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「スマホの使用時間自体とメンタルには相関がない」「記憶力と注意力アップ」「肥満対策」…最新研究で判明した知られざるスマホのいい影響

集英社オンライン / 2023年11月10日 12時1分

スマホ使用で「集中力が下がる」「うつ病のリスクが上がる」といった悪影響の指摘ばかりが話題になりがちだが、実は最新の科学研究では“いい影響”をもたらすことも判明している。スマホが持っている本当は脳にいい影響を与えることとは?『脳を活かすスマホ術――スタンフォード哲学博士が教える知的活用法』 (朝日新書)より、一部抜粋、再構成してお届けする。

スマホのメンタル影響をメタ分析すれば

スマホは本当に悪なのか? 最新研究の現在地はどこなのか? これを考えるのに非常に重要な論文があります。

それは、文字通り「SNSと心のウェルビーイング(Social media and psychological well-being)」と題された論文。スマホのメンタルへの影響についての有力な研究226本をまとめ直して、スマホの悪い影響と良い影響を再評価するというものです。



これまでの研究では、スマホの悪い影響を示すものと、良い影響を示すものの両方がありました。

例えば、「スマホ使用時間が増えると、うつ病のリスクが上がる」という結果を示す研究もあれば、その逆の結果を示す論文もあったわけです。

しかし、それぞれの対象者や条件が少し違ったりする。それらをすべてガッチャンコして、全体を見渡して、スマホのメンタルへの影響を検証すればどうなるか。

これまでの研究結果を基に、さらに精密な分析を行うということで、「メタ分析」と呼ばれる研究の手法です。

そのメタ分析が出した結果、スマホの使用時間とメンタルの相関は、「0. 01」であることがわかりました。ここで言う「相関」とは、スマホの使用時間と良いメンタルの状態の関係性の強さを表しています。

スマホを使用すればするほど、良いメンタルになるという傾向があり、その傾向が最大限に強ければ相関は「1」。スマホとメンタルがまったく関係なければ「0」。スマホを使うとメンタルが悪くなる傾向が最大ならば「-1」。

そしてメタ分析結果の「0.01」。

これはまさに誤差の範囲内で、統計的に有意ではない、つまり、スマホの使用時間自体とメンタルには相関がないという結果が出てきたのです(しかも、誤解を恐れずに言ってしまえば、どっちかというのであれば、スマホを使用すればメンタルが良くなる方にほんの少しだけ寄っているわけです!)。

スマホには悪い影響もあるかもしれないけれど、一方で良い影響もある。全部の研究結果を合わせてみると、良い点と悪い点が相殺され、全体的にはどちらでもない。

そうなった場合、さらに細かく、どんなスマホの使用が悪影響を及ぼして、どんな使用が良い影響を及ぼすのかを研究する必要があります。最近のスマホ研究は、まさにそれを明らかにしてきたのです。

実際に、いくつかのことに気をつけてSNSを使うと心のウェルビーイングがアップすることがわかってきています。

「頭だけ」と「スマホでメモ」、どっちが記憶できる?

スマホの良し悪しは使い方次第。この点をもっと理解していただくためにメンタルへの影響以外にも、スマホがもたらす良い影響について、最新科学からいくつか厳選してご紹介しておきましょう。まず初めは、ロンドン大学で行われた研究からの紹介です。

一つ目が、「記憶力アップ」です。以下のような実験をイメージしてください。

1分間に、大きなスクリーンにつぎつぎと赤い数字と黒い数字がランダムに映し出されます。のちほど行われるテストで、赤い数を正確に覚えていれば、一つにつき1000円もらえます。黒い数は100円です。つまり、赤い数字の方が黒の10倍の値打ちがあるわけです。

このシンプルな数字記憶ゲームを使って、二つの参加者グループで実験していきます。

何も持たずに頭だけで覚えておくグループと、スマホのノートアプリを使ってメモを取る方法の2種類です。

数字はどんどん出てきますから、すべては記録しきれません。参加者が自分なりにできるだけのメモを取ってやっていきますが、もちろん、10倍の価値のある赤い数字の方を優先してメモしていくことになります。

どちらのグループも数字を見たあとにテストをしますが、テスト中は何も見てはいけません。つまり、メモを取ったグループの参加者も、テストをする時は自分のメモを使うことができないというわけです。

はたして「頭だけ」グループと「スマホでメモ」グループで、テストの結果に違いが出るのかどうか?

実際に行われた実験の結果は、「頭だけ」グループに比べ、「スマホでメモ」グループの方が断然に正解率が高かったのです。赤い数字の正解率は17%アップ。しかも、黒い数字はさらに大きく28%もアップしました。

この結果は何を意味するのでしょうか?

まず、ただ記憶するだけではなく、スマホに打ち込むという能動的な「インプット」のプロセスを経たことで、脳のエンゲージメントが高まったため記憶力が上がったという解釈ができます。

ただボーッと見るのではなく、見たものをスマホにインプットするという脳を使う動きで、17%記憶力が上がったというわけです。

インプットの仕方によって最適のやり方を選ぶべき理由

それではなぜ、黒い数字の記憶力もアップしたのか?

ここで注目すべきが、メモを取ることの安心感です。メモが、「大事なことをスマホに入力した」という自信や、「また見ることができる」という落ち着きにつながるというわけです。

そのことで、赤の10分の1しか価値のない黒い数字にも、より多くの意識を向けることができた結果、黒い数字の記憶が28%もアップしたと解釈できるのです。

いずれにしても、17%の記憶力アップ、28%の記憶力アップですから、研究結果は、「スマホを使うことで記憶力がアップした」ことを示しています。

本章の冒頭では「スマホが認知力を下げる」という研究結果を挙げましたが、その真反対の結果が明らかにされているのです。要するにその差は、スマホの使い方の違いなのです。

先に結論を明かしますと、読んでいるのか、聞いているのか、情報のインプットの形によって効果的なメモの仕方が違ってくる。

つまり、情報をインプットする時に、がむしゃらにメモを取っては記憶力の無駄遣いになってしまうかもしれないのです。

インプットの仕方によって最適のやり方を選ぶことで、記憶力をアップさせることができます。

肥満対策や注意力アップにもつながる

スマホの良い影響、二つ目は、「肥満対策」です。

これまで「スマホを使い過ぎると肥満になる」という研究が注目を集めてきましたが、よくよく調べてみるとそうではないということがわかってきました。

前述のメンタル同様、スマホと肥満の関係については、全体の相関を見てみると、あまり関係がないことがわかってきたのです。

それどころか上手な使い方をすれば、スマホの使用が良い影響を与えるという結果も示されてきています。

例えば、日本でも若者に人気のゲーム「ダンスダンスレボリューション」は、普通のエクササイズと同じくらいの運動効果が得られるとされています。さらに、上級者だと、より運動効果が大きいこともわかっています。

また、ゲームですから、楽しんでエクササイズに取り組めたり、運動に関心がない人が取り組みやすかったりすることもわかってきました。ランニングや健康管理アプリも良い結果につながることが示されています。

スマホの良い影響、三つ目は「注意力アップ」です。

スマホでみんながよくやることの一つがゲーム。さまざまな出来事が画面上で目まぐるしく起こる中で、目や手を動かして、瞬時に決断していかなくてはいけません。

そのためゲームには、注意力を高める効果があることが知られています。さらに、集中力や視野、空間認識力などもアップしてくれます。

また、ゲームによっては、画面のいろんなところでいろんなことが起きるのを認識しながら対応しなければいけません。そのため、注意力を複数の事柄に分散させる力もつくことが明らかにされています。

いわば、スマホゲームは、脳にすごく良いのです。これはとてつもない朗報です。

また、子どものみならず、大人もスマホゲームを魅力に感じている人は多い。それには実は科学的な理由があって、ゲームは人間の「心の三大欲求」を満たしてくれるからです。

知られていない検索のポジティブ面

スマホの良い影響が科学的に解明される一方で、スマホのネガティブな面ばかりが強調されてきたのはここまで述べてきた通りです。

言ってみれば、「ネガティブ洗脳」です。そして、スマホのネガティブ洗脳にはいくつかのパターンが存在してきました。

例えば一つの研究論文を取り上げ、悪い影響を示すところだけに注目し、他をいっさい語らない……。他の部分では良い影響も示されているにもかかわらず。

つまり、悪いところだけ論文から「切り抜き」してネガティブ洗脳していくパターンです。

わかりやすい例に、「グーグルエフェクト」があります。必要な情報はいつでもグーグルを使って検索、つまりググれると思っているので、実際記憶しようとしなくなってしまい、覚えが悪くなる、という主張です。

名前もついているくらいなので、ずいぶん拡散された現象なのですが、実はこれは、根拠となる研究論文の全貌を把握していない言説なのです。

確かに論文中には、ググったもの自体は覚えなくていいと思ったので記憶力が下がったという記述がありますが、一方でそのググったものがどこにあるかという記憶は上がっていたということが明示されています。

つまり、ググったあと、そのページのどのあたりにどんなことが書かれていたのか、といった記憶力は、以前よりもアップしていたのです。

要するに、一部の記憶は下がっていたわけですが、その分上がっているところもあった。記憶しようとするものの対象が変わっただけなのです。

それにもかかわらず、記憶が下がった部分だけを「切り抜き」して注目させることで、記憶力全体が下がってしまったかのような「ネガティブ洗脳」が広がってしまったのです。

文/星 友啓 写真/Shutterstock

『脳を活かすスマホ術――スタンフォード哲学博士が教える知的活用法』 (朝日新書)

星 友啓 (著)

2023/10/13

¥891

216ページ

ISBN:

978-4022952370

「スマホはどんどん使いなさい!」
スマホをポジティブに使いこなす人ほど、
心の三大欲求が満たされていきます!

スマホは使い方次第。
長所を知ってアクティブに使えば、脳のニューロン回路の強化で、記憶力&集中力もアップします。
〈インプット〉に〈エンゲージメント〉、〈ウェルビーイング〉に〈モチベーション〉。
スマホの利点を最大活用するメソッドをご紹介。
世界の最新研究に基づくスマホ活用術のすべて!

(目次より)
【はじめに】
スマホをポジティブに捉えれば自分が変わる

【序章】天国か? 地獄か? スマホの現在地
問題視されるスマホの影響
エコーチェンバーが起きやすいスマホ
ウェルビーイングをもたらすスマホ
パッシブではなくアクティブなツール
スマホのネガティブキャンペーンの現在
スマホでできる脳を活かす習慣 etc.

【第1章】知られざるスマホのパフォーマンス
「スマホは怖い」は本当か
スマホのメンタル影響をメタ分析すれば
スマホで記憶力アップ
肥満対策や注意力アップにもつながる
SNSが孤独を呼ぶ? 孤独がSNSを呼ぶ?
スタンフォードの「スクリーンノム」研究誕生
「あなたは、スマホで何をしていますか」 etc.

【第2章】スマホ動画は「インプット」の無双の鍵
スマホは「読む」「聞く」「見る」の最強ツール
速読の達人が本当にしていること
人間の脳は読むのが苦手
ちょうどいい早送りの速度
マルチメディア時代のインプットとは
動画の習慣で避けるべきこと
「リトリーバル」という万能策 etc.

【第3章】スマホゲームは「エンゲージメント」の最強ツール
アクションゲームはやはりすごい
「21世紀スキル」アップの人気ゲーム
ゲームと学びの垣根が崩れてきた
子どもにはYouTubeよりもスマホゲームを
ゲームが育てる成長マインドセット
ボードゲームか? スマホゲームか?
「52分やって17分休憩」のススメ etc.

【第4章】スマホのSNSで本物の「ウェルビーイング」を手に入れる
SNSで発信するか、受信するか
不特定多数より仲間への発信
内発的なハマりと、外発的なハマりの大きな違い
やっかいな現代の「やる気」事情
心の三大欲求を満たしてくれるSNS
SNSの科学的ハピネス習慣
「感謝の科学」でできるスマホメンタル術 etc.

【第5章】持続可能なスマホの「モチベーション」
「スマホ依存」には医学的定義がない
アメリカでは「PSU」という呼び名も
「ゲーム依存」「スマホ依存」の9条件
幼児期のスマホは厳重注意
テクノロジーと距離を取る三つの方法
スマホが満たす「心の三大欲求」
スマホ時間の理想的な減らし方 etc.

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