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もはや「異次元の少子化促進対策」岸田首相「高校生扶養控除」が子育て世帯を苦しめかねない児童手当と扶養控除の矛盾

集英社オンライン / 2023年12月3日 12時1分

11月末、「#少子化促進」がSNSでトレンド入りした。政府が2024年末に開始する高校生への児童手当支給に合わせて、所得税と住民税の扶養控除を一律に引き下げる検討をしていることが明らかになったためだ。この政策は少子化対策のために行われているものの、実際には子育て世帯にとって負担増となる懸念がある。児童手当を拡充するのと引き換えに扶養控除を引き下げれば、高校生がいる世帯においては、その恩恵はほぼ打ち消されてしまう。児童手当と扶養控除のカラクリを解説する。

高校生のいる世帯の扶養控除が一律引き下げへ

もはや「異次元の少子化対策」ではなく「異次元の少子化促進対策」とも言わざるを得ない。政府は、所得税38万円、住民税33万円を課税の対象となる所得から控除できる扶養控除について、16歳~18歳を対象に引き下げる案を検討している。所得税や住民税では扶養する子どもや親などの人数に応じて扶養控除を適用できるが、高校生世代の子どもがいる納税者については控除額がカットされることになる。



所得控除は所得税や住民税の税率をかける前の所得を減らすことができるものなので、控除額が大きいほど税負担は軽くなる。つまり控除額の引き下げは実質的な増税となる。

岸田文雄首相 写真/共同通信

児童手当は高校生にも支給開始されるが……

扶養控除引き下げの理屈はこうだ。子ども向けに国から支給される児童手当は、現在は0歳から中学生までが対象だが、2024年12月以降は高校生世代である16~18歳にも拡大される予定になっている。実現すれば、高校生のいる世帯には子ども一人当たり月1万円が支給されるようになる。

また、現在支給されている中学生までの子どもも含め、親の所得制限が撤廃される見通しでもある。

現行の児童手当には所得制限があり、子ども2人と専業主婦(夫)がいる会社員世帯では目安年収960万円、子どもが3人なら目安年収1002万円を超えると受給額がカットされている。本来の支給額は3歳未満は月15,000円、以降中学生までは月10,000円(第3子以降は3歳~小学校卒業まで月15,000円)だが、これが月5000円になってしまう。同じ条件で年収1200万円を超えると、支給額はゼロになってしまう※。
(※年収は児童手当を受け取る人の年収額で判断。共働きの場合は夫婦で年収が高いほうの年収額を基準とする。)

児童手当だけ見れば、この見直しは子育て世帯にとっては恩恵になる。そこで検討されたのが、冒頭の所得税と住民税の扶養控除削減だ。従来からの扶養控除を継続すれば、高校生の子どもがいる世帯には児童手当の給付開始と合わせて“優遇の二重取り”になるからだ。

当初は高校生世代への扶養控除を廃止する案もあった。しかし廃止となると、年収によっては課税所得が増えて、所得税や住民税の増税分が児童手当の支給額を上回ってしまうケースが生じてしまう。そこで、扶養控除の廃止ではなく引き下げとすることで、これを避ける格好だ。

高校生の扶養控除は過去すでに引き下げ済

廃止を免れるのであればそれほどの負担増にはならないという意見もあるだろう。振り返れば、高校生世代の扶養控除は2011年にすでに引き下げられた経緯がある。それまでは「特定扶養控除」として子ども1人につき所得税で63万円、住民税で45万円を控除できたが、児童手当の支給開始に合わせて所得税38万円、住民税33万円へと引き下げられた。

しかし、当時は高校生世代には児童手当の支給はなかった。増税分はこちらもほぼ同時に開始した高校授業料の無償化によって補うと説明されていたが、授業料の無償化には所得制限が設けられたことで、対象となる世帯(高校生2人と専業主婦〈夫〉がいる会社員世帯の場合、目安年収950万円超)では増税の影響だけを受ける形となり、今に至っている。

今回の扶養控除見直しでは現在の控除額を前提に負担増とならない引き下げ額が検討されているが、過去の増税分に鑑みれば、結果としては負担増となる可能性もあるのだ。

もとより、2010年代に高校生だった子どもは現在はすでに成人しており、同じ子育て世帯に対して立て続けに増税されるわけではない。成人の被扶養者の扶養控除額は、かねてから所得税38万円・住民税33万円のままだ。大学生世代の19歳から22歳は「特定扶養控除」の対象となることも変わっていない。ただ、子どもが独立すれば親は扶養控除を受けられなくなるので、かつて増税された世帯が子どもの成長によって控除額を取り戻せるとも限らない。

出所:国税庁「Ⅱ 主な税制改正について」をもとに筆者作成

負担増の子育て世帯が再生産される

さらに言えば、15歳以下の子どもには扶養控除がない。

かつては「年少扶養控除」があり、子ども1人につき所得税で38万円、住民税で33万円を控除できたが、児童手当制度の開始時に廃止されている。年少扶養控除には所得制限はなかったが、児童手当では所得制限が設けられたため、児童手当の所得制限に引っかかれば支給もなく増税もされるダブルパンチ状態になっている。児童手当については先述のように来年から所得制限がなくなるため、現行に比べれば負担は減る見込みではある。

ただ、一連の子育て支援策を俯瞰すると、給付と負担のはざまで揺れ、結果的に負担増のまま子育てを乗り越えざるを得ない子育て世帯が、各世代で再生産されてきたのではないだろうか。

写真はイメージです

今回の扶養控除見直しと児童手当の支給拡大を合わせて考えたとき、実際にいくらプラスになり、いくらマイナスになるのかは給与額や配偶者の収入額、他の所得控除額によって変わるため、一律に述べることは難しい。一方で所得税率は累進課税で高所得者ほど扶養控除による税軽減効果が大きいことから、扶養控除の削減は子育て世帯間での所得格差を是正するとの見方もある。

しかし、アメとムチともいえる政策を同時進行するのは、少子化対策は子育て世帯だけで解決すべき問題だと言わんばかりの印象を与えかねない。いまや出生数が年間80万人を割り、第一次ベビーブーム期の3分の1以下までに激減してしまったわが国で、「異次元の少子化対策」を謳うには、あまりに及び腰と感じてしまう人も多いのではないだろうか。

少子化対策の財源確保には社会保険料の上乗せなどが検討されており、子どものいない世帯との分断を加速させるおそれもある。それは少子化対策のブレーキになりかねず、「異次元の少子化促進対策」といった反発を買うのも無理はない。

拙著『世帯年収1000万円:「勝ち組」家庭の残酷な真実』(新潮社)では、子育て世帯への「子育て罰」ともいえる扶養控除廃止・縮小の変遷を、生活費や教育費など子育て世帯の経済的負担の現状とともにさらに解説している。

取材・文/加藤梨里

文/加藤梨里

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