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【漫画あり】「男女における『わかりやすいすれ違い』は、もう描かなくていい」漫画家・よしながふみが”16年寝かせた”最新作で変えたもの

集英社オンライン / 2023年10月23日 11時1分

『大奥』『きのう何食べた?』など、数多くのメガヒット作を生み出してきた漫画家・よしながふみ。漫画誌「ココハナ」で連載されていた最新作『環と周』が、10月23日にコミックスとして発売された。本作は16年前に連載予定だったものの、”諸事情”で見送りになっていたという。令和という時代を迎えての連載開始にあたり、「何をやめ、何をプラスし、何を残した」のだろうか? 本人に直接聞いてみた。(サムネイル・トップ画:©︎よしながふみ/集英社)

「性別はどっちでもいいじゃない」

10月23日発売のコミックス『環と周』(©︎よしながふみ/集英社)

——『環と周』の第1話は、母親が「娘が女の子とキスをしているところを目撃する」シーンから始まります。これはどういう意図があったのですか? 同性愛が主軸にくるのかなと思ったのですが、そうではありませんでした。



『環と周』は、ひとことで言うと、環と周が輪廻転生しては、いろいろな関係で出会い、さまざまな「好き」で繋がっていくオムニバスです。なので、同性愛がメインテーマではありません。さまざまな「好きのかたち」のひとつ……といいましょうか。

冒頭のシーンは、「親目線で言うと、子どもがキスしている姿を見るのは驚くよね」という“あるある”です。

——たしかに、第1話が現代の夫婦、第2話は明治時代の女学生同士、第3話はアパートのご近所さん……それぞれが多様な「好き」で繋がっていますね。どういうきっかけで連載が決まったんですか?

実は『環と周』は、16年前に連載をしようという話になっていて、すでに骨子はできている状態でした。

——なぜそのときに連載が始まらなかったのでしょう?

『大奥』が軌道に乗り始めて、「転生モノをやってみたい」と思ったタイミングで『きのう何食べた?』が決まったんです。自分の中で「同時連載は最大2本まで」と思っているので、集英社さんに待っていただいていました。

『きのう何食べた?』は4〜5巻で終わると思っていたのですが、まったく終わりが見えない(笑)。逆に『大奥』が先に完結し、結果として16年間お待ちいただく形になってしまいました。

——16年も寝かせると、時代にマッチしなくなるリスクがありそうです。当初考えていた設定や描写で変更した点はありますか?

いくつかあります。たとえば、16年前は「男はこっちで、女はこの名前」という想定をうっすらしていたのですが、連載を始めるときにやめました。

——それはなぜですか?

やはり時代の流れです。「性別はどっちでもいいじゃない」となりました。「環」と「周」はそれぞれ「転生する」という暗示でもあるのですが、とにかくユニセックスな名前にしたかった。

あと、『環と周』全5話の中には異性愛モノが2話あるのですが、異性愛も友情や親心みたいな感情と並列にしたいと思っていたんですね。なので、異性愛モノの2話は「環くん、周さん」「環さん、周くん」のように男女シャッフルすることで、少しでもニュートラルな物語になったらいいなと思いました。

『環と周』1話より(©︎よしながふみ/集英社)

男女間のわかりやすい「すれ違い」は、もう描きたくない

——第1話の現代を生きる環と周夫婦は、共働きの設定で家事分担もしっかりできていて、現代風な印象を受けました。よしながさんは、これまでも『愛すべき娘たち』や『子供の体温』などで親子モノを描かれてきましたが、今作は関係がマイルドになったというか、「対話」をしている印象を受けました。

はい。ここ5年ほどで社会は激変したと思っているので、それに合わせて調整しました。16年前は、昔ながらの夫婦のすれ違いを描いていたんですよ。

——「夫がこういうことしてくれない、妻のこういうところが考えられない」のような?

そうそう。なので、男女における「わかりやすいすれ違い」は、もう描かなくていいかなと。逆に「きちんと対話している夫婦であっても、うまくいかないことがある」というほうが、現代ではリアルなような気がします。

『環と周』第1話より(©︎よしながふみ/集英社)

——どんなに努力していても、妻と夫が考えていることは違うし、娘の思考もわからない、と。

意見のすれ違いを目の当たりにして「どうしてこの人と結婚したんだろう?」と思うこともあるけれど、最終的には相手の姿勢に「こういうところが好きだったんだ」と納得する。夫婦関係って、この連続なんじゃないかなと思います。

『環と周』第1話より(©︎よしながふみ/集英社)

40歳を過ぎて芽生えた「ある感情」

——第3話の「アパートの近所に住む独身女性・環と少年・周」の話は、昭和のホームドラマのようでした。

この話は、30代半ばで独身かつ不治の病にかかった主人公・環が、近所に住む少年・周と出会って、彼のお世話をすることで充実した時間を過ごす物語です。70年代末ぐらいの設定で、向田邦子さんや山田太一さんのような世界観にしようと思っていました。

このエピソードも、想定よりもだいぶ話の方向性を変えました。

『環と周』第3話より(©︎よしながふみ/集英社)

——どのように変えたのですか?

担当編集さんをはじめ、自分の周りの人たちが50歳に近くなったぐらいで「若い世代の力になりたいと思うようになった」と話されることが多くなったので、それを反映させたくなりました。

環は、周のお母さんから「どうして私たちに優しくしてくださるの?」と聞かれますが、それは環の中にある「若い世代の人たちを助けることができたらとてもうれしい」という気持ちゆえなんです。

年齢を重ねると、人には親心みたいなものが生まれると思うんです。子どもの有無に関係なく、男性にも、独身の人にも芽生える感情。漠然とこういう気持ちを持っている人は多いように思います。

若い人に「何か伝えたい」という気持ちが空回りすると、説教になってしまうのかもしれないですが……。

人生は何度でもリトライできる

——時系列だと最初にあたる江戸時代のエピソード(第5話)では、環と周の関係は男女の悲恋のように見えました。よしながさんは、かつて「恋愛部分をフォーカスして描くことに食指があまり動かなかった」と話されていましたが、心境の変化があったのですか?

いえ、実はあんまり変わっていないんですよ(笑)。今も男女の恋愛以外の形で人の絆を描きたいという気持ちが強いです。このエピソードは、環が「周のことをすごく愛しているものの、周と結ばれることを最終目的としていない」というのがポイントでして。恋というか……愛?

私は「愛とは、たとえ自分と離れた場所にいても相手の幸せを祈る」ことなのではないかと思っています。恋とは少し違う。だから、環は自分以外の誰かと結ばれたほうが「周が幸せになる」と思えば、周に対する恋が破れても、そこまで悲しくない。

話を戻すと、この物語は、環がその最終目標に向かって人生をリトライし続ける話とも言えます。

『環と周』第5話より(©︎よしながふみ/集英社)

——「結婚=ハッピーエンド」ではなくて、その先に別れがあるかもしれないし、さらにその先で恋愛してもいいという可能性を感じます。

私自身、結婚制度に懐疑的なわけではないですが、結婚がベストだとも思っていません。一応、時系列で最後となる現代のエピソード(第1話)は夫婦という形を取っていますが、あの2人は決してドラマチックな関係ではないんですよね。

——結婚したり、親友だったり、ベストな関係はさまざま。以前よしながさんは「結婚してうまくいかなかったと思ったときに、そこから逃げ出せるぐらいに誰もが経済力をつけられる世の中になるといい」と話されていたのを思い出しました。

ですね。私が子どものときは、まだ今ほど一生働き続ける女性が少なかったので、幼少期の自分は将来を悲観していた部分がありました。人生で再挑戦のチャンスがなくなるとつらいので……。でも、今はそうではなくなりつつあるように感じます。

結婚に限らず、人生は何度でもリトライできる。常にそういう状態でいられるようにしておきたいんです。その気持ちが漫画に出ているのかもしれません。

『環と周』を試し読み

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(©︎よしながふみ/集英社)

文・インタビュー/嘉島唯

環と周(集英社)

よしながふみ

2023年10月23日発売

748円(税込)

B6判/224ページ

ISBN:

978-4-08-844839-8

環は仕事の帰り道、空き地で娘の朱里が同学年の女の子・則本さんとキスをしているところを目撃してしまう。帰宅して夫に相談するが、夫は思うところがあるようで…。実は、夫も朱里と同じ中学3年生の時に同級生の男の子を好きになった事があった――。
わたしたちの間に存在する、様々な“好きのかたち”を描く珠玉のオムニバス連載。

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