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親の性交渉を見た子供は、早くから自慰行為を始める…児童養護施設の目を背けたくなるような現実を描いた「それでも、親を愛する子供たち」

集英社オンライン / 2023年11月22日 19時1分

『「子供を殺してください」という親たち』の原作者・押川剛が、改めて取り組んだのが児童養護施設のリアルをあぶりだす漫画『それでも、親を愛する子供たち』(新潮社)。目を背けたくなるような社会の歪が描かれた問題作が、11月21日よりWEBマンガサイト「くらげバンチ」で連載スタートした。原作の押川氏が今作にかける思いとは…(全9回の9回目)

本当の部分は世に出せていない児童養護施設

――新作漫画『それでも、親を愛する子供たち』が配信開始になりましたが、本作を手がけることになった経緯を教えてください。

この園長のモデルとは前々から親しくて、彼のOKが出るようだったら児童養護施設を舞台に『「子供を殺してください」という親たち』よりも注目される漫画が作れるなと思っていたんです。

それで少しずつ準備を進めていたんですが、去年の暮れに担当編集の岩坂(朋昭)さんが、私と鈴木(マサカズ)先生を招待してご馳走してくれたんですよ。その席で鈴木先生が「自分ところのアシスタントを育てていかないといけない」と言っていたので「実は漫画になるんじゃないかなと思っている話があって……」と、この話をしたところ、その場であっという間に決まってしまいました。

実は、密かに今回は他の出版社から出せないかなと考えていたので、失敗したなぁと思いました(笑)。

『それでも、親を愛する子供たち』より

――となると、今回も同じチームで作られるんですか。

私が原作を書いて、作画は鈴木先生のアシスタント・うえのともや先生が担当します。ただし、鈴木先生のネーム力があっての『「子供を殺してください」という親たち』だと思うので、ネームは今回も鈴木先生にお願いしました。

話が決まってからは岩坂さんも鈴木先生も、動きがすごかった(笑)。私としては児童養護施設とは本業ではかかわったことがなかったので、もっと勉強をしないといけません。児童養護施設も、なかなか本当の部分は世に出せていないところですからね。

児童精神科医は日本にたった525人、政令指定都市なのに0人の都市も

――匿名性が高いですよね。

ドキュメンタリー番組や、他の漫画でもテーマとしてはけっこう出てるんですけどね。でも、実際に中に入らせてもらうようになってから見てみると、全然、芯を食ってない。とんでもなく不遇な子供たちがいることを、まだまだみんな知らないと思うんです。

虐待の相談件数は増える一方で、児童相談所の対応も追いつかず、私には被虐待児の多くがまるで難民の子供たちのように見えます。自治体によっては、虐待を受けている子供よりも親の意向を優先です。それよりもさらに強いのは医師の判断で、医師の通報であれば自治体はすぐ動くんですが、そういった子供たちと最も近い場所にいる児童精神科医はこの国に525人しかいません。

私が拠点にしている北九州市にいたっては政令指定都市なのに常勤医が0人ですよ。役所の管轄は、子供も診てくれる開業医に委託していると言いますが、子供のことに「介入」してくれる児童精神科医をちゃんと配置してくれないと、そもそも保護に繋がらないので、助けられないんです。

『それでも、親を愛する子供たち』より

――『「子供を殺してください」という親たち』は、押川さんが取り組んできた過去の膨大なデータがもとになっていますが、児童養護施設に関しての蓄積はまだそんなにないですよね?

そうですね。そもそも虐待を認めない親からの聞き取りの難しさもあり、児童相談所も児童養護施設も、子供の背景を把握しにくくなっています。そういう中で、漫画にするための資料をどうそろえたらいいかを考えると、やはり自らがそこで生まれ育った人間、児童養護施設を隅から隅まで把握してる人間がいない限りはできないと思いました。

それが、今回の園長のモデルになった人間です。彼は、児童養護施設を家業とする3代目で、オギャーと生まれたところが児童養護施設なんですね。彼のところではいろいろな子供を預かっていて、なかには凶悪犯罪者の子供もいます。でも、彼にとってはその子も預かっているただの子供のうちの1人なんですよ。

我々だって人間だから好き嫌いはあるじゃないですか。でも、彼は人に対しての偏見がまったくない。例えば、父親の違う子供を何人も産んで、全員施設に預けているような親に対しても、「お母さん、大変でしたね」って言ってあげるような、異次元の包容力があります。

「家の中で、こんなきれいな子はいないですよ」

――お話を聞く限り、強烈なエピソードがたくさんありそうですが、第1話でこのエピソードを選んだ理由はなんだったのですか?

親と子の最もベーシックな話にしようと思いました。ただ、ベーシックだけど、あまりにも過酷な現実です。親にほぼ捨てられて入った児童養護施設には、幸せになろうとする女の子がいて、幸せにしてあげようとする職員さんがいる。そういった「児童養護施設とはなんぞや」というところから見せておかないといけないと思いました。

――第1話は、完成直前に大幅な手直しをされたそうですね。

精神科医療の分野であれば、絵についても私がネーム段階で細かく指示を出せるんですが、児童養護施設に関しては、専門的な視点で監修的に見てくれる人間が必要だと思いました。園長や職員にチェックはしてもらえますが、それとは別の角度で見てもらおうと何人かの専門家にあたったところ、みんな正面を切って「嫌だ」って言うんですよね。

――それは、個人情報の扱いが難しいからですか?

もう、研究のために役所からもらうデータすら見せられないと。「押川さんにお会いしてその根拠を示せとなったときに、私らは食っていけなくなってしまいます」と言ってました。そのくらい、国も世間に実態を伝えていないということなんですよ。

なので、知り合いの警察に頼んで、完全匿名で協力してくれる大学教授を紹介してもらいました。実際に、第1話を見てもらったところ、2ページ目を開いた瞬間に「あ~、やっちゃいましたね」って言うんですよ。

――何がいけなかったんですか?

「虐待をしている家の中で、こんなきれいな子はいないですよ」って。本当なら爪も伸びてるし、髪もぼうぼうだし、痩せているので、これは実態とかけ離れてますねって、もう目からウロコですよ。児童養護施設には、児童相談所に一時保護をしてもらってから入るので、きれいになった子供しか受け入れていないんですよね。

専門家の指摘を受ける前の絵

専門家の指摘を受けて修正した後の絵

それこそ実際に私が働いてない部分で、まさにその専門家の意見が現場だよなと思いました。内容の部分をチェックしてくれと言っていたんですが、まず指摘してきたのは絵だったんです。

にんじんをお皿に乗せて出している絵も「ありえない」と言っていて、「これならコンビニの弁当の蓋とかですかね」って。そのアドバイスはたまらなかったです。実際に、描き直したものを見たら強烈でしたから。

専門家の指摘を受ける前の絵

専門家の指摘を受けて修正した後の絵

――その先生には、今後も見てもらえるんですか?

ずっと見てもらいたいですね(笑)。ただ、この分野がすごくクローズドで、村社会なんだなと思ったのは、堂々と名前を出してそれを言えないとことなんです。確かに、専門家が堂々と正面を切ってこういうことを言っている本ってあまりないんですよ。論文も薄いし、やっぱりそういう何か“お約束”があるんでしょうね。

親の性交渉を見た子供は、早くから自慰行為を始める

――漫画の展開としては、今後も基本的に園長先生が主人公のような形で出てくるのでしょうか?

そうですね。『「子供を殺してください」という親たち』でいうところの押川剛のポジションです。ただ、主人公はどこまでいっても「子供」です。

漫画に関しては、鈴木先生、うえの先生にこうやってリアルに再現してもらえたので、あとは私がしっかりと現状や問題を書ききれば、「この子供たちを助けなきゃいけない」という心の部分で、読者に伝えられるものができるんじゃないかと思います。そして、実際に虐待に遭っている子供が読んだときに、「ここに助かりに行きたい」と思うような施設にしていきたいですね。

『それでも、親を愛する子供たち』より

――当事者にも届けたいと。

絶対的にそう思っています。虐待を受けてる子供たちが「助けてください」と訴えたところで、やっぱり助かっていない事実のほうがたくさんあるんですよ。この漫画は児童養護施設を題材にしていますが、そこには日本の家庭の問題、親と子の問題が多く反映されていると思っています。

児童養護施設には不登校もいっぱいいますし、性的な問題の根源も、彼らを取材していくと非常にわかりやすくなってくる。我々がこれまで悩んできたことも、回路がピピッと繋がるぐらいのことを、現場の職員の方は簡単に教えてくれるんですよ。

例えば、親の性交渉を見てしまった子供は、早くから自慰行為を始めるそうです。そんなこと知らなかったけど、それは定説だってその大学教授も言ってましたね。自分の学生には口頭では教えてるみたいだけど、それを本に書くことはないみたいで。そういったものはまだまだあるみたいなので、「教えてほしい」とは言っています。もちろん、先生が言ったからといって丸呑みせずに、現場の職員たちに確認は取りますけどね。きっと「イヤらしいですねぇ」とか言われるんだろうけれど(笑)。

取材・文/森野広明

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