日本のような国にいて、夢を追いかけないのはモッタイナイ…紛争地から送る日本の若者へのメッセージ
集英社オンライン / 2023年11月1日 16時1分
世界の紛争地区から避難する人々は、着のみ着のまま逃れてくる。家もない、学校もない。そんな世界一過酷な場所で、生き抜いている人々を目の当たりにしてきた国境なき医師団 日本事務局長である村田慎二郎氏が実体験をもとに「命の使い方」を記した。『「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと』から一部抜粋、再構成してお届けする。
恩師からのメール
前略 ムラシン、そちらはいかがですか。僕の想像の限界をはるかに超えた状況でしっかりやっていることと思います。
大忙しの中、恐縮ですがお願いがあります。日本の学生たちにムラシンからメッセージを書いて送ってほしいのです。10行でもかまいません。6行でもいいです。短くてもいいので、いつもムラシンが言ってくれていること。そして実践されていること。
“実現できるとかできないとか、そんなこと関係なく、心からの夢を描こう。それはきっと実現できるはずだと、僕も信じて生きている”ということを伝えてほしいのです。
いまの状況は、それどころではないのかもしれない。でも、だからこそ、他のだれにも伝えられないものを伝えられるのではないか。
どんなに短くてもいいです。ぜひよろしくお願いします。
これは、国境なき医師団ではじめて海外に派遣されて数か月が経ったころ、キャリアデザインスクール「我究館」の館長、故・杉村太郎さんから頂いたメールだ。僕はスーダンのダルフール地方という、のちに30万人もの住民が犠牲になった紛争地にいた。
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(写真はイメージです)
「なにもかも異なるこの地から、日本の人たちにいったいなにを言えるんだろう?」
僕は、正直いってとまどった。まだなにも達成していないばかりか、紛争地のあまりの現実に圧倒されている自分。
国内避難民キャンプにある病院では毎日患者が押し寄せ、6つあるプロジェクトのスタッフからサプライ・ロジスティシャンである僕に要望が集中。
「あの薬を注文したのにまだきていない」「この手術器具は質が悪い。新しいのが大至急ほしい」など、緊急のリクエストが滝のようにくる毎日。それまで海外経験のほとんどなかった僕が、突然ダイブした人道援助の世界。
ストレスが重なるなか、食事も現地の味付けが口に合わず、体はどんどんやせ細っていった。
そんな僕が、どんなメッセージを送れるのか。
ある晩、英語があまりできずチームに溶け込めていなかった僕は、文化的な近さから親しみを感じていた韓国人の看護師と夜明けごろまで話し込んだ。
「国ってなんだろうね。個人で話し合えばわかりあえるのに、どうして国対国になると、何十年経ってももめつづけるんだろう。ダルフールもそうだけど、民族と民族って、なんでこんなに争うんだろう。宗教もそう。せっかくいい教えなのに、時にどうしてここまで残酷になれるんだろう」
答えが出ないこの会話が、とても大事な問いをくれたような気がした。
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「この地球で人間が生きるというのは、どういうことなんだろうか。人間らしい生き方とは、なんなのか」
家はない。学校もない。でも、命はある。だれが悪いのかわからない。ただ、傷跡だけが重なっていく―。そんな紛争がいつ終結するのかさえわからない国や地域にいる、何億人という人たち。
対照的に、かつての僕のように物質的なものはなにもかもそろっているのに、偏差値や就活、上司との関係ごときで将来が不安な日本の若者たち。
自分がどれだけ恵まれた立場にいるのか、気づくきっかけすらない。そうだとするなら、このダルフールから、僕が届けるべきメッセージとは?
さんざん悩んだあげく、杉村さんに出したメールがこれだった。
日本に生まれ、日本で育ち、夢をもたないというのはおかしくはないでしょうか。
僕はいま、地球上でそのことがもっともよくわかる場所にいます。
夢を求める環境が、人間にとって本来どれだけありがたいか。
それなのに夢を描こうとせず、最初からあきらめて、挑戦もしないとしたら、それがどれだけ非人間的な行為か。
ここにいると、痛いほどそう感じます。
僕はいまも、これからも、23歳のときに描いた心からの夢に向かって一歩一歩全力で挑み、時代遅れの既成概念や、固定観念を壊していくつもりです。
それが、人間が生きていることの“証(あかし)”だと信じるからです。
あのとき、あの環境にいた自分を𠮟咤する意味も込めて、自らの思いをふりしぼって書いたものだ。この紛争地からの伝言は、『絶対内定』の巻末にそれから毎年掲載されることになる。20年近く経ったいま、この本を書いていることは運命のように感じる。
限りある命の次に大事なこと。それは、その命の使い方だ。
「日本のような国にいて、夢を追いかけないのはモッタイナイ」
このテーマを考えるとき、外せないメッセージだと僕は信じている。
文/村田慎二郎 写真/shutterstock
「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと
村田慎二郎 (著)
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/10/27015319899466/0/cover.jpg)
2023/10/17
¥1,870
232ページ
978-4763140845
人生でもっとも大切な「命の使い方」とは?スーダン、シリア、イラク、イエメン……人道支援の現場10年、ハーバード大学大学院で学んだ著者がいま伝えたいこと。
世界の紛争地区、避難する人々は、着のみ着のまま逃れてきます。そして、ようやく逃れてきても、家はない。学校もない。でも、命はある――。そんな世界一過酷な場所で、生き抜いている人々を目の当たりにしてきた国境なき医師団 日本の事務局長である村田氏。
国際人道支援の現場で活動してきた中で気づいたことは、限りある命こそ、一番大事。でも、生きる上ではその命の使い方こそが重要だといいます。
とくに、日本のような国にいる私たちに伝えたいことは、「夢をもたない、追いかけないのはモッタイナイ!」「自分の命を大きく使って生きよう」ということ。
この命の使い方について本書では以下の6つのポイントから考えます。
1.世界……世界の現実を知る
2.アイデンティティ……「自分が何者であるか」の問いに決着
3.夢……「これができれば本望」という夢をもつ
4.戦略……夢を“ぼんやりとした夢”で終わらせない
5.リーダーシップ……組織や社会を改善するためのアクション
6.パブリック……一人ひとりができる世界をよくする方法
本書では、この6つのポイントごとに、スーダン、シリア、イラク、イエメンなど、国際人道援助の最前線で著者が目の当たりにしてきた紛争地でのエピソードと、ハーバード・ケネディスクール人気No.1 ロナルド・ハイフェッツ教授から学んだ教えの一部を紹介しながら、生きる上で重要な命の使い方について解説していきます。
【目次より】
◎衝撃的だった世界の現実
〜はじめての人道援助の最前線・スーダンのダルフール地方〜
◎自分とは、どこから来ているのか?
〜イスラム教シーア派最高権威との面会〜
◎思想がまったく異なる相手との共通点をさぐれ
〜元イエメン大統領との交渉〜
◎日本のような国にいて、夢を追いかけないのはモッタイナイ
〜紛争地からの日本の若者へのメッセージ〜
◎居心地のいいゾーンに戻るな
〜ハーバード・ケネディスクール教授からの激励〜
◎ハーバードで学んだ「下から上へのリーダーシップ」とは?
〜失敗の原因から紹介する「アダプティブ・リーダーシップ論」
◎「What can we do?――僕たちには、なにができるか
〜「日本をよくしたい」「世界をよくしたい」は要注意〜
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