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ハマスの人質となった女性兵士の奪還に成功したイスラエル軍…細分化された驚くべき特殊部隊の実態

集英社オンライン / 2023年11月4日 9時1分

先月30日、イスラエル軍はハマスの人質となった女性兵士の奪還に成功したと発表した。奪還作戦の実行部隊として作戦を遂行するイスラエルの特殊部隊について軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が解説する。

人質奪還作戦の実働部隊

空爆と同時並行でイスラエル軍地上部隊の侵攻も始まったガザ情勢。今後は、戦車を中心とする陸軍部隊の軍事作戦と並行して、ガザ内部にある程度の情報網を持つ首相直属の情報機関「シンベト」(保安庁)とも連携しながら、軍の特殊部隊・情報機関も人質奪還やハマス幹部の殺害を進めていくことになる。

ガザとのイスラエル国境沿いをパトロールするイスラエル兵 写真/共同通信

すなわち、地下トンネルの出入り口とトンネル内部を探り、盗聴器を仕掛け、さまざまな種類の小型ドローンを飛ばし、武器集積所や作戦指揮所などのハマス軍事拠点を探り、ハマス戦闘員の捕虜を尋問し、鹵獲した敵のPCやスマホを解析する。そして、標的を発見すれば、空軍に空爆を要請、あるいは自分たちで突入する。もちろん人質がいれば奪還作戦を実行する。



こうした作戦に投入されるのが特殊部隊だが、イスラエル国防軍には対テロ作戦がきわめて重要なため、特殊部隊と情報機関が密接に連携する。特殊部隊自身にもある程度の情報活動が任される。

では、任務にあたる特殊部隊には、どんな部隊が存在するのか。

まず、対テロ・ゲリラ戦に特化した強力な部隊が「サイェレット・マトカル」(参謀本部偵察部隊)である。今回、ガザでの人質奪還作戦でも主に実働するのは、この部隊とみられる。組織上、軍の情報機関である「アマン」(軍事情報部)の隷下部隊だが、実際には参謀本部の指揮下にあり、冷戦時代から数々の対テロ作戦・人質奪還作戦に投入されてきた歴戦の特殊部隊だ。

彼ら自身も情報活動の訓練を受けているが、作戦にあたっては「アマン」(軍事情報部)隷下の他の部隊と連携することも多い。アマンは陸海空軍に所属しない独立した機関で、情報部隊として「ハマン」(情報部隊)、通信傍受・ハッキング担当の「8200部隊」、偵察衛星・偵察機・ドローンなどの画像情報担当の「9200部隊」があり、それらも作戦時にはサイェレット・マトカルを支援する。

なお、通信傍受の8200部隊はそのレベルの高さで知られる強力な情報機関だ。

細分化されたイスラエル国防軍

もっとも、国防軍には他にも特殊部隊が陸・海・空ごとに、また、地域軍ごとにいくつもある。なかでも強力なのは、中央司令部第98空挺師団の隷下で運用される「オズ旅団」(第89コマンド旅団)だが、同旅団には「デュブデバン」「マグラン」「エゴズ」ら独特の訓練を受けた強力な特殊部隊がある。

黒煙を上げるガザ地区 写真/shutterstock

デュブデバン(第217部隊)は対テロ専門部隊であり、偵察部隊でもある。パレスチナ人に擬装してパレスチナ自治区に潜入し、情報収集活動や破壊工作を行う「ミスタービム」と呼ばれる潜入活動を、かなり深い部分まで行なっている。

マグラン(第212部隊)は空挺降下などの敵地潜入の訓練を受けた偵察部隊だ。平時でのスパイ活動というより、戦時での単独・少人数での偵察任務を担う。

エゴス(第621部隊)も少人数で行動する特殊部隊で、敵地に長距離潜入して偵察と破壊工作を行なう部隊である。今回のガザ侵攻では、前述したサイェレット・マトカルだけでなく、これらの部隊もおそらく投入される。

ガザ侵攻において、もうひとつ注目される特殊部隊は戦闘工兵軍隷下の部隊だ。イスラエル軍では、地雷や仕掛け爆弾の敷設や処理、建物の爆破、瓦礫撤去、橋梁の建設などを担当する工兵部隊の主力が、自ら戦闘もしながら任務をこなす戦闘工兵部隊と位置づけられている。その中で市街戦の前面に投入されるのが「ヤハロム」(特殊戦闘工兵隊)だ。

ヤハロム部隊は、建造物が密集して地下トンネルが張り巡らされたような戦場で、敵の位置やトンネルの位置などの偵察活動をしながら侵入し、敵の仕掛けを無力化する。

その隷下には、敵陣深くに潜入して偵察・破壊を実行する「ヤエル部隊」。
敵の特殊な仕掛け爆弾やブービートラップ(罠)を回避する「ヤクサップ部隊」(爆弾処理隊)。
地下トンネルの捜索・破壊を専門とする「サムール部隊」(通称「ウィーゼル部隊」)。
爆薬や専門器具で建物のドアや壁を壊す「ミドロン・ムシュラグ部隊」。
軍用ロボットを運用する「へゼック部隊」などがある。

人質奪還、ハマス幹部追跡の徹底した秘密工作

こうした特殊戦闘工兵は今回のような市街戦では、特に危険な任務となる。おそらく空軍や陸上戦闘部隊の支援を受けながら、特殊部隊や情報部隊と共同での市街地制圧作戦になるものと思われる。

国防軍ではこれらの地上部隊の特殊部隊だけでなく、海軍にも特殊部隊「サイェレット13」が、空軍にも特殊部隊「シャルダグ」(第5101部隊)がある。このうち海軍のサイェレット13はイスラエル海軍の艦艇部隊と協力し、海上での警戒と、自ら海上からの侵攻に参加するかもしれない。

アシュドッドの南部セクター海軍基地を訪問するネタニヤフ首相

このように、イスラエル国防軍には多種の充実した特殊部隊がある。これらのいくつかはすでにガザ侵攻作戦に投入されており、人質奪還やハマス幹部追跡に従事していることは間違いない。

しかし、こうした特殊部隊の作戦はほとんどが秘密作戦であり、その全貌が明らかになることは少なくとも戦闘中はないだろう。

文/黒井文太郎

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