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「子育て罰」と思わされる現在の扶養控除制度…親が稼ぐほど子どもが損をする日本の教育費の行く末

集英社オンライン / 2023年11月23日 16時1分

不動産価格の高騰、実質賃金の低下、共働きで子育てに追われる夫婦の増加といった影響を受けて、かつては勝ち組と称された「年収1000万円」世帯が苦境に追い込まれている。「子育てや教育にお金がかかりすぎる」から子どもを持たない選択をする夫婦も増えるなかで、様変わりした中流上位層のリアルとは。『世帯年収1000万円:「勝ち組」家庭の残酷な真実』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。

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東大生の親の半数以上が年収950万円以上

子供の受験において、お金をかけた分だけ単純に成績が上がるわけでも、高学歴が手に入るわけでもない、と思いたいところですが、やはりある程度は経済力がものを言うのでは、と思わせるデータがあります。「東京大学の学生の親の半数以上が年収950万円以上」というものです。



同大学が学生の実態を調べた報告書によると、学生の11.4%は生計を支える親などの世帯年収が950~1050万円、42.5%が1050万円以上といいます。調査年による変動もありますが、2000年以降ほとんどの年で、年収1000万円超レベルの世帯が半数以上を占める結果になっています。

もちろん学校や家庭の学習だけで東大入試を突破できる人も一定数いますが、中高時代に塾に通って対策をやりこむのも、特に首都圏では一つのセオリーとなりつつあります。御三家などの中高一貫校では中学に入学するや否や、今度は東大を目指してまた受験塾に入る子どもが大勢います。

東大への進学実績は、高校や中高一貫校の人気に色濃く反映されると言われています。そのため進学校のなかには大学受験対策に力を入れ、塾無しで東大を目指せることを謳う学校もあります。しかし御三家をはじめとした難関中高一貫校でも、学校で手厚い大学受験対策をしてくれるとは限らないため、都市部では受験対策のために塾に通う子どもが大半です。

写真はイメージです

都内では東大受験対策塾のなかでも鉄緑会が有名ですが、英語は平岡塾、数学はSEG、などというように教科ごとに複数の塾を掛け持ちする生徒も多いようです。これら有名塾の授業料も、英語と数学の2科目で月に2~4万円前後かかり、高校3年生では年間で100万円近いところもあるようです。

中学受験にさんざん出費したかと思えば、中高でも高額な学校の授業料を負担しながら、さらに塾代を払う。そうしなければ目指す大学に入れず、そして入った大学の学費も高い。一連の教育費事情を俯瞰してみると、進路や地域事情による個人差はあるとはいえ、子どもを一人前にするには、なんとお金がかかるのかを痛感させられます。

このように、大学の学費自体が値上がりしているだけでなく、私大の定員減や入試改革の影響で受験対策にかかる費用も増加傾向にあり、単純な費用という意味でも、受験にかける労力という意味でも、ハードルは何段階も上がっています。

ひと世代前の大学受験の感覚で「せめて自分たちと同じぐらいの学歴を」と考えて子どもの教育に投資する方は多いと思いますが、入試の難易度も費用感も、すでに以前とは別のステージにきているという前提を理解して臨む必要がありそうです。

親が稼ぐほど子どもが損をする

ここまで、子どもが生まれてから大学卒業までの教育費と親の負担感をみてきましたが、ところどころで目に付くのが「所得制限」というワードです。子育てにかかるお金の負担が重くなるライフステージではその都度、国や自治体からの公的な支援を受けられるのかと思いきや、そこには所得制限という壁がある。そしてその壁は多くの場合、(世帯)年収1000万円前後の家庭に立ちはだかる、ということに気づくはずです。

たとえば高校の授業料には国の無償化制度があり、全日制の公立高校なら授業料と同額の年11万8000円、私立では最大で年39万6000円が支給されます。しかし専業主婦と高校生2人の会社員家庭の場合で目安年収950万円を超えると所得制限の対象となり、利用できません(厳密には住民税額に応じて決まる)。

写真はイメージです

私立高校に通っている場合は公立向けよりも支給額が上乗せされますが、そのための親の年収水準は640万円までと、公立よりも所得制限が厳しくなっています。

共働き世帯の場合は年収基準が異なり、先ほどと同じく高校生2人の家庭で両親がともに会社員なら、目安となる年収上限は夫婦合算で約1070万円です。子ども2人の場合は専業主婦(夫)家庭でも共働き家庭でも、およそ年収1000万円前後がボーダーラインになることがわかります。

総額約200万円が支給される児童手当て

大阪府では国の制度とあわせて高校の授業料負担がゼロになるしくみもありますが、補助の内容は親の収入によって差があります。子ども1人で親の年収が590万円未満、授業料が年間60万円の場合には実質の自己負担がゼロ、年収800万円未満までは自己負担20万円、年収910万円未満までは自己負担48万1200円となり、年収910万円以上になると補助の対象外になります(2023年度現在。2026年度から見直し予定あり)。

写真はイメージです

中学生まで国から支給される児童手当にも所得制限があります。2023年現在は3歳未満は月1万5000円、3歳以上は月1万円(第3子以降は3歳から小学校修了まで月1万5000円)が原則支給されるものですが、子ども2人と専業主婦がいる会社員家庭の場合は目安年収960万円、子どもが3人なら年収1002万円を超えると、受給額がカットされ、月5000円になります。前者と同じ条件で年収1200万円を超えると、児童手当はゼロになってしまいます(2024年度中に所得制限撤廃予定あり)。

月に1万円や1万5000円の収入は、世帯年収が1000万円を超える家庭にとってはたいしたことはない、という考えもあるかもしれません。しかし、子どもが生まれてから中学卒業まで約15年間の支給総額は約200万円になります。これは大学でかかる費用の1~2年分にもあたりますが、その分を国に支援してもらえるか、親子が自分で準備しなければならないかというのは大きな違いです。

ちなみに共働きの所得基準は、夫婦で会社員、子ども2人の場合には、夫または妻の年収が約917万円までが満額支給の対象です。世帯年収にすれば約1800万円ということになりますので、専業主婦家庭に比べると児童手当の面では有利といえます。

「子育て罰」を可視化する扶養控除制度

現在議論されている児童手当拡充が実現した場合、一部の子育て世帯の税負担がかえって増える可能性も指摘されています。現行の制度では高校生にあたる16歳以上19歳未満の子どもを扶養する世帯では、所得税では38万円、住民税では33万円の「扶養控除」の適用を受けられます。適用することで課税対象になる所得額を減らし、税が少なくなる仕組みです。しかし児童手当の拡充と引き換えに、この扶養控除が廃止または縮小されることが検討されています(2023年10月現在)。

そもそも、今ある児童手当は、かつて存在した「年少扶養控除」の代わりに支給されるようになったものです。年少扶養控除とは過去に所得税にあった制度で、2010年までは15歳までの子ども1人につき38万円が扶養する親の所得から控除されていました。ところが児童手当の導入を名目に、2011年の税制改正によって廃止されてしまいました。

しかも、年少扶養控除は所得にかかわらず子どもが16歳未満であれば適用されましたが、児童手当では所得制限が設けられてしまったのです。児童手当をもらえる世帯にとっては、年少扶養控除がなくなったかわりに児童手当が支給されるようになったといえますが、所得制限の対象世帯では単に増税されただけというわけです。

同時に、16歳から19歳の子どもを扶養している人にはそれまで子ども1人につき63万円の扶養控除が使えましたが、こちらも38万円へと引き下げられてしまいました。税の負担増は高校無償化によって補うということでしたが、こちらも所得制限が設定されて一部の世帯はいつのまにか恩恵がまったくなくなってしまったのです。

最も教育費負担の重い大学生時期である19歳から22歳の子どもについては、今でも「特定扶養親族」として1人63万円の扶養控除を受けられますが、高校生までは税の負担が重いうえに、親が高所得だと国の給付も受けられないわけです。

出所:国税庁「Ⅱ 主な税制改正について」

なお、23歳以上の子どもを扶養している場合には今でも扶養控除は1人あたり38万円ですし、70歳以上の親などなら48万円、同居していれば58万円です。同じように家族を養っていても、高齢の親なら扶養控除を受けられるのに子どもならゼロというのはいささか不公平に感じてしまいます。

文/加藤梨里

『世帯年収1000万円:「勝ち組」家庭の残酷な真実』(新潮社)

加藤梨里

2023年11月17日

1760円

224ページ

ISBN:

978-4-106110207

タワマンに住んで外車に乗る人まで国が支援するのか――所得制限撤廃の話になると、きまってこんな批判がわき起きる。だが、当事者の実感は今やこの言葉とはかけ離れている。かつて〝勝ち組〟の代名詞でもあった「年収1000万円」世帯は、不動産価格の高騰、実質賃金の低下、共働きで子育てに追われる夫婦の増加などによって、ギリギリの生活設計を迫られているのだ。様変わりした中流上位層のリアルを徹底分析。

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