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これからの箱根駅伝は、中央と順天堂の時代がやってくる!? 藤原監督は1981年生まれ、長門監督は84年生まれ。30、40代の指導者がいよいよ大暴れの予感

集英社オンライン / 2023年12月30日 11時1分

箱根駅伝の優勝経験のある監督に話を聞くと「あそこには勝たないと」という言葉が出てくるそうだ。今だかつてないほどハイレベルな環境で競われている駅伝界において、その熾烈な争いは選手間だけでなく、監督同士にもあるようだが…果たして2024年の100回大会はどうなるのか。『箱根駅伝に魅せられて』 (角川新書) より、一部抜粋、再構成してお届けする。

2021年“打倒・青山学院”からの“駒大”の復活

第100回を前に箱根駅伝は爛熟期に入った。優勝を狙うチーム、常連を目指すチーム、そして出場を目指すチームと、様々な大学の思いが交錯し、かつてないほどのハイレベルな環境で競争が行われている。

そのなかで2015年以降、各大学にとっては青山学院が目の上のたんこぶになっていたが、21年の大会から様相が変わってきた。



この年は十中八九、創価大学が優勝を手中にしていた。

創価大は4区で嶋津雄大(都立若葉総合出身の彼は、東京都高体連の第5・6ブロックの大スターである)がトップに立つと、往路優勝。復路に入っても各走者が安定して走り、8区終了時点で2位の駒大に1分29秒差をつけていた。追う駒大とすれば、ひっくり返すにはギリギリのラインである。

ところが、創価大は9区で決定打を放った。

4年生の石津佳晃が区間賞を獲得し、3分19秒にまで差を広げたのである(石津はこのレースをもって現役を引退し、一般企業に就職すると聞いていた。いまは、走っているのだろうか?)。

これは、安全圏。誰もがそう思ったはずだ。ところが──。

創価大の小野寺勇樹が大ブレーキとなって駒大が大逆転。駒大は、実に13年ぶりの優勝を手にしたのである。

これほど劇的な逆転劇は、箱根ではそうそう起きない。そしてこのレースを見て、かつて大八木監督が私に話していたことを思い出した。

「いつでも3位以内、どこでも3分以内につけてるって大切なことなんだよ。駅伝はなにが起きるのか分からないから」

最終区で3分以上も離されていたものの、駒大は2位につけていたからこそ、大逆転することができた。途中であきらめていたとしたら、逆転劇はなかった。

逆に、創価大の榎木和貴監督にしてみれば、千載一遇のチャンスを逃したことになる。

創価大が優勝していたら、数年間は優勝を狙える位置へ成長していた可能性

このレースを振り返って創価大の走りを吟味してみると、これはフロックでもなんでもなく、実力で往路優勝をつかんでいたことが分かる。

1区の福田悠一が区間3位でスタートすると、2区のムルワが区間6位ながらも総合2位へと進出する。ムルワは東京国際大のヴィンセントのような爆発力はないが、区間上位でまとめる力があった。

そしてしびれるのは3区葛西潤、4区嶋津の流れで、このふたりは学生界のトップランナーである。嶋津の段階で先頭に立ったのは必然だった。

そして5区山上りの三上雄太も区間2位の好走とあって、見事な往路優勝だった。

私はこの結果を改めて振り返り、自分の不明を恥じざるを得ない。この創価大は往路で勝つべくして勝ったのだ。

言い訳をするなら、創価大が「ほぼほぼノーマーク」だったのは判断材料が乏しかったからだ。

このシーズン、出雲駅伝はコロナ禍によって中止(創価大は箱根で9位に入り、出場権を持っていた)、そして全日本には出場していなかった。

箱根の予選会に出る必要がなく、全日本も走っていない。これではマークする方が無理というもので、箱根駅伝の歴史のなかでも、2021年の創価大学は「真のダークホース」だったと思う。

ある意味、コロナ禍によって引き起こされた駅伝カレンダーの変更が、創価大のステルス化を生んだともいえる。

もしも、ここで創価大学が勝っていたら──。

その後数年間は優勝を狙える位置につけて、目の上のたんこぶへと成長していく可能性もあったと思う。10区でのブレーキは誰にも予測できないことで、気の毒としか言いようがなかった。

リクルーティングの流れから中央と順天堂の時代がやってくる⁉︎

一方、駒大はこの逆転優勝で再び主導権を握る立場に帰ってきた。

2022年は、前年、主将神林勇太の故障離脱が影響し、4位に終わった青山学院が最高の状態を作り上げて、大会記録を10時間43分42秒にまで更新し、意地を見せた。

私はこの大会を見て、「青山学院は箱根に特化した学校になったな」と感じた。スピードランナーであっても、春先もトラックでのタイムを貪欲に求めず、しっかりとした「地脚」とでも呼ぶべきものを作る。

こうして駒澤と青山学院という、実績抜群の両校が目の上のたんこぶ、というよりも「東西両横綱」という存在になった。

そして、2023年の大会で駒澤が勢いに乗っていることが分かった。2大会前の優勝、そして田澤廉というエースがいることで、佐藤圭汰も入学。久しぶりの優勝が一気に「流れ」を変えたのだ。

2024年の第100回、そしてその先を見据えると、99回大会で上位に入った学校が両横綱に挑戦していくことになるだろう。

現状、総監督になったとはいえ、いまだ駒大の現場で指導にあたる大八木監督と、この10年間でもっとも成功を収めた原監督が倒すべき相手である。

このふたりがいるからこそ、レベルがどんどん上がっている。

2023年は駒大の優勝タイムが10時間47分11秒、2位の中大も10時間48分53秒で、2校が10時間50分切りを達成している。そして11位の東京国際大学までが11時間を切っており、厚底シューズ時代とはいえ、10年前の優勝タイムがシード権獲得ラインとなるまでにレベルが上がったのである。

この高速化時代にあって、両横綱に挑んでいく監督たちのキャラクターは充実している。

完全復活をかける中央の藤原正和監督は、このふたりをなんとしても倒さなければ頂点には手が届かない。國學院大の前田監督にとっても、母校・駒澤を倒さなければ箱根での初優勝にたどりつけない。

そして世代トップのランナーが続々入学している順天堂大学の長門監督も、「選手と監督として優勝」という名誉がかかる。早稲田の花田勝彦監督、城西の櫛部静二監督、そして創価大の榎木監督にも「選手と監督」の二冠のチャンスが、向こう数年のうちに訪れる可能性がある。

特に、リクルーティングの流れを見ていると、2020年代は中央と順天堂の時代がやってくるのではないか──という予感がしてならない。そして優勝したならば、それに引き寄せられる高校生、中学生が出てくる。

注目される藤原監督は1981年生まれ、長門監督は84年生まれ。30、40代の指導者がいよいよメインストリームの時代に入ってきた。それでも──。原監督をはじめ、50代の指導者たちも黙ってはいないだろう。プライド、闘争心を持ち、第一線で指導を続けている監督たちばかりだから。


文/生島 淳

『箱根駅伝に魅せられて』 (角川新書)

生島 淳 (著)

2023/10/10

¥990

240ページ

ISBN:

978-4040824673

箱根駅伝100回大会。歴史と展望を存分に味わう一冊

正月の風物詩・箱根駅伝では、100年の歴史の中で数々の名勝負が繰り広げられ、瀬古利彦(早稲田大)、渡辺康幸(同)、柏原竜二(東洋大)らスター選手、澤木啓祐(順天堂大)、大八木弘明(駒澤大)、原晋(青学大)ら名監督が生まれてきた。
今やテレビ中継の世帯視聴率が30%前後を誇る国民的行事となっている。
なぜここまで惹きつけられるのか――。45年以上追い続けてきた著者・生島淳がその魅力を丹念に紐解く「読む箱根駅伝」。

100回大会を境に「中央大・順天堂大の時代」が来る――!?

99回大会で「史上最高の2区」と称された吉居大和(中央大)、田澤廉(駒澤大)、近藤幸太郎(青学大)の激闘の裏には、名将・原晋が思い描いた幻の秘策が隠されていた――。

入学時からマインドセットが違った絶対的エース。
柏原竜二(東洋大)「勝負は1年生から」
大迫傑(早稲田大)「駅伝には興味はありません」

渡辺康幸(早稲田大)VSマヤカ(山梨学院大)
竹澤健介(早稲田大)VSモグス(山梨学院大)
田澤廉(駒澤大)VSヴィンセント(東京国際大)
留学生の存在がもたらした「箱根から世界へ」

箱根史を彩る名選手、名監督、名勝負のエピソードが満載。

【目次】
はじめに
第1章 箱根を彩る名将たち
第2章 取材の現場から1
第3章 取材の現場から2
第4章 駅伝紀行
第5章 目の上のたんこぶ
第6章 メディア
第7章 箱根駅伝に魅せられて
おわりに

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