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ウクライナ支援のために伝説のロックバンドが28年ぶりに新曲を発表! 反戦ソング、チャリティーイベントはいかに作られてきたか。

集英社オンライン / 2022年5月25日 16時1分

ロシアのウクライナ侵攻に対して、世界中の文化人や著名人が反戦を訴え、ウクライナ国民への支援を表明している。そんな中、世界的な大物アーティストも、次々にメッセージを発信し始めた。これまでもポップスやロックの歴史と歩みを共にしてきた、反戦ソングやチャリティーイベントを解説する

伝説のロックバンドがウクライナ支援で28年ぶりに新曲を発表

ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し、世界中の文化人、著名人らが反戦を訴えている。そんな中、音楽界でいち早く大きな動きを見せたのが、英国の伝説的ロックバンド、ピンク・フロイドだ。

ピンク・フロイドといえば、代表作の『狂気(The Dark Side Of The Moon)』が米ビルボードのアルバム・チャートに15年間(741週連続)ランクインしていたことでも知られる。



このアルバムで「タイム」や「マネー」といったメッセージソングを投げかけたのを皮切りに、人間を動物に喩えて痛烈な社会批判を行なった『アニマルズ』(77年)や、社会の分断をテーマにした『ザ・ウォール』(79年)などで世界的人気を得てきた。

近年はライヴツアーやカタログ作品のアーカイヴ、メンバーのソロ活動などが中心だったが、ロシアによるウクライナ侵攻が始まると、ウクライナ国民の勇気ある行動に心打たれたメンバーが、「自分たちの地位や名声を大義のために活用したい」と立ち上がり、28年ぶりとなる新曲「Hey, Hey, Rise Up」を完成させたのだ。

提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

きっかけはウクライナの人気歌手、アンドリーイ・クリヴニュークがロシア軍の進行に抗議するために、SNSに歌を投稿したことだった。

ロシア軍の侵攻開始から数日後、アンドリーイは領土防衛隊に転身。キーウの広場で迷彩服のまま祖国のフォークソングを熱唱し、動画をインスタグラムに投稿。その後、その歌にピンク・フロイドが演奏をつけ、世界中に配信したのだ。

ウクライナの人気歌手、アンドリーイ・クリヴニュークが歌う姿が、ピンク・フロイドのギタリスト、デヴィッド・ギルモアの目にとまったことで作られた28年ぶりの新曲「Hey, Hey, Rise Up」

約30年間、目立った活動をしてこなかった世界的ビッグネームが、ウクライナ支援に立ち上がり、突如新曲を発表したことは、世界中の音楽ファンを驚嘆させた。その収益はすべて、ウクライナ人道支援に充てられるという。

世界的アーティストが“Stand Up For Ukraine”に集結

他にもスティング、U2ら大物が人道的支援のために動画を公開。さらにU2のメンバーは、SNSとネットで展開された支援キャンペーン“Stand Up For Ukraine”に、ビリー・アイリッシュやマドンナ、ボン・ジョヴィ、ブルース・スプリングスティーンらと共に参加。

彼らが世界の指導者や企業リーダーたちに避難民への資金援助を呼びかけたことで、総額 100億ドル以上を集めたという。また、U2のボノ(Bono)とジ・エッジ(The Edge)は、5月8日、ウクライナのキーウを電撃訪問し、現在は防空壕となっている地下鉄の駅構内でミニ・ライヴを敢行。戦地の人々を激励した。

一方、クイーンはフレディ・マーキュリー没後の2008年にポール・ロジャースのボーカルで、ウクライナのハルキウで行なったライヴの映像を『ライヴ・イン・ウクライナ』としてYouTubeで公開。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)への寄付を募っている。

こうした動きと呼応するように、ウクライナからも動きが。現地ロックバンドBetonが英国パンクを代表するザ・クラッシュの名曲「ロンドン・コーリング」をカヴァー。歌詞をウクライナの現状に書き換えて、「キーウ・コーリング」として発表したのだ。

ザ・クラッシュは社会的少数者の保護を訴える活動で世界的に支持されたイギリスのロックバンド。「ロンドン・コーリング」はパンクミュージックにおける代表的なアルバムとして知られる(提供/ソニー・ミュージックレーベルズ)

ザ・クラッシュは、多くの社会活動を続けたパンク・レジェンドとして知られており、その精神を受け継いだBetonの勇気ある行動に絶賛の声が寄せられている。ちなみにBetonのメンバーは現在、防衛隊として祖国防衛のために戦っていると伝えられている。

今なお語り継がれる「ウッドストック・フェスティヴァル」

こうした反戦ソングやチャリティーイベントは、これまでもポップスやロック史と歩みを共にしてきた。

なかでもロック・シーン最大の平和イベントが、今から約50年前の1969年8月に愛と平和をテーマに開催され、ベトナム反戦に影響を与えた「ウッドストック・フェスティヴァル」である。

ニューヨーク州サリバン郡の農場で行われ、若者やヒッピーら約40万人が集結。出演者にはジミ・ヘンドリックスやジャニス・ジョプリン、ジェファーソン・エアプレイン、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングなど錚々たる顔ぶれが並び、60年代米国のカウンターカルチャーを象徴するイベントとなった。

その模様は、『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』というドキュメンタリー映画として公開されている。

対して、世界で最初の大規模チャリティーイベントとされるのが、1971年にニューヨーク ・マディソン・スクエア・ガーデンで開催された「バングラデシュ・コンサート 」だ。タイトル通り、バングラデシュの人道的危機に対するチャリティーで、元ビートルズのジョージ・ハリスンが提唱。ボブ・ディラン、エリック・クラプトン、リンゴ・スター、レオン・ラッセルなどが出演し、ライヴ・アルバムや映像作品も作られた。

20世紀最大のチャリティー・コンサート「ライヴ・エイド」

そして20世紀最大のチャリティーコンサートとされるのが、クイーンの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』でもフィーチャーされたことで記憶に新しい、アフリカ難民救済を目的とした「ライヴ・エイド」である。これは1985年7月13日、ロンドンのウェンブリー・スタジアムと米フィラデルフィアのJFKスタジアムで同時開催され、当時のトップ・スターがズラリ勢揃い。

クイーンの他にもレッド・ツェッペリンの再結成、ポール・マッカートニーの出演、フィル・コリンズがコンコルドで大西洋を越え、英米双方のスタジアムで演奏するなど、大きな注目を浴び、20世紀最大のチャリティー・コンサートになった。

ちなみにこの「ライヴ・エイド」の伏線になっているのが、エチオピアで起こった飢餓を受け、イギリスとアイルランドの著名アーティストが集まったチャリティー・ユニット「バンド・エイド」(1984年)と、その米国版となる「USAフォー・アフリカ」(1985年)だ。

特に後者は、名だたる大物プロデューサーであるクインシー・ジョーンズ指揮の下、マイケル・ジャクソン、ライオネル・リッチー、スティーヴィー・ワンダー、ダイアナ・ロス、レイ・チャールズ、ボブ・ディラン、ビリー・ジョエルら、45名の大スターが集結し、楽曲『ウィー・アー・ザ・ワールド』が完成。

そのレコーディングの模様がドキュメンタリーとして映像作品化され、シングル、アルバム、ビデオの合計収益は6300万ドルともいわれ、その印税分がチャリティーとして寄付された。

山下達郎も「OPPRESSION BLUES(弾圧のブルース)」発表

ピンク・フロイドの新曲発表などはあったものの、本稿執筆時点での個人的な印象としては、今回のロシアのウクライナ侵攻に対する、音楽シーンからのチャリティーや反戦メッセージはまだまだ少ない気がする。

ただ、日本では山下達郎が、6月に発売するニュー・アルバム『SOFTLY』に収録予定の新曲「OPPRESSION BLUES(弾圧のブルース)」のリリックビデオを先行公開し、早速話題になっている。

6月に発売される山下達郎のニューアルバム『SOFTLY』に収録予定の新曲「OPPRESSION BLUES(弾圧のブルース)」。これを聞きながら、平和について考えたい(撮影/苅部太郎)

ただし、この作品はロシアによるウクライナ侵攻に触発されて書いた曲ではなく、それ以前に起きていたミャンマーやシリアの争乱など、今の世情全体を憂えての作品とのこと。

奇しくも発売前のタイミングでロシア軍による侵攻が起きたため、急遽、英語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語などの各国字幕版を制作し、順次公開したようだ。

本来の達郎氏は、社会的メッセージを歌うタイプのシンガー・ソングライターではなく、「音楽で皆さんの心に寄り添い、癒したり安らいでもらったりするのがミュージシャンの仕事」というポリシーを貫いてきた。

その唯一の例外といえるのが、83年の中曽根首相による「日本の不沈空母化発言(訪米時に米紙との会見で“日本列島を不沈空母のようにし、ソ連の爆撃機の侵入に巨大な防壁を築く”と語った)」に衝撃を受けて書いた「The War Song」(86年『ポケット・ミュージック』所収)だけだ。

新曲「OPPRESSION BLUES」は、それに次ぐ社会派メッセージソングで、シンプルで朴訥とした彼らしからぬサウンドメイクが、ズッシリと言葉の重みを感じさせる。

思えば今回のウクライナ侵攻に対して、世界的なアーティストがゼロから作った反戦メッセージソングが出てきていないように見えるが、おそらく今後、続々と発信されてくるだろう。

現に本稿アップの直前に、サザンオールスターズ桑田佳祐が、世界の平和と子どもたちの明るい未来を願うチャリティー・ソングを書き下ろし、佐野元春、世良公則、Char、野口五郎という同い年のシンガーたちをゲストにレコーディング。「時代遅れのRock’n’Roll Band」として緊急配信リリースした。

冒頭のピンク・フロイドやクイーン、ザ・クラッシュのカヴァーのように、すぐさま動画配信で強いメッセージを伝えられたのは、SNS時代ならでは。日本に住む我々も、自分たちに何ができるのかを真剣に考えたい。この悲惨な侵攻は、遠い国の出来事ではなく、日本のすぐ隣の国が起こしたことなのだから。

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