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箱根駅伝が圧倒的な“コンテンツ”になった弊害とは。「関東以外の大学が勝つことは100%ない」2024年記念大会では全国の大学にチャンスがあるのになぜ?

集英社オンライン / 2023年12月31日 11時1分

2024年お正月に行われる第100回箱根駅伝は、記念大会のために出場校資格を全国の大学にしたが、2023年10月14日に行われた予選会では出場した関西勢4校を含む関東以外の11校は完敗し、本戦に出場しないことに…いったいなぜか、それは箱根駅伝がここまでの圧倒的“コンテンツ”になったことによる弊害が起きているという…。『箱根駅伝に魅せられて』 (角川新書) より、一部抜粋、再構成してお届けする。

第100大会と全国化

いよいよ2024年、箱根駅伝は第100回の記念大会を迎える。出場校は23校と決まり、そして10月に行われる予選会には、関東学連に加盟している学校だけではなく、全国の大学にも門戸が開放されることになった。



この決定によって、全国の大学にも箱根駅伝出場の可能性が開けたわけである。

過去の歴史を振り返ってみると、関東学連加盟校以外の学校が箱根を走ったことはある。

まず、関西大学が箱根駅伝の黎明期である1928年、31年、32年と三度走っている。順位は9位、8位、8位だった。

そして64年、東京オリンピックが開催された年のお正月には立命館大学(11位)と、福岡大学(13位)の2校が参加している。いずれもオープン参加ではなく、正式の順位。というわけで、前例がないわけではない。

今回、全国にチャンスが開放されるにあたって、私はよくこんな質問を受けるようになった。

「全国の強い学校が出てくるとなると、関東で出場できない学校が出て来たりするんじゃないですか?」

この質問については、関東以外の学校の関係者には本当に申し訳ないのだが、「100パーセントないですよ」と答えている。それが現実だからだ。

それはなぜか?

ひとつには、箱根駅伝が圧倒的なコンテンツになったことで、選手が関東に集中する傾向が以前にも増して強まった。

日本人の高校3年生の5000mの上位50傑を見ていても、実業団を選択する選手が何人かいて、ごく稀に関西の学校に進学する選手がいるくらいだ。才能は関東の学校に吸い寄せられているのである。

それは大学の実力差となって表れる。インカレだといい勝負をする場合もあるが、団体戦である駅伝の予選会となると、一気に差が開く。

全国一斉に予選が行われたとしたら、関東が独占しかねない

2022年に行われた箱根駅伝予選会をもとにして話を進めると、10位通過だった国士舘の上位10人のタイムの合計は10時間48分55秒だった。チーム内10位は福井大夢で1時間06分14秒だった(総合で212位)。

ちなみに次点の神奈川大のチーム内10位の選手は石口大地で1時間06分15秒。つまり、当落線上の大学はハーフマラソンを63分から66分台で走れる選手を10人以上そろえなければ通過できない。

これは、地方の大学にはとてつもなく高いハードルだ。トラック種目はともかく、ハーフマラソンを強化計画に入れるのが難しいのである。

なぜなら、ロードの強化の基本線が10000mになるからだ。たとえば、全日本大学駅伝の予選会は関東、関西、九州などのようにブロックごとにトラックの10000mで行われ、チームの上位8人の選手の合計タイムによって通過校が決まる。

2023年の7月までに行われた予選会の記録を見てみると、関東以外では大阪経済大が4時間04分22秒65でトップの記録を残している。

さて、関東はどうだったか。

トップ通過の城西大のタイムは3時間57分35秒40で、8位で次点の立教までが3時間台のタイムをマークしている。全国一斉に予選が行われたとしたら、関東が独占しかねないのである。

もうひとつ、出雲駅伝に目を転じてみよう。九州地区の予選会にあたるのが、前年12月に行われる九州学生駅伝対校選手権、いわゆる島原駅伝だ。

出雲と同じ6区間で争われるが、最長は4区の9・38㎞で、やはり5㎞から10㎞の強化に特化することになり、ハーフマラソンに対応するカレンダーになっていない。そもそも10月にハーフマラソンに挑む強化日程が設定されるのは、関東学連の学校だけなのだ。

箱根駅伝の全国化が発表されたのは2022年6月のことだったが、わずか1年とちょっとではハーフマラソンに対応できる選手を10人以上育てるのは現実的に不可能なのである。

強化現場の指導者たちは、どう捉えているだろうか。全国大会の常連、第一工科大の岩元慎一総監督は「西スポWEB OTTO!」の取材に対してこうコメントしている。

「地方で20キロ走れる選手はいない。(全国化が)5年くらい続けられるならともかく、1回こっきりででは…」

これが本音である。全国化は100回大会限りのため、将来を見据えた強化もできないというわけだ。

鹿屋体育大学の松村勲監督も、メディアをはじめとした盛り上がりについて、冷静な目を向けている。

「感情で『チャレンジだ』と言っても…。もっと目指すべきことに注力して成績を残すことの方が大事。関東学連に右往左往させられている。地方の大学が巻き込まれているだけ」

なかなかシニカルなコメントで、他地区の大学からすると、現状では箱根駅伝予選会出場よりも、全日本大学駅伝、出雲駅伝に出られる価値の方が高い。

大学スポーツが発揮できる社会的な意義とは

関東の関係者は静観を決めこんでいるが、唯一、青山学院の原監督だけがこの一連の流れに疑義を呈している。2025年からは従来通りの方式に戻されることが発表されると、ツイッター(現X)に自説を投稿した。

「まさに茶番劇に終わりそうな箱根駅伝全国化問題。100回大会の地方大学参加、101回大会後の参加継続なし、すべて事後報告!正月から国道一号線を利用させて頂く国民行事。加盟校のみならず、多くの国民のご意見に耳を傾けるべきだと思います。皆さんはどう感じられますか?」

もともと原監督は全国化を唱えてきたが、関係者の間では第1回大会から関東で行われてきたことと、戦後の大会復興にあたって、先人たちが箱根駅伝という財産をつないでいくために甚大な努力をしたことを忘れてはならない、という声も聞く。

私個人はといえば、全国化が定番となれば、地方の大学のなかには豊富な資金を投入して学生をリクルートする学校も現れてくるだろう。そうなった時に、箱根駅伝がどうなってしまうのか、という不安はある。

まずは、2023年に全国の大学が予選会に参加して、どんな結果が得られるかを観察していくことが大切かと思う。もしも、選手強化にプラスになるようであれば、全国の大学が5年に一度なり、より開かれた大会になるように働きかけていくはずだ。

未来の箱根駅伝はどうなっていくのだろう?

私としては、学生の生活が充実する方向へと向かい、大学スポーツがより社会的な意義を持てるよう、箱根駅伝が先導していって欲しいと思っている。

箱根駅伝には、その力があるのだから。


文/生島 淳

『箱根駅伝に魅せられて』 (角川新書)

生島 淳 (著)

2023/10/10

¥990

240ページ

ISBN:

978-4040824673

箱根駅伝100回大会。歴史と展望を存分に味わう一冊

正月の風物詩・箱根駅伝では、100年の歴史の中で数々の名勝負が繰り広げられ、瀬古利彦(早稲田大)、渡辺康幸(同)、柏原竜二(東洋大)らスター選手、澤木啓祐(順天堂大)、大八木弘明(駒澤大)、原晋(青学大)ら名監督が生まれてきた。
今やテレビ中継の世帯視聴率が30%前後を誇る国民的行事となっている。
なぜここまで惹きつけられるのか――。45年以上追い続けてきた著者・生島淳がその魅力を丹念に紐解く「読む箱根駅伝」。

100回大会を境に「中央大・順天堂大の時代」が来る――!?

99回大会で「史上最高の2区」と称された吉居大和(中央大)、田澤廉(駒澤大)、近藤幸太郎(青学大)の激闘の裏には、名将・原晋が思い描いた幻の秘策が隠されていた――。

入学時からマインドセットが違った絶対的エース。
柏原竜二(東洋大)「勝負は1年生から」
大迫傑(早稲田大)「駅伝には興味はありません」

渡辺康幸(早稲田大)VSマヤカ(山梨学院大)
竹澤健介(早稲田大)VSモグス(山梨学院大)
田澤廉(駒澤大)VSヴィンセント(東京国際大)
留学生の存在がもたらした「箱根から世界へ」

箱根史を彩る名選手、名監督、名勝負のエピソードが満載。

【目次】
はじめに
第1章 箱根を彩る名将たち
第2章 取材の現場から1
第3章 取材の現場から2
第4章 駅伝紀行
第5章 目の上のたんこぶ
第6章 メディア
第7章 箱根駅伝に魅せられて
おわりに

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