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〈指名NG記者が暴露〉ジャニーズ会見よりもはるかに周到。総理大臣会見の巧みな「NG記者」排除ノウハウ

集英社オンライン / 2023年10月13日 12時1分

ジャニーズ事務所の会見で注目を浴びた記者の指名NGリスト。だが、不都合な質問をする記者の指名を回避するノウハウは総理大臣記者会見のほうがはるかに周到だという。自らも同会見で、実質”指名NG”となっているフリー記者の犬飼淳氏がその詳細を紹介する。

総理大臣会見の指名格差の実態

ジャニーズ事務所会見における指名NGリスト発覚をきっかけに、記者会見のあり方にかつてないほど注目が集まっている。これに関連して10月5日に松野博一官房長官は「(首相会見では同様のリストは)存在しない」とコメントしたが、同会見にフリー記者の立場で継続的に参加する筆者はこの発言に強い違和感を抱いた。

確かに同会見に指名NGリストは存在しないのかもしれないが、だからといって質問者が公平に指名されているわけでは決してない。正確に言えば、「不都合な質問をする記者を指名回避する仕組みをすでに確立させているため、NGリストを作成する必要はない」のだ。



大前提として、首相会見の指名には大きな偏りがある。現に筆者が約2年間(2020年9月16日~2022年10月28日の36回)の同会見の指名状況(回数、順序)を多角的に調査した際、指名が極めて恣意的に行われている事実が定量的に明らかになった。

総理大臣会見(写真/共同通信社)

一例として内閣記者会 常勤幹事社19社の会社別指名回数では、指名が多い社(NHK21回、日経新聞19回、読売新聞17回、産経新聞17回)と少ない社(北海道新聞 7回、東京新聞 4回)の二極化が鮮明になった。

*内閣記者会常勤幹事社は19社(朝日新聞、NHK、共同通信、京都新聞、産経新聞、時事通信、Japan Times、中国新聞、TBS、テレビ朝日、テレビ東京、東京新聞、西日本新聞、日経新聞、日本テレビ、フジテレビ、北海道新聞、毎日新聞、読売新聞)で構成され、首相会見に抽選を経ずに毎回必ず参加できる、自らが幹事社(2ヶ月毎に2~3社が持ち回りで担当)の回は会見冒頭に「代表質問」として必ず質問できる等の恩恵を受けている

*同調査の概要は筆者が集英社オンラインに寄稿した記事「【総理大臣会見】なぜNHKの記者ばかりが指名されるのか? 指名回数のデータ化で見えた「不公平」と「メディア間格差」」(2023年1月31日)参照

これは「常勤幹事社19社の中」の格差だが、「この19社とそれ以外」の格差も凄まじい。例えば同調査では僅か19社の常勤幹事社が、首相会見の全指名の実に66%を独占していることも明らかになっている。

*残りの指名の内訳:フリーランス・ネットメディア15%、常勤幹事社以外の内閣記者会(ラジオ、地方メディア等)10%、外国プレス10%。合計は100%にならない理由は四捨五入のため

総理にきわどい質問をすると排除される

だが、このように優遇されている常勤幹事社の質問といえば、国民感覚と乖離した当たり障りのないものばかり。そのような社が指名の過半数を占めれば、首相会見が形骸化するのは必然だ。

もちろん筆者のようなフリーランス記者が指名されることも稀にはある。現に筆者は昨年10月に1度だけ指名を受けて岸田総理への質問を許された。その際は、“総理のお考え”をただひたすら拝聴する常勤幹事社とは違い、直近の国会質疑でインボイスの導入根拠が既に論理破綻している事実を示した上で、改めて導入根拠の説明を求めた。

これに対して岸田文雄総理はまともな導入根拠を一言も説明できないどころか、インボイスの基本的理解すら怪しいことを露呈する結果となった。

*約3分の質疑映像は上記YouTubeで視聴可能。外部サイト等で動画を再生 できない場合、筆者のYouTubeチャンネル「犬飼淳 / Jun Inukai」で視聴可能。動画タイトルは「岸田総理大臣 記者会見 2022年10月28日」

そして、これが筆者の総理大臣会見における(現時点で)最初で最後の指名となった。この質問から今日までの約1年間、筆者が抽選に当選して参加を許された会見は5回あり、その全ての回で真っ先に挙手し続けたが1度も指名されなかった。

先ほど最も指名が少ない常勤幹事社として紹介した東京新聞(2年間で指名4回)でさえ年換算で2回は指名され、さらに自らが幹事社の回は会見冒頭に代表質問の機会も得ている。この定量的事実を踏まえれば、筆者は同会見において実質的な“指名NG”状態にあると言える。

総理大臣会見の「指名NGメソッド」

冒頭の松野官房長官発言の通り、総理大臣会見の指名NGリストは確かに(物理的には)存在しないのかもしれない。それはNGリストをあえて作成する必要がないほど、不都合な質問をする記者の指名を回避する仕組みをすでに確立させているからだろう。

その方法は驚くほど簡単だ。参加する記者全員分の座席表を事前に作成し、その席次通りに着席させるだけ。自らの体験を基に、その仕組みを説明しよう。

同会見の会見室には開始30分前から参加記者は入室可能で、入口付近には官邸報道室の職員1名が待ち構えている。筆者のように内閣記者会以外の記者(フリー・外国プレス等)が会見室に入室すると、職員は手元の座席表(個人単位で席次を記載)を見ながら、「今日の犬飼さんの座席は3列目の一番右です」などとご丁寧に席まで案内してくれる。

例えば2022年10月28日の首相会見で、筆者が部分的に再現した座席レイアウトは以下のようなイメージだ。

*1~2列目は常勤幹事社19社、3列目以降がそれ以外というレイアウトは毎回固定

ちなみに1~2列目の常勤幹事社19社の座席には各社の社名(NHK、産経新聞等)が大きく記載されたA4版の紙が置かれ、記者が着席すると官邸報道室職員がその紙を順次回収する流れになっている。この日、筆者は常勤幹事社の記者がまだ誰も入室していない間に全ての紙を確認しており、上記のように1〜2列目の社名までは再現できた。

官邸報道室職員が持つ座席表はこれよりさらに詳しく、全ての記者席の所属・氏名が明記されていることを筆者は案内を受けた際にこの目で確認している。

ちなみに記者席数の上限は、コロナ禍が始まった2020年にそれまでの100名弱から一気に29席に縮小され、この状況は2023年4月まで約3年間も続いた。29席の内訳は以下のとおりだ。


19席:内閣記者会 常勤幹事社19社から各社1名ずつ
10席:常勤幹事者以外の地方メディア、外国プレス、フリーランス等で抽選の当選者

先ほど紹介した通り、常勤幹事社19社の記者は各席に置かれた社名の紙を通して自らの座席を容易に見つけられるため、官邸報道室職員が席を案内する必要は無い。つまり、官邸報道室の職員は会見開始までに抽選当選組の10名のみを席に案内すればいい。

そして、会見が始まると司会者(四方敬之 内閣広報官)は手元の紙(十中八九、座席表)と会見室の挙手状況を見比べながら順次指名していくので、“実質指名NG記者”の指名は容易に回避できる。

しかも、一般的な記者会見で見られるように「前方の右から3番目の青いシャツの男性」のように座席位置と特徴で指名するのではなく、「日経新聞の秋山さん」といった具合に所属と氏名で指名するため、総理に不都合な質問をする一部のフリーランス・外国プレス等の記者を誤って指名する恐れはない。

そもそも1~2列目は常勤幹事社19社で固めてあるので、次の指名相手を迷うような不測の事態が万が一起きたとしても1~2列目を指名するだけで当たり障りのない質問を受け続けることができる。まさに万全の体制と言える。

5類引き下げ後も頑なに人数制限を続けた真の狙い

この仕組みを可能にするために必要なポイントはたった1点。それは参加する記者の人数を一定数に抑えることだ。実は、今年5月の新型コロナウイルスの5類引き下げに伴って首相会見の参加記者の上限は約3年ぶりに引き上げられた。

しかし、それでも最大48人に抑えられてしまい、コロナ禍前(100人弱)と比べれば今も大きな隔たりがある。

出典:筆者が開示請求で入手した、官邸報道室による5類移行後の首相会見態様に関する通知(2023年6月9日付)。ちなみにジャニーズ会見で大手メディアが批判した「1人1問ルール」も明記されている

ちなみに5類移行後の48席の内訳は以下だ。

19席:内閣記者会 常勤幹事社19社から各社1名ずつ *従来通り
19席:内閣記者会の抽選当選者 *増加分に相当
10席:外国プレス、フリーランス等の抽選当選者 *常勤幹事社以外の内閣記者会(ラジオ・地方メディア)が増加分に移ったことを除いて従来通り

この変更に伴って座席レイアウトは4列目が新設されたが、席への案内を要する記者が僅か10名であることは変わらないため、職員の負担に大きな変化はない。

政府は5類引き下げによって「コロナは終わった」という空気を醸し出しておきながら、感染症対策を理由に始めた総理大臣会見の人数制限は都合よく継続していることになる。なぜここまで露骨な矛盾を放置するのかが理解できず、筆者はこれまで官邸報道室と内閣記者会による調整の経緯について開示請求もしてきた。

しかし、官邸報道室は開示文書の交付時に異動から僅か6日しか経過していない職員1名にあえて対応させるなどの小細工を用いてまで詳細な説明を拒んだため、原因の特定には至らなかった。
*開示請求結果の詳細は筆者のtheLetter「【独自】感染症対策を悪用した首相会見の人数制限(3)」(2023年9月13日)参照

しかし、今回のジャニーズ事務所の指名NGリストをヒントに首相会見における一連の出来事を整理した結果、ようやく腑に落ちた。座席表に基づく指名コントロールを続けるためには、参加人数を可能な限り少なく抑えることは必要不可欠な絶対条件だったのだ。

仮に首相会見の参加記者がコロナ禍前のように100名弱まで膨れ上がった場合、個人単位の座席表を事前作成して席次通りに着席させるのは現場オペレーションや職員の負担の面から見て現実的ではなくなってしまうからだ。

現に約300人が参加した問題のジャニーズ事務所の10月2日会見では、事前申し込みは必要だったものの着席位置は自由。そのため指名NGの記者がどの席に着席したかはスタッフが目視確認して、特徴(服装、髪型等)と共に情報共有したと見られる。

だが、参加者が300人ともなればこうした人海戦術には限界が出てくる。結果、司会者(元NHKアナ 松本和也氏)は会見途中に「だんだん顔を覚えられなくなってきました」という意味深な発言をし、本来は指名NGの記者まで指名してしまった。

一方、指名NGリストを作成せずとも不都合な質問をする記者の指名を回避する仕組みを確立させた総理大臣会見は、問題のジャニーズ事務所会見の悪い意味での進化形といえるのではないか。

また、大手メディア各社は、ジャニーズ事務所の会見での「指名NGリスト」を鬼の首を取ったかのごとく批判的に報じているが、自らが内閣記者会常勤幹事社として(形式的とは言え)主催する総理大臣会見で不都合な質問をする記者たちの実質的な指名NGを長年にわたって黙認していることは壮大な矛盾でもある。

文/犬飼淳

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