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【暗殺専門組織「ニリ」新設】ハマス幹部殺害や人質奪還のための情報収集を担う「イスラエル情報機関」シンベトの全貌

集英社オンライン / 2023年11月3日 9時2分

11月1日、イスラエル国防軍は「情報機関・シンベトの情報に基づいて居場所が特定されたハマスの対戦車部隊司令官を、空爆で殺害した」と発表した。シンベトと国防軍は10月31日には「ガザ近くの農場襲撃を指揮したハマスの指揮官を空爆で殺害」、同月30日にも「軍とシンベトの特殊部隊が人質の居場所を特定し、共同作戦でイスラエル人女性兵士1人を救出」と発表している。

ハマス幹部殺害、人質捜索を行う防諜・テロ対策組織

イスラエル人女性兵士の救出は、共同作戦といっても軍事作戦なので、軍の特殊部隊が救出作戦を主導したと思われる。シンベトは人質の所在地の特定など、情報活動で重要な役割を果たしたのだろう。ハマス幹部の殺害、あるいは人質監禁場所捜索では、こうしたシンベトの情報と軍の空爆もしくは特殊作戦との組み合わせというパターンが多い。



では、この「シンベト」とは何か。

シンベト(保安庁。シャバクともいう)は首相/首相府直属の情報機関で、イスラエル国内およびパレスチナ自治区(ガザ地区とヨルダン川西岸地区)での防諜・テロ対策を担当する。イスラエルの情報機関というと「モサド」が有名だが、モサドは国外担当で、ガザ地区などはシンベトの担当だ。今回のハマスの奇襲を事前に察知できなかった責任は第一にシンベトに責任があり、戦闘終結後に徹底調査すると約束している。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相 写真/共同通信

シンベトには「アラブ局」「イスラエル・外国人局」「防護保安局」がある。筆頭部局はアラブ局で、主にパレスチナ自治区内を担当し、パレスチナ各組織の活動を監視している。イスラエル・外国人局は国内のテロ対策と防諜を担当。防護保安局は空港や政府庁舎などの重要施設の警備を担当する。

アラブ局は日常的にパレスチナ自治区内で情報収集活動をしており、ときに強引な拘束・尋問も行なう。イスラエルの軍や情報・治安部局の要員がパレスチナ人に成りすまして潜入スパイ活動を行うことを「ミスタービム(潜伏)」というが、シンベトはそれを優先的任務として行なっている。

シンベトは重要施設警備や対テロの部門に武装部隊を持っているが、大規模ではない。西岸地区でテロ容疑者を追跡する場合、シンベトは「国境警察」隷下の対テロ特殊部隊「ヤマス」を出動させる。国境警察は警察の一部局で、国家安全保障省の傘下になり、首相直属のシンベトとは本来は指揮系統は別になるが、エルサレムを拠点とするヤマスは、シンベトの指揮下で実力執行部隊として出動することが多い。

ハマスの首謀者たちの暗殺専門組織「ニリ」を新設

シンベトの工作のなかで、重要なのが盗聴だ。

携帯電話の盗聴も当然行っているが、パレスチナ自治区内に潜入して盗聴器を仕掛けるといった工作では、ミスタービムの役割が重要だ。ハッキング工作でも、情報を抜き取るウイルスを標的のデバイスに感染させるには標的の交友関係や日常の行動を探るのが有効だが、そうしたところでもミスタービムが役立つ。

今回の奇襲を見抜けなかった背景に、ハマス側が「しばらくイスラエルと戦う気はない」ふりをする偽装工作を仕掛け、イスラエル情報機関がまんまと騙されていたことが明らかになっている。ただ、ガザでの情報収集活動はシンベトの主任務のひとつで、完全にやめていたわけではない。最近のシンベト内では「ガザより西岸地区ほうに不穏な動きがあり、監視強化が重要だ」と考えられたため、一部の人員を西岸地区監視に回し、ガザ監視の手が若干薄くなっていたということだろう。

イスラエル軍の若い女性兵士

それでもシンベトは、冒頭で記したようにハマス幹部や人質の所在情報をある程度は入手できている。軍や他の情報・治安機関よりは、まだ情報収集の手段を残しているのだ。

なお、シンベトはハマス側による襲撃の首謀者と参加者を暗殺する専門組織「ニリ」を新設したと公表している。一部報道ではまるで“凄腕の特殊部隊”のようなイメージで伝えられているが、現在のような戦闘状態では、ガザでの襲撃作戦は前述したように軍が主導する。ニリはおそらく情報収集を主導するいわば特別捜査チームのようなものだろう。ただし、戦闘地域ではない西岸地区なら、機会があれば暗殺も実行するだろう。

他方、有名なモサド(諜報保安庁)は国外担当なので、国外にいるハマス、あるいは連携組織のヒズボラ、あるいは黒幕のイラン工作機関などが監視対象になる。ただし、そうした調査の過程で、ガザにいるハマスの重要な情報もしばしば入手しているはずだ。その追跡調査では、ガザ地区内に対するある程度の独自調査は行っているものとみられる。もちろんケースによってはシンベトとの連携もあるだろうが、両組織は完全に独立した別組織なので、基本的には作戦は個別に行なう。

イスラエルの3大情報機関以外にもある潛入スパイ

モサドには、外国での諜報活動を行なう筆頭部局の「ツォメット(対外情報部)」、破壊工作を担当する「カエサリア(特殊作戦部)」、通信傍受・ハッキングを担当する「ケシェト」がある。特徴的なのはカエサリアの隷下に暗殺チーム「キドン」を持つことだ。

キドンはこれまで世界各地でパレスチナ側のテロ実行犯や首謀者を暗殺してきた。近年もキドンの作戦かどうかは不明だが、モサドのカエサリアがイラン国内で核開発計画の要人などを暗殺している。

この「シンベト」と「モサド」、それに国防軍の情報機関(アマン)がイスラエルの3大情報機関だが、それだけではない。テロ対策として隠密に活動するチームが、警察と前出・国境警察にもある。

国境警察(マガブと通称される)は警察組織内の戦闘部隊で、主任務が対テロ作戦だ。活動領域はエルサレムや西岸地区内のイスラエル占領エリアで、前述したようにその中のヤマス特殊部隊はシンベトの指揮下で投入されることも多い。エルサレムや西岸地区での特殊作戦に加え、ミスタービム活動も行なっている。

他にも強力な特殊部隊「ヤマム(特別警察部隊)」もある。主任務は人質救出で、この部隊はこれまでもパレスチナ自治区内の占領エリア内外で数多くの人質奪還に出動している。さらに警察の対テロ特殊部隊「ギデオニム」(第33部隊ともいう)は、イスラエル国内でミスタービム活動を行なっているとみられる。

10月30日、非公開の場所にある「ギデオニム」(第33部隊)を訪問したネタニヤフ首相

こうした情報・治安機関系以外に、情報収集を大規模に行なっているのが軍の情報機関だが、対テロ作戦が重要なイスラエルの場合、軍の情報機関は特殊部隊との連携がきわめて多い。その内容に関しては別記事で解説する。

文/黒井文太郎

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