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「ワクチン接種によるリスクの誤解」ワクチン接種後に一定数の副作用が出現するのは、確率的には当然のこと。我々に必要なのは「正しい医療」

集英社オンライン / 2023年11月27日 12時1分

米国のワクチン有害事象報告システムには、新型コロナウィルスのワクチンによって、心臓と頭髪に対して副作用のリスクがあることが報告されているという。だがどのような医療行為にもリスクというものは存在する。ワクチンについてさまざまに論じられる中での最新の動向に加え、予防接種制度や海外のワクチンも含めたワクチン接種の全体像を解説した、『ワクチンを学び直す』より、ワクチンについての最新の知識を一部抜粋再構成してお伝えする。

新型コロナワクチンの安全性の評価について

日本ではワクチン接種後、1967人の死亡が確認された、という報道が『日刊ゲンダイ』でなされていました。非常に質の低い「だめ記事」といわざるを得ません(*1)。



前述のように、新型コロナワクチンは国民1人あたり3回以上接種されています。年間、何千万という新型コロナワクチンが接種されています。その一方、日本では毎年100万人以上の方が死亡しています。

であれば、ワクチン接種後に一定数の死亡者が出現するのは、確率的には当然のことです。もし、「ワクチン接種後の死亡がゼロです」と政府が発表すれば、「そんなわけはない」と「陰謀論」を疑うべきですが、想定通り死亡者が出現していることは、確率的には当たり前なのです。

よって、「〇〇後に何人死亡」では、ワクチンの安全性の評価には役に立たないことは明らかです。『日刊ゲンダイ』の記事を「だめ記事」と言うのはそのためです。数字を垂れ流すだけでなく、その「意味」、インプリケーション(含意:表面に現れない含み持つ意味)を論じなければ、優れたジャーナリズムとはいえません。

では、どのようにしてワクチンの安全性を評価したらよいのでしょうか。それは、「比較」です。ワクチンの効果を吟味する際にも「比較」が重要だとお伝えしました。安全性についても同様なのです。

拙著『ワクチンは怖くない』でも、HPVワクチンの安全性を吟味しました。HPVワクチンを接種していない集団と比べて、HPVワクチン接種者に見られたいろいろな症状の頻度は、差がなかったのです。若い女性が不眠や痛みなど、様々な症状を起こすことはあります。ポイントはそこではなく、「ワクチン接種群と非接種群」との比較なのです。もちろん、新型コロナウイルスのワクチンについても考え方は同じです。

どんな医療行為にも一定の副作用が発生

ワクチン接種がなかった時と比べて、それ以上の有害事象が発生した場合は、それは「意味のある問題」として認識されなければなりません。ワクチンの副作用は、本来「システム」で合理的に自動的に検出せねばならないのです。死亡者を数えているだけでは「何も分からない」のです。日本はそういう意味でも、まだまだワクチン後進国なのです。

米国にはワクチン有害事象報告システム(VAERS)というのがあり、構造的に、自動的にワクチンの副作用リスクを検出、吟味しています。これは、ワクチン接種データと、入院などの臨床情報の突合、解析ができる「仕組み」があるから可能なのです。定期的に専門家がデータをモニタリングし、懸念すべき副作用が生じていないか確認します。

そこで問題視されたのが、前述した心筋炎です。

心筋炎は、心臓の筋肉に炎症が起きる病気ですが、ワクチン有害事象報告システム(VAERS)によって、新型コロナワクチン接種後に心筋炎が有意に多く発生していることが判明しました。「有意に多く」というのは、一般市民で普通に発生するであろう心筋炎の数よりも多く発生している(つまりは、「比較」による)ということで、それを検知し、アラートを出したのです。

心筋炎の報告では、1億9千万人以上の、3億5千万回以上という巨大なワクチン接種記録と、ワクチン接種7日以内の心筋炎の発生をモニターしました。1991例の心筋炎の報告がなされ、そのうち1626例が心筋炎の症例定義を満たしていました。性別や年齢で調整すると、その報告数は期待される心筋炎の発生数よりも多いものでした(比較)。

特に、2回目のワクチン接種を受けた16~17歳の男子で発生数が多く、ファイザーのmRNAワクチンでは100万回あたり105.9例発生していました。96%が入院を必要とし、そのうち87%は元気になって退院しました(*2)。

どんなワクチンにも、いや、どんな医療行為にも一定の副作用が発生します。が、それは解析されねばならず、ただ素朴に数を数えているだけでは本当のことは分かりません。

「ワクチン接種によるリスク」の誤解

僕らも新型コロナワクチン後の心筋炎の入院患者は経験しています。これもよく誤解されているところですが、専門家は自分たちの専門領域のリスクは熟知しています。ワクチンのリスク、抗生物質のリスク……、使っているツールの欠点を全部理解しているからこそ、使えるのです。手術後の合併症の知識がない外科医にろくな外科医がいないように、ワクチンのリスクを理解しない感染症医はだめな感染症医です。

心筋炎以外にもワクチンの副作用はあります。ぼくが経験したのは「脱毛」でした。頭髪、眉毛、まつ毛など、全身の毛が抜けてしまう有害事象が発生したのです。調べてみると、VAERSにも同様の報告がなされていました。

この事例は論文にして発表しました(*3)。

医療行為の利益もリスクも、平等に学術界で検討するのが我々専門家の責務です。だから、ワクチンで生じた可能性のある「リスク」についてはきちんと報告しなければなりません。我々はワクチンびいきでも、反ワクチンでもなく、正しい医療を希求しているのです。正しい医療には正しい情報が欠かせません。

というわけで、心筋炎や脱毛など、様々な副作用がワクチンによって起こりえます。おそらくは免疫賦活作用のために自分の体に対して免疫活動が起きて、自分の体の細胞を攻撃したためではないかと考えています。心臓の細胞や毛髪をターゲットにした炎症反応です。

しかし、じつはワクチン接種よりも新型コロナ感染のほうが心筋炎のリスクは高いのです。このことはすでに述べました。

「罹患率比(incidence rate ratio)」という、若干、ややこしい名前の指標で評価すると、新型コロナ感染後の心筋炎の罹患率比は11以上で、ワクチン接種後の5.97を大きく上回りました。ワクチンのリスクは、新型コロナ感染のリスクよりもマシなリスク、というわけです(*4)。

そうそう、「ワクチンを打っている人のほうが入院しやすい」という説がまことしやかに出されたこともありました。これはイスラエルの病院で入院患者の大多数がワクチン接種者だったために起きた話でした。

ワクチンを打つと感染者が増えるの誤解

これも、初歩的な分数の勘違いです。

イスラエルでは大規模ワクチン接種が進んだため、非接種者が少数派になってしまいました。圧倒的多数派のワクチン接種者も少しは入院します。少数派の非接種者もより多くの割合で入院します。

しかし、分母が巨大な接種者では、「率」が低くても、分子は大きくなってしまいます。分母が小さな非接種者では「率」が大きくても分子は小さいままです。

この場合、接種者全体分の入院接種者、非接種者全体分の入院非接種者、という「分数」で考えれば誤解は消失します(*5)。ワクチンを打つと感染者が増える、という意見も見ました。

これも素朴な誤解で、感染が増えるとワクチン接種者が増えるという「逆の因果関係」を見ているだけです。

ワクチンが感染を抑えているかどうかは「比較群」を置かないと分かりません。ここでは因果関係が逆転しているので、「傘をさす人が増えると、雨が降る」かのような誤解です(*6)。

以上、新型コロナワクチンについて、特に問題になりやすい点をできるだけ分かりやすくご説明しました。お役に立ちましたでしょうか。


写真/shutterstock


参考文献
(*1) 「コロナワクチン接種後死亡は47 件増えて1967 件に 厚労省報
告」日刊ゲンダイヘルスケア(2023 年1 月25 日) Available at: https://hc
.nikkan-gendai.com/articles/278645(閲覧日2023 年1 月27 日)
(*2)Iwata K, Kunisada M. Alopecia universalis after injection of messenger RNA COVID-19 vaccine. A case report. IDCases 2023; 33:e01830.
(*3)Patone M, Mei XW, Handunnetthi L, et al. Risk of Myocarditis After Sequential Doses of COVID-19 Vaccine and SARS-CoV-2 Infection by Age and Sex. Circulation 2022; 146:743-754.
(*4) Patone M, Mei XW, Handunnetthi L, et al. Risk of Myocarditis
After Sequential Doses of COVID-19 Vaccine and SARS-CoV-2
Infection by Age and Sex. Circulation 2022; 146:743-754.
(*5)Morris J. Israeli data: How can efficacy vs. severe disease be strong when 60% of hospitalized are vaccinated? 2021. Available at:https://www.covid-datascience.com/post/israeli-data-how-can-efficacyvs-severe-disease-be-strong-when-60-of-hospitalized-are-vaccinated(閲覧日2023年1月27日)
(*6)森田洋之「厚労省が公式データ修正→『ワクチン有効』は嘘でした…の衝撃。」note. Available at: https://note.com/hiroyukimorita/n/nb8
167213232a(閲覧日2023 年1 月27 日)

『ワクチンを学び直す』 (光文社新書)

岩田健太郎

2023年10月18日

880円

288ページ

ISBN:

978-4334100902

感染症の専門家が、最新の動きを含めてわかりやすく解説

【内 容】

この数年、日本のワクチン接種は、環境において大きな前進が2つあった。1つは、新型コロナに対するmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンの提供が非常にうまくいったこと。

もう1つは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的勧奨が再開されたことである。ワクチンを論じる上で最も重要な2つのポイントは、有効性と安全性だ。著者はこれまで光文社新書で、ワクチン・予防接種をテーマに2冊の本(『予防接種は「効く」のか?』『ワクチンは怖くない』)を刊行し、この2点について検討してきた。

それをふまえ執筆する3冊目の本書では、ワクチンについて様々に論じられる中での最新の動きに加え、予防接種制度や海外のワクチンも含めたワクチン接種の全体像、またそれぞれのワクチンがどう活用されるのかを、包括的に、かつ分かりやすく解説する。

ワクチンのこれまで、今、そして未来――

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