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加護亜依は勝新太郎、広末涼子は無頼派、上戸彩は特別賞の特別賞…筋金入りのアイドル評論家が明かす「アイドルになるためのルール」とは
集英社オンライン / 2023年11月29日 17時1分
「おたく」という言葉の名付け親として知られ、アイドル評論家として40年以上活動を続ける中森明夫さん。日本を代表するアイドルの語り部が、自身の人生とアイドルの歴史をリンクさせた集大成ともいえる新著『推す力 人生をかけたアイドル論』を刊行した。陰に日なたにアイドルを応援してきた中森さんに話を聞いた。(前後編の前編)
想定外だった上戸彩の「審査員特別賞」
――『推す力』はこれまで中森さんがアイドル評論家として活動する中で、アイドルを応援してきた事例がいろいろと挙げられていて興味深かったです。なかでも、1997年の「第7回全日本国民的美少女コンテスト」で選考から漏れかけた上戸彩さんに、中森さんがねばって賞をあげたというエピソードには驚きました。
中森明夫(以下同) 当時、上戸彩は11歳でね。審査員長は小林亜星さんで審査委員にコシノジュンコさん、立木義浩さん、マックス松浦さんがいて、なかでは僕と新井薫子が一番下っ端だったんじゃないかな。
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中森明夫
上戸彩はその年の「審査員特別賞」になったんだけれど、実は池端忍という子がすでに決まっていて、上戸彩は何の賞にも選ばれていなかった。でも、僕は絶対あの子がいいと思っていて。オスカーの古賀誠一社長(現会長)もいいと思っていたんですよね。「でも審査員特別賞を2人選ぶとなると、表彰状とたすきがないんだよな」と。
だから、あの時の授賞式の写真を見てほしいんだけど、上戸彩は表彰状ももらっていないし、たすきもしていない。だから、本当は審査員特別賞のさらに特別賞なんです。よく「最初から決まっていたんでしょ」とか言われるけど、全然そんなことなくて。あの時、僕が強く言わなかったら上戸彩は選ばれていなかった。
でも、その後に上戸彩が大ブレイクして、小学館から『上戸彩物語』という漫画が出たんだけれど、古賀社長が目をキラキラさせたキャラクターになって「この子だ!」って言ってるシーンがあるんです(笑)。審査員は完全に影になっていて、歴史の捏造だよって思った(笑)。
「好きの責任がある。プロとして好きになる仕事」
――中森さんはなぜ上戸彩さんを推したのでしょうか。
本当に小さくてかわいくてね、目が離せなかった。でも、上戸彩を推したとき、他の審査員たちの賛同はなくて、あの冷たい空気といったらなかったですよ(笑)。
歌の上手い子には音楽部門賞とか、演技の上手い子には演技部門賞とかがあるけれど、かわいい子はただかわいいとなっちゃうでしょう。そこが難しい。でも、アイドルってそうじゃないですか。歌が上手い子が売れるかというと、そうとは限らない。じゃあ、かわいい子が売れるかというと、そうともいえない。
新刊の中でも書いたけど、薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子の角川三人娘でいえば、どうやったって渡辺典子の顔がバランスがよくてかわいい。今、乃木坂46に入ってもいけると思う。でも売れたのは薬師丸ひろ子や原田知世だった。この不思議さね。
僕は2017年に『アイドルになりたい!』(ちくまプリマー新書) というアイドルになるための入門書を書いたんだけど、それまでそういう本がなかったんですよね。アイドルのなり方がわからないんだよね。
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例えば、サッカー選手になりたい人で、サッカーのルールを知らない人なんていないじゃない。100メートル走であれば9秒99で走った人が10秒の人に勝つというルールがあるでしょ。でもアイドルに関しては歌が上手くてもダメだし、スタイルがよくても人気がでるわけじゃない。何がよくてその子が選ばれるのかがわからない。つまりルールがわからないわけですよ。
じゃあ、アイドルのルールとは何かというと、それは好きになってもらうこと。しかも単なる恋愛じゃなくて、メディアを通して好きになってもらう。テレビの時代はテレビを通して、今はインターネットを通して好きになってもらう。握手会とかもあるけれど、握手会も1つのメディアで、そのメディアを通して好きになってもらう。
そして大体は“知っている”から好きになる。テレビに毎日出ていたら好きになる。でも、一番最初にその子たちが無名のころに好きになる人たちがいる。それがオーディションの審査員なんだよ。
僕が大学で講師をしていたころに学生から「先生は上戸彩を選んだとき、単に好みで選んだんじゃないですか」と聞かれたので「そうだよ。好みで選んでいる。ただ、違うのは審査員としてやっているから、好きの責任がある。プロとして好きになるのが仕事なんだ」という言い方をしました。
本のタイトルは「推す力」だけれど、推すというのはそういうことだと思う。
加護ちゃんは勝新太郎、広末は無頼派
――中森さんが推したことがいろんなものに繋がっていく様子も書かれています。その中でも白眉だったのは、「チャイドル」という言葉を生み出したことが、中学生向けファッション誌「nicola(ニコラ)」の誕生につながっていく部分です。
今回初めて書いたんだけど、「チャイドル」という言葉を作ったことで、いろんな運命を変えたから。チャイドルがブームにならなかったら、「ニコラ」も創刊されなかった。
「ニコラ」の編集長が言ってたんだけど、「中森さん、読者モデルっているでしょ。まだプロダクションに入っていない子を撮影するには旅費から食事から何もかも出版社が払うんですよ。他の雑誌に沖縄出身の子なんていますか? お金がかかるから選ばれないんですよ。でも、新垣結衣だって、二階堂ふみだって沖縄の子だけれど、ニコラだから旅費が出て、世に出られたんですよ」って。
風が吹けば桶屋は儲かるじゃないけれど、僕が「チャイドル」と名付けてブームが生まれなければ、「ニコラ」は生まれなかったはずだし、ガッキーも能年玲奈(現在は、のん)も見出されなかった。彼女たちをデビューさせたのは自分だ……と勝手に思ってるんですよ(笑)。
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――当時、スキャンダルに追われていた加護亜依さんを、中森さんや編集者、カメラマンたちが復活させようと動く話も面白かったです。
加護ちゃんは最高でしょ。加護ちゃんは勝新太郎だからね。今年の夏も韓国で撮られた写真が流出して問題になってね。とばっちりでしょ。あれがなければ、テレ東音楽祭でミニモニ復活したときに入っていたはずなんだよなあ。加護ちゃんのいないミニモニってなんなのって。
――加護さん、そして広末涼子さんを“無頼派アイドル”と書いていました。
広末もあの文章を書いたときにはまだ不倫スキャンダルの前だったからね。「入ってくれてありがとう」の前。でも、さすが無頼派じゃない。考えじゃなく衝動だよね。これぞ真の文学者だなあって。
――最終的には頓挫しますが、“加護ちゃん救済計画”はかなり具体的だったんですか。
そうですよ。あのときに実現していたら絶対うまくいったんだよ。「加護亜依24時」っていって、加護ちゃんが60年代のジョン・レノンとオノ・ヨーコのパフォーマンスみたいにベットに入って、そこにカメラマンが来て写真を撮って写真集にしたり、YouTubeで24時間ナマ中継したり、対談や取材をして本を作ったりしてさ。
実際、カメラマンの笠井爾示とかもいてさ。加護ちゃんもワイングラス片手にタバコを吸いながら「爾示の写真はさ、におってくるのがいいんだよね」とか言ってね。まだ21歳くらいだったけどすごかったよ、おもしろくてね。
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加護亜依写真集 『LOS ANGELES』(ジーオーティー・撮影/笠井爾示)
取材・文/徳重龍徳 撮影/村上庄吾
『推す力 人生をかけたアイドル論』(集英社新書)
中森明夫
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2023年11月17日
256ページ
新書判
978-4-08-721289-1
なぜ私たちは「推す」のか?
秘蔵エピソード満載のアイドル人生論!
篠山紀信さん(写真家)推薦!
アイドルを論じ続けて40年超。
「推す」という生き方を貫き、時代とそのアイコンを見つめてきた稀代の評論家が〈アイドル×ニッポン〉の半世紀を描き出す。
彼女たちはどこからやってきたのか?
あのブームは何だったのか?
推しの未来はどうなるのか?
芸能界のキーパーソン、とっておきのディープな会話、いま初めて明かされる真相――そのエピソードのどれもが悶絶級の懐かしさと新鮮な発見に満ちている。
戦後日本を彩った光と闇の文化史とともに、“虚構”の正体が浮かびあがるアイドル批評の決定版!
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