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〈牛丼チェーンバトル〉「吉野家」「松屋」「すき家」の明暗くっきり…ひとり勝ちのすき家を支える3つの強みとは

集英社オンライン / 2023年10月26日 12時1分

大手牛丼チェーン3社の中で「すき家」のひとり勝ちが際立っている。最新の決算を見るとすき家を運営するゼンショーホールディングスの牛丼部門の営業利益率は6.0%。対して、吉野家ホールディングスの同期間の営業利益率は5.3%。松屋フーズホールディングスは牛丼、とんかつ部門を含めた会社全体で営業赤字に陥っている。なぜ、すき家は他チェーンを圧倒しているのだろうか?

ゼンショーはコロナ禍でも店舗拡大を継続

ゼンショーホールディングス2023年4-6月の牛丼事業の売上高は前年比24.5%増の616億7100万円、営業利益は同2396.3%増の37億900万円だった。すき家は2021年12月の値上げ以降、一時集客に苦戦した時期もあったが、見事立ち直った。



吉野家ホールディングスの2023年3-5月の牛丼事業の売上高は前年同期比6.9%増の296億6600万円、営業利益は同6.0%増の15億7300万円だった。回復はしているものの、営業利益率はすき家に0.7ポイント及ばない。

松屋フーズホールディングスは2023年4-6月の牛丼やとんかつ部門を含む会社全体の売上高が前年同期間比12.6%増の281億円となったが、3800万円の営業損失を出した。前年同期間は2億6800万円の営業損失だったため、赤字幅は縮まっているものの、苦戦が続いている。

店舗数もゼンショーの牛丼部門に属する店舗数は2022年度の段階で3000を超えており、他2社を圧倒している。業界2位の吉野家の店舗数は1197だ。(2023年10月現在)しかも、すき家は3社の中で唯一コロナ禍において店舗数が拡大した。

牛丼3社店舗数の推移 ※各社決算短信より作成

コロナ禍でも客数は90%台で推移

すき家の強さは、3つの要素に集約される。

1つ目は都市部、地方都市、ロードサイドなど幅広いエリアをカバーする出店戦略。
2つ目は出店戦略に紐づく強力なメニュー開発力。
3つ目は店舗オペレーション力だ。

ゼンショーは「世界から飢餓と貧困を撲滅する」という企業理念を掲げ、食のインフラを構築することをモットーとしている。あらゆる地域で安全かつおいしい食事を提供することを使命としているのだ。この企業としてのあり方が、コロナ禍という飲食店の未曽有の危機を回避した。

下図はすき家、吉野家、松屋フーズ全業態の既存店の客数の推移だ。前年同月との差を表している。2020年のすき家は90~100%程度で推移している。80%台に沈んだのは、コロナ禍で日本初の緊急事態宣言が発令された4月だけだ。

牛丼チェーン月次売上高 ※各社月次報告書より作成

一方、松屋は一時70%台まで落ち込み、吉野家は80%台で推移していた。2020年3月から2020年12月までの平均ではすき家が94.5%、吉野家が89.6%、松屋が82.1%だ。吉野家と松屋が10~20%まで客数を減少させているにも関わらず、すき家は5%の減少に押しとどめた。

すき家の強みとなっている2大要因とは…

出店戦略において、吉野家と松屋はこれまで都市部の繁華街を中心に出店してきた。

特に松屋はその店舗展開の多くが都市部で占められていた。松屋は全店で牛丼だけでなく、カレーにもみそ汁をサービスで提供するなど、低価格でお得感の強さが他社との差別化要因になっていた。学生や都市部で働く若い会社員が主なターゲットで、客単価を低くして集客をねらい、それを補うために好立地に出店し、高回転させる戦略をとっていた。

その戦略がコロナ禍で裏目に出た。在宅ワークが推奨させる風潮の中、都市部のオフィス街から人が消えたからだ。

吉野家は中年男性が主な客層ターゲットで、松屋と同じく首都圏や地方都市への出店が中心だった。メニュー構成は牛丼がメイン。「牛丼の吉野家」というメニューを絞った戦略で、他店と比較すると、味における顧客満足度の高さが特徴だ。

吉野家の「牛丼」

一方で、すき家は繁華街のみならず、郊外型のロードサイド店も多く出店していたため、巣ごもり需要の受け皿となった。松屋、吉野家よりもコロナ禍における客数減少を最小限に留めることができたのは、幅広いエリアでの出店戦略があったためだ。

しかし、幅広いエリアに店舗展開しているだけで集客できるほど、ビジネスは単純ではない。それぞれの店舗において顧客が抱えるさまざまな課題を解決しなければならないからだ。

LINEリサーチが2022年に行った牛丼チェーンの調査(「LINEユーザーを対象にしたスマートフォンWeb調査」)に興味深い結果が出ている。好きな牛丼チェーンのトップはすき家で34.1%。吉野家が27.3%、松屋が10.7%と続いている。

このリサーチの中では、各チェーンを好きな理由の詳細も出ている。

吉野家を好きな人の理由のトップは「肉がおいしい」、2位は「つゆがおいしい」。やはり、牛丼本来のファンを根強く抱えていることがわかる。松屋を好きな人の理由のトップは「値段が安い」、2位は「コストパフォーマンスがいい」。そして、すき家を好きな人の理由のトップは、「牛丼の種類が充実している」で、2位「立地がいい」となった。

広い駐車場があるロードサイド店が多いのも「すき家」の特徴

すき家の客層ターゲットはファミリー層だ。それゆえに顧客は子供からシルバー層まで、幅広く食べられるメニューを用意してほしいと考えている。必然的にすき家はメニュー開発を強化する必要がある。

値上げというマイナス要因を跳ね返した新たな看板メニュー

すき家のメニュー開発力の高さを証明するメニューの1つに「ほろほろチキンカレー」がある。

2021年12月に販売を開始し、瞬く間に売り切れ店が続出するほどのヒット商品となった。すき家の2021年12月の来客数は前年同月比で115.7%となっていて、その後3か月間でも前年比を超えている。

すき家は2021年12月から牛丼の並盛を350円から400円に引き上げた。牛丼は、きわめて値上げに敏感な反応をされる商品の1つである。本来なら客数減少を覚悟するべきだが、すき家は「ほろほろチキンカレー」で客数の減少を抑えている。

牛丼のアレンジのバリエーションは限られる。そこで、すき家は国民食であるカレーで勝負を仕掛けたのだ。「ほろほろチキンカレー」は子供にとっては辛すぎるという意見もあるが、すき家は子供向けに「お子様向けメニュー」としてラインナップに並んでいるのでファミリー層にも不安はない。

むしろ、集客の一番のポイントである、大人が来店したいと考える看板商品を開発したと考えるべきだろう。「ほろほろチキンカレー」並盛は690円という単価を考えても、大人向けに開発されたことは間違いない。辛みの強い商品はリピートしやすいという特徴もある。

ほかにも、すき家は「デミバークカレー」や「黒糖ゼリーほうじ茶ラテ」を開発するなど、ファミリーレストラン化している。幅広く全エリアに出店するという戦略をとっている以上、メニュー開発の強化は必須となる。

ポイントは新商品を次々と開発しても、店舗オペレーションがそれについていけなければ意味がないということだ。しかし、すき家は失敗をバネにオペレーション強化にも動いた。

ワンオペ問題から立ち直ったすき家

すき家は2010年以降、「ワンオペ」と呼ばれるアルバイトの過酷な労働環境を放置したという問題を抱えるようになった。ゼンショーは一時、ブラック企業の代名詞となったのだ。そこで、2014年6月に各店舗を管理、フォローするために、全国を7地区に分割して各地域に会社を設立した。

人員確保を行い、2014年10月からはワンオペの解消を本格化した。分社化したことにより、店舗の管理が徹底的に行える。本部による手厚いサポート体制で、接客のオペレーションが円滑に行えるよう取り計らっている。

しかし、今後もすき家の一人勝ちが続くかといえば、そうとも言い切れない。

先述したの推移を月次売上高のグラフを見ればわかる通り、2023年6月ごろから吉野家、松屋の売上高が上向いてきている。その要因の一つとして、コロナ禍の収束に伴い、リモートワーク人口が減り、都市部に人が戻ったことが挙げられる。

東京都の調査によると、2023年8月のテレワークの実施率は45.3%だ。3月は51.6%だった。

※東京都「都内企業のテレワーク実施状況」より
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/09/12/06.html

今後、さらに人の流れが大きく変われば、牛丼チェーンはまた新たなフェーズに入ることだろう。

取材・文/不破聡

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