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国民生活を犠牲に「2類相当」を維持して感染症ムラに補助金を投入し続けた厚労省…世界とは異なる〝専門家〟が新型コロナ対策を仕切った日本の不幸

集英社オンライン / 2023年11月30日 8時1分

日本のコロナ政策では厚生労働省の医系技官と、同省に重用される専門家会議のメンバーの力不足が露呈したというが、なぜそのように迷走してしまったのか。その原因を考察する。『厚生労働省の大罪-コロナ政策を迷走させた医系技官の罪と罰』 (中公新書ラクレ)より、一部抜粋、再構成してお届けする。

感染症ムラに補助金が投入され続ける

日本国民にとって不幸だったのは、感染症分科会が、必ずしも科学者として世界標準に則った意見を述べるのではなく、結果的には厚生労働省の対策を追認してしまったことだ。

彼らは、世界的にPCR検査数を増やすことが新型コロナの感染を抑える重要な方策だということが分かった後も、PCR検査数を増やそうとする首相の意向に結果的には応えなかった。



政府は2020年7月、「骨太の方針」の中に、PCR検査について「医療従事者や入院患者、施設入所者等に対して、感染の可能性がある場合には積極的に検査を行う」と盛り込んだ。

ところが、感染症分科会は、濃厚接触者と認定されなかった無症状者に対する検査を公費で実施しない方針を取りまとめ、実質的にPCR検査数を抑制した。

検査をするかしないかは、本来は、医師と患者が決めるべきものだ。それなのに厚生労働省は、無症状者には検査は不要と医療・介護従事者へのPCR検査の法定化を見送った。

そして、2022年12月末になっても、「2類相当」を維持して、感染症ムラに補助金が投入され続けることに結果的に加担した。

潮目が変わりそうだったのが、2020年6月だ。

前面に出て「3密回避」「人との接触8割減」「新しい生活様式」を打ち出す一方で、PCR検査を抑制する専門家会議に問題があるとみた政府は、突然、「位置づけが不安定だった」との理由で同会議の解散を決めた。

6月24日、その当時の新型コロナウイルス感染症対策担当大臣の西村氏は、専門家会議を解散し、感染症分科会を設置すると発表した。

その際、専門家の入れ替えを模索するとも聞いたが、結局、西村担当相が別の専門家チームを揃えられなかったこともあり、法的根拠を与えられ設置された感染症分科会は専門家会議と顔ぶれはあまり変わらなかった。

医系技官の政策を官僚的に追認していただけの可能性

ただ、決して、日本に、新型コロナ対策に適任の一流の研究者が不在なわけではない。

例えば、東京大学名誉教授、米国のシカゴ大学名誉教授で国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所理事長の中村祐輔氏は、遺伝子レベルのがんの個別化医療の先駆けを作った医師であり研究者で、世界的にもノーベル生理学・医学賞候補として常に名前が挙がると言われる存在だ。

PCR検査や変異ウイルスの解析はゲノム医学抜きでは語れなくなっており、正に、新型コロナウイルス対策には適任と言える。しかし、結局、中村氏が新型コロナ対策の専門家に名を連ねることはなかった。

この3年間の専門家会議や感染症分科会の提言を追ってみると、彼らは利権の保持や恩返しにこだわったわけでも政府に逆らおうとしたわけでもなく、大真面目に専門家の代表として、医系技官の政策を官僚的に追認していただけの可能性もある。

悪気はないように思えるが、日本のパンデミック対策のトップの座に留まりながらも、様々な判断の過ちを認めなかった点で罪深いのではないだろうか。

専門家集団の中に中村氏などしかるべき人物が入っていたら、ここまで新型コロナ対策は迷走しなかったはずだ。

新型コロナは世界各国にいっきに広がった感染症であり、日本だけの独自対策などあり得ない。

世界の公衆衛生や感染症対策の専門家たちは、国際的な医学専門誌に掲載された新しい論文を読み、独自のネットワークを駆使して情報交換をして、自国の新型コロナ対策に貢献した。

新型コロナで露呈した日本の力不足、アメリカのコロナ対策トップは本気で闘った

米国政府の首席医療顧問を2022年12月に退任したアンソニー・ファウチ・国立アレルギー感染症研究所長などは、身の危険を感じるほどの嫌がらせをされても、ドナルド・トランプ前大統領との対立を恐れず感染症対策の専門家としての姿勢を貫いた。

2020年4月には、トランプ前大統領が打ち出した外出緩和策に反対を表明し、抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンを新型コロナ治療に使うことついても「科学的根拠がない」と却下した。

トランプ前大統領がバイデン大統領に敗れたのは、ファウチ氏がトランプ氏の新型コロナ政策の失敗を印象付けたことも大いに影響しているのではないだろうか。

ファウチ氏は、未だにトランプ支持者などにインターネット上で攻撃されているが、退任表明後のインタビューでは、「トランプ前大統領をはじめ、COVID-19の懐疑論に直面しながらも、どのように冷静さを保ってきたのでしょうか」という質問に対し、次のように答えている。少し長いが、その一部をここに引用したい。

私は科学者であり、公衆衛生担当者でもあるので、エビデンスとデータに従うしかありませんでした。これらは時間とともに進化し、私たちの対応も進化しました。新しい知識が得られるにつれて、ウイルスに対するアプローチを変えなければなりませんでしたが、これはトランプ前大統領とその周囲の特定の人々によって、非常に複雑化しました。

例えば、ヒドロキシクロロキンが有効な治療法であると根拠もなく前大統領が主張したことです。私は科学的かつ個人的な誠実さを保ち、アメリカ人、そして世界に対する責任を果たさなければならず、これについては公に反論する以外に選択肢がなかったのです。

そのため、問題が生じ、多くのトランプ支持者の目には私が敵に映るようになった。私に対して、私の家族に対して行われた脅迫は、前代未聞のものであり、容認できるものではありません。他の公衆衛生担当者も脅されているため、私1人ではありません。私がこの仕事を始めたとき、武装した特別捜査官から24時間態勢で警護される必要が生じることになるとは、決して思っていませんでした。

しかし、このような状況にもかかわらず、仕事に行きたくない、仕事をしたくないと思ったことは一度もありません。それどころか、このまま公衆衛生に専念しようという気持ちがさらに強くなりました。他のことは雑音や気晴らしに過ぎず、私はそれをほとんど排除することができたのです。
(『ランセット』2022年10月8日、トニー・カービー氏によるインタビュー)

私自身、米国やヨーロッパの国々の新型コロナ対策がすべて正しかったと主張するつもりはない。

ただ、世界中に新型コロナという同じウイルスがいっきに広がったために、これまで明確にはなっていなかった、厚生労働省の医系技官と、同省に重用される専門家会議のメンバーの先生方の力不足が露呈してしまったのは事実だ。

権力は科学的な正しさを保証しない。ガリレオ・ガリレイは、我が身を捨ててまで、科学的な正しさにこだわった。これが世界の科学者の規範だ。

世界では、専門家がネットワークを構築し、新型コロナ対策を推し進めている。

一方、結果的に多くの場面で厚生労働省の方針を支援し、独自の考えでガラパゴス的にやろうとした日本の専門家会議・感染症分科会の面々が迷走したのもむべなるかなだ。

文/上 昌広 写真/Shutterstock

『厚生労働省の大罪-コロナ政策を迷走させた医系技官の罪と罰』 (中公新書ラクレ)

上 昌広 (著)

2023/10/10

¥946

240ページ

ISBN:

978-4121508027

総理が命じても必死でPCR検査を抑制。執拗に感染者のプライベートを詮索。世界の潮流に背を向け、エアロゾル感染は認めない……。いまとなっては、非科学的としか思えないあの不可解な政策の数々はなんだったのか。だいたい、あの莫大なコロナ関連予算はどこに消えたのか。新型コロナは、日本の厚生行政とムラ社会である医療界が抱えてきた様々な問題を炙り出した。医療界きってのご意見番が、日本の厚生行政に直言する!

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