認知症老人のひとり語りで、その数奇な人生を描き切った衝撃作、永井みみさんの『ミシンと金魚』(第四十五回すばる文学賞受賞)は、多くの読者の感動を呼んで、昨年二月に刊行された単行本は十刷を超えた。その永井さんの待望の受賞後第一作『ジョニ黒』(「すばる」二〇二三年六月号掲載)が刊行される。
一九七五年の横浜を舞台に、九歳の少年アキラが体験した濃密なひと夏を描いた本作には、物語のそこかしこに懐かしい昭和の匂いや描写が溢れている。親友のモリシゲ、男に依存的な母親マチ子、ヒモの日出男、四年前に海で生死不明になった父親。どの登場人物も不器用で欠点だらけだが、どこか憎めない。そんな人間たちに囲まれて成長していく少年の心象風景を、鮮やかに切り取った作品だ。『ミシンと金魚』と同様、読後感は、切なく、愛おしい。この作品が生まれた背景、テーマに寄せる思いなどを、永井さんにお聞きした。
聞き手・構成=宮内千和子/撮影=山口真由子