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「お笑いでも映画でも人とのコミュニケーションでも、すべては“間”。“間”の上手い人って本当にたまんないんだよ」北野武・構想30年の“本能寺の変”に込めたもの【『首』独占インタビュー】

集英社オンライン / 2023年11月18日 11時0分

構想30年、「本能寺の変」を題材に、北野武が監督・脚本、ビートたけし名義で羽柴秀吉を演じる戦国スペクタクル映画『首』。お笑い、映画、小説…多岐にわたって創作活動する北野武が追い求めるものとは。

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きっと信長は自分の狂気に気がついてたんじゃないかな

───それぞれのキャスティングは難しかったんじゃないですか?

資料を読んで史実を信じるなら荒木村重は最後、行方不明なんだよ。なので、今回の設定では独自の解釈を加えてみたんだ。
まぁ、加瀬くんは大変だったと思う。彼は、痴漢をしたのかそれとも冤罪なのかを描いた『それでもボクはやってない』でいくつも賞をもらったけど、それも加瀬くんの役者としての引き出しみたいなもので演じきれてたと思うんだよ。



その後、『アウトレイジ』、そして『アウトレイジ ビヨンド』ではヤクザの幹部を演じてもらい、あれでだいぶ俺に鍛えられて、今回はさらに、あれとは全く違うテンションでの演技をやってもらってるんで、役者冥利に尽きるというのか、挑戦し甲斐があったっていうのか、あるいは酷い目に遭ったと思ってるのかわかんないけどね(笑)。

───海外でもすごく評価されるんじゃないですか?

と思うけどね。
彼の演じた信長のことも諸説あるけど、例えば桶狭間の戦いでは、わずかな兵で今川義元を獲ったときの運のよさしかり。まったく勝機のなかった戦にも勝っちゃったり。ヤケクソになったときの信長っていうのは同時になぜか運も引き寄せてて、途中でいつ死んでもおかしくないくらいの奴なのに、ジャンジャンジャンジャンでかくなっていく。

なんで俺はここまですごくなっちゃったんだって。そしてそれはあるとき、己の出世やら威力に自分自身が追いついていかなかったんじゃないか、っていう感じもあるんだ。幻想に追いつかなきゃいけないというかね。

だから、『信長公記』(織田信長の一代記)では光秀のことを「天下の面目をほどこした」と記しているようだし、野心を持って攻めてきたのがあの光秀だとわかっても、それはしょうがねぇやなって感じで納得したとこもあるんじゃないかと思って。

きっと信長は自分の狂気に気がついてたんじゃないかな。誰も止めらない取り憑かれたようなテンションっていうのを信長は自分自身でも感じてて。「家康を殺せ」とか、天皇もへったくれもあるかって思ってるんだけど、自分も間もなく死ぬぞっていうね。

時代劇では戦国大名の偉大さとかすごさとかいうのを描くけど、あのころの武士や大名なんか知れば、たまたま間違って変なとこに生まれちゃって、なんだかよくわかんない武士という緊張感の中で生きることになっちゃう。運よく戦争に勝ち続けた奴はやがて頭がイってしまって民百姓なんかも平気で殺しちゃうんだ。

───能のシーンも印象的でした。

そこは二十六世観世宗家の観世(清和)さんに来ていただいて、本物の能、観世流『敦盛』を再現したものを撮ったんだ。信長は『敦盛』とか『幸若舞』が好きだったというからね。
まぁ能狂言っていうのはあの世の話だから。信長って、自分が死んだことを想定してて、生きてる現実と死んだ後っていうのが、ごちゃ混ぜになってたんじゃねぇかな。戦国時代って合戦のときにはほとんど死を覚悟でやるんだろうけど、それも別に怖いわけでもなくて、当たり前のように死んでいくっていう感覚はあったんじゃないかと思うんだよ。

───小説のラストシーンも映画のラストシーンも北野節を感じさせてくれます。

映像的には、かなり具体的にいろんなアイディアやイメージもあったんだけどね。様式美じゃねぇとこっていうのをわざとやったんだ。

「俺は日本映画のキャンサー(癌)」から、現在は…

───日本に先駆けてカンヌでも上映しましたが、どの辺に反応されましたか?

たまたまあるシーンで「カット」がかけられなくて、そのまま回しちゃった場面があって。その流れのまま台詞のやりとりになるんだけど、わりとそういうシーンに客はなぜか笑ってんだよね。なんかアドリブ合戦になっちゃってることに気づいたんだかわからないんだけど、そのニュアンスが面白いんだか、結構ウケてくれたよね。

───『首』のごとく、いつか現代の政治家が裏で蠢き、火花を散らすような現代の権力闘争の映画を北野作品で観てみたいものです。

『首』は、時代劇らしき衣装を身につけ、時代劇の映像として槍とか刀を持ってるけど、結構ある部分、ひねくれたヤクザ映画にもなってんだよ。だから、結局人間の本質的な出世とか暗躍とか寝返りとかって、そうしたものはほとんど昔から変わってないんだろうね。というか、裏切りとか陥れる闘争の末に権力ってものが恐ろしく肥大していくんだろうけど、何百年経ってもそこはやっぱり同じようなものだよね。

───25年くらい前に武さんが「俺は日本映画のキャンサー(癌)だ」とおっしゃっいましたが、もはや「太陽」の部分も担っているんじゃないですか?

自分の映画を比喩として映画界の癌のようなものだと言ってただけなんだけど、理屈的に言えば、癌細胞は身体の普通の細胞を駆逐するけど、そもそも最初からおいらの身体全部が癌細胞で出来てたなら、それそのもの全体が強いわけじゃねぇかってふざけた例えがあって。 

おいらみたく癌のような映画を撮り続けてゆくと、しばらくはその病気が厄介に思われる、みたいな。そんなものよりも圧倒的に強い抗生物質のような映画が出てこないと俺の癌ははびこってしまうぞ、みたいなね。

ただ、こういう癌のような映画を打ち破るような正統派の映画が出てくれば、それは素晴らしいもんだと思うけど、そう簡単に癌的映画は克服できないよっていうかね。ペストと同じで原因がどこにあるんだか、なかなかわからないっていうかさ。

───北野映画の何ともいえない独特の味わいとは、相変わらず編集が一番のポイントといえますか?

以前、あるところでとある議論になった際、“間”は映画の編集に関係ないみたいなことを言ってる意見があって、まったくかみ合わなかったことがあったんだよ。“間”の意味もわかんなくて編集するのかという話なんだけれども。お笑いでも、人とのコミュニケーションひとつとっても、すべてのものは“間”なのに。

落語とかお笑いでも“間”の上手い人って本当にたまんないんだよね。その“間”は、料理で言えば出汁なんだ。あらゆる分野に存在する“間”的な意味で。
スポーツやダンスだと“タイミング”というのかもしれないけど。
往年のバッターの王(貞治)さんがフラミンゴ打法で片足を上げたことだって、ほかの人とは“タイミング”やら“間”が違うわけじゃん。でもドンピシャのタイミングを取るためにああなっちゃったってのがあるから。

「映画の編集の間が面白いね」って言われるのは、その“間”に気がついてるってことだからわかってくれてる。それはありがたいっていうかね。普通の人は映画を観て「面白かったね」って言ってくれるけど、その原因が何なのかはわかんなくて、それが実は“間”だってことに気がついてなかったりする。

仮に、そこで描いた“間”を取らずに編集してしまったとしたら、さぞつまらない映画になるぞっていうことにも気がついてない。まぁ観る側だからいいんだけど作るほうにとっては、この“間”を挟んだことに気づかれないように、ちゃんと“間”を取ってるっていうかね。なかなか表現が難しいんだけど、そこが隠し味みたいなもんなんだ。

───待ちに待たされた本作です。すべての読者へメッセージを!

これまで大河ドラマとか多くのメディアでこの世界を描いた作品はあるけれど、それらはあくまでもお茶の間の皆さんの期待に沿った純然たる物語であって、主人公は色男で、かっこいいエンターテインメントとしての役割を果たす標準だった。

反面、お金をいただいて映画を観せるとなったときに、実はこんな強烈な世界もあったんじゃないのか?というような、従来のイメージも払拭して描くっていうのを大きなバジェットでやってみたってとこかな。

前編はこちら

取材・文/米澤和幸(lotusRecords)
撮影/尾形正茂(SHERPA)

◆北野武 profile
『その男、凶暴につき』(89)で映画初監督。以降『3-4x10⽉』(90)、『あの夏、いちばん静かな海』(91)、『みんな~やってるか!』(95)、『キッズ・リターン』(96)と続けて作品を世に送り出し、『HANA-BI』(98)は第54回ヴェネツィア国際映画祭で⾦獅⼦賞を受賞した他、国内外で多くの映画賞を受賞。『菊次郎の夏』(99)、⽇英合作『BROTHER』(01)、『Dolls』(02)に続き、『座頭市』(03)は第60回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅⼦賞を受賞。以降『TAKESHIS'』(05)、『監督・ばんざい!』(07)、『アキレスと⻲』(08)、バイオレンス・エンターテインメント『アウトレイジ』シリーズ3部作(10,12,17)等を監督。『⾸』は6年ぶり、19作⽬の監督作品。

『首』(2023)上映時間:2時間11分/R15/日本


◆ストーリー
天下統一を掲げる織田信長(加瀬亮)は、毛利軍、武田軍、上杉軍、京都の寺社勢力と激しい戦いを繰り広げていたが、その最中、信長の家臣・荒木村重(遠藤憲一)が反乱を起こし姿を消す。信長は明智光秀(西島秀俊)、羽柴秀吉(ビートたけし)ら家臣を一堂に集め、自身の跡目相続を餌に村重の捜索を命じるが……
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2023年11⽉23⽇(⽊・祝)全国公開
製作:KADOKAWA
配給:東宝 KADOKAWA
ⓒ2023 KADOKAWA ⓒT.N GON Co.,Ltd.

公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/kubi/

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