残りふたりとなったPL学園出身の現役プロ野球選手…日本シリーズに挑む中川圭太に社会人野球で奮闘する“最後のPL戦士”からエール
集英社オンライン / 2023年10月18日 17時0分
2023年、圧倒的な強さでパ・リーグ3連覇を遂げたオリックス・バファローズ。山本由伸、山﨑福也、宮城大弥の2ケタ勝利トリオに代表される強力投手陣はもちろんだが、打線で大きな存在感をはなったのが、プロ5年目の中川圭太だ。
オリックス中川圭太についた2つの異名
今季は外野3ポジションに加えてファーストも守り、打順も得点源のクリーンアップだけでなく、リードオフマンとしてチャンスメイクもこなす。
高いユーティリティ性に得点圏打率.322の勝負強さを併せ持つ――。シーズン通してチームを長期離脱することもなく、試合数(135)、打席数(563)はチームトップ。打率.269は堂々のリーグ9位を誇る。攻守で見せる高い能力と順応性から、中嶋聡監督やファンからは「無敵の中川」と呼ばれている。
そんな「無敵の中川」には、プロ入り当時からついて回るもうひとつの“異名”がある。
最後の、PL戦士――。
春夏通じて7度の甲子園優勝を誇る高校野球界屈指の名門校は、中川の世代(60期生)が高校野球を引退した2014年10月を最後に新入部員の募集を停止し、2017年3月に高野連を脱退。現在に至るまで、野球部は活動休止状態が続いている。
2023年現在、NPBでプレーするPL学園出身者は中川のみ。MLBでは前田健太(ツインズ)がプレーを続けているが、PL学園野球部が今後、復活しない限りは中川がPL学園出身者としては文字通り“最後の”プロ野球選手になる可能性は高い。
その一方で、社会人野球に目を移すと、今なお現役を続けている“PL戦士”もいる。ヤマハの前野幹博もそのひとりだ。PL学園では中川の1学年上。卒業後、ヤマハに入社して今季で10年目を迎える強打の外野手だ。
「今年は例年と比べて途中出場する機会が増えたので、難しさを感じています。それでも、チームのため、会社のために自分に何ができるかを考えてプレーしています」
所属するヤマハは今年7月に行われた都市対抗野球に出場。決勝でトヨタ自動車に敗れはしたものの、準優勝という結果を残した。ただ、前野個人としては「このままでは終われない」という思いもある。
「もちろん、代打という仕事も大切です。ただ、自分としてはまたレギュラーで試合に出ることをあきらめてはいないですし、それを目指しています」
つねに冷静な中川が感情を爆発させた瞬間
年齢的にもキャリア的にも“ベテラン”と呼ばれる域に差しかかっている。同世代や年上の選手は年を追うごとに減り、チームには毎年、若い選手が入ってくる。
「新しい選手が入ってくるのにはもう慣れました。ただ、これは中川もそうだと思うんですけど、“後輩”が入ってこないのは少し寂しいですね……」
前述のとおり、前野の母校・PL学園野球部はすでに活動を休止している。そのため、母校の後輩がチームに入団してくることもない。
「野球部が活動している間は、オフになったら同期と一緒にグラウンドに挨拶に行くことが恒例行事だったのですが、今はそれも出来ないですから。もちろん、復活して欲しいですよ。すぐにではなくてもいいから、いつかは……という思いは持ち続けています」
社会人野球と、プロ野球――。カテゴリは違うが、ともに野球選手としてプレーを続ける後輩・中川のプレーを、前野はどう見ているのだろう。
「高校時代から、つねに落ち着いてプレーしているのが印象的でした。プロに入ってもその印象は変わりません。だから、優勝を決めた試合でスリーベースを打ったとき、ベース上で感情を爆発させたのを見せたのには驚きましたね。後輩ですけど、今もプロの世界で活躍して、3連覇するような強いチームで主力を張っているのは、本当にすごいと思います」
前野自身も、以前は中川と同じプロ野球の舞台を目指していた。しかし今は、その思いを“封印”したという。
「気持ちを区切ったのは2~3年前です。もちろん、ずっとプロを目指していましたけど、自分の中では思ったよりも引きずらなかったというか、切り替えることができました。今は少しでも長くヤマハのためにプレーして、会社に貢献したいという思いでやっています」
後輩である中川が“最後のPL戦士”と呼ばれることについても、大きな抵抗はなかった。
「中川は中川で頑張ってプロに入って、活躍しました。僕もそれを目指してやっていましたけど、そう言われることに対して特に嫌な気持ちになるようなこともありませんでした」
「僕も頑張るので、中川にも頑張ってほしい」
NPB入りの思いに区切りをつけた前野は今、新たな目標に向かって歩み出している。
「まずは11月の日本選手権で、都市対抗決勝で敗れたトヨタ自動車を倒して日本一になること。それだけを目指しています。“打倒トヨタ”は社会人野球の全チームが意識していることですが、自分たちがそれを成し遂げたい。今は、それだけです」
取材の最後に、「もし、ヤマハとオリックスが日本一になれば、PL学園出身の選手が社会人野球とプロ野球、両方で頂点に立つことになりますね」と告げると、前野は声のトーンを少し上げて、こう答えてくれた。
「それ、いいですね! 僕も頑張るので、中川にも頑張ってほしいです。PL出身者がふたりとも日本一になれたら、最高です」
PL学園野球部59期生の前野幹博と、60期生の中川圭太――。舞台こそ違うが、ふたりの野球選手は今秋、ともに“日本一”をかけた戦いに挑む。
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#5 「アホか。お前はプロを目指せ!」。日本シリーズでの快投を期するオリックス・山﨑颯一郎を支える中学時代の恩師の“ひと言”
取材・文/花田雪
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