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〈パレスチナ・ガザ地区〉妊娠9か月で出産への不安がつのる日々、避難先の2LDKアパートでは家族・友人52人で生活…2人のパレスチナ人女性の悲痛な叫び

集英社オンライン / 2023年10月21日 11時1分

10月19日のパレスチナ保健省の発表によると、パレスチナ自治区ガザ地区では10月7日以降、子ども1524人を含む3785人の死亡が確認された。だが治療や救助を待つ負傷者や行方不明者も多く、実際はこれを上回るとみられている。イスラエル軍による爆撃が続き、多くの住民が攻撃によって避難を余儀なくされているなか、現地で避難生活を送る2人のパレスチナ人女性に話を聞いた。

「10月7日以降、ほとんど眠れていない」

北部ガザ市出身のカリマンさん(27歳)は10月13日早朝、家族と一緒に同地区の南部に逃れた。避難するのに与えられた猶予は24時間。深夜3時に移動命令が発令し、急いで荷物をまとめた。南部のどこへ行くべきか考える余裕もなく、車に乗り込み移動を始めたという。だが、避難する車列を標的とした攻撃も起き、パレスチナ側の発表によると約70人が死亡している。



「家をあとにするとき、『ここにもう一度帰ってくることはできるのだろうか。また平和な日々をここで過ごすことはできるのだろうか』と考えた」とカリマンさんは振り返る。

移動初日は泊まる場所もなく、家族が所有していた住居の庭で身を寄せ合い、一夜を過ごした。その後、空き家になったアパートの一室を見つけ、家族や親族でその部屋に避難した。その2LDKの部屋で、2歳から12歳の子ども16人と高齢者5人を含む52人が寝食を共にしている。

カリマンさんの避難先のアパート内

2部屋を男女で分け、子どもはリビングで寝る。女性たちがヒジャブ(イスラム教徒の女性が頭を隠すスカーフ)を外せるのは、日中に男性たちが外に出ている間のみだ。夜間に突然攻撃を受けて逃げ出さなければならないこともあるため、寝ている間も頭にヒジャブを巻いているという。

2LDKの狭い空間の中で52人が共同生活をしている

「食糧も水も燃料も底をついている。幸い私たち家族は顔が広く、周囲に支援を要請することができているが、それができない家族も大勢いる。そうした人は、住む場所も食べる場所もなく、ただ怯えながら日々を過ごしている」

避難場所の数も足りておらず、病院や学校で寝泊まりする人も多い。だが17日にはガザ地区北部の病院が爆破され、少なくとも500人が死亡した。安全といえる場所はなく、行き場を失って屋外で寝泊まりする人も多い。

「10月7日以降、ほとんど眠れていない。次は自分が攻撃に遭うのではないかという恐怖と不安、友人や家族を失った喪失感、そしてイスラエル軍への怒り。小さいころから慣れ親しんだ場所が次々と破壊され、街の様子は180度変わってしまった。さまざまな感情で頭がいっぱいになり、体はずっと硬直している」

今も多くの人ががれきの下敷きに

家族や友人の訃報を受けるのが日常となった。毎朝起きると、ガザ地区に住む友人全員に「おはよう」などとメッセージを送り、安否を確かめているという。返事がないと、攻撃を受けたのか、病院にいるのか、もしくは死んでしまったのか、と不安に包まれる。

「今週だけでも精神的なショックが何度もあったが、家族のサポートでなんとか私はやっている。だが、なかなか家の外に出ることのできない状況でストレスが募る。特に子どもたちは、ここ最近で以前よりも攻撃的になってきている」

カリマンさんは侵攻前までドバイで建築士として働いていた。ガザに住む婚約者との結婚式の準備のために侵攻が始まる3日前にイスラエルへ帰国した。婚約者と住むために自ら設計した新築の家は爆撃によって跡形もなく破壊され、婚約者やその家族とも会えない日々が続いている。

カリマンさんが婚約者と住む予定だった新居も空襲で破壊された

18日には親戚の自宅が攻撃され、4歳から8歳の子ども3人を含む一家全員が死亡した。相次ぐ被害で救助も間に合わないことが多く、救急車や医師の数も足りていない。さらに道路は建物のがれきなどが敷き詰められた状態で、車両が通れない場所も増えている。燃料不足も深刻で、ガソリンスタンドも閉鎖が相次いでいる。

ガザ地区では停電が続いており、インターネットもほぼつながらない。カリマンさんは、ドバイ在住時に使用していたアラブ首長国連邦のSIMカードがあるため、ローミングでインターネットを使用している。電気は太陽光発電や発電機でなんとか供給しているが、スマートフォンの充電だけで精一杯という状況だ。

3日ぶりに電気が通った際に充電される携帯電話

テレビも見られないため、国外に住む家族や友人からの電話で情報を得るしかない。実際、17日に北部で起きた病院爆撃も国外の家族から知らされたという。

17日、パレスチナ自治区ガザで爆発した病院から別の病院に運ばれた負傷者ら 写真/共同通信

18日から19日にかけては、カリマンさんのいる地域が攻撃を受けた。幸い避難先のアパートは無事だったが、日がのぼるまでの間は恐怖で眠ることもできなかった。日中にも攻撃は続き、今も多くの人ががれきの下敷きになっているという。

屋外で避難生活を送るカリマンさんの友人のシェルター

「毎晩、なかなか眠りにつくこともできない中、『きっとこれが戦争最後の日だ』と自分に言い聞かせている」とカリマンさんは寂しげに話す。

妊娠9か月、出産への不安がおさまらない

同じくガザ市出身のイスラさん(33)も、13日の避難命令を受けて南部ラファへ移動した。祖父母が住む2階建ての家に、親族や友人の10家族・約60人がともに生活している。パレスチナ人の家庭には子どもが3、4人いることが多く、10家族分で子どもの数が40人近くになるという。

イスラさんは現在妊娠9か月目で、今月16日に3歳になったばかりの娘もいる。誕生日ケーキのろうそくに火をつけて吹き消すのを楽しみにしていたが、その日は周囲の建物からのぼる炎をいくつも目にしただけだった。外から聞こえるのは爆撃の音だ。

アパート前の道路と破壊された建物

「ハッピーバースデー」とはとても言えない日となった。まだ幼い娘も状況をなんなく理解しているようで、何かを欲しがったりもしなかったという。少しずつ言葉を習得している娘がこの約2週間で覚えたのは、「爆弾」「上空」という言葉だ。

「侵攻が始まる前日の夜、ガザ市のレストランで妹とディナーを楽しんでいた。アイスクリームを食べたり、2人で写真を撮ったり。それが私にとって最後の楽しかった思い出なの」

そのとき食事をとったレストランは、爆撃によって破壊されてしまったという。

イスラエルとハマスの衝突が始まった日、イスラさんは妊婦検診で病院へ行く予定だった。病院へ行くことはできず、今月に入ってから検診を受けられていない。この状況下で、来月予定している出産への不安がおさまらない。

「親族の中に看護師がいるから、助けてもらいながらこの家で出産することになるかもしれない。ガザ北部の病院で爆撃があったので病院での出産は安心できず、負傷者の治療で医師も足りていない。まともな場所で出産することはほぼ不可能だと思っている。エジプトへの避難も考えたが、国境も攻撃を受け、道中何があるかわからない。お腹が大きいので思うように動けず、今のタイミングでは出国も難しい」

悲しみに暮れる余裕もないガザの現況

イスラさん一家は、7日の衝突以降、すでに4回避難場所を移動している。

今いるラファはエジプト国境から非常に近く、国境を標的とした攻撃があるたびに恐怖に苛まれるという。イスラさんは何度も言葉に詰まりながら近況を話してくれた。子どもたちの前では涙を流さないようにしているのか、泣くのをぐっとこらえる様子が感じられた。

「どうして民間人のいる場所を攻撃するのかわからない。通っていた大学も壊され、近所のパン屋も先日爆撃を受けた。貴重な食糧が手に入る場所だったが、それすらも失い、私たちは途方に暮れている」

18日、パレスチナ自治区ガザの病院で親族の遺体にすがりつく女性 写真/共同通信

婚約者との新生活を間近に控えていたカリマンさんと、第2子の出産を控えるイスラさん。何の罪もない平穏を生きてきた市民が、今では空爆や爆撃に怯える毎日だ。たった2週間のうちに数十人もの家族や友人を失ったが、悲しみに暮れる余裕もない。次の攻撃が襲ってくる。そんな状況が、今のガザには溢れている。

取材・文/鈴木美優 写真提供/Kariman AlMashharawi

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