【漫画あり】「なんだよっ」「うるっせーんだよ」「だからなんだってんだよ」…3語しか話せなくなった脳梅毒の男を医療につなげるための「本質的な」関わり方
集英社オンライン / 2023年11月21日 19時0分
〈【漫画あり】「警察や保健所に頼んでも埒があかん」日本で最高の精神科治療が受けられるのは、刑事責任能力のない人たちが収容される施設だという皮肉〉から続く
日本で初めて説得による精神障害者の移送サービスを行う「トキワ精神保健事務所」を始めた押川剛氏。その押川氏が原作を手がけ、社会の闇をリアルに描いた問題作、漫画『「子供を殺してください」という親たち』(新潮社)の最新刊では近年、社会問題化している「梅毒」について取り上げている。精神疾患にまでつながる「脳梅毒」の恐ろしさとは…。
#1 【漫画あり】毎日全裸でバットを振り、飼い猫まで殺した男と向き合う
#2 【漫画あり】なぜ37歳の才女は汚物まみれのゴミ山で暮らすようになったのか
#3 【漫画あり】全身根性焼き、舌も自分で噛み切った兄のために弟は…
#4 【漫画あり】飲み会に誘ってセックスを動画撮影も…プアな大学生たちの貧しい現状
#5 【漫画あり】浴室で日本刀を振るひきこもり少年の末路は…
#6 【漫画あり】美人キャバ嬢はなぜドラッグに手を出したのか…
#7 【漫画あり】「警察や保健所に頼んでも埒があかん」
#9 親の性交渉を見た子供は、早くから自慰行為を始める…「それでも、親を愛する子供たち」
#7からのつづき
司法試験に合格するよりも、漫画に載るほうが価値がある
――『「子供を殺してください」という親たち』の最新14巻では、「たくらみのある子育て」で押川さんのアシスタントである実吉の過去のトラブルが明らかになりました。
「押川さんはこういうこともやってるんだ」、「助けてくれるんだ」と言ってる人がいて、困ったなと思いました。無理ですからね(笑)
実際には、実吉はもっと複雑なバックボーンを持っていて、描けないことがたくさんあったんです。まあ、その中でも、13巻にでてくる『「いい子」の仮面の犯罪者』の薬物に手を出す女の子と対照的だけど本質は同じだ、と言われたことが印象に残っていますね。
――実吉にもモデルがいるんですよね。
はい。ざっくりいうと、田舎の権力者家族に縛られてるタイプですね。ただ、理解力はあるから、自分の家のことに関しても、一つ理解していくと切り替えが早いんですよ。物覚えもめちゃくちゃよくて、宅建とか行政書士とかの試験なら、参考書1回読むだけで取ってくる。「お前、司法試験いけるんじゃないの?」って言ったら、参考書をパラっとめくって「3年あれば」って言うような人間です(笑)。
ただ、ライセンスを表に出して生きていくのではなく、人間の根源の部分で助けるというか、声を聞いたり、介入していくことができる人間になれよということで、うちでは育てています。なので、漫画に描いた内容は実際の10分の1程度ですけど、読者、特に高学歴の女性はすごく共感をしたという声が多かったですね。で、一般の方は『「いい子」の仮面の犯罪者』の薬物の女の子にすごく共感したと言っています。
――本人は漫画に描かれたことについて、どう言ってますか?
すごく喜んでます。この漫画の怖いところは、モデルになった人から感謝されるんですよ(笑)。ちょっとやばいことも書いてるのに、「本当にありがとうございます」って。それぐらい、親や兄弟から子供のときに相手されてないいから、自己肯定感が低い。だって、兄弟から性的虐待を受けてたなんて、普通は嫌な話じゃないすか。
だけど、プロットも、ネームも、原稿が出来上がってからも、自らチェック入れるんですよ。こっちが出せないと思ってるエピソードも「この話、出したほうがいいんじゃないんですか?」って。だから自分自身にとっての表現みたいなものなのかもしれませんね。
きっと彼女にとっては、司法試験に合格するよりも、この漫画に載ったことのほうが価値があるんだと思います。
梅毒で脳が冒される脳梅毒の恐怖
――そして、次のケース「精神疾患としての梅毒」では脳梅を取り上げています。
梅毒に関しては、最近になっていろいろな啓発記事が出てますけど、私からみて一番怖い部分が世に出てなかったんですね。この『脳にくる』というのは伝えなきゃいけないなと思いました。
それこそ、最近まで(北九州市立)大学に通っていたもんで、大学生と交流があったんですが、いまどきの大学生なんて軽いんですよ。
彼ら、彼女らの多くは親の保険証で病院に行ってるから、親にバレることだけを気にしていて、性病そのものは別に大したことないという認識です。いまはマッチングアプリやパパ活もあるので、素人が普通に性病にかかるんですよね。
だけど、小理屈だけで「理解してるから大丈夫だ」みたいな。そこで私は、「もっと怖いぞ」「脳にくるんだ」と伝えたところで、そんなの友達にいないし、ネットでも見たことがないからって、相手にしないんです。
これが蔓延の要因のひとつにもなっているなと思っていたので、いつかこれは伝えたいなと思っていました。
――これも実際のケースなんですよね。
はい、かなり昔の依頼者です。我々の時代は鼻がなくなるとか、そういう病気だと思われてましたけど、彼は見た目は普通なんです。見た目に症状が出なかったから、きちんと的確な治療を受けてなかったばっかりに梅毒の感染が脳まで及んでしまい、それでこういう状態になってしまった。本能の部分だけが残って。
――体格がいい方ですよね。
大学で体育会の部活をしていたので、めちゃくちゃ大きかったです。で、いざ家に行ってみると便器も水道も洗面所も陶器のものはすべてぶっ壊してましたからね。しかも、「なんだよっ」「うるっせーんだよ」「だからなんだってんだよ」の3語しかしゃべれない。さらにびっくりしたのは、その3語で会話が成立するんですよ。
鼻がもげる、溶ける以上に恐い梅毒のリスク
――そんな相手を説得できるのは押川さんだけだと思います。
一緒に行ったもう1人のスタッフはぶん殴られちゃったんですけどね。余計なこと言うから。真面目に病気のことを伝えたり、今こんな状況だとか言うんですけど、私は人間として本質的なところに訴えるのが自分の役割だと思っているんですよ。
例えば、専門家って世の中にいっぱいいるじゃないですか。でも、いくら専門的なことを伝えても解決はしない。頭で理論的にはわかっていることよりも、実際に現場に行って肌で感じたことのほうが正しいということがあります。
脳梅毒の方と対峙してみると、3語しか話せないけど、人間的な部分は感じました。だから、梅毒でこうなったというからやっぱり「女が好きなんだ」と思って。「おいちゃん。そんなにヤマ盛りやったんか」「いい男やん」みたいな感じでコミュニケーションをとるんです(笑)。
でも、みんなそういう扱い方はしないんですよ。乱暴なやばい奴だから病院につなげるとか。でも、こういう人たちは人間的な部分からアプローチしていかないといけないと考えています。このケースも、担当が女医さんだったんで、私は「女の先生が待ってますよ」と言ったら、ニヤリとして。「きた!」と思いました。
――シンプルだけど、本当に本質的な話ですよね。
これはなんなんでしょうね。世間体として恥ずかしいのか、アカデミックじゃないから伝えないのか。現場の人間の対応として単なる職人芸として落とされるのか。
――梅毒の実情を伝えたことでの反響は?
やっぱりみんな鼻がもげるとか、溶けるとかいう認識はあっても、ああいう斑点ができたりっていうのを漫画で見せておくことは大事なのかなと思いました。なんとなくイメージで考えてるものと、実際の病気が全然違うんだってことで、びっくりしたという意見が多かったですね。
脳にまでいくケースは、確率的には少ないんだろうけども可能性は間違いなくありますから。可能性が少ないものになるとメディアも取りあげないし、スポットライトを浴びないんですよ。それをどうやって見せるかが私の役割なのかなと思っています。
それは、この漫画自体がもともとそうであって、ほとんどの人が関係ないっていう。ただ今はこうした問題がどんどん身近になってきたし、他人事じゃないよという時代になってきてるので。また支持されるようになったのかと思います。
#9へつづく
#9 親の性交渉を見た子供は、早くから自慰行為を始める…児童養護施設の目を背けたくなるような現実を描いた「それでも、親を愛する子供たち」
#1 【漫画あり】毎日全裸でバットを振り、飼い猫まで殺した男と向き合う
#2 【漫画あり】なぜ37歳の才女は汚物まみれのゴミ山で暮らすようになったのか
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#6 【漫画あり】美人キャバ嬢はなぜドラッグに手を出したのか…
#7 【漫画あり】「警察や保健所に頼んでも埒があかん」
#9 親の性交渉を見た子供は、早くから自慰行為を始める…「それでも、親を愛する子供たち」
14巻【精神疾患としての梅毒】藤木義和のケース
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取材・文/森野広明
〈親の性交渉を見た子供は、早くから自慰行為を始める…児童養護施設の目を背けたくなるような現実を描いた「それでも、親を愛する子供たち」〉へ続く
外部リンク
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