「学校に行きたくない」「やせたい」…思春期の娘との向き合い方を人気産婦人科医が伝授。娘世代にも深くかかわるホルモンバランスの崩れって?
集英社オンライン / 2023年10月29日 12時1分
更年期外来を訪れる母親から、思春期の娘の心身や性教育の相談も頻繁に受けるという産婦人科医・高尾美穂氏。今回は、同じようなことで悩む親へ向けて、娘と生理による体調不良やダイエットについてきちんと話ができるように、必要な知識から話し方までを教えてもらった。『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』(朝日新聞出版)より、一部抜粋、再構成してお届けする。
「学校に行きたくない」それ、ホルモンバランスの影響では?
お母さん世代の方に、ご自身の若いころを振り返っていただきたいのですが、「自分がどういうときに調子が悪いと感じるか」について、自分なりに把握できるようになるまでには、けっこうな時間がかかったのではないでしょうか。
自分がなぜイライラするのかわからず、しばらくするとイライラは収まるのだけれど、なぜ収まるのかもわからない。それを何度か繰り返すうちに、どこかでPMSという言葉に出合い、「もしかして私のイライラの原因はこれかも」というふうに気づいていったと思うのです。
思春期の娘さんが、体調不良を訴えて「学校に行きたくない」と言うとき、体調不良の原因がはっきりしないことはよくあります。病院でいろいろ検査をしても異常が見つからないとすると、慢性的なストレスによる自律神経の働きの不具合などが考えられるでしょう。
ただ、それに加えて、すでに生理のある年齢の場合は、月経周期にともなう不調を疑ってみていただきたいのです。
生理痛の場合は、出血しているときに痛みやつらさを感じるので、子ども自身が「生理でつらい」と理解することができますが、PMSの場合、「自分のつらさはPMSによるものだ」と思いつくためには、ある程度の知識と観察が必要になってきます。
そう考えると、まだ月経周期が安定しないような年齢の娘さんにとっては、自分の体調不良が生理と関係があるかもしれないという考えに至るのは、なかなか難しいかもしれないですよね。
実際に、娘が学校を休みがちなことを心配した親が、体調不良のタイミングと生理のタイミングに関連があることに気づき、婦人科で治療を始めたところ、学校を休まず通えるようになったという例もあります。
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生理痛やPMSといった、生理にまつわる不調を放っておかないでほしいのは、からだやこころがつらいという目の前の困りごとのほかにも、未来においていろんなデメリットを生じさせるからです。
まず、学校に通う年代の女性の生理痛が重い場合、そうでない女性と比べて、学校を欠席する回数が増えることが、有意な差をもって報告されています。欠席の回数が増えれば、授業についていくことが難しくなるかもしれませんし、学校の成績が下がることにもつながるでしょう。
学業以外にも、重い生理痛が家族や友人との関係に良くない影響を及ぼすことも知られています。学校を休みがちになると友だちとの関係をうまく築けないというのは想像しやすいでしょう。
家庭内では、娘さんの側からすると、自分がつらい状態を訴えたときの対応によって、家族に対して不満が残ります。
一方、家族の側からすると、娘さんのつらさが理解できず「生理痛ぐらいで学校に行かないなんて、なまけてるんじゃないの」という気持ちが生まれることもある。
そうすると、お互いに相手に対する信頼が損なわれてしまうという悪循環が生じてしまいます。
それ以外にも、痛みのために十分な睡眠がとれなくて、うつになりやすくなるとか、さらには、自傷行為を引き起こす割合が増えるという報告もあります。
これらの報告は、生理痛が重い場合(月経困難症)の研究によるものではありますが、わかりやすい痛みではなくても、生理からくる体調不良によって、同じような結果が生じることは十分に考えられます。
「学校に行きたくない」という理由は、必ずしも生理や女性ホルモンにまつわるトラブルとは限りませんが、その可能性もあることを念頭に置いて、しっかりと娘さんの話を聞いてくださればと思います。
そして、生理痛やPMSに対してどのように対処するかというのも、お母さん世代の経験と、現在のスタンダードではかなり異なります。
「私のころは多少体調が悪くても我慢して学校に行ったものだ」という「自分バイアス」は持たず、まずは話を聞く、そして困っている本人の立場に立ってみて、かける言葉を選んでください。
その上で、治療へのアクセスなど、前向きな対策を一緒に探してみていただければありがたいです。
成長期におすすめのいろんな体の動かし方
スポーツドクターとして女性アスリートのサポートをしているため、成長期の子どもの運動について相談されることがよくあります。
厳しいトレーニングで生理が止まるとか、18歳になっても初潮がこないといった状態は、必要なエネルギー量が足りていないためにエストロゲンの分泌が十分ではないというサインととらえ、食生活を見直す、そして練習内容など消費されるエネルギー量を見直すといった対策をして、きちんと生理がくる状態で運動を続けることが大切です。
では、もっと幼いときからスポーツに取り組むことについては、どう考えればいい?無理のない運動ってどれくらい?そんな疑問について、少しお話ししてみたいと思います。
思春期よりも前、からだが成長しつつある子どもの運動に関していえば、現代では、過度な運動よりも、運動量の少なさのほうが問題になることが多いと思います。
もともとは、家の外でからだを動かして遊ぶことが、知らないうちにからだの成長にプラスになっていたわけですが、今や、遊びといえばスマホやタブレットがメインという子どもが少なくありません。
意識的にからだを動かさなければ動かさずに済んでしまうので、「6歳以上の子どもは、1日に1時間程度の運動が必要」と、あえて運動が推奨されるようになりました。
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では、実際にどんな運動をすると良いのでしょうか。
子どもが好きで、からだを動かしたくなるようなものであればなんでもいいのですが、一つ大事なことがあります。それは、特に幼少期には、できるだけ多種のからだの動きを経験させたい、ということです。
というのも、運動神経を含む神経系統は、5歳から6歳ぐらいまでにぐっと伸び、その年代で成人の約8割の状態にまで成長することが知られているからです。
少し補足すると、子どものからだは、すべての部位や働きが同じスピードやリズムで成長していくわけではなく、器官や機能によって、成長の速度やパターンが違っていることが知られています。
生まれてから成熟するまでの発育量を100としたときに、各年齢における発育の割合を段階的に示したグラフは「スキャモンの発育曲線」(図4-1)として、ジュニアスポーツの世界ではよく知られています。
ヒトの発育のパターンは「神経系型」「リンパ系型(免疫をつかさどる)」「一般型(筋肉や骨格)」「生殖器型」の4パターンに分けられていて、それぞれ異なるカーブを描きながら成熟していきます。
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図4-1 スキャモンの発育曲線。『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』より
この知見をふまえると、運動神経が急激に発達するのは5歳、6歳ぐらいまでであり、この年代には何か特定の種類の動きに集中させるよりも、走る、投げる、跳ぶ、登る、泳ぐ、ひねる、さかさまになる、飛び降りる、転がるなど、ありとあらゆるからだの動きを経験させることが望ましいわけです。
さらに5、6年経って、10歳前後になると、動作の習得が得意な時期になります。いわば何かの「まね」をする動作です。はじめてチャレンジするような動きでも、一度お手本を見せると、パッとできてしまったりするのがこの年代です。何かの「まね」から、動作を身につけていくことも多いことでしょう。
つまり、子どもの身体的な成長には、さまざまなからだの使い方を経験させる機会、正しいからだの動かし方を「まね」する機会が必要だといえます。
そして、もう一つ大事なアドバイスは、育ち盛りの子どもが運動量に対して、適切なエネルギー量を摂取できているか、ここを気にしていただきたいのです。
成長期はからだが育つ、そのためにもエネルギーを消費している時期ですから、しっかりと運動をして、しっかりとエネルギーを摂る。成長期の運動で大事なことは、これにつきるのではないでしょうか。
「やせたい」。娘のボディイメージと向き合うには
女性にとって「食べる」ということは、エネルギーを摂ること以上の意味を持ってしまうことがあります。
なぜかといえば、多くの女性には大なり小なり、理想の体型や体重といったもの―いわゆるボディイメージーが常に頭の中にあって、それがエネルギー摂取に大きく影響を及ぼすからです。
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思春期の娘さんを持つお母さんのなかには、「娘が極端に食べなくてやせているのが心配だ」とか、反対に「太っているのが気になる」といった、娘の体型に関する心配ごとを抱えている方も少なからずおられます。
まずお願いしたいのは、娘さんが思春期を迎えるもっとずっと前から、「あなたはそのままで十分かわいいんだよ」というように、ありのままの娘さんを認めて、その思いを言葉にして伝えてほしい、ということです。そして、おそらく多くのお母さんは、当たり前のこととして、そういったコミュニケーションをとっています。
ただ、親の思いを届けることができていると思っていても、思春期を迎える年代になってくると、親の言葉では納得しないケースが増えてきます。
誰かに―例えば異性の同級生に―体型のことをからかわれて、自分が太っている、やせなければいけないと思い込んでしまう。それがいきすぎると、神経性やせ症といった病気につながっていく。そんなことが起こりうるわけです。
そんなとき、娘さんにとって、母親が相談できる存在であることはものすごく重要なことなのです。
ボディイメージの認知のゆがみ
ここで、エネルギー摂取とボディイメージの関係について、少しお話しします。
やせているか太っているかを判断する基準として、ボディマスインデックス(BMI)というものがよく使われます(図4‐2)。
BMIは、体重(キログラム)を身長(メートル)で2回割って出す数値です。ただ、成人における指標であって、児童にはあてはまりません。
正常とされている数値は18.5〜25のあいだで22前後である体格が望ましいとされています。ためしに日本人女性の平均身長(158センチメートル)で、BMI22である体重を計算してみると、55キロなんですね。「意外と重いな」と思いませんか?
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図4-2 身長158㎝の人のBMIの例。『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』より
身長158センチの方の正常BMIの上限と下限を計算してみると、BMIが18.5である体重は47キロで、25である体重は62キロ。つまり、身長158センチの女性は、47キロから62キロぐらいのあいだであれば、肥満でもないしやせでもなく、もともと正常とされている範囲がかなり広いわけです。
BMI値が高すぎれば肥満ということになり、若いうちから生活習慣病を発症するリスクが高くなるなどの問題はあります。しかし日本の女性の場合、BMI値が低すぎる「やせ」のほうが広く社会的な問題になっているのです。
やせの女性がどれぐらいいるかというと、BMI18.5未満の人の割合は、男性が3.9%なのに対して、女性は11.5%。20代女性に限って言うと20.7%もいて、5人に一人は明らかなやせということになります。
そして、ここで大きな問題となるのは、本人としては「私はそんなにやせていない」という感覚でいる方が多いという点です。
つまり、客観的な基準でいえば「とってもやせている状態」を、自分にとっての「理想の体型」と認識しているということです。
こういった状態を「ボディイメージの認知のゆがみ」と言うことがありますが、この認知のゆがみがエネルギー摂取に影響して、極端に食べる量を減らしたり、食べ吐きを繰り返してしまったり、という行為につながっていくわけです。
認知のゆがみは何によって起こるのでしょうか。
その最大の原因は、街の中にあふれている、女性のからだの理想化されたイメージです。テレビや雑誌を見れば、細いモデルさんばかりですし、やせましょう、ダイエットをしましょうという誘い文句がいたるところで目に入ってきます。
アパレルショップにいけば、飾られているマネキンは細いマネキンばかりですし、売られている服もサイズのバリエーションは多くはなく、SサイズかMサイズが当たり前であるかのように大量に売られています。
こういった状況を毎日のように目にする若い女性たちが、「私も細い洋服を着られなきゃいけないんだ」という気持ちになったとしても、無理もないことだと思います。
今の日本に生きている女性のほとんどは、頭のどこかで「太りたくない」と思いながら食事をとっているようなものです。この状況こそ、変えていかなければいけないのではないかと思っています。
そして、社会が、「やせているほうがいい」と刷り込むのではなく、「望ましい体型とはこういったものだよ」「ふつうにもいろんなタイプがあるし、すごく幅があるものなんだよ」というメッセージを、具体的なイメージとして、伝えていく必要があるのだと思うんですね。
体重が減った増えたと、体重計の数字に一喜一憂するよりも、からだを動かしやすいかどうかとか、調子がいいかどうかといったことに目を向けるほうが、ずっと大事です。
もしも娘さんが、自分のボディイメージについて悩んでいる様子があれば、社会が押し付けてくるイメージにとらわれなくていい、と伝えていただければと思います。
文/高尾美穂 構成/長瀬千雅 図版/朝日新聞メディアプロダクション
『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』(朝日新聞出版)
高尾 美穂 (著)
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/10/17061202167542/400/sei.jpg)
2023/9/20
¥1,760
256ページ
978-4023322929
NHK「あさイチ」出演で人気の産婦人科医・高尾美穂さんは、更年期外来を訪れる母親から思春期の娘の心身や性教育の相談を頻繁に受けるといいます。
女性の人生の二大ピンチの時期にあるふたりは、共に心身不安定だからです。
本書は、この時期に限らず、母と娘がどんな状態でも落ち着いて性のことや心身の悩みについて話ができるように、知識から話し方までフルサポートします。
同性ゆえのむずかしさがある、母と娘の関係性を築くきっかけになることを願っています。
女性が人生の中で経験する心身の揺らぎについて俯瞰して知ることができるので、母に限らずおすすめしたい本書ですが、さらに、パートナーや娘、職場の同僚への理解のために、男性にも手に取ってほしい一冊です。
―目次―
【Chapter.1】 女性の二大ピンチ到来! このチャンスに話そうよ。
【Chapter.2】 知らないうちに働いてくれている? 女性ホルモンの“ふるまい”を観察!
【Chapter.3】 20年前とは劇的に変化。「生理について」をアップデートしなきゃ。
【Chapter.4】 お母さんには言いづらい。でも、気づいてほしい。
【Chapter.5】 人生を、まず自分で守るために。セックスとHPV を語り合おう。
【Chapter.6】 そもそも、子どもを産むって、どんなこと?
【Chapter.7】 どうして私、女の子に生まれちゃったの?
【Chapter.8】 母も娘も“私の人生”を歩いていこう
〈付録 女性の人生年表Q&A それぞれの年代で起こりうること、気をつけたいこと〉
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