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日大成績改ざん、ジャニーズ問題…諸問題を「なあなあ」で処理してきた日本型社会に変革が迫られているという事実

集英社オンライン / 2023年10月14日 9時1分

日大の成績改ざん問題、ジャニーズ事務所における性加害…過去の問題が時を経て明るみになり、取り沙汰されている。日本独特の「なあなあ」「うやむや」「馴れ合い」といったものが育んでしまった曖昧さが、加速する情報化社会において是正されようとしているのか。

前理事長が残した負の遺産を完全清算しようとする日本大学

日本大学の教員が、学生の成績を改ざんしていたらしいという事案が報じられた。

今年9月におこなわれた学内会議で教員が、「数年前、当時の理事長に呼び出され、相撲部の学生に赤点をつけたことを叱責され、成績を書き換えて単位を出した」と証言。
大学側は特別調査委員会を立ち上げ、不正事案について検証中なのだとか。

photo AC


このニュースに対し、「なんて不公平な。ひどい話だ……」と思った人は多いだろうが、逆に「こんなことが問題になるの?」と思ってしまった人もいるはず。
特に私立大学ではかつて、学校のPRにつながるような活躍を期待できる運動部学生に対し、学校側が成績評定を甘くすることなど、なかば公然とおこなわれていたからだ。

大昔の話だが、のちに“ミスタープロ野球”と呼ばれたスター選手が大学に在学していたころ、学内の試験は名前を書くだけですべてパスできたというエピソードがまことしやかに語られた。
嘘かまことかはわからないが、少なくとも多くの人々はこれを単なる笑い話として受け止め、目くじらを立てるような空気はなかった。
高校時代から頭角を表してスポーツ推薦で入学してくる体育会系学生などは、多かれ少なかれそういうもんだと思われていたのだ。

実際には現在の大学では、そうした不公平はほとんどないのかもしれないが、日本人の心にいまだ根づいている「まあまあ、そんな厳密にしなくてもいいんじゃない」といった“なあなあ意識”は、これから先、本格的に通用しなくなるのかもしれない。

日大の件は、「当時の理事長」および「相撲部学生」というパワーワードによってニュースバリューが増し、報道に至った。

まだ記憶に新しいところだが、“当時の理事長”こと日大の田中英壽前理事長の行状がメディアで盛んに報じられたのは一昨年のことだった。

学生・生徒数9万5000人を超える国内最大規模の学校法人・日本大学のトップに13年間君臨した田中前理事長は、強豪・日大相撲部の監督を長らく務め、OBから大相撲力士を数多く輩出したことによって、角界にまで隠然たる影響力を持つ実力者だった。

だが、多額の不透明な金銭の流出や反社会的勢力との交際が報じられると風向きが変わり、学内で彼に意見した人が左遷やパワハラによる退職を余儀なくされてきたことなど、多岐にわたる問題が次々と暴露された。
そして2021年11月、約5200万円を脱税した容疑で逮捕、起訴され、その後、有罪判決が確定した。

photo AC

この一連の件により、絶対的な権力を振りかざす人物による専制という実態が白日のもとに晒された日大は、その後、作家の林真理子氏を新理事長に迎え、抜本的な組織改革に取り組んできた。
それから2年弱の月日が流れ、今回の成績改ざんの件が公表されたのは、過去の膿は徹底的に出しきって完全にクリーンになろうという意思によるものだろう。

スター的な扱いを受ける学生が、一般学生とは違う厚遇を受けることが、果たして許されるのか否かは、まだ議論が深まっていない。
だが長年の間、“まあ、そういうこともあるんだろうね”と多くの人が認知しつつウヤムヤにされてきたことも、今後の日本の社会では白黒つけなければならなくなるのではないかと指摘されている。

日本の社会では長い間、伝統的な組織文化や業界特有の慣習が大きな力として働いてきた。
しかし近年、めざましい勢いで情報化やグローバル化が進んだ結果、そうした伝統のもとで長い間ウヤムヤあるいはタブー視されてきた事案や問題に、少しずつメスが入れられているのだ。

国際標準の人権意識を持たなければ、これからの社会人はやっていけない

これまで長年にわたって維持されてきた日本式の伝統的なメンバーシップ型組織は、安定と継続を重視するあまり、新たな風を取り入れ難かった。
しかし、コンプライアンスとポリティカルコレクトネスとSDGsの嵐が吹き荒れ、世の中全体がフェアでクリーンな社会実現を志向するようになり、組織内部で留保・温存されてきた諸問題が次々と浮き彫りにされている。

グローバルな視野が求められる現代においては、国際標準の価値観が日本の組織や企業にも求められ、ガバナンスや社会的責任、人権問題などを再考せざるを得ない状況になりつつあるのだ。

そうした基準から逸脱する組織が抱える問題が明るみに出るきっかけは、主に内部告発と外圧である。
日大理事会の問題は、メディアによる第一報以降、内部から告発者が次々と現れ、大きな注目を浴びることとなった。
ジャニーズ問題は内部告発に加え、BBCによる報道という外圧が波紋を広げる原動力となった。

illust AC

また、デジタル技術の発展により生まれたSNSが、情報の取得・共有手段として劇的に進化すると、個人が直接情報を発信、大衆と共有するツールとして機能するようになった。
その結果、マスメディアを通じて得られた従来の情報だけではなく、組織内部からの生の声や真実がリアルタイムで共有されるようになっている。

日本の伝統的なウヤムヤ文化や隠蔽体質が、国際的なスタンダードと大きく隔たっていることは、すでに国際社会で広く知られ、非難されるケースも増加中だ。

今年9月におこなわれたトロント国際映画祭では、イギリス製作のドキュメンタリー映画『The Contestant』が上映された。
バラエティ番組「進ぬ! 電波少年」で1998年から1999年にかけて放送された企画、「電波少年的懸賞生活」で人気を博した、なすびを題材とする映画である。
日本人からすると、「何もそんな昔の話を……」と思うかもしれないが、裸で15か月の“監禁”懸賞生活を強いられ、本人が知らぬ間にその姿を放送されていたという実話が、深刻な人権問題として驚きとともに取り沙汰されたのだ。
日本に世界の厳しい目が向けられているという、ひとつの証ではないだろうか。

私たちが今まさに体感している“告発時代”を経ずして、長い間続いた日本の「ウヤムヤ文化」は終わらないのかもしれない。
社会全体が透明性を求める時代へと移行していること認め、これまでの価値観や組織文化を再評価し、新しい時代に合った形での組織運営や文化形成が求められるということだろう。

この痛みを伴う日本の社会変革が、我々国民一人ひとりの価値観や行動にも影響を及ぼすのは間違いない。
新しい時代の流れに早く気づいて受け入れ、適応するための知識やスキルを磨いていくことこそが、今の我々には求められている。

文/佐藤誠二朗

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