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「最期」をどこで迎えたいか…「自宅・病院・施設」それぞれのメリットとは。がん末期の施設選びには「医療系麻薬が夜間も使えるか」確認が重要に

集英社オンライン / 2023年10月26日 12時1分

自分にとって幸せな最期を迎えたいと思ったら「自宅・病院・私設」のどこで過ごしたいのかを元気なうちに考えておくとよい。それぞれの特徴やメリットを医師の中村明澄さんが解説する。『「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』(講談社+α新書)からお届けする。

#1

過ごしたい場所は、状況によって変わる

幸せな人生の最終段階を迎えるには、望んだ場所で過ごすことがとても大切です。大事なのは、自分で選択すること。それが納得できる最期につながります。

コロナ禍に最期を迎えた、末期がん患者の山本忠男さん(仮名・53歳)も、自らの選択によって、納得のいく最期を迎えられた一人です。新型コロナウイルスの影響で、病院に入院すると、家族と面会できないままに最期を迎えてしまう人が続出しました。



入院していた忠男さんと家族も、コロナの面会制限によって会えない期間が続いており、家族は忠男さんがどんな状態なのかもわからないため、もどかしい思いで過ごしていました。忠男さんに残された時間は、刻一刻と減っていきます。

そんな中、忠男さんから「最期は家族と一緒に過ごしたい」と退院の希望が伝えられました。家族も同じ気持ちでしたから、忠男さんの状態が全くわからない中での決断に不安はありつつも、すぐに自宅への退院を決めました。

ところが、退院が決まって自宅に帰る段取りを組んでいたわずか1日の間に、忠男さんの容態が急変。もういつ息を引き取ってもおかしくないというぎりぎりの状態になってしまったのです。

あまりの急変ぶりに、一時は家族も現実を受け止め切れない状態になりかけていましたが、みんなの「最期は家族一緒に過ごしたい」という思いに立ち返り、残された時間がごくわずかであることを覚悟した上で、予定通り家に帰る選択をしました。

忠男さんの状態を考えると、自宅到着時に医療者がいることが望ましい状態でした。そこで、私は在宅医として、家族とともに忠男さんを家で迎えました。忠男さんが息を引き取ったのは、帰宅してからわずか1時間後のことでした。それでも「たった一時間でも、一緒に過ごせて良かった」「あのタイミングで家に帰れて、本当に良かった」としみじみ話す家族の姿がありました。

そこには、「今すぐに判断しなければならない」という究極の状態のなかにあっても、最後は本人の希望と自分たちの思いを貫くことができたことへの大きな満足感があったように思います。家族の「本当に良かった」という言葉には、「自分たちで選択したことに後悔はない」という実感が込められていたように感じました。

どこで最期を迎えたいのか?

約8割の人が病院で亡くなる時代ですが、「住み慣れた場所で最期を迎えたい」と願う 人も多い現在です。厚生労働省の「平成29年度 人生の最終段階における医療に関する 意識調査」によれば、「治る見込みがない病気になった場合、どこで最期を迎えたいか」 との問いに対して、「自宅」との回答が54.6%で最も多く、「病院などの医療施設」は27.7%でした。

一方、末期がん、重度の心臓病、認知症のそれぞれの病気の場合に「医療・療養を受け たい場所」を聞いた問いでは、図1のように病気によってそれぞれ選択する場所の割合が異なります。

また、それぞれの病気で「医療・療養を受けたい場所」として自 宅を選択した人のうち、「最期を迎えたい場所」に自宅を選択した人は、いずれも6〜7割にとどまる結果でした(図2)。

図1(上):医療・療養を受けたい場所、図2(下):最期を迎えたい場所。『在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』より

このように、過ごしたい場所や最期を迎えたい場所は、その時々に直面している状況に応じて変わって当然で、その都度変えて良いのです。

例えば、「今は自宅で過ごしたいけど、最期は病院がいい」でも良ければ、その逆も然り。一度決めたら、ずっとその場所にいなければならないのではなく、あくまでその時々に望んだ場所で過ごせるかどうかが大事なのです。

メリットはそれぞれ違う

自分が過ごしたいように過ごすことができる——。在宅療養の大きなメリットが、この自由に過ごせることにあると思います。

病院は治療が主体となる場所であるがゆえに、入院生活には何かと制約がつきものです。ですから「病気と付き合っていく」という場合や、「治療によって治る見込みがない」という終末期になった場合には、たとえ一人暮らしであっても、在宅療養を選択肢に入れても良いと感じます。

『在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』より

上の表は、日本人にとって望ましい死とは何かを明らかにする研究結果で、望ましい死を考えた時に80%以上の人が重要であると答えたものです。「望んだ場所で過ごすこと」「落ち着いた環境で過ごすこと」の項目から、望ましい死には過ごす場所や環境が大切であることがわかります。

どんな場所や環境を望むかは、その人の考えや価値観によっても変わってきます。大切なのは、自分が希望する場所で、希望する過ごし方ができるかどうかです。療養生活を送り、最期を過ごす場所は、自宅、病院、施設のいずれかになります。

希望する場所を考える上で参考になるのが、それぞれの「過ごす場所としてのメリット」。ここでは、それぞれの良さを比較しながらお話ししたいと思います。

精神的に安定するのが自宅の良さ

まずは、自宅。自宅の最大のメリットは、何と言っても自由に過ごせることにあります。

住み慣れた環境で、自分らしい生活を送ることができるという点では、病院や施設にない、家ならではの居心地の良さを感じられます。面会時間も決まっていないため、会いたい人にはいつでも会えるし、起床時間や就寝時間など決められたスケジュールもありません。

朝寝坊しても、夜更かししてドラマを見続けても、自宅なら何の問題もなし。食べたいものを自由に食べられるのも大きなメリットです。入院生活では難しいお酒やタバコ、刺身などのナマモノも、本人が望むなら自由に楽しめます。今日はパンが食べたいと思ったらパンを食べたらいいし、好きなタイミングでコーヒーも飲める。自分の過ごしたいように過ごすことができます。

また、慣れ親しんだ自分の空間では、入院している時より気持ちが元気になって、精神的にも安定する人が多いようです。これは科学的根拠のないことですが、経験上、自宅という心からくつろげる空間に身を置くことで、当初予想された寿命よりも結果的に長生きする傾向があるように感じます。

自宅で過ごす安心感やリラックス感がもたらす精神的な影響だと思いますが、病院にいる時より目に見えて元気になられる患者さんの姿を、これまで何人も目にしてきました。

病院ならではの安心感

次に、病院。自宅より病院を選ばれる方のお話を聞くと、「常に医療者がそばにいる状態に安心できるから」という声が多く聞かれます。

病院では、ナースコールのボタンを押すだけで、24時間いつでも看護師が様子を見に来てくれる環境と、診療時間外にも入院患者の急変に対応する当直医師がいる環境があります。

訪問診療や訪問看護では、24時間体制であっても、実際に家を訪問するまでには30分〜1時間程度の時間を要するため、「何かあったらすぐに診てほしい」という人や「医師や看護師に常にそばにいてほしい」という方は、自宅より病院のほうが安心して過ごせると思います。

また、「病院にいたほうが治るんじゃないか」という期待や不安が残っている方も、その気持ちが解消されないようなら、無理して家に帰ることを選択しなくていいと思います。なぜなら不安感を持ったまま家に帰っても、モヤモヤしたままでは安心して穏やかに過ごせる自宅の良さがなくなってしまいます。

もしモヤモヤしたものが残っていたら、ぜひ医療者に相談して、不安を解消した後に、どこで過ごすかという選択を考えると良いでしょう。

同世代との新たな交流も施設のメリット

最後に、施設。施設のメリットには、24時間誰かがいるという安心感、そして他の入居者と交流できることがあります。自宅での療養生活を続けている場合、家族以外とのコミュニケーションがどうしても希薄になってくることがあります。

年を重ねるごとに、外出したり人に会うことが億劫になってくることがありますが、家族だけの生活が続くと、時には行き詰まってくる場面もあります。無理に自宅での生活を続けるより、施設での生活のほうが介護する側・される側にとって良い場合も十分にあるのです。

施設という環境で、似たような世代が集うことで、家族以外とのコミュニケーションが生まれやすい側面もあります。そうしていろいろな人と接することが、心身ともに良い作用をもたらすこともあります。時折、「施設に入れるのを悪いこと」だと思っている家族にお会いすることがありますが、施設ならではの良さもたくさんあります。

実は私自身も、故郷の沖縄で暮らしていた母を近くに呼び寄せ、施設で看取りました。 在宅医として24時間365日体制で働く私は、母の様子を見に頻繁に沖縄に帰ることがどうしても難しく、母の状況を考えると近くの施設に入ってもらうのがお互いにとって良い、という話になったのです。

日本では、親を施設に入れることに対して、どこかマイナスなイメージがあるように思いますが、実際に経験してみると、施設ならではの良さもたくさん感じました。

施設で母の日に100本のバラを持たせてもらって写真撮影した時の、母の嬉しそうな顔を思い出します。施設ではこうした季節行事や各種レクリエーションが充実しているぶん、自宅の環境にはない賑やかさがあり、母も楽しそうに過ごしていました。

一口に施設といっても、さまざまな種類や特徴があります。まずはどんな施設があるのか、その選択肢を知り、どのような施設で過ごしたいか考えておきましょう。

どんな施設があるのかを知るために、一度見学に行ってみるのも良いと思います。いろいろな施設を見比べるうちに、自分に合った施設がどのようなものか、イメージが明確になってくるでしょう。

がん終末期は、緩和ケアに対応した施設選びが必須

痛みやつらさを和らげる緩和ケアを、病院とほぼ同じように最期まで行うことができる施設は限られている現状があります。

緩和ケアでは、痛みやつらさを緩和するために医療系麻薬を使用することがあります
が、この医療系麻薬の使用が施設によって問題になることがあります。

医療系麻薬を使うときには、基本的には決まった時間に定期的に使いつつ、急な痛みやつらさに対しては追加で使う使い方が一般的です。急な症状は、いつ出てくるかわからないため、急性の症状に応じて使う医療系麻薬は、24時間いつでも使える必要があります。

ところが施設によっては、夜間には医療系麻薬を使えないという問題が出てくることがあります。施設での医療系麻薬の管理は、主に看護師が行うことが多いのですが、夜間は看護師が常駐していない施設が多いためです。

本来は、本人に処方されている医療系麻薬を介護士のサポートで内服することは問題ないのですが、管理上の観点から、施設を運営する法人の方針によって禁止しているところが多いのが現状です。

夜間の急な対応として医療系麻薬が使えないことは、緩和ケアにおいて大きな問題になりますが、運営する施設がその重要性を把握していないことがあるのも事実です。実際に、私の患者さんの中でも、「医療系麻薬が使える」ということで施設に入居したものの、夜間は使えないということが入居後になって発覚し、家族が医療系麻薬を飲ませるために、夜間に施設に通わざるを得ないケースがありました。

また、医療系麻薬は、飲み薬が飲めなくなったら貼り薬に変えるのですが、貼り薬だけでは緩和できない場合には、注射の薬が必要になります。その対応についても、先述のように、法人の方針によって、施設の中では制限がかかることがあります。

こうしたことから、がん終末期で最期まで施設で過ごしたいと思った場合には、緩和ケアに最期まで十分に対応した施設に入居する必要があります。

「看護師がいるから何かあっても安心」と安易に考えず、具体的に何をどこまでしてもらえるのか、確認することが大事です。

もしがん末期の施設選びに迷ったら、「医療系麻薬が夜間も使えるかどうか」「薬が飲めなくなった時に注射ができるかどうか」、そして「最期までその施設にいられるのかどうか」を施設側に確認してみましょう。がん終末期で最期まで施設で過ごしたいと思ったら、その3点が欠かせないポイントになります。

文/中村明澄 写真/shutterstock

『在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』 (講談社+α新書)

中村 明澄 (著)

2023/8/23

¥990

208ページ

ISBN:

978-4065332641

もしあなたがあと余命数か月と言われたら。あなたは何をしたいですか? 残された人に何を伝えたいですか? どのような最期を迎えたいですか?
相続やお墓のことは考える人は多いけれど、意外と考える人が少ないのが最期の日の過ごし方。残された日の過ごし方で、幸せな思い出を遺された家族に残すこともできれば、逆に家族自体がバラバラになることもある。
そのために必要なのは、きちんとした知識と自分たちによる選択です。
1000人以上を看取ってきた在宅医が、最新の医療の常識をもとに考える最良の最期を送るためのヒント。

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