすることであるかのように、無駄なことだと言っているように受け取れます。
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「いつものことだから」よりも、「最初で最後の1回だ」
しかし、その「ぼーっとする」時間は、子どもの頭の中で、その日に起きた出来事や学んだことの内容などを整理するために、必要な時間なのかもしれません。
「休憩時間はスマートフォンを観る」という習慣や「ぼーっとするのは無意味だ」などという考え方は、つい「いつものことだから」とほかの視点から観察しようとはせずに状況を短絡的に判断していることのあらわれです。
そもそも、現実的に考えてみると、「いつものことだから」と私たちが言える回数は限られています。
なぜならば、私たちには寿命があるからです。厚生労働省が作成した簡易生命表(2021)による、日本人の男女の平均寿命から算出した、男女合わせての平均寿命は、およそ85歳となり、それを日数にすると約3万1000日です。
もしあなたが45歳だとすると、すでにおよそ1万6425日を過ごしたことになるので、残り1万4575日が、「いつものこと」ができる日数だと考えられますが、人はいつ死ぬかも、いつ怪我や病気で体が不自由になるかもわかりませんから、「まだ、この先1万4575日もあるぞ!」と悠長なことを言えるわけではありません。だからといって、焦る必要もありません。
ただ、日々自分の言動を判断することの一つ一つが、貴重であり、「いつものことだから」とするよりも、「最初で最後の1回だ」として、より丁寧に観察し、行動するほうが、スマートな決断だと言えるのではないでしょうか。
たとえば、明日のランチタイムには、スマートフォンから離れることで休息時間を取るとしましょう。そして、「スマートフォンをバッグ(ポケット)から出さないでおこう」と、実践するだけで、食事に集中できます。
「ではあるけれど……」「とはいえ……」などと、逆接表現に変えてみよう
そのように、食事に集中することが、その後の食欲や摂食行動に影響するといわれ、クッキーを用いたある実験では、昼食時に食べ物にしっかりと注意を向けて食事をする群は、食事に注意を向けなかった群に比べ、食後のクッキー摂取量が減ることを示しています。
また、マインドフルネスを食に応用した、マインドフルネス食観トレーニング(Mindfulness Based Eating Awareness Training)という、肥満に特化して開発されたプログラム(音声での指示がある)も注目されています。五感をフルに活用して「今、ここに」という意識で食事をしてみるのもいいかもしれません。
食事だけに集中することで、インターネットの情報にさらされない分、意識が自分へ向きやすくなり、背筋を伸ばして食事ができれば消化にも良いですし、自分の荷物に使っているスペースや、自分の立てている物音や振動など、隣の人への気遣いの余裕も生まれ、互いに気持ちの良い空間を過ごしやすくなりそうです。
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次に「ぼーっとしてないで宿題を早くやりなさい」と何もしていない(かのように見えてしまう)我が子へ、日常的に口が動いてしまう人の場合には、「5分は待とう」と頭の中にタイマーを設定します。
その間に「何かおやつ食べる?」などと伝えてみれば、お子さんは満足し、おやつを食べて、リフレッシュしたあとに、自発的に宿題を始める可能性もあり、「ぼーっとしてないで〜」と言って、互いにストレスを感じることを避けられるかもしれません。
私たちは、自分にも相手にも、「いつものことだから」という視点に安心しきって、あらゆることを決めつけながら、毎日を繰り返しているようにも感じます。
「いつものことだから」という視点により、実際にあなたの予想が当たったときには、スムーズに物事に対処できそうですが、決めつけた考え方で的外れなことをしないよう、客観性を持っておくことは不可欠です。
まずは、口癖を「いつものこと」と言ったところまでで、「ではあるけれど……」「とはいえ……」などと、逆接表現に変えてみましょう。それができれば、当たり前のようにしてきた習慣や、言葉遣いを精査できて、より言動が洗練されていくでしょう。
文/吉原 珠央 写真/shutterstock
「絶対に後悔しない会話のルール」
吉原 珠央 (著)
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/10/10094055647650/400/zettai.jpg)
2023年9月15日発売
990円(税込)
新書判/200ページ
978-4-08-721281-5
【コミュニケーション能力は「観察」で変わる!】
「初めて会う相手と会話が盛り上がらない」「人と話すといつも同じような会話にしかならない」「会社の部下とうまくコミュニケーションが取れない」……コロナ禍が沈静化してきたことで対面のコミュニケーションの機会も多くなったが、会話がうまくいかず、様々な後悔や悩みを抱えている人も増えている。
しかし、「思い込み」「決めつけ」「観察」という3つのキーワードに気を付けるだけで、会話における後悔は格段に少なくなる。
数々のベストセラーを世に送り出してきた著者による、人生を楽しくする会話術の決定版!
【おもな内容】
◎話す前には2秒黙る
◎相手の「単語」に着目する
◎会話の流れは「徹子の部屋」に学べ!
◎「いや待てよ」を口癖にする
◎人の幸不幸を決めつけない
◎あなたの問題解決を阻むのは思い込み
◎相手の思い込みをポジティブに変える方法
◎観察力がある人は失言しない
◎威圧的な人とうまく付き合う方法
◎安心感を与える「言語化」
◎エレベーターの待ち方にセンスが出る
◎「テーブルのガタつき」をすぐ直せる人になる
【目次】
まえがき
第一章 「思い込み」がコミュニケーションを台無しにする
第二章 「心地好い会話」の裏には観察がある
第三章 人生を劇的に変える会話の仕方
あとがき
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