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<イスラエル-パレスチナ>ガザ病院爆破報道で加熱する「憎悪」の連鎖…人道的危機から生まれる暴動と差別が加速する前に、国際社会に求められるもの

集英社オンライン / 2023年10月21日 16時1分

10月18日(日本時間)未明、衝撃的なニュースが飛び込んできた。「ガザ地区の病院がイスラエル軍に空爆され、約500人死亡」。情報発信源は現地のガザ保健当局である。そしてこの報道は、その後さまざまな様相を呈している。

病院への爆撃はイスラム聖戦の誤爆か

この大ニュースは、世界中の大手メディアで報道された。日本の主要メディアもそれに続いた。

しかし、その後、イスラエル当局から異論が出た。イスラエル軍はそうした攻撃をしていないというのだ。当局はその証拠として、いくつかの画像と音声データを公開し、「イスラム聖戦(ハマスと連携してイスラエルと戦うもうひとつの武装組織。イラン工作機関と以前から密接な関係にある)が発射したロケット弾が途中で故障し、それが落下した」と主張した。



イスラエルから情報提供を受けたバイデン米大統領は、「イスラエルに責任はないようだ」と主張を認めた。『ニューヨーク・タイムズ』紙など欧米主要メディアによると、米情報機関は死者の数を100人から300人の間で下限(つまり100人)に近い数字と見ているという。病院の被害は軽微で、爆発は病院の中庭で起きており、そこに身を寄せ合っていた人々が被害に遭ったようだ。なお、ガザ保健当局は後に死者は471人と発表している。

ガザの病院爆発で負傷し、別の病院に搬送される人々 写真/ゲッティ・共同イメージズ

イスラエル軍によるものではないだろうという米情報機関の分析は、偵察衛星の画像、米軍が衛星と航空機によるミサイル追跡で独自に収集している赤外線データ、民間人が撮影した映像、その他のデータに基づいているが、完全に何が起きたかはまだ把握しきれておらず、引き続き調査・検討を続けていくという。

つまり米情報機関は「爆発はイスラエルが主張するように、イスラム聖戦のロケット砲の故障による落下がもたらしたものだった可能性のほうが優勢とみているが、確証はまだない」「死者数はガザ保健当局の発表よりかなり少ない」と判断していることになる。

ただ、世界中の主要メディアが第一報で「ガザ地区の病院がイスラエル軍に空爆され、約500人死亡」と伝えた影響はきわめて大きかった。世界中のイスラム社会で、イスラエル批判の声がいっきに吹き上がったのだ。

飲料水さえ不足する人道的な危機

もともと今回の出来事は、ハマスがイスラエルを奇襲し、民間人含む1000人以上を殺害し、100人以上を人質として拉致したことから始まった。

イスラエル/パレスチナ問題では近年、とくにヨルダン川西岸地区でイスラエル強硬派入植者とイスラエル軍・治安当局がパレスチナ住民を暴力的に弾圧してきた経緯はあるが、今回のハマスの行為はまぎれもなくテロであり、その映像が広く報道されたこともあって、欧米を中心とする国際世論においてハマス批判が広がった。

しかし、ハマスのテロ攻撃に対し、イスラエル側は軍事的な反撃を行った。その過程で、イスラエル軍はガザ地区に過去に例のないレベルの猛烈な空爆を開始。さらに一般住民の命綱である水や食料、電気、燃料といったライフラインの遮断措置をとった。これは人道上でも許されない国際法違反であり、多方面から批判の声が上がった。国連のグテーレス事務総長なども、ハマスのテロを強く非難し、ハマスに対するイスラエルの自衛行動は認めながらも、民間人への攻撃は許されないと強調した。

10月19日、ガザ地区南部の都市カーンユニスでイスラエルによる空爆後、負傷した子供を移送する男性 写真/Yasser Qudih・新華社・共同通信

しかし、イスラエル軍はその後も激しい空爆を続け、地上侵攻の準備も進めている。イスラエルは民間人の被害を回避するとの名目でガザ北部の110万人もの住民に南部への移動を通告。数日中に約半数が移動したが、病気で動けない家族がいる人や老人、移動手段のない人なども含め、まだ半数はガザ北部に留まっている。

ライフラインの遮断は北部に残った人々にとってもダメージだが、南部に一気に押し寄せた人々の間では危機的な状況になっている。エジプト国境が閉鎖されているため、人々は飲料水さえ不足する状況で、人道的危機といっていい。もちろんその間も空爆は続いており、数千人の住民が殺害されたとみられている。

暴動と差別が生み出す「分断」と「憎悪」の連鎖

こうしたガザ住民への暴力と蹂躙が広く報道され、世界中のイスラム社会でイスラエル批判の声が高まっていたが、今回の病院爆発のニュースで、それがさらに一気に拡大した。エジプト、ヨルダン、バーレーンなど、イスラエルと国交のあるアラブ諸国ではイスラエル大使館前での抗議行動が起き、一部に暴動のような動きもあった。レバノンやトルコでもイスラエル批判デモの一部が暴徒化した。さらに欧米のイスラム社会でもイスラエル批判デモが頻発している。

10月17日、ヨルダン川西岸のナブルス市中心部で、戦争反対のプラカードを掲げるパレスチナ女性たち 写真/共同通信

今後、イスラエル軍が地上侵攻に出るのは時間の問題とみられ、さらに犠牲者の数が劇的に急増することが予想される。そうなれば、世界各地でイスラエル批判デモがさらに先鋭化し、暴動も頻発するだろう。また、こうした熱気を受けて、IS(イスラム国)の衰退でしばらく低迷していた非組織的なテロもいずれ起こる可能性が高い。しかも、この危険な熱気はしばらく流行のように継続すると推察できる。

さらに危険なことは、仮に各地のイスラム社会で暴動やテロのような動きが発生した場合、逆にイスラム教徒を差別する暴力が蔓延しかねないことだ。そうした両側の先鋭的な熱気がしばらく蔓延した場合、各地で刻まれる社会の「分断」の傷跡は深いものになるだろう。

西側社会と対立するロシア、中国、イランなどはそうした分断を扇動する。そうした社会不安をいかに食いとめるか。各国の政府とメディアには冷静な対応が求められている。

文/黒井文太郎

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