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33年間ひきこもった男性が外に出ることができた意外な理由…人生で初めて働いて得た4000円で買ったもの

集英社オンライン / 2023年11月14日 11時1分

いじめや手術が原因で、高校卒業後に家にひきこもってしまった山田博之さん(仮名=51)。愛猫の死でパニック発作を起こし、家から一歩も出られない20代を過ごした。やっとの思いで回復した矢先に家族に心ない仕打ちをされ、再び自室でひきこもりに。そんな彼がついに働き始めることができた意外な理由とは――。(前後編の後編)

推し活が“心のリハビリ”に

山田さんは家の手伝いも居場所だった書店通いもやめて酒浸りの生活を続けていたが、42歳のときに酒を飲むのをやめた。身体を壊してしまい「健康的に生きたい」と思って抹茶や濃い緑茶を飲み始めたら、自然と酒量が減っていったのだという。

酒をやめると自然と目が外に向くようになり、1、2か月に1度、女子サッカーの試合を見に行くようになった。いわゆる「推し活」だ。テレビで試合を見て、「選手たちが礼儀正しくて素敵だな」と感じたのだという。



「趣味の外出ができるのに、ひきこもりなの?」と疑問に思う人もいるかもしれないが、国のひきこもり調査の定義では、半年以上家からほとんど出ないが、近所のコンビニなどには出かける人を「狭義のひきこもり」、ふだんは家にいるが趣味の用事のときは外出する人を「準ひきこもり」とし、両方を合わせて「広義のひきこもり」としている。

長年ひきこもっていた人にとっては、いきなり仕事をするのも学校に行くのもハードルが高い。まずは趣味の外出をしたり、居場所となるコミュニティに通ったりして、少しずつ社会とのつながりを取り戻していくことが必要なのだろう。

山田さんは、この推し活のことを「心のリハビリ」と称している。

試合会場が遠方の場合は、高速バスや青春18きっぷを使って節約しているが、交通費の他に宿泊代もかかる。母親に頼むとその都度お金を渡してくれるのだが、お金のことに関して毎回嫌味を言われるのが辛かったという。

「旅行に行くと言うと、あれこれ難癖つけて、お金を投げつけるような感じでくれます。自分の食事は自分で作っているので、近所のスーパーにも行きますが、私が何を買ったのか母親はレシートを必ず見て、数百円でも全部把握しないと気がすまない。じゃないとお金はやらないという態度なんです」

母親とやり取りをするたびに山田さんはストレスがたまり、「自由になるお金がほしい」と思うようになった。それが後に、「働こう」と思う原動力の一つになるのだから、何が幸いするかわからないものだ。

発達障害だと気付き、生きるのが楽に

転機を迎えたのは2年前。ひきこもり始めた当初はテレビを観るのが息抜きだったが、YouTube が流行り始めると山田さんは夢中になった。

2年前に発達障害者の動画を初めて観て、驚いた。以前から発達障害という言葉は知っていたが、まさか自分がそれに該当するとは思ってもいなかったからだ。

「“発達障害あるある”っていろいろありますが、1から10まで自分に当てはまるんです。空気が読めないとか、こだわりが強いとか。聴覚過敏もそう。

私は子どものころからコミュニケーションがうまくできない部分があって、手が出ちゃったこともあるし、学校で言っちゃいけないことを言ってトラブルにもなった。それが全部、アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)で説明がつくんだなと思ったんです」

その後、ADHD(注意欠如/多動症)にも該当する部分があると思った。サッカーの試合会場などで偶然、隣に座った人に「貧乏ゆすりをやめてください」と、半年間で2回も注意されたのだという。他人に指摘されるまで、自分がそこまで激しく貧乏ゆすりをしていることにも気がついていなかった。

検査は受けていないので診断が確定したわけではないが、「自分も発達障害だ」と思ったことで、まさしく人生が一変する。

「小学校から中学、高校と周りにいる人間が変わっても、ずっといじめられていたから、やっぱ俺になんか問題があるんだと感じて、自分を責めていたんですよ。ひきこもったのもそうですよね。なんで人とうまくやれないんだ、なんで自分は働けないんだって、コンプレックスがずっとありました。

でも、それは生まれつきなんだから、しょうがねえだろうって思ったら、すごい楽になったんです。すごく生きやすくなりましたね。なんか、今はもう晴れ晴れとして、精神状態がすごい落ち着いているんですよ」

自分ではたどり着けなかった、初めての仕事

山田さんは最近、掃除の仕事を始めた。18歳から33年間ひきこもっていた山田さんが外で働くことになったのは「たまたま」だ。

YouTubeで発達障害者の動画を見ていたのと同じころ、不登校・ひきこもりの支援団体が主催するゲーム会に行き始めた。月1回集まって、他愛もない話をしながらボードゲームを楽しむ会だ。

あるとき、支援団体代表の女性から「仕事があるんだけど、やってみない?」と声をかけられた。

その女性が知り合いの不動産屋から「アパートの共用部分を掃除する仕事をひきこもりの人にお願いできないか」というメールを受け取ったとき、「たまたま」隣の席に座っていたのが山田さんだった。「たぶん断られるだろうな」と思いながら軽い気持ちで山田さんに聞いてみたのだという。

「いいですよ」

山田さんは即答した。自由に使えるお金がほしかったこともあるが、実家はアパートを所有しており、将来役に立つかもしれないと思ったのだという。話はとんとん拍子に進み、山田さんは生まれて初めて履歴書を書いて、面接に臨んだ。代表の女性も一緒に来てくれたので、心強かったという。

「私にとって、普通に働いている人は、もう別世界の人ですからね。緊張しましたよ。でも、アパートの住人が出入りする朝晩を避ければいつ行ってもいいと、ていねいに説明していただけたのでよかったです。そんな自分の好きな時間に行けるようないい仕事、自分で探してもたどり着けなかったと思います」

掃除自体は30分~1時間もあれば終わる。月に2回で1回2,000円(交通費込み)と条件も悪くない。仕事中にお茶などを飲むのはいいが、座ってパンを食べるのはダメなど、禁止事項も詳しく書いてくれた。

「初めてお金を稼ぐのは大変だった?」と聞くと、山田さんはしばらく考えて、意外な答えを口にした。

「掃除が終わったら、スマホでアパートの写真を撮ってショートメールに添付して送ってくださいと言われて、戸惑ってしまって……。メールする友だちもいないから、ショートメールのやり方もわからないし、相手の番号を連絡帳に入れることもできなくて、すごい迷惑かけちゃったんです。教えてもらって今はできるようになりましたけど」

山田さんは「迷惑をかけた」としきりに恐縮する。社会経験が少ないだけで、気遣いもできるし、もともと几帳面なのだろう。

「目に見えるゴミを掃除すればいい」と言われていたのだが、階段下にたまった砂まで時間をかけてきれいに取り除いた。ていねいな仕事ぶりが評価されて、担当するアパートは2か所に増えたそうだ。

ひきこもりが外に出てくるとき

山田さんに仕事を紹介した代表の女性は、これまで25年に渡ってひきこもりの支援をしてきた。その経験を踏まえて言う。

「山田さんのように、親が何にもしてくれなくて放ったらかしのほうが、意外とひきこもりから出てくるんですね。お父さんが定年退職して家にいるようになって、『働かざる者食うべからず』と言われて家にいたくなくて、ひきこもりから出てきた子もいます。

逆に、ひきこもりの子を心配して手取り足取りお世話して、団体が主催する親会にも来ているお母さんの子どもは全然出てこない。だから、ひきこもりにとっては少し居心地が悪いくらいのほうがいいのかもしれないですね」

とはいえ、厳しく接したり、ほったらかしにすれば誰もがひきこもりから出てくるわけではない。山田さんにしても、以前の状態のままなら、仕事の話を持ち掛けられてもやる気になれなかったかもしれない。

写真はイメージです

大事なのは、タイミングと支援者の存在だ。本人が「ひきこもりから出たい」「働きたい」と思ったときに、そっと背中を押してくれる人がいると心強いし、スムーズに進みやすい。

今回は「たまたま」うまくいった面もあるが、ひきこもりから脱するのに遅すぎることはない、年齢は関係ないということがよくわかる。何より山田さんの晴れ晴れした表情を見ていると、こちらまでうれしくなる。

山田さんに初めての給料は何に使ったのかと聞くと、「食べ物に使っちゃった」と控えめに笑う。

「野菜とか果物とか。今は健康オタクなんです。体にいいモノを食べて、家で筋トレして、健康的に痩せたんですよ」

現在、掃除の仕事でもらえるのは月に8,000円だ。自立にはまだ遠いが、ひきこもりから脱するための、大きな一歩を踏み出した。

#3-1(前編)を読む

取材・文/萩原絹代 写真/shutterstock

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