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かつてはバイク、今、電動キックボード。保守派が嫌い、リベラル派が好む“街の乗り物”

集英社オンライン / 2023年10月13日 18時1分

電動キックボードの公道での走行が認可されてからというもの、批判、論争、アクシデントが絶えない。だが、この状況ってかつての若者の象徴だったあの乗り物のときと似てはいまいか?

かつては反権威的な思想を持つ若者の象徴であったバイクだが……

出典が怪しく、実はそんなことは言っていないという説も濃厚だが、かのウィンストン・チャーチルが残したとされる“名言”に、「20歳のときリベラルでないのなら情熱が足りない。40歳のとき保守主義でないのなら、思慮が足りない」というものがある。
チャーチルの時代の40歳とは、現代の50〜60代くらいの感覚だろうか。

確かに、人の価値観や生き様、さらには趣味・嗜好・選択が、年齢とともに変わるのは自然な流れだ。


いささかステレオタイプ的な物言いになるが、若さは冒険を求め、自由を探究し、新奇性と反・既成を好む。
だが人は時間が経つにつれて安定を求め、伝統や秩序を尊重するようになる。
つまり多くの人々にとって“リベラル=自由主義”はライフステージ上の通過点であり、“コンサバ=保守主義”こそが到達点であると言ってもいいだろう。

かつて若者たちは自由と冒険を追い求め、バイクに魅了された。
体に爽快な風を受けながら、身軽に道を駆けめぐることのできる、まさに“自由”の象徴がバイクだった。
バイクは若者特有の反権威的な思想とも結びつき、1950〜1960年代のアメリカのバイカーズやイギリスのロッカーズといったユースカルチャーを生み出した。
日本でも1960年代のカミナリ族や街道レーサー、そして1970〜1980年代に全盛期を迎える暴走族まで、自由と反逆を標榜するアイデンティティの一部となっていた。

photo AC

しかしご存じのように、今やバイクは若者のための乗り物ではない。
一般社団法人日本自動車工業会の調査によると、2021年度時点で新規バイク購入者の平均年齢は54.2歳。最大のボリュームゾーンは50代の31%で、60代がそれに次ぐ25%。
若者はというと、10代は2%、20代4%、30代は7%しかいない。

バイクの国内販売台数自体が2022年度で40万8千台と、328万台 を記録していた1982年と比べ激減しているのだが、それでも乗っているのは“あの頃”を忘れられない親父ばかりなり、という状況になっているのだ。

つまりバイクはもはやリベラルな若者の心を捉えてはおらず、ユーザーの加齢とともにそっくりそのまま、コンサバ=保守主義の象徴となっているという見方もできるだろう。

では今の若者は……と翻って考えてみると、新しい風が吹いていることに思い当たる。
当世にも、若さを象徴する乗り物があるではないか。
そう、電動キックボードである。

シェアリング電動キックボードのステーション

電動キックボードはなぜ、既存の公道に割り込むことが許可されたのか

最高時速20kmに規制されている電動キックボードは、バイクのようなスリルはないものの、環境に優しく、身近で手軽な移動手段として、都市部の若者たちに広く受け入れられている。
シェアリングサービスとしての展開も進んでおり、所有することなくアクセスできる手軽さが魅力だ。

全国でレンタル電動キックボードを展開しているLUUP社が、2020年4月〜2022年3月に調査したところによると、ユーザーの年齢層でもっともボリュームがあるのは30代の約30%。次いで20代の約25%となっている。
30代をピークに、年齢が高くなるほどユーザーは減り、50代は約15%、60代になるとわずか5%にとどまる。バイクとは正反対のユーザー構成となっていることがわかるだろう。

ゆえに、若者たちの間で人気がある電動キックボードは、「新時代の自由」を象徴する乗り物と言える。

自転車に近いルールが適用される電動キックボード

だが、一般に高年齢層が多い保守派の立ち位置から見ると、電動キックボードは伝統的な乗り物とはかけ離れた存在であるため、理解し受け入れることはなかなかできないようだ。
既存の公道に、スペース的にもルール的にも割り込むような形で入ってきた後発の電動キックボードに対しては、リベラルvs保守で意見がくっきり二分されていると見てもいいかもしれない。

ジャーナリストの辛坊治郎は近刊「日本を覆う8割の絶望と2割の希望」(PHP研究所)で電動キックボードについて触れ、新種の乗り物に対してかなり否定的な日本の世論を覆し、電動キックボードに公道走行が許可された経緯について叙述している。

公道走行実現を目指した人たちは、あらゆる方面で規制が厳しい日本社会の状況を逆手に取り、「電動キックボードのために新たな法規制を作ってください」というロビイ活動をおこなったのだとか。

日本の各都市ではすでにお馴染みの存在になっている

この主張により、交通関係の規制で飯を食っている既得権益層が張り切って、新たな飯の種のためのルールづくりを積極的におこなった結果、比較的早期に公道走行が可能になったのだという。

パーソナルモビリティ普及の必要性と保守派層の反発

脱炭素についての意識が高まり、また社会の超高齢化が進行する日本を含む先進諸国において、1〜2人乗りのコンパクトな移動ツールである“パーソナルモビリティ”の開発と普及は、今世紀に入って以降の急務案件だった。
町中などでの近距離移動を考えた場合、一人で車に乗って移動するというのは環境負荷が高すぎ、また高齢者の自動車運転には大きな危険が伴うからだ。

欧米では2000年代半ば、セグウェイに代表される電動立ち乗り二輪車が公道走行可能になったが、道路交通に関して一際厳しい規制のある日本では普及しなかった。
ブレーキもアクセルもなく、乗り手の体重移動のみで加減速および制動する自立式平行二輪車は結局、転倒や誤作動の危険性が高く、欧米でも尻つぼみになっていったが、それにとって代わるように、ここ数年間で急速普及したのが電動キックボードだったのだ。

だが、我が日本において現状では、電動キックボードが保守層を中心につくられた世論から、かなり厳しく批判されているのも事実だ。
すでに公道走行OKとなっているのにもかかわらず、まるで邪悪な乗り物を見るような目を向けられたり、SNSやニュースコメント欄で糾弾されたりしがち。

それはまるで、大人たちから白眼視されていたかつてのバイクの有り様に似ていたりもする。
そのバイク乗りからも、公道上で走行するゾーンがかぶることもあって、忌み嫌われているのが、現在の電動キックボードの実情なのである。

車道の左寄りが電動キックボードの走行ゾーン

辛坊治郎氏は電動キックボードを巡る状況について述べた同書の中で、もしも今、新種の乗り物として「自転車」が発明されたら、おそらく世間から危険だ邪魔だと猛反発を受け、マスコミも事故多発と大騒ぎをした挙句、締め出されるのではないかとも語っている。
電動キックボードも、実際の安全性能や事故率などについての検証はさて置き、既成社会に加わってきた新参者という理由だけで糾弾の対象になっているようにも見受けられる。

世間の人々の価値観は、時代の変化や個人の成熟とともに変わっていくものである。
個々人の生き様や考え方、そして時代の趨勢を反映して複雑に流動しているものでもあり、単純に「アレはOKだけど、こっちは悪」などと断定できるものではない。
バイクも電動キックボードも、それぞれの時代あるいは世代を象徴する乗り物として、私たちの生活に彩りを添えてくれているのは確かだと思うのだが。



※電動キックボードに必須の装備品は、2023年7月の道路交通法改正により変わりました。本稿の写真のうち、バックミラーがついているものは改正以前、ついていないものは改正以降に撮影されたものです。


写真・文/佐藤誠二朗

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