同級生と比べて落ち込んでしまう
村上優子さん(30歳・仮名)大阪大学外国語学部卒業
阪大卒で発達障害を抱える女性(30)がたどりついた年収320万円。「同級生のSNSを見ると、私の収入ではとても体験できないことにお金を使っている」
集英社オンライン / 2023年11月22日 8時1分
世間には、高学歴でありつつ発達障害を抱えている人が少なからず存在する。「エリート」のイメージと「障害」の実情の狭間で周囲の理解が得られず、周りと自分を比べては落ち込み、アイデンティティの葛藤を抱えてしまうのだ。大阪大学を卒業後、満足な仕事ができないことで同級生と自分を比べて苦しむ村田優子さん(30歳・仮名)のケースを紹介する。
周りの子たちは内定が出るのに
村上優子さんは大阪大学を卒業し、現在は某通信会社で障害者雇用の契約社員として働いている。小さい頃から成績は良かったが、勉強するのが好きだからというより父親から怒られたくないため、褒めてもらうためにそうしていたという。幼い頃から忘れ物が多かったりガールズトークになじめなかったりと、ADHD・ASDの傾向が出ていた。
大学生活はうまくやれていたが、村上さんも就職活動で苦労することになる。広告代理店で企画営業の職に就きたいと考えていた彼女は大手から順に受けていった。しかし、面接で緊張してまったく話せなかったり、事前に考えていた回答が飛んでしまうときもあった。
また、予期せぬ質問がくるとうまく答えられなかった。就活は自分をよりよくアピールしないといけなかったり、ときには本音と建前を使い分けなければならないことがある。本書で取材してきた当事者のほとんどが就活でつまずいていることからも、こうした就活テクニックと発達障害の特性は非常に相性が悪いのだと考えられる。
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/11/15080506546079/800/shutterstock_1675146337.jpg)
「周りの子たちは阪大というネームバリューからトントン拍子で内定が出ている中、自分だけ夏頃までずっと就活を続けていて。それプラス卒論の準備もあったので、両立ができなくて大変でした。いわゆるマルチタスクができなかったんです。結局内定が出たのは中小の印刷関係の会社でした」
言葉をそのまま受け止めてしまい余計に怒られる
この会社の人間関係が、村上さんを苦しめることになる。まず、気分に波のあるベテランの女性がいた。村上さんにはADHDのほか、言われたことを言葉のままに受け取ってしまうASDの特性もあった。そのため、そのベテランの女性とコミュニケーションをうまく取れないことが続いた。
「どうしてもケアレスミスが多く、そのたびにベテランの女性に怒られていました。そんなある日、ミスで怒られている最中「もう顔も見たくない」と言われたので「そうですか。わかりました」と、自分のデスクに戻ったら後から内線がかかってきて「今みたいなときは引き下がるところじゃないでしょ」と言われてしまい……」
教師から「もうお前は帰れ!」と怒られて本当に家に帰ってしまう小中学生のようだ。「帰れ」と言われたから帰ったという経験のある人は、思春期の場合は単に反抗しているケースが多いだろうが、中にはASDの特性からそのような行動を取ってしまった人もいるのかもしれない。
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/11/15080244817638/800/shutterstock_409827325.jpg)
他にもベテランの女性からは「あなたは勉強はできるけど社会ではやっていけないね」「今までどういう教育を受けてきたの?」といった人格否定的なことを言われた。阪大卒を背負っているぶん、ミスをしたときの相手の落胆は大きい。こうしたプレッシャーに加えて給与も少ないといった理由から、村上さんは3年間働いたのちにこの会社を退職する。
2社目は専門学校の事務職についた。そこでは学生や保護者への対応や、オープンキャンパスの準備など、やらないといけない仕事が大量にあった。特に保護者からのクレーム対応には臨機応変な対応が取れず、つい電話を切ってしまうこともあった。
オープンキャンパスも頻繁に行なわれたが、参加人数が少なかったりすると当初予定していたスケジュールとは違う対応を取らねばならなかった。自分の中で整理していた段取りが変わってしまうとパニックになり、心療内科を受診することにした。そして医師より「発達障害かもしれない」と告げられ検査を受けると不注意優勢のADHDの診断が下された。
同級生と自分を比べてしまう
この2つめの職場でも、遠回しな表現が分からずコミュニケーションの齟齬が起きたことがあった。
「職場の人たちは基本的にみんないい人ばかりで私を責める人はいませんでした。そしてお昼休みは交代制で、私はいつも早い時間にお昼に行かせてもらっていました。ところがある日、上司が「僕、今日13時から会議だわ」と言ってきて、私はそれをただの報告だと思って、いつもと同じ時間に昼休みを取りました。
でも後から別の人に聞いたら、「あれ、村上さんが先にお昼に行くのではなくて、〈会議があるから僕に譲ってほしい〉という意味だよ」と言われまして……。そうか、普通の人にとってあの言い回しはそういう意味になるのかと」
ふたたび転職した村上さんは現在、冒頭に述べた通信会社で障害者雇用にて経理担当として働いている。残業をしなくてよかったり、困りごとが発生した際はすぐに誰かにフォローを頼めたり、マルチタスクでパニックにならないように段階的に仕事を振ってくれたりと、合理的配慮がなされているという。
しかし給与は安く、年収は320万円程度だ。ただ、今までの会社もどちらかというとブラック寄りでもともと給与が少なかったので、経済的な面ではそこまで変わらないとも語る。
「今は結婚しているので夫と二馬力(共働き)で生活できている感じです。でも、同級生のSNSを見ると、今の私の給与ではとてもじゃないけど体験できないような趣味にお金を使っていたり、長期休暇の際はヨーロッパ旅行に行っている様子がアップされていて、同じ学歴なのに……と勝手にコンプレックスを感じて落ち込むことがあります。
また、意地悪な同級生に会った際は「君の会社は資本金いくら?」と訊かれたこともありました」
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/11/15080331585133/800/shutterstock_1932983453.jpg)
経理の仕事においては会社によっては簿記の資格を取ると手当がつく場合もある。学生時代に猛勉強して阪大に受かったときのように簿記の資格を取らないのかと聞くと、「褒められないと勉強ができない」という答えが帰ってきた。
村上さんは発達障害の苦しみも負っているが、父親との関係性も複雑であるように思える。「父親が厳しかったので、大学受験のときも試験で良い成績をとって良い大学に入れば親も喜んでくれるかなと思っていたんです。でも今、簿記の勉強をしても褒めてくれる人はいません。モチベーションが上がらないんです」
難関国立大学である阪大を卒業してもエリートになれない。そしてつい、定型発達で、うまくいっているように見える同期と自分を比べてしまう。「阪大卒」という本来なら喜ぶべき事実が、彼女を生きづらくさせているのだ。
文/姫野桂
写真/shutterstock
『高学歴発達障害』(筑摩書房)
姫野 桂 (著)
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/11/15074253182104/400/61dqWUN900L._SL1200_.jpg)
10月6日発売
924円
192ページ
978-4480075826
「ケアレスミスが多い」「人間関係がうまくいかない」――生活や仕事上で問題を抱える「大人の発達障害」が注目を集めて久しい。実はその中に「高学歴でありながら、発達障害を抱えている人」が少なからず存在する。「エリート」のイメージと「障害」の実情の狭間で理解が得られず、周囲と自分を比べては落ち込み、アイデンティティの葛藤を抱える……。当事者、大学教員、精神科医、支援団体への取材を通じて、発達障害が取りざたされる背景にある「異質であること」「非効率的であること」に不寛容な社会の姿を浮かび上がらせる。
外部リンク
- 親の性交渉を見た子供は、早くから自慰行為を始める…児童養護施設の目を背けたくなるような現実を描いた「それでも、親を愛する子供たち」
- 「奥さん」呼びは時代遅れ…じゃあ「妻さん」と呼ぶの? 言語学者が提案する既婚女性の“新しい呼び方”とは?<11月22日いい夫婦の日>
- 幼稚園から高校まですべて公立でも1000万円かかる…少子化なのに親の負担が重い国、日本では子どもはぜいたく品なのか?
- 【漫画あり】「なんだよっ」「うるっせーんだよ」「だからなんだってんだよ」…3語しか話せなくなった脳梅毒の男を医療につなげるための「本質的な」関わり方
- 3万円のダイバーズウォッチ、ロレックス、BABY-G、セイコー。作家・村山由佳を通り過ぎた男たちと時計の思い出
この記事に関連するニュース
-
「発達障害で親から毎日叱責」彼女が見つけた幸せ 「障がい者向けマッチングアプリ」が導いた出会い
東洋経済オンライン / 2024年7月24日 12時30分
-
元警察官のセクシー女優「今の私があるのは、すべて筋トレのおかげ」と語るワケ
日刊SPA! / 2024年7月18日 15時53分
-
【柴崎友香氏インタビュー】芥川賞作家がADHDの診断を通じて考えたこと「いろんなものがただ同時にある感じを私はずっと小説で書きたいと思ってきた」
NEWSポストセブン / 2024年7月12日 7時15分
-
同じ子育て悩みをもつ親同士は、バチバチの仲になる!?「苦労マウント」の謎が解けたぺアトレ講習
OTONA SALONE / 2024年7月10日 14時0分
-
学歴詐称を気にするのは"学歴バカ"だけ…疑惑ありで公約不履行でも小池百合子氏が圧倒的に女性ウケする訳
プレジデントオンライン / 2024年7月6日 10時15分
ランキング
-
1エアコンから嫌なニオイがします……原因と対処法が知りたいです【家電のプロが回答】
オールアバウト / 2024年7月25日 21時25分
-
2食べる、塗る…健康や美容に効果が!世界中で親しまれている自然療法とは?
ハルメク365 / 2024年7月25日 16時0分
-
3秋に発売「スズキの新型SUV」は期待できるか? 「フロンクス」試乗でわかった開発陣の本気
東洋経済オンライン / 2024年7月25日 14時0分
-
4暑い夏も要注意!インフル、コロナ、手足口病…「感染症ドミノ」から身をまもる方法
女子SPA! / 2024年7月25日 8時45分
-
5お賽銭に「1円」や「5円」を選んではいけない…神社案内人が心がけている「現代の賽銭マナー」
プレジデントオンライン / 2024年7月25日 7時15分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)