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地域で愛される人気ラーメン店がまさかの閉店…原材料費、光熱費高騰よりも難しい全国のラーメン店を悩ますある「問題」

集英社オンライン / 2023年11月5日 13時0分

全国でラーメン店の閉店が相次いでいる。物価高騰に伴う原材料費、水道光熱費の値上げによる経営難が原因とされ、その数は過去最多に上る可能性があるという。志半ばでラーメン作りを断念するラーメン店主たちは、どんな思いでこの現状を捉えているのだろうか。

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地域で愛される人気ラーメン店が突然の閉店

今年に入り、世界的な物価高騰による原材料費、水道光熱費の値上げによって毎月のように「ラーメン屋 閉店」のニュースが流れてくる。

東京商工リサーチの発表によると、2023年1月~8月のラーメン店の倒産(負債1000万円以上)が28件(前年同期比250.0%増)に達し、前年同期の3.5倍と大幅に増えている。そのなかのひとつ、神奈川県横浜市金沢区にある「ラーメン 神豚 六浦関東学院前店」もまた、10月29日に11年の歴史に幕を下ろした。

地域で長く愛されてきた「神豚」を運営する株式会社大津家は、社名のとおり神奈川県・新大津で「横浜家系ラーメン 大津家」(2009年9月創業)を運営してきた会社だ。大津家はそのセカンドブランドとして二郎系の「ラーメン 神豚」を2011年6月に横須賀で創業し、今回閉店する六浦関東学院前店は2店舗目として、2012年1月にオープンした。

代表の飯島徹夫さんは横浜家系ラーメンの名店「壱六家」で修行した後、「大津家」をオープン。見た目はクリーミーながら豚骨の骨感をじんわり感じるオールドスタイルな仕上がりで、落ち着いた味わいの家系ラーメンとして人気のお店だ。
ある日、営業の合間にチャーシューを煮た豚のダシや野菜の端材などを豚骨と煮込んでみると、二郎風のスープが仕上がったという。このスープに合わせるタレやトッピングなどを研究し、二郎系の一杯が完成した。これが「神豚」オープンのきっかけとなった。

六浦関東学院前店はもともとは、家系ラーメンのお店があった場所だった。しっかりと常連客のついていたお店だったことや、関東学院大学のキャンパスがすぐ近くということもあり、二郎系にはピッタリの物件だろうということで出店を決定した。

大学生向けに学割を用意し、味玉や麺増量を無料にしたこともあり、たちまち学生たちの間で好評を博した。なかでも、味玉は人気すぎて昼には売切れになるほどだったという。

「オープンから半年は苦戦しましたが、その後は軌道に乗って経営も安定してきました。常連の多いお店で、週2ぐらいで通ってくれる人もいましたね。コロナ禍になる前に売上がピークに達していました」(小寺将宏店長)

しかし、その後、コロナが大打撃となった。

一杯のラーメンに隠された可視化できないコスト

近所の関東学院大学は休校になり、学生客がまったくいなくなった。近くにある日産自動車の追浜工場も、車の生産台数を減らしたことにより出勤する従業員も減った。それは、当然ながら「神豚」の客足にもダイレクトに影響した。

一方で近隣住民がリモート勤務になったことで来店することもあったが、全体的な売上の激減は避けられなかった。

「コロナ禍では助成金で何とか生き延びた感じでした。しかし、助成金が終わった今年の春からまたさらに運営が厳しくなってしまったんです」(小寺店長)

その大きな理由は原材料費、水道光熱費の絶え間ない高騰だ。

小麦、豚、背脂、乾物などほぼすべての原材料費が上がった。特に二郎系のお店では豚骨スープを寸胴で炊き続けるため、ガス代の高騰がダイレクトに原価に響いてしまう。「神豚」では以前より製法を工夫し、強火で炊くことに依存しないスープ作りで課題はクリアしていたが、さすがに今年のガス代の高騰は避けられなかった。

「ラーメンは丼からは見えないコストが本当に高いんです。スープを作り置きするのは難しく、ずっと炊き続けていることによるコストがあります。作り方を変えたり、材料を変えたりするわけにもいかず、原材料費、水道光熱費の高騰によるダメージが直撃している状態です」(小寺店長)

さらには人材不足が重なった。「神豚」に限らず、ここ近年ラーメン店は従業員の募集をかけてもなかなか応募が集まらない傾向にある。各社、労働環境や働き方の改善を図っているが、根強く残るハードワークのイメージが強いようだ。

「募集しても人が来ないんですよね。そこには『ラーメン屋の仕事はキツい』というイメージの問題が大きいです。今の時代、体育会系のスタイルではやっていけないので、どこも働き方は改善しているはずなんですけどね。うちは高校生のときにアルバイトから入ってくれた従業員が、大学に進学してもそのまま続けてくれる子も多いです」(小寺店長)

原材料費、光熱費の高騰以外の大きな問題

「大津家」グループでは、ラーメンの作り方はもちろんだが、接客・ホスピタリティを大事にしている。宅配サービスや冷凍技術の向上、コンビニラーメンの進化など、次々とライバルが増える中、「お店でラーメンを食べる」ことの価値を高めるために飯島代表は注力してきた。

「ラーメン職人は技術職だと思っています。目の前のお客さんひとりひとりに笑顔で美味しい一杯を提供することがお店の価値です。家系ラーメンなら麺のかたさ、味の濃さなど、お好みを聞く。二郎系ならヤサイ、ニンニク、アブラなど、お好みを聞く。オペレーションに負荷をかけないために紙に書いてもらうことも検討しましたが、そうしたホスピタリティが根強いファン作りにつながるし、お客さまもそういうところを見ていると思います。そこは妥協せずにやってきました」(飯島代表)

しかし、そうした流れの中でグループ全体での従業員の入れ替わりが激しく、全店舗を運営していくことが厳しくなってきた。新しい従業員が入っても、一人前に育つまでには長い年月がかかり、その前に辞めてしまうこともある。六浦関東学院前店でもUberEatsを取り入れるなどして売上の改善を図ってきたが、ついにグループ全体のなかで最も売上規模の低い同店を閉店することが決まった。

「コロナ禍以前は、大学の先輩が後輩を連れてきて、次の年になるとそのまた後輩を連れてきて、という伝統のようなものがあったんですが、それがコロナを境にパタリとなくなってしまいました。『やめるのはもったいない』という声も大変多くいただいたのですが、一度幕を下ろすことになりました」(店主・飯島さん)

閉店を発表すると常連客に加えて、関東学院大のOB、昔働いていた従業員が多数訪れ、閉店を惜しんだ。

「近くで働いていてよく来ていたんですが、閉店だと聞いて同僚みんなで食べに来ました」(40代男性)
「閉店と聞いて慌てて食べに来ました。学生のころによく通っていたお店なので本当に寂しいです」(30代男性)

閉店前、「神豚」のまわりはこうした声であふれていたという。

「これからは横須賀中央にある本店に移ります。今は一緒にお店を支えてくれる人を育てる時期。まだまだ諦めていません。いつかまた、時が来たらチャレンジしたいです」(小寺店長)

小寺さんのラーメン道はまだ終わっていない。

#2 原価率50%を超えるこだわりの人気ラーメン店が突然の閉店宣言

取材・撮影・文/井手隊長

原価率50%を超えるこだわりの人気ラーメン店が突然の閉店宣言…物価・地価高騰のあおりで倒産が相次ぐ中、ラーメン店を追い込むもうひとつの深刻な問題とは〉へ続く

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