日本の子どもの出生数は1973年以降、急速に減少が続いています。戦後の1947年から49年の第1次ベビーブーム期には約270万人、高度経済成長の1971年から1974年の第2次ベビーブーム期には約210万人だった出生数は、その後減少し、1984年には150万人を割り込みました。以降も下げ止まることはなく、2022年には国の見通しより10年も早く80万人を割ってしまいました。一人の女性が生涯に産む子どもの推計人数を示す「合計特殊出生率」は、1947年以降で過去最低となる1.26となりました(厚生労働省「人口動態統計」令和3年)。
幼稚園から高校まですべて公立でも1000万円かかる…少子化なのに親の負担が重い国、日本では子どもはぜいたく品なのか?
集英社オンライン / 2023年11月22日 8時1分
かつて〝勝ち組〟の代名詞でもあった「年収1000万円」世帯は、不動産価格の高騰、実質賃金の低下、物価高、共働きで子育てに追われる夫婦の増加などによって、ギリギリの生活設計を迫られている。様変わりした中流上位層のリアルを徹底分析した『世帯年収1000万円:「勝ち組」家庭の残酷な真実』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。
子どもはぜいたく品なのか?
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写真はイメージです
少子化にはさまざまな要因があるといわれますが、経済的な問題は最も大きな理由の一つです。2021年に国立社会保障・人口問題研究所が行った、予定子ども数が理想子ども数を下回る夫婦を対象にその理由を尋ねた調査では、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が回答のトップとなっています。特に妻の年齢が35歳未満では78%で、実に8割近くの人が経済的負担の大きさを理由に子どもを諦めていることになります。そんな背景もあってか、一人っ子も増加しています。
ライフスタイルが多様になり、誰もが結婚して子どもを授かることを望む時代ではなくなっているとはいえ、「子どもを持ちたいと希望しても(理想の人数は)持てない」一番の理由が「お金がかかるから」というのはいささか悲しいことのようにも思えます。しかし、そうは言っても、子どもを育てるのに多額のお金がかかるというのは厳然たる事実です。
標準的な進路を歩ませるとしても、子ども1人を育て上げるには1000万円以上かかると言われています。一体何にそんなにお金がかかるのか、当事者にならなければなかなかイメージがわきづらいかもしれません。ここからは、子どもが生まれてから大学卒業までに、いくらかかるかを見ていきたいと思います。
すべて公立でも1000万円超の現状
子どもにお金がかかるというと、しばしば「公立に行かせればいいはず」と言われます。しかし現実はそう単純ではありません。まず、高校卒業までの費用を見てみると幼稚園から高校までの15年間、すべて公立に通わせても1人あたり平均総額574万円です。この金額は文部科学省が行っている調査によるものですが、近年上がり続けており、直近の令和3年度のデータでは3年前と比べて30万円以上高くなってしまいました。
ここには学校の授業料や入学金、学用品費、修学旅行の積立金、塾や習い事の月謝などが含まれていますが、教育費に絞ったデータなので、食費や日用品などの生活費とは別です。子育てをするには、日常生活費以外に教育費として数百万円規模のお金を支払っていく必要があるということです。
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幼稚園~高校:文部科学省「令和3年度 子供の学習費調査」、大学:日本政策金融公庫「令和3年度 教育費負担の実態調査結果」をもとに図版は筆者作成
家庭の教育方針や地域性、子どもの希望などによっては、私立に進学することもありえます。高校で私立に進学すれば幼稚園から15年間でかかる総額は736万円、幼稚園からずっと私立に行けばなんと1人あたり1838万円にもなります。
これは子どもが高校を卒業する18歳までの費用ですが、その後に専門学校や大学に進学するのであれば、まだ出費の折り返し地点にすぎません。大学の場合はたった4年間で、それまでの18年分に匹敵する出費が待っています。大学や学部による差はありますが、授業料などの入学費用と4年間の在学費用を合わせた総額は国公立大学でも481万円、私立大学文系なら690万円、私立理系なら822万円にもなります(日本政策金融公庫「令和3年度 教育費負担の実態調査結果」)。
つまり、大学進学を前提とした場合、幼稚園から大学までずっと公立・国立に通ったとしても、年間の総額にすると子ども1人に1000万円以上は必要ということです。途中で私立に進めば1500万円を超えるでしょう。子どもが2人、3人となれば数千万円という途方もない額になります。標準的な進路を選んだとしても、子どもを1人育てるだけで住宅や高級車に匹敵する金額がかかるのです。
少子化なのに親の負担が重い国
ところで、これほどの教育費は、すべて親が自力でまかなっていかねばならないのでしょうか。公的な支援があれば、いくぶんか負担は抑えられるはずです。
しかし、実は子育て世帯への公的な支援は決して十分とは言えません。子どもの教育コストは、社会全体でみると主に税金などの公的資源、親などの家計、そして民間団体や大学の奨学金制度などの私的資源の3つで支えられていますが、日本では長らく家計負担に比重を置く政策が取られてきたためです。特に大学など高等教育の費用は家計負担の割合が52%と高く、これは欧米を中心とした先進国38カ国からなるOECD加盟国の中でワースト5に入ります。
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児童手当や出産手当、育児休業手当など家族関係の社会支出が対GDP比で約2%という数字も、少子化対策に成功したといわれるフランス(2.9%)やスウェーデン(3.4%)に比べて低く、出生率回復の目安とされる3%を下回っています。
2023年に岸田政権は児童手当の所得制限撤廃などを盛り込んだ「異次元の少子化対策」を打ち出し、3兆円規模の予算を投じてこれをスウェーデン並みに引き上げるとしています。東京都では国に先がけ、2024年1月から18歳以下の子どもに月5000円を所得制限なしで給付することを決定してもいます。
しかし、児童手当の所得制限撤廃と同時に所得税の扶養控除廃止も検討されており、子育て世帯への補助は世帯年収1000万円以上になると実質的にはほとんど効果が無いばかりか、むしろ負担増になるとの指摘もあります。
なのに「異次元の少子化対策」への反発の声も
まず、子育ての入口となる出産費用が高額です。現在は帝王切開などを除けば、出産には保険が利かず、全額が自費扱いです。保険適用外のため金額は各病院が設定していますが、この10年で毎年約1%ずつ上がり続け、2020年度の全国平均は46.7万円となっています。
ただし、国からの補助はあります。子どもを産むと、2023年4月以降は国から子ども1人あたり50万円の出産育児一時金が支給され、入院時に手続きをしておけば、産院で支払う出産費用からこの分が差し引かれる制度もあります。
また先述の「異次元の少子化対策」では、早ければ2026年度にも出産費用を公的保険の対象とすることも検討されています。しかし、この財源は働く人の社会保険料や高齢者の医療費負担の引き上げによって確保される見込みで、特に子育て世帯以外からの強い反発を招いています。
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写真はイメージです
ちなみに出産にかかる50万円はあくまでも分娩やその前後の入院のみにかかる平均額で、個室や高級な産院、無痛分娩などを選んだからというわけではありません。そもそも子どもを妊娠すると出産まで定期的に妊婦健診や検査を受けることになり、補助制度はあるもののこれらの費用にも公的な保険は利きません。
子どもを授かった途端に、大人だけの生活では思いもよらなかった出費が次々と発生するのです。妊娠や出産の時点でこれだけ出費が嵩むとなると、子どもを持つことはそれだけで「ぜいたく」と言われてもしかたがないことかもしれません。
なにより、子どもを一人前に育てるにはおよそ20年という長い年月がかかります。出産は子育て費用の序章にすぎません。それからの成長のあらゆる局面で、親は想像を超える出費に直面することになります。
文/加藤梨里
『世帯年収1000万円:「勝ち組」家庭の残酷な真実』(新潮社)
加藤梨里
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2023年11月17日
1760円
224ページ
978-4-106110207
タワマンに住んで外車に乗る人まで国が支援するのか――所得制限撤廃の話になると、きまってこんな批判がわき起きる。だが、当事者の実感は今やこの言葉とはかけ離れている。かつて〝勝ち組〟の代名詞でもあった「年収1000万円」世帯は、不動産価格の高騰、実質賃金の低下、共働きで子育てに追われる夫婦の増加などによって、ギリギリの生活設計を迫られているのだ。様変わりした中流上位層のリアルを徹底分析。
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