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元厚生事務次官宅を連続襲撃「年金テロ?」「第3の犯行を許すな」苛烈する報道と世間を尻目に起きた前代未聞の“出頭劇”

集英社オンライン / 2023年11月28日 17時1分

今から15年前の2008年11月23日。元厚生事務次官の自宅を相次いで襲った男が警視庁に出頭し、逮捕された。「年金テロ」の可能性も取り沙汰されるなど、日本中を震撼させたこの凶行は前代未聞の出頭劇で幕を閉じた。当時、週刊誌記者として事件を追った大島佑介氏が、警視庁麹町警察署の大混乱ぶりを振り返る。

#2

異様な雰囲気だった深夜の麹町警察署

2008年11月17日、18日。元厚生事務次官2名の自宅が立て続けに襲撃され、家族らが死傷する凄惨な事件が起こった。

厚生労働省は歴代事務次官経験者らに安全確保を呼び掛けるとともに、警察庁に彼らの身辺警護を要請。警察庁の米田壮刑事局長(当時)は「第3の犯行を許してはならない。一刻も早い犯人検挙を」と激を飛ばした。



襲撃された元事務次官のふたりはともに年金改革に携わっていたことから、メディアでは「年金問題に関連したテロではないか」と大きく報道された。

事態が動いたのは、事件発生から数日が経過した2008年11月22日。「犯人だ」と名乗る男が犯行を示す凶器などを持参し、レンタカーで警視庁に乗りつけ出頭したのだ。

「34年前、保健所に飼い犬を殺された仇討ちだった」

男が語った犯行動機はあまりにも不可解なものだった――。


警視庁麹町警察署

「会見はいつ始まるんですか!」
「犯人の情報は!」

2008年11月23日未明。麹町警察署には新聞・テレビ・週刊誌の記者ら約100人が詰めかけ、怒号が飛び交う異様な雰囲気に包まれていた。

当時、週刊誌記者だった筆者も、前日に警視庁へ出頭してきた元厚生事務次官宅連続襲撃事件の犯人と名乗る男に関する会見が同署で行われると聞き、慌てて現場へ駆け付けたことを覚えている。

筆者が麹町警察署に着くと、すでに旧知の新聞・週刊誌事件記者が顔をそろえており、所轄の入り口付近で当時最先端だったテレビつき携帯電話の小さなモニター画面から随時更新される犯人の情報を食い入るように見つめていた。

「警視庁に車で乗り付けて出頭するなんて前代未聞ですね」
「犯行の動機はいったいなんだったんでしょう?」
「やはり年金テロなんですかね」

携帯のモニター画面を見つめる旧知の記者とそんな会話を交わしながら、立延哲夫捜査一課長(当時)による会見が始まるのを今か今かと待ち構えていた。

約5分間で打ち切られた記者会見

厚生労働省

元厚生事務次官のAさん(享年66歳)と妻・Bさん(享年61歳)が11月17日夕方に、同じく元厚生事務次官のCさん(当時76歳)の妻・Dさん(当時72歳)が11月18日夕方に、それぞれ宅配業者を装った男に相次いで襲撃された。

突然の襲撃により、Aさんと妻・Bさんは片刃の刃物で胸などを刺され、心臓損傷により失血死。翌日に襲撃されたCさんの妻・Dさんは応対のために印鑑を用意してドアを開けたところ、胸などを複数箇所刺されて重傷を負った。

厚生省の元トップである事務次官経験者が立て続けに襲撃されたこの事件は世間を震撼させ、事態を重く見た厚生労働省は職員やOBに対し、厳重注意を呼び掛けていた。

警視庁

警視庁麹町警察署で立延捜査一課長の会見が行われたのは、男がレンタカーに乗って出頭してから約2時間半が経過した翌日0時すぎのことだった。

記者から矢継ぎ早に質問が飛ぶと、立延捜査一課長は「これから」とたしなめるように繰り返しながら、男の人定情報や身柄拘束に至る経緯を淡々と説明した。そして最後に、「みなさん、まだ気が早い」と話し、会見は約5分間で打ち切られた。

立延捜査一課長によると警視庁に出頭してきたのは、Kという男だった。

事件当時46歳だったKは、出頭時に全長約30cm、刃渡り約20cmの血の付いたナイフのほか、殺傷性の高い両刃のサバイバルナイフら数本を所持しており、住民票も持参。これら出頭時の所持品からも見てとれるように、覚悟の上での犯行だった。

「あの人が家賃を滞納したことは一度もありませんでした」

麹町警察署での記者会見の翌日。

事件記者の主戦場は、会見で発表されたKの居住地である埼玉県さいたま市北区と、Kの生まれ故郷であった山口県某市に分散されることになった。

前代未聞の事件の取材を行うため、新聞・テレビ各社はかなりの人数を割くこととなったが、事件当時、某週刊誌に所属していた筆者も5、6人からなるチームで埼玉と山口に分かれ、Kの生育過程や犯行動機に迫るべく取材を進めた。

東京地方裁判所

筆者はKの居住地であるさいたま市周辺の取材を行うことになった。Kが住んでいた2階建てのアパートへ向かうと、朝早くからすでに事件記者でごった返しており、アパートの大家への取材には大行列ができていた。

「あの人は1998年ごろにウチのアパートに引っ越してきました。契約時の職業は無職。何をしているのかはわかりませんでしたが、月6万2000円の家賃・管理費を滞納したことは一度もありませんでした」

順番待ちをしながら大家への取材を終えた筆者が、Kの近況についてさらに近隣住民の取材を進めると、近所の建設工事を巡って建設会社とトラブルになっていたことや、訪問販売の勧誘員を怒鳴りつける姿がたびたび目撃されていたことがわかった。

Kの“キレやすい”性格が浮かぶ一方、立て続けに元事務次官を襲う動機めいた行動は、居住地付近の取材からは見えてこなかった。

小学生時代のK

(#2へ続く)

取材・文/大島佑介

#2

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