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52.2℃の殺人的猛暑の影響で2ケタ増収…異常気象がユニクロの業績を左右する意外な理由とシェア拡大を担うあの定番アイテム

集英社オンライン / 2023年10月19日 8時1分

ユニクロを運営するファーストリテイリングがここにきてまた大躍進を遂げている。10月12日に発表された2023年8月期(2022年9月1日~2023年8月31日)の売上高は、前期比20.2%増の2兆7665億円。これを受けて、柳井正会長は「今後10年で10兆円」の売上高を達成するという野心的な目標を掲げた。世界最大手のZARAを擁するインディテックスの前期の売上高が4兆6000億円、H&Mが3兆円であることを考えると、途方もない数字ということがわかる。しかし、異常気象という地球規模の問題がユニクロの追い風となるかもしれない。

天気とユニクロの意外な関係

「ユニクロ」の販売戦略といえば、どんなイメージを思い浮かべるだろうか。



商品企画から製造、物流、販売までを自社で行うSPA戦略の仕組み作り。テレビCMを活用したブランド構築と折込チラシによる販促活動。そしてそれらを同時並行で行う巧みな戦略の数々に目が行く。

3年連続で過去最高益を記録したユニクロ

確かに、ファーストリテイリングという会社が長い年月をかけて構築したビジネスの仕組みやノウハウが、企業を成長させてきた要因のひとつになっていることは間違いない。

しかし、ユニクロの本質的な強さは日常を快適に過ごす究極の普段着を作り、リーズナブルな価格で世の中に提供することにある。すなわち、機能性の高さだ。その主力商品として、極細繊維で汗が乾きやすい「エアリズム」と、体から発せられる水蒸気を熱に変換する「ヒートテック」がある。

そのため、ユニクロの業績は天候に左右されやすいという特徴がある。猛暑や酷寒であればあるほど、儲かりやすい会社なのだ。2023年8月期(2022年9月1日~2023年8月31日)は特にその傾向が顕著に表れた。

ユニクロの2019年8月期の売上高は2兆2905億円だった。その後、コロナ禍で消費者に行動制限が課されたために減収となったものの、2022年8月期には売上高が2019年8月期とほぼ同水準まで回復している。

2022年8月期は、国内の売上高が8102億円、海外が1兆1187億円だった。その中でも海外での売上の53%を中国エリアで稼ぎ、売上高は5385億円となっている。

そして、2023年8月期の中国事業の売上高は、前年同期比15.2%増の6202億円に跳ね上がった。ここに会社全体の大幅な増収につながった要因のひとつがある。

売上高15%増の中国で何があったのか

ユニクロは業績好調の背景として、「下期(2023年3月~8月)の中国エリアは高い気温が続いた」と一言で片づけているが、これは見逃せない数字である。2023年の中国はこの60年間で最も暑い、記録的な猛暑に見舞われているからだ。

6月22日、北京では6月の気温としては観測史上最高の41.1℃を記録。7月16日、新疆ウイグル自治区では52.2℃を記録する異常事態となった。7月18日には最高気温35℃以上の猛暑日が年間27日目となる観測史上最多を記録している。1990年から2020年における猛暑日の平均年間日数は10.6日で、これまでの平均の2倍以上となった。

実は、2023年8月期上半期(2022年9月1日~2023年2月28日)までの中国事業は減収だった。これは中国がコロナ禍からの回復に遅れをとり、ゼロコロナ政策をとっていたためである。一方でユニクロの海外全体の数字を見てみると、海外事業は2023年8月期上半期の時点で、売上高が7552億円となり、前年同期間比で27.3%も伸びている。

上期の海外事業の伸長に一役買ったのはヨーロッパとアメリカだ。

ヨーロッパはロシアからのエネルギー供給が途絶え、ドイツやフランス、イギリスなどの電気料金が高騰した。イタリアは一時、2020年と比較して電気代が3倍に暴騰したと言われている。

世界的なエネルギー危機は化石燃料価格を押し上げ、アメリカも電気代やガソリン価格の高騰とは無縁ではいられなかった。一部の地域では電気代が3倍近く上昇したと言われている。

2023年8月期のユニクロのアメリカ事業の売上高は、前年同期の1.4倍となる1639億円、ヨーロッパは1.5倍の1913億円だった。どちらも大幅に数字を伸ばしている。エアコンやストーブに頼らずに過ごそうとすると、機能的な服が必要になる。その結果、ヨーロッパを中心に特需とも言える状況が起こったと目されている。

ヨーロッパ攻略の悲願を託された「インナー」

ユニクロは2001年にイギリスに出店して店舗数を拡大したものの、恒常的な赤字から抜け出すことができずに撤退した過去がある。よって、ファッションの本場ヨーロッパで勢力を拡大することは、ユニクロの悲願だったとも言える。

ロンドン、バタシー発電所跡地の巨大ショッピングモールに入るユニクロ

しかし、昨年新たにユニクロが発表したその攻め方は、慎重そのものでユニクロらしい。

2022年10月13日、ファーストリテーリングはヨーロッパでの事業拡大を目指した新戦略を発表したのだが、その中で、ヨーロッパの市場をブランド間での競争が激しく、消費者の服に対する目も厳しいと分析。その市場を攻め込む戦術として第一に掲げたのが、エアリズムやヒートテックなど生活に密着した商品の拡充、顧客層の拡大だった。

ファッションとえば、華やかな外着が注目されがちだが、ユニクロはあくまでインナーでのシェア拡大を狙ったのだ。

マレーシア、ペナン島のユニクロに並ぶヒートテック

ガスの備蓄を高めたヨーロッパ

ヨーロッパはロシア産のエネルギー供給が途絶えて2度目の冬を迎える。

ただし、各国ともにガス備蓄は高水準で、エネルギー価格は低下している。パイプラインを経由したノルウェーがヨーロッパ最大の供給国となるなど、ロシアへの依存度は極めて低くなった。

したがって、今年の冬は、ユニクロに2022年のような神風が吹くことはないだろう。

ユニクロが2024年8月期に大幅な増収を見込んでいる背景として、今年の上半期と異なり、中国事業がゼロコロナの影響をまったく受けないことを見越しているのことがあるだろう。2023年8月期上半期は大幅な減収に見舞われていた。その反動増があるはずだ。

今期の決算で大注目となるのが、ヨーロッパとアメリカだ。エネルギー不足という突発的な要因が取り除かれてもなお、増収増益を成し遂げられるかがポイントとなる。

ヨーロッパやアメリカは、インフレで節約志向が高まった。機能的な服が必要だという意識が高まれば、異常気象の影響も相まってユニクロの業績は拡大するだろう。

同社は2024年8月期の売上高を3兆500億円と予想。2期連続の2ケタ増収を見込んでいるが、2023年8月期の業績はその分水嶺になったように見える。

取材・文/不破聡

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