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「確率じゃない。可能性にかけよ」国境なき医師団・日本事務局長が就職留年中、悩みぬいて紙に記した「究極の夢」

集英社オンライン / 2023年11月1日 16時1分

スーダン、シリア、イラク、イエメン…… 。世界の紛争地区から避難する人々は、着のみ着のまま逃れてくる。そして、ようやく逃れてきても、家はない。でも、命はある――。そんな世界一過酷な場所で、生き抜いている人々を目の当たりにしてきた国境なき医師団 日本事務局長である村田慎二郎氏が実体験を記した。『「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと』から一部抜粋、再構成してお届けする。

夢を描いた一枚の紙

国境なき医師団で海外に派遣されるとき、毎回必ずカバンに入れて持ち歩いていたある紙がある。

◉20代で営業マンとして徹底的に対人力とソフトスキルを磨く
◉30代でMBAを取りコンサルに転職


◉40代で政治家になる

いまは自分よりも随分年上の人たちが政治家をやっており、ちょっと間違ったことをされてもおとなしく聞いていられるところがある。でもいつか自分と同年代、あるいは同い年のだれかが日本のことを決める日がくる。そういう日が必ずくる。そのとき、自分はどこでなにをしているか。
二世や秘書上がりの通常ルートの政治家には、魅力がない。僕は、自分が一票を入れたくなるような理想の政治家になりたい。
理想の政治家像とは、サラリーマン経験があり、世界の現実がわかっていて、歴史観と国家観をもっている人。国民にビジョンを示せる人。

自分の未来は、自分でつくっていきたい。

これは、就職留年をしていた大学5年生の春に書いたもの。40代でその人物になるために、逆算して30代でするべきこと、20代でするべきことを箇条書きにしていた。

これはキャリアデザインスクール「我究館」の館長、故・杉村太郎さんに提出した紙だ。就活で全滅したあと、大学の生協で杉村さんの『絶対内定』(ダイヤモンド社)という本が目に留まり、それを読んでこの“日本で最初の就職支援スクール”の存在を知ったのだ。

その紙を読んで、杉村さんは「いいなぁ、これ!」と言ってくれた。

もちろんいまは政治家になりたいとは思っていないが、当時の本音の夢がそこにあった。この夢は、その後何年もいつも僕の頭の片隅にあった。

英語が思うようにできず、年下のイギリス人やカナダ人に仕事をどんどん抜かれていったとき。自分の期待よりもずっと低い人事評価をオランダ人の厳しい上司につけられたとき。派遣期間中の一時休暇のあと、帰国したい衝動がこみ上げたとき―。

悔しいときも、辞めたくなったときも、そして紛争地の前線で眠れない夜を過ごすときも、「こんなところでつぶされてたまるか」とこの紙を見ては自分を奮い立たせていた。派遣先のスーダンのスコールで濡(ぬ)れて、紙はボロボロになってしまったが、思いはまだ心の奥に残っている。

この夢は、すんなりと描けたわけではない。たった一枚のA4の紙に書くのに、僕は半年以上、七転八倒した。

過去よりもいま。いまよりも未来

「将来、なんでも実現可能だとしたらなにをしたいか―」

杉村さんに繰り返し投げかけられた、このたったひとつの問い。この問いに本音で答えられるまで、いくつものバリアがあった。

見よう見まねでやってみた一度目の就活は全滅。どこにエントリーシートを出しても、どこからも一次面接にすら呼ばれなかった。

高校時代の偏差値は50。地方の大学で一浪、一留。偏差値のコンプレックスがあった僕は、どうしても有名大学の学生と比べてしまい自信がもてず、将来を描けなかった。自分の可能性に、勝手に天井をつくっていたのだ。

このままで、本当にいいのか。イヤ、違う。なんとかしたい。なら、自分の人生で本当にやりたいことはなんなのか。

この問いに答えを出すために、僕は毎週、静岡から鈍行列車で東京の表参道にある「我究館」に通っていた。何百枚という紙に、自分の心の奥底にある思いを吐き出すように書き出した。そして同じように就活に真剣に取り組んでいる仲間とシェアをし、突っ込み合いをした。杉村さんとの個別面談では、こんな会話があった。

「おまえはいま、自分のことを何点ぐらいだと思っているんだ?」
「えっと、60点ぐらいですかね」
「それで、面接で何点ぐらいに見せたいと思っているんだ?」
「70点ぐらいには見せたいですね」
「ほらっ!! おまえはそういうやつなんだよ! “10”頑張っているのに“12”に見せようとするから、“4”にしか見えない。“10”なら“10”でいいじゃねぇか」

目が白黒させられるほど、痛いところをつかれた。

たしかに、自分を大きく見せようとするのは、自分に自信がない証拠だ。それからは面接で、「人生で一番頑張ったことはなんですか?」と聞かれたら、「それは、いまです」と力強く答えることができるように、就活に力を入れた。

毎日小さな目標を立て、スモールウィン(小さな勝利)を重ねていくことで、まだ発展途上の自分に自信をもつようにした。

そのとき学んだのは、「過去は過去」ということ。過去の失敗は噛(か)みしめる必要はあっても、いつまでもそれに縛られていては前に進めない。「過去よりもいま」「いまよりも未来の自分がどれだけ輝いているかが重要」なのだ。

僕はそれまで大きな目標がなく、なんとなく生きていた。だが、なにかひとつ大きな目標をもって毎日これから一生懸命に頑張れば、10年後、20年後どうなるのか。それをやってみたいと思うようになった。

過去がダメでも、自分の「これから」に希望をもって、「いま」目の前にあるものに前向きに取り組むようになったのだ。これは、大きな気持ちの変化だった。

確率じゃない。可能性にかけよ

当時は、「○○大学がいい」「○○大学はイヤだ」とこだわり、わざわざ浪人までする学生が、いまよりもザラにいた。だが、「自分の人生でどういう仕事をするか」ということは、「どの大学に入るか」よりも、もっと重要なことのはず。

それなのに、「就職氷河期なんだから、ひとつか2つ内定をもらったら上等」とあっさりと将来を決める人が自分のまわりに多かった。サークルであれだけ魅力的だった先輩たちでさえ、就活にすっかりやられているのを見ると、悲しかった。そんなことを杉村さんに伝えたら、こう返ってきた。

「かっこ悪いぞ、ムラシン!! 他人のことはどうだっていいんだよ。他人は他人、自分は自分! 他人は自分の鏡なんだ」

そのとおりだと思った。自分自身の人生をなんとかしなければいけないのに、他人のことをとやかく批評している場合ではなかったのだ。

それから数か月が経(た)ち、外資系のIT企業の営業部門への就職を僕は決めた。学歴や性別、年齢が一切関係のない、実力で評価される職場。自分がきたえたい対人力やソフトスキルを磨ける職種。夢の実現の最初の一歩として選んだ会社だった。

その際、内定の報告を杉村さんにしに行くときに持参したのが、冒頭で紹介したA4の一枚の紙だった。

「自分が一票を入れたくなるような理想の政治家になりたい」という、あいまいさが残りつつも純粋でまっすぐな当時の僕の志。

「成功確率でいえばほとんど0パーセントに等しいと思うんですけど、でもやってみたいんですよね―」少し弱気になりつつ、はずかしがりながらこう伝えたところ、強いまなざしでまっすぐ僕の目を見て杉村さんはこう言った。

「確率じゃない。可能性にかけよ」


最後にこの強烈な言葉を受け取り、僕は社会に出ることになった。僕にとっての「自分の究極の夢」と、その実現のための最初の手段が決まった瞬間だった。


文/村田慎二郎 写真/shutterstock

「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと

村田慎二郎 (著)

2023/10/17

¥1,870

232ページ

ISBN:

978-4763140845

人生でもっとも大切な「命の使い方」とは?スーダン、シリア、イラク、イエメン……人道支援の現場10年、ハーバード大学大学院で学んだ著者がいま伝えたいこと。

世界の紛争地区、避難する人々は、着のみ着のまま逃れてきます。そして、ようやく逃れてきても、家はない。学校もない。でも、命はある――。そんな世界一過酷な場所で、生き抜いている人々を目の当たりにしてきた国境なき医師団 日本の事務局長である村田氏。

国際人道支援の現場で活動してきた中で気づいたことは、限りある命こそ、一番大事。でも、生きる上ではその命の使い方こそが重要だといいます。

とくに、日本のような国にいる私たちに伝えたいことは、「夢をもたない、追いかけないのはモッタイナイ!」「自分の命を大きく使って生きよう」ということ。

この命の使い方について本書では以下の6つのポイントから考えます。

1.世界……世界の現実を知る
2.アイデンティティ……「自分が何者であるか」の問いに決着
3.夢……「これができれば本望」という夢をもつ
4.戦略……夢を“ぼんやりとした夢”で終わらせない
5.リーダーシップ……組織や社会を改善するためのアクション
6.パブリック……一人ひとりができる世界をよくする方法

本書では、この6つのポイントごとに、スーダン、シリア、イラク、イエメンなど、国際人道援助の最前線で著者が目の当たりにしてきた紛争地でのエピソードと、ハーバード・ケネディスクール人気No.1 ロナルド・ハイフェッツ教授から学んだ教えの一部を紹介しながら、生きる上で重要な命の使い方について解説していきます。

【目次より】
◎衝撃的だった世界の現実
〜はじめての人道援助の最前線・スーダンのダルフール地方〜
◎自分とは、どこから来ているのか?
〜イスラム教シーア派最高権威との面会〜
◎思想がまったく異なる相手との共通点をさぐれ
〜元イエメン大統領との交渉〜
◎日本のような国にいて、夢を追いかけないのはモッタイナイ
〜紛争地からの日本の若者へのメッセージ〜
◎居心地のいいゾーンに戻るな
〜ハーバード・ケネディスクール教授からの激励〜
◎ハーバードで学んだ「下から上へのリーダーシップ」とは?
〜失敗の原因から紹介する「アダプティブ・リーダーシップ論」
◎「What can we do?――僕たちには、なにができるか
〜「日本をよくしたい」「世界をよくしたい」は要注意〜

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