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流行語の発信源だったCMは、なぜその地位を失ったのか? 「新語・流行語大賞」にCMからのノミネートは今年もゼロ…「キャッチコピーよりも商品名」の今

集英社オンライン / 2023年12月1日 9時1分

1年を振り返る恒例行事のひとつ「ユーキャン新語・流行語大賞」。実はこの10年、CMから流行語は生まれていない。「5時から(男)」「24時間タタカエマスカ」などCM発の流行語が世間を賑わせていた時代とは大きく異なる昨今の広告戦略。テレビ番組に関する記事を多数執筆するライターの前川ヤスタカが、流行よりも視聴者重視なCMの今を考察する。

年末の風物詩のひとつ「流行語大賞」が示すCMの危機

今年もまた流行語を振り返る季節がやってきた。

ノミネートの言葉を見ては、やれ「こんなの知らない」とか、やれ「全然流行ってないだろ」とかみんなでわいわい言うことも含めて、11月から年末にかけての恒例行事になっている。



どの言葉が候補になるかは、選者の目が入っているので、納得感のないものが数個は入っているのが常である。

以前、ユーキャン新語・流行語大賞において、ぼる塾・田辺さんの「まぁねぇ〜」がやくみつる審査員の激推しでノミネートされたが「そんなに流行ってなかっただろ」と批判を浴びたのは記憶に新しい(その後、田辺さんが「やくさんに申し訳ない」と気に病んだというエピソード込みで味わい深い話である)。

余談ついでに、個人的に新語・流行語大賞で印象に残っているエピソードは、約10年前、審査員の某政治学者が当時一世を風靡していた「壇蜜」を知らず、何かの液体だと思っていたという話である。

そんな流行語大賞だが、近年私がとても気になっていることがある。
それは「CMから流行語がまったく生まれなくなっている」ということだ。

ユーキャン新語・流行語大賞のトップ10を振り返ってみると、この10年、CMから生まれた流行語はゼロで、2013年に大賞をとった林修の「今でしょ!」が最後である。

時代を彩ってきたCM発の流行語たち

かつてCMは流行語の有力な発信源だった。

テレビ黎明期の1960年代なら

「はっぱふみふみ」(万年筆「エリートS」/PILOT)
「何である、アイデアル」(「アイデアル」/丸定商店)
「オー! モーレツ」(「丸善ガソリン100ダッシュ 」/丸善石油)
「ハヤシもあるでよー」「(オリエンタルカレー)/オリエンタル)
「俺がこんなに強いのも、あたり前田のクラッカー」(「前田のクラッカー」/前田製菓)
「ワンパクでもいい。たくましく育ってほしい」(丸大ハム/丸大食品)
……

となつかしのCM特集では必ず出てくる定番の流行フレーズが量産されていた。

1984年開始の流行語大賞でも2000年くらいまではCM起源の流行語を多数見ることができる。

「私はコレで会社をやめました」(「禁煙パイポ」/マルマン株式会社)
「亭主元気で留守がいい」(「タンスにゴン」/KINCHO)
「バクハツだ!」(「マクセルのVHSビデオテープ」/maxell)
「5時から(男)」(「グロンサン強力内服液」/中外製薬」)
「ユンケルンバ ガンバルンバ」(「ユンケル黄帝液」/佐藤製薬)
「24時間タタカエマスカ」(「リゲイン」/第一三共ヘルスケア)
「ダダーンボヨヨンボヨヨン」(「ダダン」/ピップ株式会社)
「ねェ、チューして」(「ルシェリ」/KOSE)
「見た目で選んで何が悪いの!」(「スナップキッズEX」/Kodak)
「すったもんだがありました」(「タカラ缶チューハイ」/宝酒造)
……

当時を知る人なら、どのCMもフレーズを聞くだけで映像が浮かんでくるくらい印象に残っているはずだ。

「私はコレで会社をやめました」なら、小指を見つめるサラリーマンの姿が、「5時から(男)」なら飲み会ではしゃぐ高田純次が、つい最近なかやまきんに君でリメークされた「ダダーンボヨヨンボヨヨン」なら女子プロレスラー(レジー・ヴェネット)が水から出てきてポーズを決める姿が、脳裏に鮮明に浮かび上がる。

しかし、2000年代以降になるとこの様相は変わってきて、トップ10に入ったのは、2006年の「たらこ・たらこ・たらこ」、2009年の「こども店長」、そして2013年の「今でしょ!」のみである(2011年東日本大震災時のAC広告「こだまでしょうか」があるがこれは例外)。

なぜ近年CMから流行語が出なくなってしまったのだろうか。

CMの多様化で誰もが知るCMがなくなる事態に…

まず一つ考えられるのは、そもそも広告媒体が多様化していることである。

昔は「CM」といえば、それはほぼイコール「テレビCM」を指したが、現在は動画サイトもあればタクシー広告もあり、それぞれの媒体でターゲット層にあったCMを打っている。

またテレビCMといっても、地上波放送だけでなくTVerなど配信サイトで流れるものもあり、老若男女みんなが共通して見るCM自体が減っているという事情は確実にあるだろう。

タクシーに乗らない人は「福岡みなみのテレシーの広告」とか「霜降り明星のb→dashの広告」などわからないだろうし、YouTubeでよく流れる「ゾンビとパズルの広告」も有料会員は見かけることがない。

逆にテレビでは飽きるほど流れているのに、その他の媒体ではほとんど見ないようなCMもあるだろう。

誰もが認知するCMというのは、多種多様な媒体に出稿されているものに限られ、その数は決して多くない。

それに比べるとスポーツや芸能ニュースはいろいろな媒体で取り上げられるため、生まれた言葉が流行語として広まりやすい。

キャッチコピーより商品名とサービス名重視のCM戦略

また、CMがより短時間で直接的にメッセージを伝える傾向も一因となっている。

現在、動画サイトなどでは15秒でも長いと感じる人が多く、5秒のCMも多い。そしてタイパ重視の世の視聴者は回りくどい説明よりも端的に1秒で理解できるシンプルなものを求めるように変わってきている。

そんな中では短い時間で効率的に伝えたいことをギュッと詰め込まなくてはならない。キャッチコピーなどよりも商品名やサービス名を伝えることに力を注ぐことになる。

脳内に残ってる最近のCMフレーズを思い返してみても「ビズリーチ!」「URであーる」「ペイペイ! ペイペペイペイ!」「ハズキルーペ! だーいすき」と、企業名や商品名を叫んでいるものばかりだ。

さらにいえば「仕事探しはインディード、バイト探しもインディード(「幸せなら手をたたこう」の節で)」「LINEモバイル LINEモバイル(「いい湯だな」の節で)」というように既存の有名曲の替え歌のパターンも多い。

昔はCMソングからもヒット曲が大量に生まれていたのに、今は「誰もが知っている曲に企業名を乗せるのが一番わかりやすい」となっているのは何とも寂しい。

数少ないキャッチコピーがしっかりあるCMも「おつかれ生です」など、ダジャレに頼りがちだ。もちろん昔からCMダジャレは数限りなく作られているが、これも替え歌と同じで、既存のフレーズに企業名やサービスの特徴を乗っけているだけとも言える。

「イナバ物置」のCMキャッチコピーが強い理由

こういう時間効率重視の世の中で、広告を作る側も正直苦心しているのだろう。

これは単純に広告会社のクリエイティビティが劣化したというようなものではなく、広告視聴習慣が劇的に変わる中で、まだ模索しているところというのが現実なのだと思う。

しかしそんな状況にあっても、何十年と使い続けられているCMキャッチコピーもある。

例えば、イナバ物置の「やっぱりイナバ100人乗っても大丈夫!」は、100人が実際に物置に乗っている映像・写真とともに叫ばれることで、一瞬で物置の丈夫さが理解できる。こういうものは媒体や視聴習慣が変化しても強い。

今は時流の変化でたまたま流行語がCMから出なくなっているが、きっとまた驚くようなフレーズがCMから出てくる時代は来ると思う。期待して待ちたい。

文/前川ヤスタカ イラスト/Rica 編集協力/萩原圭太

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