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Aマッソ加納がスカートめくり後に仲良くなった女芸人「生きるのがうまくて、生きるのがヘタだった」ブレイク前夜のフワちゃん秘話

集英社オンライン / 2023年11月16日 18時1分

お笑いコンビ・Aマッソの加納さんが、自身にとって2冊目となる最新エッセイ『行儀は悪いが天気は良い』を上梓した。生まれ育った大阪の話や、お笑い芸人を志した理由が赤裸々に綴られている本書から、加納さんが一番最強だと評する友だち、フワちゃんについて書かれた章を一部抜粋・再構成してお届けする。

後輩として知り合った友だち

ほんの何年か前、意味や意義だけに囲まれたいというキショい思想をこねくり回して淀んでいた時、風穴を開けるかのように、突然ぽんっと友だちができた。硬そうな生地の、ひらひらしていないミニスカートを穿いていた。

前の日まではそうじゃなかったのに、今日からは友だち。友だちは仲良し。仲良しは共有。行動、思考もろともね。共有っていうのは容赦がない。昨日までの他人と己をシェアしていく。友情には己の軽量化が必要だ。いや、そんなわけはない。なぁなぁ友だち〜、これについてはどう思う〜? え〜知らな〜い! そんな会話だって自由自在だ。



初めて会ったのは、ネタ番組のオーディション会場にあるトイレの洗面台だった。無防備な場所でふいに目が合い、向こうから「はじめまして!」と挨拶をされた。その言い方があまりにぎこちなく、語尾にも締まりがなくて、「はじめまして」なんてかしこまった挨拶は言い慣れてないんだろうなと思った。

私はとっさにしゃがみ込み、何の気なしにスカートの中を覗いてみた。おそらく「ちょっと、え、ちょっと!」が来るだろうなと思った。でもその子はひとつも嫌がらずに、逆にパンツが見えやすいよう「ほれ!」と言いながら裾を上までまくりあげた。私は驚いて「なんでやねん!」と言って、お互い我先にと笑った。ほんの5秒ほどの出来事だった。でもたったそれだけで友だちの下地が完成した。

笑ったのだからもう名前なんてどうでも良かったけど、その子は改めて自己紹介をしてきた。コンビ名も芸名もふしぎな名前だった。それにしても、名前よりも先にパンツの柄を知るなんて、今思い返しても最高にふざけた出会い方だ。私のことは知っていたようで、友だちは、その時はまだ「後輩」って名札をつけていた。

何枚書いてきてると思ってんの!

その子は、これ以上ないくらい理想的な友だちだった。面白くて、明るくて、チャレンジング。そしてとびっきりの悪ガキ。常に新しい遊びを提案してきてくれる。まるで私が頭の中で作りだしたアニメのキャラクターみたいだった。私の言う誰かの悪口にも同じ熱量で相槌を打ってくれたし、怒れば怒るほど楽しそうにノッてくる。

そして「加納さんと遊んだあとは口が悪くなってるって相方に怒られるんだけど!」と、むちゃくちゃな責任をなすりつけてきたりした。漫画を読むのに夢中になって手に持ったまま舞台に出て行ったこともあるし、面識のない大御所の楽屋を興味本位でノックしに行っていたこともある。生きるのがうまくて、生きるのがヘタだった。

一度ライブの帰りに「ラーメン食べて帰ろうか」と誘うと、「行く行く!」と楽しそうに店についてきたはいいものの、のろのろとまずそうに食べるので「あんまりお腹減ってなかった?」と聞くと、「ちがうんです、さっき飴を1袋食べちゃって今口の中の皮がベロベロなんですよ!」と聞いたことのない不調を訴えてきた。

映画を見に行ったときは、終わった瞬間「あんま意味わかんなかった!」と大きい声で言い、なぜか同じアイスを2個買って食べていた。「このアイス美味しくておすすめですよ、ハマってるんです」と言ったので、「いつからハマってるん?」と聞いたら、「今日のお昼です」と飄々と答えた。

事務所ライブのリハーサル中に、ふざけていたことをマネージャーに怒られ、反省文を書かされることになったその友だちは、「ねえ見て! めっちゃ反省してる感じ出てて最高じゃない?」と、文章をまるごと送信してきた。

見てみると確かに素晴らしく見事な、非の打ち所のない反省文だった。彼女いわく、「まずは謝罪文、そして怒られたことを反省している文、それに加えて、悪いことと気づけなかった自分の認識の甘さすらも反省している文」の三段構えが効果的で、これを「普段とはちがう丁寧な筆致で綴る」ことによって、「より上のやつに響く」らしかった。

「なんでこんなに反省文うまいん?」と聞いたら、「今まで何枚書いてきてると思ってんの!」と得意げに言った。それまで授業中にお菓子を食べたり、机の上に乗って担任の先生に飛びかかったりするたびに、彼女は少しずつ反省文の腕をあげていったらしい。

私に教えてくれた学生時代のエピソードの中の彼女は、もうほとんど猿だった。「猿やん」と言ったら「せやねん」と言った。「せやねんやあらへんで」「ほんまやで!」へたくそな関西弁すら、舌先で転がして遊んでしまう。

何かを失った人間の中で、一番最強

ある年の夏、数人で「海で遊んでその帰りに花火を見よう」という楽しい計画を立てていたが、前日になって彼女は絶望の表情を浮かべ、「どうしてもネタ合わせをすることになってしまった」と告げてきた。なんでも、今までコンビでのネタ合わせをサボりにサボり、ここへきて相方をカンカンに怒らせてしまったとのことだった。

日にちをずらすことも考えたが、他のみんなのスケジュールがこの日しか合わなかったので、結局「もしネタ合わせが早めに終わったら途中で合流しよう」ということになり、彼女以外のメンバーで遊びに出かけた。

しかし行きの車内でも、「ネタ合わせちゃんとやってるかな」「今ごろ海行きたすぎて暴れてるんじゃないですかね」と、彼女の話で持ちきりだった。どんなコミュニティであっても、求心力のある人間はその場にいなくても、話題の中心になるのだった。

夕方頃、海からあがって携帯を開くと、彼女から「体調が悪くなった演技に成功したから花火から合流する!」と連絡がきていた。海までで帰る予定だった子も、その連絡を受けて花火まで残ることになった。

河川敷の人混みの中で、周りをなぎ倒すように走って近づいてきた彼女は、囚人が出所したときよりも解放感に満ち溢れていた。その空気に呑まれ、なぜかみんなも数年ぶりの再会を果たしたように彼女を盛大に迎えた。

そしてまもなく打ち上げられた花火に向かって、彼女は血走った目で咆哮していた。私は花火には目もくれず、その雄叫びを聞いて腹が痛くなるほど笑っていた。いや、どんだけネタ合わせ嫌やってん。ほんじゃあなんで芸人なってん。ほんで今なんで吠えてんねん。

私は笑いながら、彼女の荒唐無稽な生き様を前に、自分が生み出すフィクションの種が吹き飛んでいくような感覚に陥った。脳内で作り上げたコントの主人公が、彼女を越えられる気がしなかった。そしてこういう人こそが、人前に立つにふさわしいんだと強く思った。

その後も彼女は、ネタ合わせサボり事件、丸ごとセリフ飛ばし事件、事務所の重役に中指立て事件と悪行を重ね、堪忍袋の緒が切れた相方にいよいよ解散を言い渡されることになった。しかし夜の公園で解散話をしているときも、得意の嘘泣きで責任を逃れたらしく、「おかげで話す時間短くて済んだラッキー!」と言っていた。解散した彼女は事務所もクビになったが、もはや何かを失った人間の中で、一番最強だった。

みんなの友だち・フワちゃん

ピン芸人としてゼロからのスタートになるはずだったが、時代は令和。その全てが彼女に味方した。感度の良い彼女はすぐにYouTubeを始め、SNSを巧みに使いこなし、あれよあれよという間に全国的な人気者になった。

なにかと鬱屈した現代に生きる視聴者は、自分たちが到底できない規格外の行動、ぶっ飛んだ発言、独自のファッションをまとう彼女を驚きと羨望の目で見ながら、どこかでこんな子を待ち望んでいたのかもしれないと思った。

そうして私たちの友だちは、みんなの友だち・フワちゃんになった。私は自分のこと以外で、これほど痛快な気持ちになったことはなかった。

フワちゃんが有名になりはじめてしばらくした頃、一緒にタイへ旅行に行った。 YouTubeの動画編集を自分で手がけていたフワちゃんは、ワット・ポーと呼ばれるバンコク最古の王宮寺院の中でも、地面に座り込んで編集していた。あまりの不遠慮さに笑っていたが、もうネタ合わせをサボって遊んでいた頃の芸人ではなくなっていることに気づいた。


自分の手で道を切り開いていくために仕事を一番に優先している様子をみて、私は頼もしく思った。滞在中に軽い熱中症になって体調を崩したフワちゃんは、スイカジュースを20杯ほど飲み、その様子をSNSにあげるとファンから「スイカはカリウムが入ってるから逆に脱水症状になるよ!やめな!」とコメントで説教されていた。本当に全国に友だちができたんだと思った。

今は街中の看板で、コンビニで、あらゆるところでにっこり笑ったフワちゃんを見ることができる。そんな世界がこのままずっと続けばいいのにと思う。そしてそこで自分も同じ仕事をしていければ、こんなに嬉しいことはない。

先日、お昼の情報番組で久しぶりに共演できたが、VTR中に喋りすぎて別の共演者に「私語しないで」と注意された。スタジオも彼女がいれば教室の後ろの席になる。こんなことではお互い仕事を失うかもしれない。でももし昔みたいに何かやらかして仕事がなくなったとしても、そのときはまた無限に遊べるからOK、なんなら少しそれを待ち望んでいる自分もいる。「さいあくぅ!」という声が聞こえる。

『行儀は悪いが天気は良い』(新潮社)

加納愛子

2023/11/16

1,540円

207ページ

ISBN:

978-4103553717

何にでもなれる気がした「あの頃」を綴った、Aマッソ加納、待望の最新エッセイ集!
実家に出入りしていたヤバいおっちゃんたち、突然姿を消した憧れの同級生の行方、「天職なわけではない」と言い切る芸の世界を志した理由、「何かを失った人間の中で一番最強」な親友・フワちゃんの素顔……。生まれ育った大阪から多感な学生時代、芸人としての日常まで、懐かしくて恥ずかしくて、誇らしくて少し切ない24編を収録。

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