受験というゲームは必ず勝者と敗者を生み出す。もちろん受験に限ったことではないが、社会は勝者と敗者を分けていく仕組みに満ちており、その二項対立の思考から口先だけでなく脱することは意外に難しいことだ。
受験にフルパワーを注いでいた高校時代、私は受験生が問題文以外で小説を読むことは時間の無駄だとまで考えていたが、よく一緒に自習していた医学部志望の友人Nから「佐川、騙されたと思ってこれだけは読んでみてくれ」と一冊の本を渡された。それが宮本輝『星々の悲しみ』である。
【ネガティブ読書案内】第24回:受験に落ちた時(案内人:佐川恭一さん)
集英社オンライン / 2023年11月26日 11時1分
恥ずかしい時、悔しい時、モヤモヤする時……思わずネガティブな気持ちになったときこそ、読書で心をやすらげてみませんか? あの人・この人に聞いてみた、落ち込んだ時のためのブックガイド・エッセイです。
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『星々の悲しみ』
宮本輝/著(文藝春秋)
表題作「星々の悲しみ」の主人公は大学に落ちたばかりの浪人生だが、毎日図書館に通い、受験勉強よりも読書に夢中になっている。そんな折、彼は同じ予備校に通う二人の浪人生と知り合う。それから三人は若者らしい楽しい付き合いをしながら、喫茶店から絵を盗み出すという悪の冒険や淡い恋愛も経験しながら、まぶしく輝くような青春の時間を過ごしていく。私自身、若かった初読の際には認識できていなかったが、彼らを包みこむ光は、そのさなかにいる人間には決して捉えられない種類のものだ。だが物語の終盤において、彼らのうちの一人が深刻な病魔に冒されるという悲劇が起きる。人生とは何か、死とは何か、芸術は、文学は、死そのものにどこまで近づけるのか? この作品には青春のみずみずしい1ページが書き込まれているだけでなく、そういった大きな問題を考え抜こうとする苦闘の跡が見られる。
私がこの作品を読んだのは受験に落ちる前だったわけだが、浪人後もずっと胸に残っていて、大人になってからも定期的に読み返している。受験に落ちた時、敗者としての自分を突きつけられた時、人は絶望の淵に突き落とされて視野が狭くなってしまいがちだが、それは人生のほんの一部に過ぎない。言葉としてならそれは誰にでも理解できることだが、心からそう思えるにはかなり長いプロセスを経る必要がある。本作はきっと本当の意味で人生全体に目を向けるための端緒となってくれるだろう。
とはいえ、第一志望に落ちたがまだ方向転換するつもりがなく、再挑戦を期している方の多くは、「人生っていうのはね」などと語りかけられてもそれどころではないだろう。とにかく受験のことを考えたい、やる気を出したいという人にオススメなのは、『偏差値70からの大学受験?! ぼく、偏差値大好き』という、二十年ほど前にウェブで公開された凄絶な受験体験記である。
https://cocostudy.jp/yaruki/hensachi/
ここでは神戸大学の夜間に入った主人公が学歴の魔に取り憑かれて一念発起し、再受験に命をかけるさまが詳細に描かれている。あまりにも激しい勉強ぶりなので、読めば猛烈にやる気が出ること請け合いである。現在オリジナルサイトは閉じられていて、別人の運営するサイトに引き継がれまとめられているが、興味のある方はぜひこの凄まじい受験ドラマの結末を目撃してほしい。
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