結婚相手の条件は年収1000万以上…相手に求めるのは経済力のみなのに3度結婚に失敗した38歳・バツ3女性の言い分「ほら、お金は大事でしょ」
集英社オンライン / 2023年12月6日 18時1分
「恋愛は成功と失敗があるのではない。成功と教訓があるだけ」――恋愛小説の名手・唯川恵が実話を元に贈る修羅場の恋愛学書、『男と女:恋愛の落とし前』。経済力重視で三度離婚を経験した38歳バツ3女の、お金に囚われてしまった恋愛のなれの果ての話をお届けする。
「相手と対等」をお金で測る──
危険性経済力重視で三度離婚した38歳
「今、婚活中なんです。バツ3ですからどうなるか分かりませんが」
CM制作会社勤務の葵さんは38歳、安達祐実似のベビーフェイスだ。こんなにかわいらしい顔で、突然のカミングアウトである。バツ3とはとても思えない。
彼女の結婚観は独特なのだろうか。そこから聞いてみよう。
「身も蓋もないと思われるでしょうが、まずはお金です。元夫たちも全員、高収入でした。性格や顔より、やはりお金を持っていることが重要です。だって、お金って大事でしょう?」
彼女の言い分を否定するつもりはない。
お金に余裕があれば夫婦喧嘩の8割は解消される、と聞いたことがある。あながち間違いではないと思う。夫婦2人だけの暮らしならともかく、子育てにはそれなりの費用がかかる。最近の不況や値上がりのニュースを聞く度、いっそう強く感じるようになった。
私自身、30歳で会社員からフリーランスとなってから、今月の収入ゼロという経験もしている。入金のない通帳をじっと眺めながら、ちゃんと生きていけるのか、いたたまれない気持ちになった。お金の大切さは身に染みている。
「でも、そんなことを口にすると白い目で見られるので、誰にも言いませんけど」
まあ、彼女にもそれくらいの分別はあるようだ。
それで、最近の出会いは?
「この間、一緒に仕事をしたIT企業の役員です。仕事がひと段落して打ち上げが終わってから、お礼のメールを送ったんです。『この間、皆で行ったお店、素敵でした。またぜひご一緒させてください』ってかなり匂わせたつもりなんですけど『お疲れさまでした』って、杓子定規な返事しか来ませんでした。以前だったら、待ってましたとばかりにデートの誘いが来たものですけど。やはり若い女の子がいいんでしょうか」
最初の結婚相手は芸能事務所の社長
若さのせいとばかり決めつけるのは、ちょっと違うと思うが、彼女の気持ちはわかる。
結婚願望は若い頃からあったの?
「はい、もちろんです。就職してからは結婚前提でない方とお付き合いするつもりはありませんでした」
それはまたずいぶんと割り切った考え方である。
最初の結婚はいつ?
「23歳の時です。相手は就職してすぐ、研修で参加した撮影現場で名刺交換した芸能事務所の社長です。何かとメールをくれて、私も就職したばかりで不安だったので、相談に乗ってもらっているうちにお付き合いが始まりました。彼は個人事業主。そこそこ売れている俳優さんも何人か抱えていて、かなりの高収入でした。なので、出会って半年後に結婚しました」
相手が芸能事務所社長とは……のっけから現実味のない話で対応に戸惑ってしまうが、何にしろ出会って半年で結婚とはなかなかに大胆である。
そうは言っても結婚はタイミングや勢いが必要だから、若いふたりなら情熱的になって一気に突き進むこともあるだろう。
「あ、いえ。若くはないです。彼は私より27歳年上なので、当時、50歳でした。その時、すでにバツ2でした」
さらりと言われて言葉に詰まってしまう。
ということは父親と同じくらいの年ではないか。葛藤はなかったのだろうか。周りもさぞかし驚いたことだろう。
「社会人1年目の冬でしたから、びっくりした人は多かったですね。でも私の両親はそういうことには口を出さないタイプだし、会社も自由な社風だったので、特に問題はありませんでした」
仕事はどうしたの?
「元々結婚しても辞めるつもりはありませんでした。仕事は楽しかったし、子供が生まれたとしてもずっと働くつもりでいました。もちろん彼もそれを認めてくれていました。結婚生活はすごく順調だったのですが、半年ほどした頃、彼の事務所の所属タレントが不祥事を起こしてしまったんです。
薬物スキャンダルだったんですけど、CMや出演ドラマがキャンセルになって、その賠償金を背負うことになりました。それで資金繰りが苦しくなって、彼は会社のお金だけでなく、私財を投じると言い出したんです。私、どうしても賛成できませんでした。そんなことをしたら家も預金も何もかも失ってしまう。でも何を言っても彼の決意は固くて、将来のことを考えて、結局別れを選択しました」
人生の最優先事項がお金になったきっかけ
金の切れ目が縁の切れ目、と捉えていい?
「まあ、そう思われるのは仕方ないと思います。ただ彼の方も、若い私を巻き添えにするのは心苦しいって気持ちもあったみたいです。話し合いはすんなり進んで、あっという間に離婚が成立して、慰謝料、私たちの場合は解決金という形なんですけど、それも貰えたので彼のことは恨んでいません。派手な世界の人だったけれど、今思えば、いい人だったんだと思えます」
その時の金額を聞いていい?
「500万です。8か月の結婚生活でしたから、まあ、仕方ないですよね」
仕方ない、という言葉がふさわしいかどうかは疑問だが、円満に片が付いたのだからよしとしよう。
なぜ彼女にとって人生の最優先事項がお金になったのだろう。もしかしたら育った環境にあるのだろうか。子供の頃にお金で苦労すると、その苦い経験だけは繰り返したくないと、お金に執着するケースもあると聞く。
「いえ、別に私、家が貧しかったというわけではないんですよ」
大きい瞳を瞬きさせながら、彼女は言った。
「父は総合商社に勤めています。母は専業主婦で、4歳違いの姉と2人姉妹です。小さい頃から、ピアノ、バレエ、お習字、水泳、学習塾などひととおり習い事をさせてもらいました。父の方針で中学までは公立に、高校は私立大学の付属校に行って、大学はそのまま進学しました。高校と大学ではチアリーディング部に所属し、映画が大好きだったので映画研究会にも所属していました。ピアノもずっと続けていて、父は家族のためにたくさん稼いでくれていましたし、地元に少し土地もありますので、お金に困ったことはありません」
少々皮肉も込めて言わせてもらうが、文旬の付けようのないお嬢さんである。お小遣いもさぞかしたっぷり貰っていたのだろう。
お小遣いをもらったことがない、総合商社マンのお嬢さん
「いえ、私、お小遣いをもらったことがないんです。高校卒業まで、お金が必要な時はその度に母に報告して、必要な金額だけを貰い、領収書と共におつりは全額返す約束でした。父が家族のために稼いできた大切なお金なので、当然のことです。アルバイトも禁止だったので、基本的に自由に使えるお金はありません。大学入学後はアルバイトを始めましたけど、学業優先ということで、月に3万までという約束を守りました。
彼氏ですか?ええ、人並程度にはいました。ただ、デートの時、お店で彼が支払ってくれる度に、なんだか落ち着かなくなるんです。私、奢られるのも奢るのも好きじゃないんです。人として対等であるためにも、お金のことはきっちりしていたいんです。周りの女の子は、彼にどれだけ貢がせるかなんてことで競っていましたけど、私はくだらないって思っていました」
話を聞いて、ちょっとイメージが変わってしまった。彼女のような女性は、男が払うのが当たり前、と考えるタイプだと思っていた。どうやら私自身が、先入観に捕らわれていたようだ。
ただ、彼女の言い分は潔いようにも感じるが、何においても相手と対等であろうとするスタンスは、時として対立を際立たせる。対等を、お金で測っているところも危うい。お金がないことは負けなのだと、彼女自身が最初から決めつけているようにも感じられる。
「卒業後はCM制作会社に就職しました。そういう職種って華やかそうに見られがちですけど、仕事は地味だし、お給料もそんなにいいわけじゃないんですよ。でも、初めてお給料をもらった時は感動しました。今までがぎりぎりだったから、こんなにたくさん自由になるお金を手に入れられるのかって。だからって無駄遣いはしません。ブランド物にも興味はないし、服だってネットで買うものばかり。質素が身についていますから」
この金銭感覚はどこから生まれたのだろう。
「強いて言うなら姉でしょうか。4つ年上の姉は、私より美人で勉強もできるし、一流大学から一流企業に就職しました。でも昔からお金にルーズっていうか、あればあるだけ遣ってしまうタイプなんです。学生の時からいいように友人に奢らされているのに『ある者が払えばいいのよ』って伝票を手にするんです。そういう人って、駄目な人間ばかりが群がってくるんですね。
男も同じです。お金目当てなのに『私が何とかしてあげなくちゃ』って。結局、ろくでなしの男に引っ掛かってばかり。フリーターとか売れない役者とかミュージシャンとかにはまって貢いでた時もあるんですよ。男を見る目がからっきしないんです。結局、結婚した相手も生活力のまったくない男で、今はヒモみたいになっています。男って甘やかされるとどんどん付け上がる生き物じゃないですか。今も姉は朝から夜遅くまで働いていて、子供が欲しいなんて言ってますけど、その状態で産めるわけがないし、もともと、生まれたらどう育ててゆくかなんてぜんぜん考えてないんです。ただ呑気に夢見ているだけ。そんな姉を見ているから、自分は絶対に経済カのない男だけは選ばないって決めていました」
ダメな男が群がる一流大学卒の姉を反面教師に
姉が反面教師というわけだ。
しかし結婚の形は人それぞれである。彼女からすればろくでなしの男でも、姉にとってはかけがえのない人かもしれない。肝心なのは、姉が今の生活を幸せと感じているかどうかである。そういう意味で、姉はたぶん幸せなのだろう。だから別れるつもりはないし、夫との子供まで望んでいる。そして、姉のそういうところが、更に彼女を苛々させているに違いない。
姉ぐらいのレベルの人なら最高の条件の男と結婚できるのにどうしてあんな男と、と納得できないのはわかる。裏を返せばそれも姉妹愛のひとつである。姉にはいつも憧れの対象であって欲しかったのだろう。
いつの時代も姉妹の関係は難しい。いちばん身近なロールモデルになるかと思えば、時に強力なライバルにもなる。出来過ぎた姉を持つのもプレッシャーだが、失望させられる姉でもあって欲しくない。
ご両親はお姉さんのことを何て?
「もう大人なんだから、自分の人生は自分で決めればいいって。今更親がしゃしゃり出る必要はないって。その他人事みたいなところも納得できないっていうか」
ご両親はなかなかの太っ腹である。多くの親は心配が先に立ち、ついあれこれ口を出してしまうものである。
しかし、たとえ口を出さずにいても、決して他人事と思っているのではないと感じる。娘の選択を尊重してやりたい、娘の味方でいたいのだ。もし、娘からSOSがあれば何をおいても駆けつけるに違いない。
この辺りで、2番目の結婚の話を聞かせてもらおう。
「会社の先輩です。彼は以前から私のことを良く思ってくれていたようで、私の離婚を聞きつけて、すぐに交際を申し込まれました」
2番目の夫は見た目はイマイチでも家賃収入年間1000万円
どんなタイプの人?
「イケメンからはほど遠いですね。背も低いし、小太りの、もっさりした人。でも、私は見た目は気にしないんです。生理的に受け付けられない男は別ですけど、顔なんて本質とは関係ないし、大した問題じゃありません。それに、そういう男ならモテないだろうし、浮気もしないだろうから、安定した結婚生活が送れるでしょう?年収は650万程度なんですけど、ご両親が都内にマンションを何棟か持っていて、その中には彼名義のものもあり、家賃収入だけで年間1000万近くあるって聞いたので、決めました」
やっぱり決め手はお金なのか。そこまでお金に執着されるとさすがにしらける。
彼女は少し憤慨したように言った。
「贅沢したいわけじゃないです。さっきも言いましたけど、ブランド好きでもないし、宝石にも無関心だし、豪勢な海外旅行とか、高級レストランにもさほど興味はないし、日ごろの食事も自分で作っていますし」
ますますわからなくなって来る。お金はあっても堅実さは失っていない。このギャップをどう受け止めればいいのだろう。
で、結局のところ、お金の目的は何?
「すべては将来のためです。子供にできるだけのことはしてあげたいんです。私が両親からそうしてもらったように、オ能を伸ばすためにも習い事は何でもさせてやりたい。いい学校に入れて、いい教育を受けさせて、留学だってさせてあげたい。そのためのお金なんです。最終的に親ができることって、子供がいい人生を送るために何でもしてあげるってことですから」
生まれてくる子供のために、と彼女は力説したが、聞きようによっては「子供のために頑張る私」という、自己満足に酔っているようにも受け取れないこともない。彼女が両親にそうされて幸せだったのはわかるが、彼女がこれから産もうとしている子にとってはどうなのだろう。逆に負担と思われる可能性だってある。
しかし、2番目の夫はキャバクラに年1200万円使っていた
でも2回目の結婚も上手くいかなかった。
そうなったのはなぜ?
「結婚して2年くらいして、そろそろ子供が欲しいって思い始めた頃から、夫の行動に不審なところが出て来たんです。仕事が忙しいのはわかっていたんですけど、なかなか連絡が取れなくなって、それなのにこまめにSNSは書いているんですよね。あまりうるさく言いたくはなかったので、SNSを見続けました。それで気がついてしまったんです。女です。彼、自分名義のマンションの一室に女を囲っていたんです。問い詰めたら生活費も全部面倒をみていると白状しました」
SNSってすごい。行動が手に取るようにわかってしまうのだ。
バレるなどと考えもせずに書いている夫の方もどうかと思うが、見つける彼女の方もただならぬ思い入れである。
「それだけは心配ないと思っていたのに、見事に裏切られました。いちばん腹が立ったのは、浮気そのものよりその女に遣っていた金額です。キャバクラ勤めの女だったんですけど、マンションにタダで住まわせているだけじゃなくて、売り上げにも貢献して毎月100万近く遣っていたんです。それだけで年間1200万ですよ。家賃収入を全部つぎ込むなんて信じられます?」
しかし、あなたはお金があるからと割り切って結婚したのだから、女関係も割り切れるのでは。
「それが、夫はその女と結婚したいから別れて欲しいと言い出しました。いいように利用されているだけなのに、すっかり舞い上がっちゃって。そんな馬鹿な男だったのかと愛想が尽きてしまったんです。お金のない男も嫌いだけれど、頭の悪い男も嫌いです。結局、離婚することにしました。慰謝料は女に遣った金額と同じ、1200万いただきました。やっぱりぼんぼん育ちの男は浮わついてますね」
浮気を擁護するつもりはないが、その時、あなたは「なぜ、夫は浮気したのだろう」ということは考えなかったの?
「それはどういう意味ですか」
3番目の結婚相手はお金の使い道にうるさい男で即離婚
たとえば、お金のことばかり言っている妻との生活に、夫は気が休まらなかったのではないか、とか。
「浮気は浮気です。これは離婚案件として成立する事実です。あんなモテそうもない人でも、やっぱりお金があると女って寄って来るんですよね」
彼女は眉を顰めたが、お金に惹かれたのは彼女も同じである。むしろ、そのキャバ嬢のことを理解できるのではないかと思うが……。
「3回目の結婚は、金融機関勤務の40歳の人で、年収は800万くらいでした。すでにマンションを持っていたので、それならいいかなって。その頃、私も35歳でしたし、同じような失敗は繰り返したくなかったので、人となりをよく観察して、仕事も真面目だし、経済観念もしっかりしていたことがわかったので、お付き合いを始めました。結婚したのは1年ほど経った頃です」
男はお金だけじゃない、とわかったということは、あなたも成長したんだ。
「その時はそう思ったんですけど、やっぱりダメでした。あの人、私のお金の使い方をいちいちチェックするんです」
あぁ、そのタイプだったか。
「無駄遣いなんかしているわけではないのに、レシートをいちいち確認するんです。コンビニでお茶を買っただけで、『なんでスーパーで買わないんだ』って文旬を言われたりして。結婚前にはわからなかったんですけど、とにかくお金に細かいんです。まあ、これまでの元夫のように、外で勝手にお金を使うことはありませんでしたが、それ以上に、私は自分のお金の使い方に文句を言われるのがすごくストレスでした」
それは理解できる。特に、自分で稼いだお金なら尚更だ。
「しかも、彼と2人で外食やお買い物に行く時、自分のクレジットカードを使わないんです。だから、私が支払いをすることが多くて」
それはなぜ?
「クレジットカードは信用できない、不正利用が怖いと言うんです。けれど、私がカード払いするのは構わないのだから、それは変でしょう。お金の使い方に口を出される上に、私のお金を使われるのが耐えがたくて、だんだん顔を見るのもうんざりするようになって、離婚を決めました。けれど、彼はケチなので、慰謝料はもちろん、私が立て替えていたお金も払いたくなかったみたいです。それで弁護士を立てて、合意まで時間がかかってしまいましたけど、なんとか離婚しました。それからすぐに、次の人を探し始めました」
これまた彼女らしい。男を見る目がなかったとグズグズ悩んだりせず、すぱっと切り替える。その性格は長所と呼んでいいのか、難しいところではあるが。
私の希望する年収1000万というラインの男は、
みな20代の女性を希望している
「だって、子供を産むことを考えたら、早く再婚しないとならないでしょう。でも、アラフォーにさしかかるとさらに出会いもありません。仕方ないので、婚活サイトや結婚相談所に登録しましたが、理想の人はなかなかいなくて。運営側からは、少し条件を下げたらどうかって言われました。私の希望する年収1000万というラインの男は、みな20代の女性を希望しているというんです」
あなたに理想があるように、相手にもある。お金のある男なら、誰もが羨むようなトロフィーワイフが欲しいのだろう。
条件を下げるつもりは?
「ありません。そこだけは譲れませんでしたから」
お金を最優先に選んだ相手に三度も裏切られたというのに、理想は揺るがない。これは信念なのか、懲りないだけか。
ふと、お姉さんと重なってしまう。男にたかられ続け、お金に無頓着すぎる姉と、男をお金でしか判断しない妹。もしかしたら、ふたりは根底で繋がっているのかもしれない。もちろん、決して彼女は認めないだろうが。
「だから今は、婚活と同じくらいマネ活に重点を置いています」
異業種の人との出会いを求めて、
金融セミナーに通ってみたんです
マネ活?
「異業種の人との出会いを求めて、金融セミナーに通ってみたんです。そこで投資と出会いました。スマホを使って気軽に始められるんですよ。それにすっかりはまってしまったんです。今はまだ初心者だし、損をしないように月に10~20万くらい儲かったらそれ以上は取引しないようにしているんですけど、もっと勉強して知識が身についたら、金額も上げたいし、難しい投資にもチャレンジしていくつもりです。それで私、ようやく気が付いたんですよ。結婚相手に求めるより、自分でお金を稼いだ方がストレスがないし、手っ取り早いって」
着地点としては悪くない気がする。寄り添って生きる相手が必要ないというなら、通帳に並ぶ数字の方が、彼女に安らぎを与えてくれるはずだ。
じゃあ結婚する必要がなくなったのでは?
「でも、子供は欲しいんですよね。両親みたいな夫婦になるのが理想なんです。だから婚活は続けます。それでも、どうしても相手が見つからなかったら、精子バンクから優秀なDNAを持った精子を提供してもらって妊娠することも考えています。40歳になる前に、私の卵子を凍結して保存しておく計画も立てています。それって結構費用がかかるんですよ。だから、そのためにもお金はしつかり貯めなくちゃ。ほら、やっぱりお金は大事でしょう?」
彼女は合意を求めるように、力強く念押しした。
「愛さえあればお金なんて」の成れの果て
徹頭徹尾、お金の人である。ある意味、価値観がぶれないのは潔いかもしれない。
彼女の決断力の強さは、お金という揺るがない基軸があるからで、だからこそ、結婚の100倍は気力も体力も消耗すると言われる離婚を3回も成し遂げられたのだろう。その上で「お金のある夫を持つ」から「自分でお金を生み出す」ところまで進化を遂げたのだから、大した根性である。
確かに、世の中の多くのトラブルはお金が絡んでいる。お金があれば、背負わなくてもいい苦労を回避できることもある。だから、相手に資産を求める彼女を否定する気はないのだが、このまま彼女が満足するだけ稼ぐことができたら、その時、ようやくお金の呪縛から逃れられるのかもしれないとも思う。
この年になると「愛さえあればお金なんて」の成れの果てを見て来た。
結婚式であんなに蕩けた笑顔を振り撒いていたふたりが、数年後には「夫の稼ぎが悪いからこの有様」「自分で稼ぎもしないぐうたら妻」と、互いに愚痴をたれまくっている。
愛だけでお腹は満たされない。愛だけで寒さや暑さはしのげない。突然事故や病気に見舞われても、愛だけでは治療費も払えない。生きるということは、お金がかかるということだ。その現実に直面して、愛はやがて疲弊してゆく。
愛とお金。
どっちを選ぶなんて問うこと自体、野暮だとわかっている。愛も大事、お金も大事。両方欲しいが本音である。それは決して欲張りでも我儘でもない。
私の周りには、仕事を持っている女性が多いのだが、独身女性は当然としても、人も羨むような経済的に恵まれた相手と結婚しても、仕事を辞めるつもりはないと言う人がかなりいる。
お金持ちになって、はじめて
お金で買えないものがあることを知った
理由は、仕事が好きだから、生きがいだから、社会と繋がっていたいから、とは言っているが、本音のところでは、自分で稼ぐ術を持っておけば。いざという時でも自分の足で立っていられるからだろう。
もし、夫からひどいモラハラを受けるようになったり、浮気されたり、DVや経済的DVに遭わされたりして、夫婦関係が破綻しても、自分で稼いでいたら別れられる。子供だって育てられる。自分で稼げれば、理不尽な苦労を背負うことはない。
様々な状況があるから、すべての女性に当て嵌めるつもりはないが、お金が心強い味方になってくれるのは確かである。
それでも、人はお金とは別に、心の拠り所を求めてしまう厄介な生き物である。
随分前、ある大物ミュージシャンがこう言っていた。
「お金持ちになって、はじめてお金で買えないものがあることを知った」
お金との付き合いは、ある意味、男との付き合いより手がかかるものである。そのことも頭に入れておくべきだろう。
写真/shutterstock
男と女:恋愛の落とし前 (新潮新書)
唯川 恵 (著)
2023/10/18
¥924
256ページ
978-4106110177
不倫はすることより、バレてからが本番――
恋愛小説の名手が実話を元に贈る「修羅場の恋愛学」。
著者初の書下ろし恋愛新書
男は世間体をとり、女は自分をとる――。12人の女性のリアルな証言に基づく恋愛新書、爆誕!
他人の男を奪い続けて20年、何不自由ないのにPTA不倫に陥り家庭崩壊、経済力重視で三度離婚など、36歳から74歳までの、未婚、既婚、離婚経験者12人の大人の女性のリアルな証言を、直木賞作家・唯川恵が冷徹に一刀両断。
「大人の恋には大人の事情があり、責任がある」「恋愛は成功と失敗があるのではない。成功と教訓があるだけ」――恋に浮かれる人にも不倫の愛に悩む人にも、人生を狂わされた人にも。
説得力のある珠玉の名言集にして、著者初の新書。
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