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射精の回数と前立腺がんのリスクとは関係がない…近年急増している前立腺がんを引き起こす3つの原因とは

集英社オンライン / 2023年11月7日 13時1分

厚生労働省の統計によると、男性のがんの中で最も多いのが前立腺がんだという。近年、特に前立腺がんが発見されることが急増している。なぜ増えたのか? また、射精しすぎると前立腺がんのリスクが上がるという俗説やコレステロール値との関係は? 気になる前立腺がんのリスクについてウチカラクリニック院長の森勇磨先生に解説していただいた。

肥満、中性脂肪、コレステロール値が高いとリスクが上がる

前立腺とは、男性だけが持つ生殖器の一部となる小さな臓器で、膀胱から出た尿道の周りの両脇にあります。
前立腺は精液の一部である前立腺液を作り、精子の活動を活発化したり保護したりしています。前立腺がんの初期は自覚症状はあまり見られませんが、尿が出にくい、排尿の回数が多いといった症状が出ることもあります。進行すると、排尿時に痛みを感じたり、尿や精液に血が混じったり。さらに進行した場合、臀部や腰に転移し、背中や腰の痛み、足のしびれ、下腹部のむくみなどの症状が現れることがあります。



前立腺がんは欧米では男性のがんの中で発症頻度の高いものの一つで、日本でも50歳を過ぎると増えるため、中高年男性にとっては気をつけたいがんです。また近年、前立腺がんを発症する人は増加の一途をたどっています。

そんな前立腺がんのリスクを上げる原因がいくつかあります。

その1つは肥満です。

肥満や低体重の判定に用いられるBMIという数値があります。BMIは[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出される値で、日本肥満学会の定めた基準では18.5未満が「低体重(やせ)」、18.5以上25未満が「普通体重」、25以上が「肥満」に分類されます。

このBMIが高ければ高いほど前立腺がんが見つかりやすい、または大人になってからの体重増加が激しいと前立腺がんのリスクが上がったというデータがあるのです。

肥満と前立腺がんのリスクについては、まだ研究中ですが、脂肪や脂肪分が多い食事が引き起こす「炎症」が前立腺で腫瘍となる細胞を増殖させたり、がんから身を守る免疫機能を下げたりしているのではないかと言われています。

ちなみに中高年が夜中に尿意をもよおす原因のナンバーワンとなっている前立腺肥大症も、実はメタボリックシンドロームの一種ではないのかという仮説もあるので、前立腺と肥満は深い関係にあるといえます。

肥満はほかにもさまざまな病気の原因にもなりますが、BMIが30以上の人は前立腺がんのリスクが高いということも心にとめておきましょう。

もう1つの原因は、中性脂肪、コレステロール値の異常です。

前立腺は体の中でも脂質が集まりやすい臓器です。そのため、健康診断で中性脂肪やコレステロール値が高い人や、油っこい料理が好きな人は前立腺がんのリスクが上がると言われています。

また、60歳以上の男性で中性脂肪が高い人とそうでない人を比べると、高い人のほうが前立腺がんのリスクが2倍になったというデータがあります。ですが、脂質異常症の人に治療を行ったところ、前立腺がんになるリスクが7%下がったというデータもあるので、しっかり治療することでそのリスクを下げることにつながります。

もし、健康診断で脂質の項目が高いなら、無視せず、医師に相談するようにしましょう。

肥満や脂質異常症などの生活習慣病はほかの病気のリスクも上げるので、高脂肪食や摂取カロリーを減らして、運動量を増やすようにするのがおすすめです。

射精回数が多いと前立腺がんのリスクが高くなる?

前立腺がんの原因において、よく話題にあがるのが射精の回数です。

射精しすぎると、前立腺がんのリスクが上がるのでは……と思っている人は案外多いかもしれません。実は射精と前立腺がんの関係について、医学的にはっきり判明しているわけではないのですが、アメリカに興味深い論文があります。

アメリカで約3万人の男性を対象に、月21回以上射精しているグループは、月4~7回のグループに比べて、悪性度の低い前立腺がんになるリスクが約20%下がったという結果になったのです。(※)
これだけでは、射精と前立腺がんの関係を決定づけることはできませんが、少なくとも射精の回数が多いから前立腺がんのリスクが上がるというわけではないということになります。

むしろ、定期的な射精にはメリットもあるので、射精回数と前立腺がんの関係はあまり気にしなくてもいいでしょう。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27033442/

遺伝によるリスクは2.4~5.6倍

最後に、前立腺がんのリスクが上がるのに最も影響があるのは、遺伝です。

遺伝はふだんの生活で対策しようがないことです。
近親者に、前立腺がんの人がいると、前立腺がんになるリスクが2.4~5.6倍に高まることが明らかになっています。

遺伝で前立腺がんのリスクが高いと思われている人はPSA検診で、前立腺がんを早期発見することができます。
PSAとは、前立腺で分泌されているタンパク質(PSA)のことで、前立腺がんになると血液中にPSAが増えるため、前立腺がんの早期発見のためのスクリーニング検査として1990年代から導入されてきました。

このPSA検査が普及したことによって、日本では前立腺がんが急増しました。
つまり前立腺がんになる人が増えたのではなく、検査によって見つかる人が増えたということです。

前立腺がんが早期発見できるので、いいことだと思われがちですが、実はそれほど単純なことではありません。

PSA検診によって前立腺がんの見つかる数は増えたのに、必ずしも死亡率が減っているというわけではないからです。

「前立腺がんはがんの中でも進行が遅いから、余計な検査である」
「過剰な診断につながって不安な思いをする人が多くなる」

という意見もあり、世界でもPSA検診の是非については結論がでていません。

そのためアメリカでは、PSA検診はメリットとデメリットを理解した上で、自分で検査を受けるかどうかを決めるようにアドバイスされています。

遺伝でリスクが高い人にとっては、PSA検診は早期発見、早期治療につながりますし、PSA検診をして、がんが見つかっても進行が遅いことからすぐに手術せず、PSA値が上がっていかないかをチェックする「PSA監視療法」や定期的にMRIで様子を見ていくという選択肢もあります。

また遺伝での発症リスクの心配がない人にとっては、PSA検査があるということを知っておくことが大切です。

日本では55歳ごろから検査項目に入れることを推奨されています。
その年代の人は、PSA検査を受診するかどうかは、自分の体の状態やリスク、メリットとデメリットについて考えてから選択するようにしてください。

残念ながら、前立腺がんの予防について、まだ決め手はありませんが、生活習慣病に気をつけて、前立腺がんのリスクを上げないようにしましょう。

取材・文/百田なつき

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