〈11月23日は“たこ八郎”の誕生日〉生誕83年。「東大生の血を輸血して知能指数が上がるかを判定」…テリー伊藤に見いだされ、赤塚不二夫に「現代の妖精」と評された昭和の怪人・たこ八郎とは何者だったのか?
集英社オンライン / 2023年11月23日 11時1分
ボクシング日本チャンピオンからコメディアンへと華麗なる転身をとげ、昭和のテレビ界で躍動した怪人・たこ八郎。生きていれば、今年11月23日で83歳になっていた、たこ八郎とはいったい何者だったのか。彼の行きつけだった新宿ゴールデン街のバー「クラクラ」の店主で、俳優や演出家としても活躍する外波山文明(とばやま・ぶんめい)さんの述懐から、その人物像を振り返る。
「たこちゃんが飲み屋にいると、みんながおごりたくなる」
どこかとぼけた顔立ちに、前髪の真ん中だけ伸ばした坊主頭という珍妙なヘアスタイル……そのコミカルな風貌と、「たっこでーす」の決め台詞で1980年代のお茶の間の人気者だった、たこ八郎。
もともとはボクサーで、左眼がほぼ失明状態というハンディキャップを抱えたまま日本フライ級王者に輝き、そのタイトルを2度も防衛した経歴を持つ。その才気は、芸能界でもいかんなく発揮された。
1964年、24歳でボクサーを引退したその翌日に、同じ宮城県出身だった喜劇俳優の由利徹に弟子入りしたたこ。それからテレビで再び脚光を浴びるまでの数年間、たこは世間的には“消えた”存在になっていた。
外波山さんが彼と初めて会ったのはそのころだった。
「あれは歌舞伎町にあった小茶(こちゃ)という居酒屋でした。小茶にはザ・ドリフターズの映画『全員集合』シリーズを手掛けた渡辺祐介監督をはじめ、歌手など芸能関係者も多く出入りしていたね。たこちゃんは勤労感謝の日に生まれた自分ことを『全然働かない俺が、こんな日に生まれちゃって、なあ』と言っていたよ」
外波山さんもたこも、ともに小茶から歩いて数分のところに住んでいたこともあり、ふたりは毎晩のように一緒に飲み、たこは頻繁に外波山さん宅に泊まっていたという。
「たこちゃんはウイスキーの水割りが好きでね。涙もろかったり、飲んでるとすぐに寝ちゃったりするところもあったけど、酒癖が悪いとは誰も思ってなかったよ。それどころか、飲み屋にたこちゃんがいるとみんながおごってくれるもんだから、彼がお金を払うことはほぼなかったな」
バラエティで東大生の血を輸血
今で言う“愛すべきバカ”的存在だったのだろう。外波山さんもこう振り返る。
「当時、『笑っていいとも!』に出演(83年4月から84年3月までは水曜レギュラー、85年4月から死去した7月までは火曜レギュラー)してたけど、たこちゃんはよく行くのを忘れちゃうから、何度も(スタジオ)アルタまで送ってあげましたよ。
とにかく放って置けない存在というのは誰もが感じていたはずで、いろんな人がたこちゃんの人柄やキャラクターに魅了されてたんだよね」
官能小説界の奇才・団鬼六、ロマンポルノ界の巨匠・山本晋也、そして昭和映画界の大スター、高倉健も、たこに魅了されたひとりだった。
「たこちゃんは『網走番外地』シリーズに出演する師匠の由利さんの付き人として、東映の撮影所を出入りしてたんです。その作品の主演の高倉さんがたこちゃんのボクサー時代の試合を見てたらしく、『ぜひ僕の映画に出てください』と直々にオファーをかけたみたいで。
それがあの『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)。僕は同業者だから、普通は大役をゲットした彼に嫉妬しそうなものだけど、そんなことまったくなかったね。むしろ彼の魅力が世間の人に伝わるのをうれしいとさえ思っていました」
こうして“俳優”たこ八郎は世間に広く認知されるようになったが、さらに彼をスターへと押し上げたのがテレビだった。
「たこちゃんの笑いの魅力をお茶の間向けにとことん引き出したのはテリー伊藤さんじゃないかな。テリーさんが演出してた『日曜ビッグスペシャル』で、たこちゃんに東大生の血を輸血して知能指数が上がるかどうかを試したりしたね。まぁ、いろんなことがユルかった昭和の時代のお茶の間だからウケたんだろうけど(笑)。
あとは全身に金粉を塗ってマラソンさせて、皮膚呼吸できなくて倒れたたこちゃんが「人類みな兄弟!」って、すっとぼけたコメントでボケてみたり。そんな無茶苦茶なことさせられても、悲壮感や嫌悪感を感じさせなかったから人気者になったんでしょうね」
赤塚不二夫いわく「たこは現代の妖精だよ」
そうしたキャラクターは天性のものだった。外波山さんも「駆け出しのコメディアンとして浅草のストリップ劇場で前座をやっていたときも、他の芸人がセリフを覚えてコメディをやるなか、たこちゃんはヨダレを垂らして登場するだけで爆笑の渦だった」と、その喜劇の才能に舌を巻く。
ボクサー時代の後遺症で、パンチドランカーの症状を患っていたたこは、記憶障害でセリフ覚えが悪く、師匠宅に住み込んでいた時代は寝小便をすることも頻繁にあった。しかし、彼はピエロとして観客に“笑われていた”わけではなかったとも。
それは彼をテレビの世界で輝かせたテリー伊藤が「彼はパンチドランカーのフリをしていたと思う」とインタビューで答えていることからもわかる。
外波山さんも続ける。
「パンチドランカーの症状は本当にあったと思います。でも、そんな自分を活かすにはどうすればいいのかを賢く考えてたんじゃないかな」
笑いに、そして人々に愛されたこの男は、赤塚不二夫をして「たこは現代の妖精だよ」と言わしめるほどだった。
しかし、人気絶頂のなか、たこは帰らぬ人となる。後編で事故で亡くなったあの日、現場に一緒にいた外波山さんが悲劇の真相を語る。
取材・文/河合桃子 写真提供/外波山文明
集英社オンライン編集部ニュース班
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