1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 芸能総合

なぜアメリカ人はアジア人を嫌悪するのか。映画『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』から透けて見える差別の構造と背景にある白人メンタリティ

集英社オンライン / 2023年11月17日 12時1分

「次世代のタランティーノ」の異名をとるアナ・リリ・アミリプール監督の新作映画『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』が話題だ。ヒロインが超能力者という設定なので、ありがちなサイキック・ホラーと勘違いしてしまいそうだが、実はまったく異なる見方ができる社会派ドラマでもある。映画の裏に隠されたメッセージとは……。【※本記事では映画『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』の内容や結末に触れています。ご注意ください】

表面的なストーリーの展開を追うと……

病院から脱走し、身ひとつでニューオーリンズの街へやってきたチョン・ジョンソ演じるモナ・リザ

主人公は、12年間ニューオーリンズ郊外の精神病院に隔離されてきた韓国系の女性モナ・リザ(チョン・ジョンソ)。皆既月食で月が血のように赤いブラッドムーンになった夜、頭の中で思った通りに他人の行動を制御できる超能力を身につける。



長年虐待してきた看護師を操り、拘束衣をほどいて病院からの脱走に成功したモナ・リザは、街へ出て、ハンバーガーショップで出会ったストリッパー、ボニーの家に居候することになる。

ストリッパーのボニー(右)を演じたのはケイト・ハドソン

11歳の息子チャーリーと暮らすシングルマザーのボニーは、モナ・リザの特殊能力を使い、ATMから現金を引き出した老人のお金を自分に渡させることに成功する。それ以降、効率よく現金を手に入れる道具としてモナ・リザを利用し始める。

モナ・リザを追うハロルド巡査を演じたのはクレイグ・ロビンソン

精神病院患者脱走の報せを受けて捜査を開始した黒人のハロルド巡査は、「白人とアジア系の2人の女性から催眠術のようなものをかけられてお金を取られた」という被害者たちの証言から、そのアジア系女性が脱走患者に違いないと行方を追う。

裏側にあるもうひとつのストーリーとは?

まず、モナ・リザはなぜ12年間も精神病院に入れられていたのか? 10歳のときに「出生証明書を持たない政治的亡命者」としてアメリカへやってきた彼女だが、何度も「里親制度の利用資格」を申請、その都度「不承認」とされてきたことがファイルに記されている以外、詳しい事情は描かれていない。

だが、少なくとも彼女を「劣悪な環境から救い出さなくてはならない」と考えてくれるような人が周りにいなかったことは確かだ。看護師は「アジア人だからろくに英語も理解できないだろう」とばかりに彼女を「Stupid!」呼ばわりし、平気で虐待をする。その背景には、「なぜ自分たちが払っている税金でアジア人を世話しなくてはならないのか」という白人としての不満があるのかもしれないと想像させる。

モナ・リザの特殊能力を使い、ストリップ・バーの客からもチップを強引にせしめるボニー

雑貨屋の店員もストリップ・バーの客の白人男性たちも、みなモナ・リザに対する視線は冷ややか。ボニーがモナ・リザに宿を提供するのも、親切心からではなく、彼女から搾取しようとしているからだ。

その証拠に、ハロルド巡査に追いつめられると「現金強奪はモナ・リザの仕業で自分は関係ない」と言い繕い、「こんな女のことは知りもしない」と逃げてしまう(ただし、ボニーを演じるケイト・ハドソン自身はリベラル派で、日系4世のボーイフレンドとの間に一児をもうけている)。

背景には、アメリカ社会におけるアジア人蔑視があることが画面の端々から感じられるし、アジア系移民のせいで仕事を奪われ、社会的にも経済的にも不当に低いポジションに置かれている、という白人たちの意識もまた透けて見えるのだ。

コロナ禍で激しさを増したヘイト・クライム

移民大国アメリカでは、先に入植したWASP層(アングロサクソン系白人のプロテスタント)が社会の主要な職業や地位を独占しており、後から入植したアイリッシュやイタリア系は職業が限られ、更にその下にアジア系、奴隷として連れてこられた黒人がいるという社会構造が厳然として存在する。

アジア系移民排除の論理である「黄禍論」は昔からあり、太平洋戦争中に、たとえアメリカ国籍を持っていても日系人を収容所に入れたのは、そういう白人メンタリティゆえのこと。

さらに、トランプ前大統領が新型コロナウイルスを「チャイナ・ウィルス」と呼ぶことで、アメリカ国内で存在感を増していた中国製品、中国企業、そして中国人への反発に転換させたことも大きい。実際、コロナ禍での北米におけるアジア系住民に対するヘイト・クライムは大きな問題となった。

そして、映画に登場する女性警察官がモナ・リザの顔写真を見て「この中国人は……」と決めつけていたように、白人たちにとって、中国人も韓国人も日本人も見わけがそうそうつくはずもなく、アジア人はみな同じなのだ。

ここから先は【ネタバレ】要注意!

髪型を変えたモナ・リザは、チャーリー(右)とニューオーリンズ脱出を試みる

物語の終盤、偽造パスポートを入手したモナ・リザは、新しい生活を夢見る少年、チャーリーとともに別の街へ行こうと決意する。ところが土壇場で母親を見捨てることはできないと思い直したチャーリーが、モナ・リザを無事に飛行機に乗せるため、近くにいた身なりのいい別のアジア人女性の腕をつかんで「ボクはこの人に誘拐された!」と大声で叫んで警官の注意を引く。

すると傍にいた警官は、その女性を問答無用で拘束するのだ。拘束された女性は「アジア人の女性はみな同じに見えるわけ? とんでもない人種差別よ! SNSで拡散してやる!」と息巻くが、それはイラン系移民の家族の元に生まれ、「よそ者であることを常に自覚していた」という監督自身の想いが反映されている。モナ・リザが新生活に一歩踏み出す希望を描きながらも、差別や偏見は簡単にはなくならない、という感覚を雄弁に物語るセリフだ。

アミリプール監督自身、「アメリカで育った私は、自分の本当の居場所はどこなのだろうと、いつも考えていました。そんな子ども時代の私に力を与えてくれたのは、ファンタジー映画に登場するヒーローでした」と語っている。モナ・リザというキャラクターを描くことは、「スーパーヒーローを創造するような感覚だった」という。

今年5月に日本で公開された『ソフト/クワイエット』(2022)が、アジア人に対するヘイト・クライムを行ってしまう側から描いた問題作だったのに対し、本作はヘイト・クライムを受ける側が、「こんな風に反撃できたらいいのに」と感情移入できる形で描かれた作品といえるかもしれない。


文/谷川建司

『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』(2022) 上映時間:1時間46分/アメリカ


少女の名前は、モナ・リザ(チョン・ジョンソ)。だけど、決して微笑まない。12年もの間、精神病院に隔離されていたが、赤い満月の夜、突如“他人を操る”特殊能力に目覚める。自由と冒険を求めて施設から逃げ出したモナ・リザが辿り着いたのは、サイケデリックな音楽が鳴り響く、刺激と快楽の街ニューオーリンズ。そこでワケありすぎる人生を送ってきた様々な人々と出会ったモナ・リザは、自らのパワーを発揮し始める。いったい彼女は何者なのか。まるで月に導かれるように、モナ・リザが切り開く新たな世界とは?


11月17日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほかにて公開
配給:キノフィルムズ
© Institution of Production, LLC
公式サイト:https://monalisa-movie.jp

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください